フィードバック機構について(補足)

 フィードバックの概念を抽象的に説明するのはかえって難しいですが、改めてまとめてみます。

 フィードバック機構(feedback system)はフィードバックループ(feedback loop)とも呼ばれることもあります。生理学的は現象として説明すると、「身体の状態をモニターし、その情報を基に評価し、身体の状態を変化させ、再度モニターする」というサイクルを繰り返す一連の現象です。モニターされる状態には、ホメオスタシスの例として上げた血圧や体温、血糖値、あるいは体液量や体液の組成など、さまざまが状態や現象を考えることができます。それらはいわば変数であり、調節されているために「ある範囲内」に保たれています。そして、これらの変数を変化させるものがすべて「刺激」です。刺激を受けてもなお、ある範囲で一定に保つしくみがホメオスタシスで、そのためにネガティブフィードバック機構がはたらいています。

 「ネガティブ」というのは、刺激によって生じた変化を「逆転させる」ことによって、変数をある範囲に保とうとする作用があるからで、典型例が授業で取り上げた血圧の調節です。調節機能が働くことによって、刺激によって生じた変化(血圧の上昇や低下)を逆転させる、あるいは変化を相殺する結果がもたらされます。繰り返しですが、生理学ではホメオスタシスを維持するために機能する多くの現象・作用を学びます。そのほとんどはネガティブフィードバック機構であると考えてよいでしょう。

 詳しく説明できませんでしたが、ポジティブフィードバック機構(positive feedback system)は、刺激によって生じた変化をさらに増強するしくみですから、ネガティブフィードバックとは反対の効果を生みます。授業では分娩時の子宮収縮を例に挙げましたが、まもなく学ぶ(すでに学んだ?)出血時に作用する血液凝固のしくみにもポジティブフィードバック機構がはたらいています。やや長くなりますが、予習?もかねて説明します。

 血液凝固反応は3段階に分けられますが、その第1段階は2つの機序からなっています。血管と血管周囲組織の障害により、第Ⅲ因子(組織因子、またはトロンボプラスチン)が血管外から血管内へ流入することによって生じる外因性の機序と、血管内皮細胞が障害を受けたことによる膠原線維の露出や血小板の活性化によって第Ⅶ因子(安定因子)が活性化することによって始まる内因性の機序です。いずれも第Ⅹ因子を活性化するところに収束します。活性化した第Ⅹ因子は、カルシウムイオン存在下で第Ⅴ因子(不安定因子)に結合してプロトロンビナーゼができます。プロトロンビナーゼは、活性型第Ⅴ因子と活性型第Ⅹ因子、カルシウムイオン、さらには血小板のリン脂質も含んだ巨大な酵素複合体です。

 異なった経路で始まった血液凝固反応も、プロトロンビナーゼの形成以降は共通した反応経路となり、ここからを第2段階で、プロトロンビナーゼが肝臓で生成される血漿タンパク質であるプロトロンビンの一部を切断します。生じたタンパク質がトロンビンです。

 トロンビンはカルシウム存在下でフィブリノゲンをフィブリンに変換する反応を触媒します。この段階が血液凝固反応の第3段階にあたり、生じたフィブリンは活性型第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)の作用によって安定したフィブリン線維を形成します。トロンビンは第ⅩⅢ因子活性化する作用もあります。この結果、血餅が生じます。

 ここまでは特にフィードバックはかかっておらず、カスケード反応として進行していきます。カスケード反応とは「数段階にわたる一連の反応が初発反応の開始によって連続的に順次増強される反応形式」[南山堂医学大辞典第20版]のことを言い、「逐次的反応」と訳されますが、血液凝固反応はその代表例です。

 さて、ポジティブフィードバック機構がかかっているのは、トロンビンを中心としたステップです。第2段階で生じたトロンビンは第1段階で第Ⅴ因子が活性化する過程を促進します。また、第Ⅹ因子が活性化されるためには、活性型第Ⅶ因子から連続的な反応が生じて第Ⅷ因子(抗血友病因子)が活性化される必要があります。トロンビンはこの第Ⅷ因子の活性化のステップも促進することが知られています。さらに、トロンビンはこれら以外にも第1段階のいくつかの反応を促進することが分かっています。この結果、トロンビンの産生量が増加すればするほど、さらにトロンビンを産生する反応が進行するというポジティブフィードバック機構がはたらきます。

 フィブリン線維が形成される過程で、周囲に存在するであろうトロンビンも一緒に血塊中に取り込まれます。この結果、トロンビンが消失していくため、血液凝固反応はどこかの段階で停止します。