SARS-CoV2について

 先日、SARS-CoV2と受容体の結合について得られた新しい知見を紹介しましたが、そもそもこのウイルス自体についてもう一度考えてみましょう。

 コロナウイルスについては以前にも紹介したように、ヒトにとってはいわゆる風邪を引き起こすウイルスとして4種類、さらに、2,000年代に入ってから新たに出現したSARS-CoVとMERS-CoVが知られていました。SARS-CoV2が「新型」とされるのは、昨年12月に新たに発見されたからで、ゲノムの構造はもちろん、現在世界中で精力的に研究が進められています。

 あまりにも進展が早いため、最新の知見をまとめたレビューはありません。書きようがないというのが正直なところでしょう。しかし、我々のような非専門家には、どこかの段階で日本語の総説を読んで整理をしたいところです。

そう思っていたところ、3月中旬時点ではあるものの、ウイルスの基本的な構造や性質についてはよくまとまっているレビューがありましたので紹介します。

 基礎医学分野の日本語総説誌としては最も読まれている『実験医学』(月刊、羊土社)の5月号に
  「新型コロナウイルスSARS-CoV2の比較ウイルス学と比較ゲノム解析」(https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/special/SARS-CoV-2.html
と題するレビューが掲載されました。著者は京大ウイルス・再生医学研究所と東海大学医学部の研究者です。

 『実験医学』の読者は、「医学」とついていますが、広く生命科学の研究者、特に若手を対象にしています。決して、医学あるいは感染症を学んでいるとは限らないため、コロナウイルスとその感染症の基本から始まって、SARS-CoV2の遺伝子について、その起源にも触れながら詳しく説明しています。そして、ゲノムの変異と病原性、将来のワクチンや抗ウイルス薬の開発についても、その展望を語っています。簡単にポイントをまとめてみると以下の通りです。

 ポイント
 ・コロナウイルスに共通する特徴として、細胞表面に発現する受容体とスパイクタンパク質が結合して、ウイルス膜と細胞膜が融合する。この結果、ウイルスが宿主細胞に侵入する。前回紹介したように、SARS-CoV2に対して受容体として作用するのはACE2である。
 ・SARS-CoV2は、SARS-CoV1やMERS-CoVと近縁だが、ゲノム配列に基づいて作成された系統樹からは、さらに近縁なウイルスがコウモリやセンザンコウに存在する。さらに、ゲノムのRNA配列の特徴から、よりコウモリ由来のコロナウイルスとの共通点が指摘されているようで、コウモリ集団中での組換えによってSARS-CoV2の基になるウイルスが生じた可能性が高いと指摘している。
 ・SARS-CoV2のスパイクタンパク質には、ゴルジ体にあるプロテアーゼのFruinによって切断される際とがあり、この酵素が肺で高発現している。Furinによる切断によってスパイクタンパク質が活性化し、ウイルスが細胞に感染できるようになるのではないかと考察している。
 ・RNAウイルスであるSARS-CoV2のゲノムを宿主中で複製するRNAポリメラーゼは、ウイルスのゲノム中にコードされている。多くのRNAウイルスのRNAポリメラーゼには校正機能が無いため、突然変位率が非常に高いそうだが、SARS-CoV2のRNAポリメラーゼには校正機能があり、変異の速度はそれほど速くないと考えられる。しかし、世界中に拡散したSARS-CoV2のゲノムを調べた結果からは、多くの塩基変異が見いだされている。これらの変異のが病原性の変化やヒト以外の動物(家畜や伴侶動物など)への感染にかかわっている可能性がある。

 原文はWeb上で無料公開されていますが、出版社のオンライン会員の登録(無料)が必要です。手間ではありますが、一読の価値はあると思います。