PCR

 何度も⽿にしたでしょう。SARS-CoV2に感染しているか否かを調べるために⽤いられる⽅法です。どういうものか、どんな仕組みでウイルスの遺伝⼦を検出するのか、調べて⾒ましたか?
 
 PCRは“polymerase chain reaction”の頭⽂字を取った略称で、⽇本語ではポリメラーゼ連鎖反応といいます。DNA、すなわち2本鎖のポリヌクレオチド鎖の特定配列を選択的に増幅し、遺伝⼦を検出したりクローニングしたりするために⽤いる⼿法です。バイオテクノロジー技術の⼀つですが、⽣命科学の実験や医療の検査において、今や⽋かせません。
 PCRは、DNAが塩基配列の相補性によって⼆本鎖を形成すること、DNAポリメラーゼによって鋳型に沿って正確に相補鎖合成できることを基にしています。そして、耐熱性DNAポリメラーゼという、特殊な酵素を利⽤した複製反応であるところがポイントです。図を使わずに説明することは不可能ですので、⽇本国内でPCRのための試薬を多く販売しているタカラ・バイオという会社の実験⼿引きを引⽤しておきます(http://www.takara-bio.co.jp/kensa/pdfs/book_1.pdf)。冒頭の部分でPCRの概略についても簡単に説明されています。実際の器具の名称や操作は実験していないとわかりませんから、気にしないように。

 PCRの要点をまとめると、
 ・増幅サイクルを数⼗回繰り返す反復反応で、1サイクルで2倍になるとして、20〜30サイクル後には数⼗億個のDNA断⽚を得ることができる.
[230=1,073,741,824]
 ・各サイクルの開始で、鋳型DNAを構成する2本の鎖を開裂する.
 ・鋳型DNAのそれぞれに異なるプライマーをアニールする.
 ・DNAポリメラーゼによって各鎖が独⽴に複製される.
というところでしょう。

 ⾼等学校『⽣物』を履修していれば、⽣命現象を⽀える物質の⼀つとして核酸であるDNAやRNAについてかなり詳しく学びます。その中で、遺伝情報の発現についても取り上げられており、バイオテクノロジーとして活⽤されている技術も紹介されています。組換えDNA技術やPCR、塩基配列の改正の⽅法などはその代表的な技術で、教科書でも図解して説明されています。愛知県の⾼等学校では、数研出版の「改訂版 ⽣物」や東京書籍の「改訂 ⽣物」が多く採択されています。覚えていますか? また、『⽣物基礎』だけを履修した場合でも、教科書とは別に資料集(『数研出版:視覚でとらえるフォトサイエンス⽣物図録』や実教出版『サイエンスビュー⽣物総合資料』、『ニューステージ⽣物図表』など)も使ったことでしょう。『⽣物』の内容も含めた内容で、いずれも詳細でわかりやすい図を⽤いて説明しいます。上で引⽤したメーカーの説明書よりもはるかによく理解できるはずです。


 『⽣物』の教科書でも触れられていますが、きわめて感度が⾼い⽅法で、単⼀の
DNA分⼦でも検出できるとことから、浸⼊細菌やウイルスの遺伝⼦を検出することができ、検査・診断に利⽤されています。また、法医学分野へも広く応⽤され、ヒトの⾎液や組織⽚からも特定配列を増幅して塩基配列を⽐較すれば、個⼈を特定することができます。さらに、RNAも逆転写酵素によってDNAに変換して分析できるため、SARS-CoV2をはじめとしたRNAウイルスゲノムの検出にも⼤いに役⽴ちます。

 ヒトに感染したウイルスを検出するためには、ウイルス粒⼦が存在する組織、たとえば、⾎液などを採取するか、ウイルスが浸⼊した細胞を採取して、ウイルスのゲノム⾃体あるいは細胞内のウイルスゲノムを回収するところから始まります。SARS-CoV2はRNAウイルスですから、ゲノムがRNAです。そこで、いったん相補的な配列をもつ
DNAにします。この反応を逆転写(reverse transcription)といいます。⽣じたDNAは相補的DNA(complementary DNA; cDNA)といい、これを基にした増幅反応によってDNA鎖を得ます。SARS-CoV2のゲノムRNA(正確には、そのcDNA)の塩基配列に特異的は配列をもつプライマーを利⽤することによって、SARS-CoV2有無を判定しま
す。

 ⽇本国内でのSARS-CoV2ゲノムの検出には、国⽴感染症研究所が作成したマニュアルが使われています(
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200304v2.pdf)。このマニュアルでは、使⽤するDNAポリメラーゼなどの試薬が指定されています。上で引⽤したタカラ・バイオの試薬を使うようです。会社の名前で気がついたかもしれませんが、もともとは宝酒造の⼦会社です。