薬のなまえ

 COVID-19の治療薬として抗ウイルス薬である「レムデシビル」が承認されました。アメリカでの臨床経験に依存している部分が大きいようですし、副作用なども報告されていることから万能といえるものではないでしょう。

 ところで、このような薬の名前には傾向があるような気もしますが、あまりにもなじみのない音の使い方がされているようにも感じます。少し調べてみました。

 そもそも医薬品も化学物質、例外なく有機化合物ですから、国際純正および応用化学連合(IUPAC)が定めている命名法があります。高等学校で『化学』あるいは『化学Ⅱ』などを履修していれば、教科書の巻末に簡単な一覧表があったでしょう。しかし、この方法はすべての有機化合物に適応できる規則に従うため、非常に長くなります。利便性、わかりやすさという点では全く役に立ちません。もちろん、製薬メーカーの商品名では、同じような効果が期待できる物質であっても全く異なった名称が用いられるため、混乱します。

 そこで、医薬品独自の命名規則があり、WHO医薬品国際一般名称委員会によって、国際一般名(International Nonproprietary Name:INN)として決められており、世界共通名称として使用されています。日本では独自に命名法を定めていますが、おおよそINNをそのまま取り入れて医薬品一般的名称(Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals:JAN)として利用しています。

 例えば、抗ウイルス薬であれば、ウイルス(virus)の語頭をビル(-vir)と語尾に持つような名称です。抗インフルエンザウイルス薬として有名なタミフルは開発したロッシュ社の商品名で、一般名はオセルタミビル(Oseltamivir;C16H28N2O4)、またリレンザはグラクソ・スミスクライン者の商品名で、一般名はザナミビル(Zanamivir;C12H20N4O7)です。Remdesivir(レムデシビル;C27H35N6O8P)はアメリカの新興製薬メーカーであるGiliad Sciences社が開発したエボラ出血熱ウイルスに対する抗ウイルス薬です。商品名はベクルリー(Veklury)で、投与された後に体内で代謝されてウイルスの増殖を抑制する効果を発揮します。

 また、先年ノーベル賞を受賞された京大の本庶さんたちが開発したオプジーボは商品名で、一般名はノボルマブ(Nivolumab)といいます。これは抗体医薬品で、語尾のマブ(−mab)はmonoclonal antibody(モノクローナル抗体)を意味しています。モノクローナル抗体が何たるかは省きますが、接尾語の前には抗体の起源を表す文字(-u-, ヒト由来を表す)がつけられ、さらにその前には標的を表す文字(-l-、免疫系が標的であることを表す)がつけられます。接頭語は医薬品ごとに独自の語(Nivo-)が付けられます。

 なじみのあるところで、鎮痛薬のアスピリン(aspirin)は、ドイツ・バイエル社が1899年に発売しました。この時代には上記のような規則はなかったため、物質名であるアセチルサリチル酸(acetylsalicylic acid)の、アセチル(acetyl)から「ア(A)」、サリチル酸の別名であるスピル酸(spiric acid)から「スピリ(-spir-)」、そして化合物の語尾によく用いられる「イン(in)」とつけたそうです(バイエル社のWebサイトより)。 現在もINNではアセチルサリチル酸を一般名としているようですが、あまりにも普及しているためか、日本における医薬品一般名もアスピリンです。アスピリンは年間5万トン、500 mgの一般的な錠剤に直すと1,000億錠分が製造されているそうですが、1/3はアメリカで消費されているとか。