タンパク質を構成するアミノ酸:21種類目

 タンパク質を構成するアミノ酸が20種類であることは医学を学ぶ場合のみならず、さまざまな場で触れられます。『生理学のための化学』でも第10章で、20種類のアミノ酸の名称と構造を化学的な特徴によって分類して一覧にしています。合わせて、それぞれのアミノ酸の略号も紹介しています。

 授業では例外的に20種類以外のアミノ酸もあり得るという意味の説明をしましたが、ヒトにもある例外を1つ取り上げましょう。セレノシステイン(serenocystein; Sec)というアミノ酸です。セレノシステインは、20種類のアミノ酸の1つであるシステイン(cystein; Cys, C)の側鎖にあるスルフィド基(-SH)の硫黄原子(S)がセレン原子(Se)に置き換わった構造です。周期表を見ると、SeはSと同族で1周期下にあります。名称もこのような構造であることに由来します。

 セレノシステインの産生方法は他のアミノ酸の産生とは大きく異なっています。セレノシステイン用のtRNAに20種類の1つであるセリン(serine; Ser, S)が結合した状態で、セリンの側鎖のヒドロキシ基(-OH)を-SeHに変換することによってセレノシステインが産生されます。したがって、21番目とはいっても、あくまでも20種類のアミノ酸があってこその例外です。

 またセレノシステインに対するmRNAのコドンは、停止コドンの1つである"UGA"が当てられます。ただし、UGA配列の周囲に特別な塩基配列(selenocystein insertion sequence; SECIS)がある場合のみセレノシステインtRNAがmRNAと結合できるようになっています。セレノシステインを含んでいるタンパク質は細胞内での酸化還元反応に関わるいくつかの酵素に限られています。生理学で取り上げられる現象と関わっていそうなのは、甲状腺ホルモン(『内分泌系の構造と機能』で学ぶホルモンの1つ)であるサイロキシン(T4)をトリヨードサイロニン(T3)に変換するテトラヨードチロニン-5'-脱ヨード酵素でしょうか。『生理学のための化学』の第12章でビタミンの機能として触れるグルタチオンペルオキシダーゼもセレノシステインを含んでいます。

 授業で取り上げる内容はかなり表面的ですが、少し掘り下げるだけでものすごく幅が広がります。