第10回 静止膜電位、脱分極と活動電位、興奮の伝導と伝達

 1限目のクラスと2限目のクラスでやや進捗に差がありますが、両方まとめてしまいます。

 静止膜電位がどうして生じるのかについては、以前に配布したプリントを改めて見直しましょう。授業でも、プリント以上の説明をしたわけではありません。カリウムイオンの細胞内外での移動がポイントです。カリウムイオン漏洩チャネルは、ニューロンの細胞膜には多量に存在するため、常時一定数のチャネルは開放されていると考えてよいでしょう。したがって、濃度勾配と電気化学的勾配の両方の影響によって、カリウムイオンはこのチャネルを通過します。濃度勾配によって細胞内から細胞外へ移動する量と、電位勾配によって細胞外から細胞内へ移動する量が等しい状態が維持されるため、電位差が生じます。

 ナトリウムイオンの影響にも触れましたが、ナトリウムイオン漏洩チャネルは量が少ないために、ナトリウムイオンの移動による影響は小さいと考えら得ます。ただし、濃度勾配と電位勾配のために、細胞外から細胞内へ一方向性に移動します。したがって、放っておくと細胞内のナトリウムイオン濃度が高くなってしまいます。これを解消するためにナトリウムカリウムポンプがはたらいていると考えてよいでしょう。カリウムイオンも細胞内へ過去ばれますが、上で説明したカリウムイオン漏洩チャネルを通過する量が多いため、ポンプによる輸送量は完全に相殺されます。

 今日取り上げた活動電位や興奮の伝導、伝達が生じるしくみは、前記の内容の中でもとりわけ重要です。この仕組みを理解するためには、細胞膜を介したイオンの輸送、つまりイオンチャネルやイオンポンプについて正しく理解する必要があります。もちろん、その前に細胞膜についても分かっていなければなりません。さらには、細胞内外の電解質組成や電流、電圧に関する基本的な知識も必要です。膜タンパク質である受容体のはたらきも大切です。ここまで学んできた多くの知識を集大成するような内容です。さらに、この後に取り上げる神経系を中心とする生理機能は、ニューロンの興奮という現象を抜きにして考えることはできません。しっかりと復習しておきましょう。

 まず、脱分極や過分極が生じるためにはニューロンに何らかの刺激が加えら得る必要があります。授業では電極をさして電気を通じるという、実験的な刺激をモデルにしました。刺激に対しては、刺激依存性イオンチャネルが反応します。

 刺激によって刺激依存性イオンチャネル、例えばナトリウムイオンチャネルが開放して細胞外からナトリウムイオンが細胞内へ流入します。静止膜電位を維持した状態で、細胞内の陽イオンが増加するわけですから、当然静止膜電位よりも陽性に変化します。この現象が脱分極です。

 小さな脱分極はすぐに静止膜電位に戻ってしまいますが、閾値電位を超えるような脱分極が生じると、閾値を超えたとたんに電位依存性ナトリウムチャネルが開放して、刺激依存性イオンチャネルの開放によって流入した陽イオンよりもさらに多量のナトリウムイオンが細胞内へ流入します。この結果、オーバーシュートします。

 電位依存性ナトリムチャネルにはゲートが2つあり、それぞれ役割が異なります。しかし、まずは、閾値を超えると開放し、オーバーシューすると閉鎖すると考えましょう。そうすると、活動電位のピークが常に同じ大きさであることがわかりやすくなるでしょう。

 膜電位のオーバーシュートは電位依存性カリウムチャネルの開放を促します。この結果、細胞内で多量に存在するカリウムイオンが細胞外へ流出します。静止膜電位をつくりだすために移動していた量とは比べものにならないくらい多量に移動し、再分極を生じます。

 再分極後に静止膜電位よりも膜電位が陰性方向に変化します。これは、再分極相で移動しているイオンがカリウムイオンだけであるために、が膜電位はカリウムイオン平衡電位に向かって変化していくからです。その後、ナトリウムカリウムポンプのはたらきで静止膜電位を回復します。

 細胞膜上の局所で活動電位が生じると、オーバーシュートによって細胞内にたまった正電荷=陽イオンが周囲の負電荷=陰イオンに引き寄せられて移動します。電流が生じていると考えてよいでしょう。この結果、活動電位が生じた局所の周辺に新たな脱分極が生じます。この新たな脱分極が閾値を超えると、同様に活動電位が生じます。一方で、最初に活動電位が生じた部位は不応気になっているため、つまり電位依存性ナトリウムチャネルが不活性化しているために、活動電位は生じません。したがって、興奮=活動電位は、はじめに生じた部位から外側に向かって広がっていきます。これが興奮の伝導です。

 興奮が伝導するということは、すなわち活動電位が生じる部位が移動していくということです。細胞膜には電位依存性ナトリウムチャネルが一様に存在していると考えると、隣接する部位のチャネルが順に開放していくということです。このように、移動していく活動電位のことを、神経インパルスということもあります。感覚器や運動器の機能を考える場合にはよく使いますので、この機会に一緒に頭に入れておきましょう。

 ニューロンに生じる神経インパルスは、軸索小丘に始まり軸索終末に至ります。そして、ここから他の細胞へ興奮を伝達します。興奮の伝達は必ず一方向に生じ、伝える側をシナプス前、伝えられる側をシナプス後といいます。したがって、興奮はシナプス前からシナプス後へと伝達されます。これから学ぶのはシナプス前はニューロン、シナプス後はニューロンまたは筋細胞である場合です。ニューロンから他の細胞への興奮の伝達は、細胞間に電気を通じるのではなく、間隙を化学物質を介しておこります。このようなしくみが化学シナプスです。

 心筋での興奮の伝達を既に学びましたね。来週あるいは再来週の授業で触れますが、刺激伝導系や固有心筋間での興奮の伝達では、互いに接し合っている細胞間をイオンが移動する=電流が生じることによって興奮が伝達されています。このようなしくみを電気シナプスといいます。

 シナプスは構造の名称であると同時に、機能の名称としても使いますので、注意しましょう。

 軸索終末までインパルス=活動電位が伝導してくると、この膜電位変化自体は終末で消えてしまいます。終末の細胞膜には電位依存性ナトリウムチャネルが無いからです。かわりに、電位依存性Ca2+チャネルがあり、このチャネルの開放によって、細胞外から細胞内へカルシウムイオンが流入します。このカルシウムイオンがシナプス小胞とシナプス前膜との融合を促すために、エキソサイトーシスが生じます。この結果、シナプス小胞内の神経伝達物質がシナプス間隙へ放出されます。

 シナプス間隙は、分子にとってはかなり広いスペースです。拡散(広義の拡散)によって広がっていく伝達物質が、対岸であるシナプス後膜の受容体と結合することによって、興奮が伝達されます。伝達物質や受容体については再来週の授業で触れますが、物質を仲立ちとしてシナプス後細胞にイオンの流入を生じます。これが新たな脱分極を生じることによって活動電位が生じます。シナプス後細胞に生じる変化は改めて取り上げますが、まずは興奮の伝導と伝達がどのように生じるかという基本的なメカニズムを理解しましょう。