第22回 聴覚

 今日ははじめに聴覚の適合刺激である音波について概説しました。

 空気を弾性のある媒質と考えたとき、音波は音源からの縦波として考えることができます。もちろん、空気は分子の集合ですから、各分子の集合状態の差、つまり、分子が疎になっている部分と密になっている部分が交互に並んだ(厳密にはそれぞれの状態が連続的に変化した状態で交互に並んだ)疎密波です。疎密の状態をグラフとして可視化する場合には、縦軸に圧力(すなわち分子の密度)をとって横波のようなサインカーブとして描くことができます。

 疎密の程度の差であるグラフの縦軸の幅が波の振幅です。振幅が大きいということは、分子の疎密の程度の差が大きいことを意味しており、これが音量の大小を表します。音源は空気に振動を与える為に圧力をかけています。したがって、音量は圧力として、パスカル単位(Pa)で表せます。しかし、ヒトの聴覚は音源の圧力の大きさに比例したように感じるのではなく、音源の圧力の対数に比例したように感じています。これがフェヒナーの法則です。この実際の感覚に合うように表したのがベル単位(B)です。取り扱いやすい数字の大きさにするために、デシベル(dB)で表記します。

 一方、1つの波を「隣り合った波の同じ状態の部分の間」と考えると、この2つの間の距離が波長です。そして、あるポイントを一定時間内に、一波長分が何回通過するかが周波数で、1秒間あたりに通過する波の数で表します。言い換えると、あるポイントで何回の波が生じているか、つまり分子の疎密が何回繰り返すかと考えてもよいでしょう。1秒あたりの回数をヘルツ単位(Hz)であらわし、これが音の高低を決めています。気がついた人もいると思いますが、周波数は波長の逆数です。(波長や周波数は音波だけではなく、可視光線を含む電磁波を考える場合にも使われる概念ですので良く整理しておきましょう。)

 ベル(デシベル)とヘルツは、それぞれに音波の性質を決める重要な単位ですのでよく頭に入れておきましょう。

 ヒトの可聴域は20〜20,000ヘルツと言われていますが、成人に限ると決して正しくはないことも実感できたでしょう。教科書といえど決して鵜呑みにしてはいけないというよい例です。

 聴覚器としての耳の構造は解剖学でも学ぶはずですので、ここでは詳しく触れません。音波が有毛細胞の反応をどのように生じるかを振り返りながら、必要な構造を考えておきます。

 耳介は複雑な形状をしています。この形状によって周囲からやってくる音波を効率よく外耳道へ集めることができます。そして、空気の振動が鼓膜にあたると、鼓膜の振動を生じます。鼓膜は外耳と中耳の境界で、中耳側でツチ骨と結合しています。したがって、鼓膜の振動はツチ骨の振動を生じます。ツチ骨はキヌタ骨、さらにアブミ骨とつながっていますから、順に振動します。アブミ骨が中耳と内耳(前庭階)の境界である卵円窓と結合しています。このためアブミ骨の振動は卵円窓の振動を生じます。鼓膜から卵円窓までの物体の機械的な振動は徐々に増幅されていて、卵円窓は鼓膜の振動の約20倍の大きさで振動します。この結果、ヒト(あるいは哺乳類)は、小さな振動も音として知覚できるようになりました。

 内耳は側頭骨中の迷路全体を指しますが、聴覚器として機能しているのは蝸牛です。蝸牛は3つの階層に分かれていますが、前庭階と鼓室階は蝸牛頂で連続しているので、内部は同じ組成の液体=外リンパで満たされています。一方、蝸牛管は他の2つとは完全に独立しており、組成の異なる内リンパで満たされています。

 卵円窓の振動は外リンパの振動を生じ、前庭階と鼓室階の内部でともに液体の振動(圧力波)を生じます。圧力波が前庭膜、基底膜を振動させ、コルチ器を上下に動かすことになります。コルチ器は基底膜に載った細胞群と蓋膜が異なった支点で振動するため、間に挟まっている感覚毛が動きます。プリントの図で見ると、振動の具合に応じて左に倒れたり、右に倒れたりしているのがわかるでしょう。

 感覚毛は構造的には微絨毛で、自律的に動くことはできず、蓋膜からの押さえられ方によってどちらに倒れるかが決まります。感覚毛の先端には陽イオンチャネルがあるため、チャネルが開放する方向へ倒れると内リンパからカリウムイオンが細胞内へ流入して脱分極を生じます。大きな振動(大きな音)を受けると、外リンパの振動も大きくなり、コルチ器も激しく運動します。したがって、チャネルの開放の程度が大きくなり、流入するカリウムイオンも多くなるため、より大きな脱分極を生じます。

 有毛細胞には電位依存性カルシウムチャネルがあり、有毛細胞の脱分極に応じて開放します。この結果、細胞外から流入したカルシウムイオンの作用によって神経伝達物質が放出されます。このシナプスは当然興奮性シナプスで、蝸牛神経には比較的簡単に興奮(=活動電位)が生じていると考えると、聴覚が常に生じていることが説明しやすくなると思います。

 有毛細胞には2種類ありました。主要には内有毛細胞がはたらいています。蝸牛神経は内耳神経の枝で、そのほとんどが感覚神経です。そして、内有毛細胞からの神経伝達物質の作用で興奮して、蝸牛神経核へ興奮を伝導します。外有毛細胞の機能はまだよくわかっていません。昨年の授業の記録に補足情報を掲載しましたが、一部を修正して別ページの再録しましたので参考にして下さい。

 聴覚の伝導路はかなり複雑です。この複雑さが、単に音波の振幅や周波数の大小だけにとどまらない聴覚の機能をつくっているとも言えます。来週はその機能の一端を簡単に紹介しようと思います。

 平衡感覚受容器である前庭と半規管(合わせて前庭器官といいます)は、蝸牛と連続した構造で、蝸牛のすぐ隣が前庭で、その先に3つの半規管があります。解剖学的にいう「前庭」はさらに卵形囊と球形囊という2つの部分に分けられます。内耳がつくられる過程では、はじめに卵形囊と球形囊ができ、そこが膨らんで蝸牛と半規管ができてきます。したがって、互いの内部、蝸牛の蝸牛管と卵形囊、球形囊、そして半規管の内部は一つながりの構造です。つまり、いずれも内リンパで満たされています。そして、蝸牛管のコルチ器とよく似た構造が卵形囊、球形囊、そして半規管にも存在します。このことを押さえて、平衡感覚受容器の構造を見直しておきましょう。予習しておきましょう。

 来週は、視覚の適合刺激である可視光線についても説明します。今日の授業で予習用にあらかじめ配布するのを忘れていましたが、「一家に一枚・光マップ(https://stw.mext.go.jp/series.html)」を配布します。簡単にダウンロードできますので、一度見ておくとよいでしょう。