『人体』展

 先週の授業後は、東京へ行き上野の国立科学博物館で『特別展 人体 ~神秘への挑戦~(The Body ― Challenging the Mystery)』を見てきました。公式サイトはここ(https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2018/jintai/highlight.html)です。

 3月から開催されていましたが、6月半ばまでです。授業でも紹介したNHK特集『人体』で4月に展覧会自体を観覧するような番組を放送されています。興味を持った人もいることでしょう。医学の歴史やヒトと他の動物との比較など、貴重や資料や実物標本や数多く展示されています。現在の到達点にたって描いたアニメーションや実際の映像を通じて観察できる価値は非常に高いものです。

 今回最も期待していたのは、『ファブリカ』をはじめとする中世から近代にかけての医学書の原書や初期の顕微鏡です。授業で細胞の発見について簡単に説明しました。ロバート・フックが使った顕微鏡は複数のレンズが使われていて、現代の顕微鏡と基本的なしくみは同じです。しかし、微生物や毛細血管を流れる赤血球を発見したレーウェンフックは1個の球体レンズを用いた単式顕微鏡を使って観察しました。当時レーウェンフックが自作したと考えられる顕微鏡が展示されていました。『ファブリカ』やその著者であるヴェサリウスについては医学史で学ぶことでしょう。また、高等学校の生物の資料集などではレーウェンフック式顕微鏡の簡単な作り方も紹介されていますので、学校で試みたところもあるのではないでしょうか。

 また、心臓や肺、胃など、主な器官が生物の進化を経てどのように変化してきたのかを、実物の標本を見ることができたのも有意義でした。中でも動物の生活様式と心臓の構造の違いを、原索動物から哺乳類に至るまで通して観察できる機会はなかなかないでしょう。さらに、同じ哺乳類であっても、体の大きさにはかなりの差があります。心臓や胃などの消化器がの大きさの違いを実感できます。

 この他、神経系の構造について最も重要な発見をしたゴルジとカハールの業績にも触れられていました。授業で学んだ「ゴルジ装置」の発見者であるカミッロ・ゴルジ(イタリア)は、「ゴルジ染色法」という脳組織標本で神経細胞を可視化する方法を開発しました。一方、サンチャゴ・ラモン・イ・カハール(スペイン)はゴルジ染色法を用いた詳細な観察によって、ニューロンとニューロンがシナプスを介して情報伝達していることを明らかにしました。彼らが作成したプレパラートや観察スケッチ、さらには実際に使用した実験器具なども展示されていました。

 今回の展覧会のウリの1つは「キンストレーキ」という、張り子、つまり紙で象った人体模型です。国内に4体しかないうちの2体が展示されています。ほぼ実物大で、全身の皮膚を剝いだ状態を表した、男女の模型。現在のような標本や模型のない時代の学習手段です。さらに、オランダの博物館からワックスモデル、いわゆる蝋人形としての人体模型も借り受けて展示されています。キンソトレーキよりもかなり精巧で、リアリティがあります。数が少なく残念でしたが、ヨーロッパではかなり多くつくられたようで、いくつかの施設で大規模な展示があります。数年前にイタリアに旅行した際にもボローニャとフィレンツェで見学してきました。
ここを参考にしてください

 図録を購入しました。しばらくは学校においておきますので、閲覧したい場合は職員室まで。

 平日であったにもかかわらず、会場内はかなり込んでいました。一般の方々の関心の高さがうかがわれます。一方で、今回の展示の内容は、一部ではあっても専門課程で学ぶ知識に匹敵する解説も付されていました。一般市民もこれだけの内容に触れる機会があるということは、専門家をめざすものとして心しておく必要があるでしょう。