静止膜電位について

 静止膜電位の説明は毎年いろいろ考えるのですが、なかなかいい説明ができないままです。もともと電気生理学的なことが苦手だということもありますが。少し授業の時とは少し違った説明を考えて見ます。

 まず確認ですが、細胞内外には様々なイオンの分布に差があります。そして、細胞膜を構成する脂質二重層はイオンを通さないため、いったんできた濃度差は簡単には解消されません。例えば、細胞外には100個の陽イオンがあり、細胞内には60個の陽イオンがある場合、その差である40個分の正の電荷の差が細胞膜を挟んで存在しています。実際には陰イオンもありますから、陽イオンと陰イオンの電荷の合計の差をもとに計算されたのが電位差(単位はV、ボルト)で、膜電位といいます。

 膜電位はあくまでも細胞外を基準にして、つまり細胞外を0Vとして、細胞内がどれくらい正か負か、と考えます。言い換えると、正と負はあくまでも相対的なもので、どちらがより正の電荷(つまり陽イオン)が多いのか、あるいはより負の電荷(つまり陰イオン)が多いのかと考えればいいわけです。

 ではどうしてイオンの分布に差ができるのでしょうか? それを担っているのがイオンポンプとイオンチャネルで、特に大切なのが、これらポンプやチャネルのはたらきによって生じるカリウムイオンとナトリウムイオン(この他に塩化物イオンを一緒に考えることもよくあります)の濃度差です。
 
 基本的に細胞内外のカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差はナトリウム・カリウムポンプによって維持されています。細胞内にあるナトリウムイオンは細胞外へ移動し、細胞外にあるカリウムイオンは細胞内へ取り込まれます。その結果、細胞外にはナトリウムイオンが多く、細胞内にはカリウムイオンが多いという状態が作り出されています。しかも、ナトリウム・カリウムポンプは3個のナトリウムイオンと2個のカリウムイオンをセットにして輸送しますので、このポンプのはたらきだけを考えれば細胞外の陽イオンが多くなってしまいます。

 次に、いったんイオンポンプによって濃度差がつくられると、その濃度差にしたがってイオンがチャネルを通って移動します。細胞膜にあるカリウムチャネルにはいろんな種類がありますが、その中のカリウム漏洩チャネル(K
+ leakage channel、漏出チャネルともいいます)は常時開口しています。したがって、細胞内のカリウムイオンは濃度勾配に従って細胞外へ移動します。ところが、ある程度の量が流出すると、今度は細胞内が負になってしまうため、陽イオン(正の電荷を持っている)であるカリウムイオンを引きつけます。その結果、細胞内のカリウムイオンは細胞外へは移動しなくなります。こうして濃度勾配と電気的勾配(あわせて電気化学的勾配)のつり合った状態=平衡状態になります。(ただし、移動が完全に止まったのではなく、流出量と流入量が等しくなり、見かけ上移動が止まっているだけです)。このように見かけ上イオンの移動がない状態のイオン濃度の差(電荷の差)から計算した電位が「平衡電位」です。

 一方、ナトリウムイオンのチャネルにもいろんな種類があり、細胞膜にはナトリウム漏洩チャネルがあります。しかし、カリウム漏洩チャネルに比べて圧倒的に数が少ないようで、細胞外から細胞内へ移動するナトリウムイオンは細胞外へ移動するカリウムイオンに対して極めて少量です。このように、すべてのイオンポンプとイオンチャネルのはたらきによって作り出された細胞膜内外のイオンの濃度差から計算されたのが静止(膜)電位です。