2017年度 第7回 遺伝子発現とタンパク質の輸送

 今回はDNAに保存された遺伝情報が発現するしくみを、タンパク質ができる過程を考えることによって概観しました。転写と翻訳の2つのステップについて、考え方の要点となる部分を説明したつもりです。プリントの図を見ながら、自分なりに跡づけてみましょう。

 転写は、二本鎖DNAの一方のみを鋳型としており、ある部分=転写開始点から始まって、相補的な塩基を持つヌクレオチドを順に結合させ、ある部分=転写終結点で終わります。DNAとRNAでは含まれる塩基と糖の種類に違いがあります。特に、糖の違いが二本差にしないと安定しないか、一本差でも安定であるかの差をつくっています。また、塩基の違いは相補的な組合せをつくる上で間違えないようにしましょう。

 転写された産物は、転写開始点から転写終結点までの一つながりのRNAであり、イントロンを含んでいます。したがって、スプライシングによってイントロンを取り除き、さらにCapやpolyAを結合させてmRNAができあがります。

 どの遺伝子を、いつ、どのくらいの量を転写するか。つまり、どの転写産物が、いつ、どれくらいできるのかは、細胞の状態を決める上で重要な要因です。

 できあがったmRNAは細胞質でリボソームによって翻訳されます。mRNAの連続する3塩基配列が1つのアミノ酸を指定するというのは、地球上のすべての生物に当てはまる重要な法則です。「翻訳;translation」とはうまい言葉を当てたものだと思います。「コドン」がアミノ酸を指定するという文法、あるいは言語の変換を通して、タンパク質が合成されます。

 翻訳も、転写と同様に、タンパク質ごとに開始部位と終結部位が決まっています。できあがったタンパク質はリボソームから離れると、形を整え、さらにしかるべき場所へ運ばれていきます。授業では細胞膜や細胞外で機能するタンパク質についてだけ取り上げました。これらは粗面小胞体上のリボソームで産生された後、粗面小胞体内へ入り、さらにゴルジ装置へ運搬されて立体構築されます。

 一方、細胞質内のサイトゾルや小器官、あるいは核内で機能するタンパク質は遊離型のリボソームで合成されます。これらのタンパク質には「シグナル配列」とよばれるタグ=荷札の役割をするアミノ酸配列が含まれていて、この部分の配列情報に基づいてそれぞれの場所へ運ばれていきます。

 最後に溶液中の拡散について簡単に説明しました。現象としては当たり前のものですが、拡散(広義の拡散)は、生体内での物質移動や輸送を考えていく上で非常に重要な概念です。分子は常に運動(文字通り、運動エネルギーによって動いています)しています。一つ一つの分子に注目をすると、それらは完全にランダムな動き方をしています。したがって、多くの分子が集合すると、それらの運動の方向や大きさは完全に相殺され、マスで見たときに全く動きがないかのように見えます。よく使われる表現ですが「見かけ上」変化がありません。ここに、異なった種類の分子の集団が入り込むと、この新たな異種分子も運動しているため、互いが動き合って、お互いの間に広がっていきます。こうした運動が長時間続くと、互いが広範囲に広がって均質な状態になります。このような現象を「拡散」といいます。さらに、拡散して全体が均質になった結果、見かけ上変化がなくなってしまった状態を「平衡状態」といいます。

 来週は、上で考えたような物質の移動が細胞膜を挟んで、どのように生じるかを考えてみます。