2016年度 第7回 遺伝子発現のしくみ

 先週の最後に説明した遺伝子に引き続き、遺伝子からタンパク質がつくられる過程を概観しました。この過程を経て特定の遺伝子からそのタンパク質(またはRNA)がつくられることを「遺伝子が発現する」と言います。

 今回は、転写、翻訳、そしてタンパク質の修飾・立体構築と輸送 という3つのステップに分けて説明しました。それぞれに重要な概念や用語があります。一つ一つしっかりと確認しながら現象を捉えるようにしましょう。プリントの図を見ながら自分で声に出して説明してみると、何が分かっていてどこが理解できていないのかがはっきりします。

 DNAの塩基配列として保存されている内容がどのようなものであるのか、生命現象として意味を持つために細胞内で何が起こっているのかをおおよそ知っているということが重要です。医学の知識や技術はどんどん蓄積され進歩していきます。自分から調べて理解することは難しいですが、テレビで組まれる特集番組や新聞報道などに接したときに、ただ鵜呑みにするのではなく、ある程度しっかりと判断できるための土台をつくっていくという態度が大切です。



 授業ではDNAとRNAの構造の違いをしっかりと説明できませんでした。塩基の組合せの違いを除くと、糖の部分がデオキシリボースであるのか、リボースであるのかということです。「生理学のための化学」p56~に両者の構造の違いを簡単に説明しました。また、DNAは必ず二本差になって二重らせん構造をつくりますが、RNAは一本差のままでも構造的に安定しています。したがって、DNAの一方の鎖を鋳型として転写されたRNAは自身の向かいに相補的な鎖をつくる必要はありません。

 転写後のプロセシングについてはスプライシング以外には詳しく説明しませんでした。プリントにあるように、mRNAの一端(転写の始まりに当たる部分)にメチルグアニンという特別の塩基をつけます(これを”Cap”と言います。文字通り帽子です)。そして、もう一方の端(転写の終わりに当たる部分)にはアデニンを含むヌクレオチドを連続して付加します。これらの反応がスプライシングとあわせて進行し、mRNAができあがります。また、プリントp65の図中、左下に示した塩基の名称のうち、最下段の”U”が「グアニン」という名前になっていますが「ウラシル」の間違いです。

 遺伝子がDNAの塩基配列として保存されているだけではただの情報に過ぎず、これをどのようにすれば利用できるのかが生命現象を多様化する上でどうしても克服しなければならない壁だったと思います。原始の頃は転写されてできたRNA自体にタンパク質のような酵素としての働きがあり、このはたらきに頼っていました。ところが、RNAの情報をさらにタンパク質に翻訳することができるようになって、情報を利用できる幅が広がりました。翻訳のステップは、塩基配列がアミノ酸の配列にどのように置き換えられていくのかが大切です。「コドン」と言う概念を中心にして考えるようにしてください。

 プリントには「コードする」という言葉をたびたび使っています。授業では特に触れませんでしたが、元来は「コード;code」とは「暗号、暗号化する」という意味です。ここから、「タンパク質のアミノ酸配列を遺DNAの塩基配列という別の形(あるいは言葉)で保存する」という意味で使われはじめ、現在では「タンパク質のアミノ酸配列がDNAやRNAの塩基配列として、あるいはRNAの塩基配列がDNAの塩基配列として表されている、または保存されている」という意味で使います。英語の”code”には「ひも」とか「規則」などの意味もありますので、間違えないでください。

 タンパク質の合成から修飾・立体構築、そして輸送は連続した現象として考えた方がいいでしょう。授業では細胞外タンパク質や細胞膜タンパク質を例にして、粗面小胞体状のリボソームで産生されるところから順に説明しました。これも、図を見ながら自分で説明を試みてみましょう。来週あるいは再来週の授業では、細胞内で産生されたタンパク質などがどのように細胞外へ放出されるのかについても考えてみます。この現象はエクソサイトーシス(開口放出)といい、多くの細胞が利用しています。例えば、形質細胞が免疫グロブリンを細胞外へ放出するときにも利用しています。今後生理学を中心に、このエクソサイトーシスに当たる現象が多く取り上げられるはずです。

 最後に遺伝子疾患について簡単に説明しました。代表的な疾患を紹介しただけですが、きわめて多くの疾患があります。その多くは根本的に治療する、つまり治すことはできません。興味があれば自分で調べてみてください。