第4回 ATP、細胞膜と細胞核

最初に生体で生じるさまざまな化学反応でエネルギー源として利用されるアデノシン三リン酸について説明しました。ほぼすべての生体反応に関わっていると考えて差しつかえありませんが、具体的にどのような形で関わっているのかはその都度説明します。まずは名称と略号、そして、生体の化学反応でエネルギーを移動させるために必要であるということを頭に入れておいて下さい。

先週説明した、同化反応や異化反応でのエネルギーの移動もATPを介していることがほとんどです。

さて、これから本格的に生物あるいは人体に迫っていきます。生理学2では全身を循環する血液やその循環機能を担う心臓を中心とした循環器系(心臓血管系)を学んで「人体」と実感していることと思います。生理学Ⅰでは、階層性にしたがって生物あるいは人体を考えたときに、その基本単位となる細胞の構造と機能についての基本的な内容を確認します。すべての細胞に共通する性質を一通り考えられるようにしたいと考えています。

今回は、細胞の一般的な特徴と、細胞の基本的な構造である細胞膜と細胞核を取りあげました。

「増殖」と「分化」という言葉は普段はあまり使わないと思います。英語ではそれぞれ、proliferation、differentiationといいます。1種類・1個だった細胞がどのようにして300種類・60兆個になり、さらに、決められた構造と機能を必ず持ちうるのかはまさに「生命の神秘」であり、そのしくみを明らかにすることは生命科学の目標です。授業でもできるだけこうした問題に触れる機会をつくりたいと思います。

細胞を細胞外と隔てる細胞膜は単に「境界としての膜」であるというだけでなく、細胞が生きていく上で必要な多くの機能を備えています。この機能を考える上でも、今回説明した「脂質二重層」と「流動モザイクモデル」はどうしても理解しておく必要があります。

まずは、細胞膜の基本構造である脂質二重層とその大部分を占めているリン脂質分子の構造とその特徴をよく理解して下さい。細胞の内外は基本的には「水」です。したがって、この水との間の関係がどのようになっているのかを中心に考えてみるといいでしょう。

細胞膜が「なぜ」リン脂質やその尾部の周囲にあるコレステロールによってつくられているのか、その必然性については「生理学のための化学」でやや詳しく説明をしました。一度じっくりと読んで下さい。

細胞膜にあるタンパク質の存在様式はさまざまです。例えば、完全に埋没するような場合、細胞内外に貫通しているような場合、細胞の内側あるいは外側にだけ突き出ている場合、あるいは細胞膜の細胞内側や細胞外側にわずかに触れているだけという場合。プリントで名称を挙げた「内在性」、「膜貫通」、「膜周辺」など存在様式オwもン台にするときには区別するための名称を用います。授業では改めてこれらの名称を使って説明することはないかもしれませんが、自分で勉強するときの参考にして下さい。

細胞核についてはあまり説明できませんでしたが、プリントの説明と図によりながら「核膜」、「膜膜孔」、「染色質」を確認しておいて下さい。この後、細胞の分裂、DNAの複製や遺伝子発現について考えるときに細胞核に関する理解が必須です。

電解質の濃度:mEq/Lについて

電解質の濃度について説明しませんでした。プリント19ページのグラフの縦軸の意味を簡単に説明します。

「mEq/liter、メック・パー・リットル」という単位はたぶん始めてみたのではないでしょうか? この単位で示される稜は電解質濃度といい、溶液に含まれるイオンの濃度を表します。「原子」の量とその「荷電」の量を合わせて考え、医学・生理学分野でよく用いられます。体液中で、そのイオンがどのくらいの電荷を運ぶことができるのか、を比較できるようにするために汎用されています。

この単位である「Eq」はequivalentの略で「当量」と訳されます。この場合であれば「1リットル当たりの量」いうほどの意味ですが、1リットル中にあるそのイオンの持っている荷電量を示します。例えば、ナトリウムイオンは1価の陽イオンですから、ナトリウムイオンが1モル/リットルの濃度であれば1当量/リットル=1 Eq/L、カルシウムイオンは2価の陽イオンであるため、カルシウムイオンが1モル/リットルであれば2当量/リットル=2 Eq/Lと考えます。mEqの「m」は「ミリ」つまり、1/1,000の意です。

したがって、グラフ中で血漿中のナトリウムイオンの濃度は142mEq/Lと示されていますが、これは142mmol/Lと同義です。また、血漿中のカルシウムイオン濃度が5mEq/Lということは実際のカルシウムイオン濃度は2.5 mmol/Lです。リン酸化物イオン(HPO42-)の細胞内濃度は100mEq/Lですから、実際の濃度は50mEq/Lです。

第3回 ホメオスタシスと体液

少しは慣れてきたでしょうか? 

今週は「生体の恒常性」について、体液の組成を中心にして考えました。今回説明した具体的な組成がどのように維持されているのかを学ぶことは生理学の重要項目の1つです。しかし、まずは正常な体液がどのような組成で構成されているのかを知っておきましょう。

授業で説明したように、最も多いのは電解質=イオンです。細胞内液と間質液、血漿のそれぞれでどのイオンが多く含まれているのか、あるいはどのイオンが少ないのか、しっかりと頭に入れておくように。プリントのグラフをよく見ながら一度自分の「口」で説明してみましょう。

今回はイオンではあっても他とは異なる特徴を持っている水素イオンの濃度について特別に説明をしました。水素イオンがどのような構造をしているのか、また、その濃度の表現のしかた(pH)については中学校の理科や高等学校での化学、あるいは「生理学のための化学」を参考にして下さい。今回は体液の代表として血漿のpHについて触れました。生理学を学ぶ中ではホメオスタシスが維持された状態を具体的に考えていきますが、血漿(正確には動脈血の血漿)のpHその中で最も重要な要素です。緩衝系の具体的なしくみは血液や呼吸器系、泌尿器系で学ぶことになります。

電解質濃度を保つしくみや水素イオン濃度を保つための緩衝系のしくみなど、ホメオスタシスを維持するためにはたらいているすべてのしくみは負のフィードバック(ネガティブ・フィードバック)機構によって調節されています。いくつかの例を挙げて説明しましたが、一般的な考え方をよく身につけておきましょう。化学反応の概念も同様で、具体例は今後学んでいきますが、一般的な考え方が分からないと全く理解できませんので、よく復習しておいて下さい。

第2回 階層性:外皮系、内部環境の恒常性

申しわけありません。サマリーを創っておきながらアップしておりませんでした。改めて先週の授業のまとめです。

第1回目の授業では生物のからだ、生体の構造には階層性があるということを学びました。第2回目では、外皮系を取りあげて、実際にどのような階層構造になっているかを考えました。


自分の外皮、直接には表皮を毎日目にしています。多少はわかりやすいのではないかと思います。外皮系という器官系は、皮膚という器官とそれに付属するいくつかの器官から構成されています。付属器官は、一つ一つは皮膚よりも小さいですが、いずれも外皮系としての機能を全うする上で必須です。皮膚という器官は表皮と真皮という2つの組織から成り立ち、表皮は上皮組織、真皮は結合組織に分類されます。組織には、その組織を構成する細胞の形態や細胞間の物質などによって分類することができます。表皮と真皮について構成する細胞や細胞間の物質をいくつか示して説明をしました。飛ばしてしまった内容もありますが、自分でよく見て、その違いを理解しながら、組織の構造を考えるきっかけにして下さい。

細胞と一言にいってもいろんな種類があり、それぞれ形態も機能も全く異なります。表皮と真皮についていくつか細胞の名称を挙げて機能を説明しました。構造についてはあまり説明しませんでしたが、今後の授業でさまざまな組織を学ぶ中で、いろんな図を見ると思います。それぞれにある程度形態が判別できるような図が描かれているはずですから、一つ一つをよく注意してみるようにしましょう。

階層性の最も下位、最小のレベルである物質=分子や原子の詳細は『生理学のための化学』に譲ります。できるだけ早く目を通して、何が分かっていて何が分からないのかをはっきりさせましょう。もちろん、分かっていないことは解決する必要があります。そして、概念とともに、いくつかの元素記号を知っていることも必須です。

授業では元素についてだけ一覧表で示しました。ほんの入り口ですが、配布した周期表とともにできるだけ日常生活の中で考えられるようにしていきましょう。

最後に『内部環境の恒常性』、『ホメオスタシス』という考え方を説明しました。考え方そのものは何となく身に付いていることかもしれませんが、『生理学』を学ぶ以上、正確な概念と言葉、それに関わる人物や歴史を知っておく必要があります。また、来週は『ホメオスタシス』の概念を体液を実例として取りあげながら具体的に考えます。

『医は仁術』展

 月曜日のコンサートの翌日も休暇にして上野・国立科学博物館の「医は仁術」展(HPはここ)を観に行きました。

 少し前に同名のテレビドラマがあったようで、昔からの格言である「医は仁術なり」にかけているのでしょう。内容は江戸時代を中心にした日本の中世から近世の医学事情の紹介。特に室町時代後期にヨーロッパより西洋医学(といってもまだまだ科学というにはほど遠い内容です)が伝来して以後、江戸時代には国内でも腑分けと称する解剖が行われ、それまで中国や朝鮮半島から伝えられ引き継がれてきた日本の「医」と西洋の「医」がどのように結びついていったのか、どのような人物が牽引していったのか、古い書物や道具類の展示を通して理解することができます。

 テレビドラマつながりということで、正直言ってあまり期待していなかったのですが、どうしてどうして、なかなか見応えがありました。特に、江戸時代に発行された様々な医学書、あるいは西洋の解剖学書などの翻訳本、日本人がつくった解剖図譜など、初めて目にするものばかり。不明を恥じると同時に、古人の旺盛な活動に感銘を受けました。

 ターヘル・アナトミアと杉田玄白の解体新書、さらにその改訂版や稿本などショーケースにかぶりつきになってしまいました。また、初期の解剖図は、刑死者を実際に解剖して描かれていますが、古来の「五臓六腑」が頭にあるために、はなはだ正確性に欠けていました。「思い込み」があると、見ているはずにもかかわらず、正しくは見えないということ。これは肝に銘じる必要があります。
中には華岡清州家で修行を終えた弟子が書いた誓約書がありました。そこでは秘伝を他には漏らさないという約束をさせられており、日本医学史のヒーローも実は「嫌らしい奴」でした。

 3月から始まっていますが、6月15日までです。そのうち名古屋にも来るかもしれません。皆さんも是非行ってみて下さい。

 ただ、1つだけ気になるのは、「医の原点は江戸にあった」「日本では古来和を尊ぶ」など、結論ありきで無理矢理ストーリーをつくっているようなところ。一般市民に広く、わかりやすく、が博物館の重要な仕事ですからやむを得ないところもありますが、素直にみていけば、命の尊さのためにいかに多くの優れた才能が費やされたのか、十分に理解できると思います。

第1回 イントロ、生物の階層性

年度最初の授業はいかがでしたか? クラスによっては、文字通りの「最初の授業」でしたが、やや抽象的な話ばかりになってしまいました。来週からはもう少し具体的に「生物」あるいは「人体」を考えていきます。高校までの科目では、理科、特に生物と化学が土台ですから、まずは身の回りの自然や生き物、物質に目を向けるところから始めてみるといいと思います。注意深く見てみると、いろいろなもの見えてくるはずです。

さて、今日は生理学がおおよそ何を目的としているのかを簡単に説明しました。ここで説明した2つの考え方、生体の恒常性と生物の階層性という考え方は生命現象を考えていく上で最も重要な概念です。常に座右に置くつもりで、見直して下さい。

生物の階層性という概念は、「細胞」が生物の基本単位であるということと結びついています。ヒトの身体を構成する約300種類、約60兆個の細胞の機能を考えていく上で分子レベルでの理解は不可欠ですし、1個の細胞に注目すると周りの細胞との関係がいかに重要かが見えてきます。この細胞同士の関係を考えることが組織を考えることであり、さらには器官、器官系の機能を理解することにつながります。

組織の構造や種類、器官の構造については解剖学でも学ぶことになると思いますが、来週の授業で外皮系をモデルにして簡単に考えてみます。

プリントの追加のような形で配布した「生理学のための化学」はよく読んで下さい。一部に誤字脱字、図表の番号違いなどがありますが、十分に内容は理解できるはずです。一部授業でも解説をしますが、基本的には自学自習できるような内容になっていると思います。今後の学習の土台作りですので、時間がかかっても必ず取り組んで下さい。わかりにくいところがあればいつでも質問して下さい。また、次回か次々回に正誤表は配布するようにしますが、気がついたところがあれば順次教えて下さい。