Fillippo Pacini

 先日触れたフィリッポ・パチーニ(Filippo Pacini)の業績について少し説明します。

 1812年にイタリア、フィレンツェ近郊のピストイア(Pistoia)の貧しい家庭に生まれました。親の希望もあり、幼い頃から聖職者を目指した厳格な教育を受けたようです。しかし、18歳の時に奨学金を得て、医学を志します。“Scola Medica Pistoia”という名称ですから「ピストイア医学校」でしょうか。当時は有名な学校だったようです。
 1849年にフィレンツェ大学の解剖学の教授になり、以後そのポストで研究と教育に当たりました。1883年、71歳で亡くなっています。生涯独身で、病身の2人の姉妹(姉か妹かは分からない)の世話にあたって苦労したようです。

 第一の業績は、触圧覚受容器であるパチニ小体(Pacini corpuscle)を発見したことです。1831年とされていますので、19歳でしょうか。まだ学生としての実習中に、正中神経や尺骨神経の分枝の終末に卵形の小体を見いだしました。先生に尋ねたところ、脂肪組織の塊と応えたそうですが、当時の教科書にも見当たらず、自分で顕微鏡を購入して調べたとのこと。結局、”tactile ganglia(触覚神経節?)”と名付け、1835年にフィレンツェの学会で発表したようですが、相手にされませんでした。1844年になって、当時すでに高名だったドイツの組織学者ヘンレ(Jakob Henle;1809ー1885)のグループが 、パチーニの名を出してこの小体の存在に言及したことで、ようやく認められました。ヘンレたちの論文は、その構造についてかなり詳細に記載しています。
 パチニ小体は皮膚のみならず、関節や骨、さらには膀胱などにも存在する圧覚受容器です。機械的刺激を受容する感覚受容器としては最初に発見されました。非常に大型であるため実験しやすいのか、多くの知見が得られています。『生理学Ⅰ&Ⅲ』では、主に表在感覚の受容器として後期に取り上げます。

 第二の業績はコレラ菌(Vibrio cholerae)を発見したことです。1854年ですから、ロンドン・ソーホー地区のコレラ禍と同じ年です。イタリア・フィレンツェでもコレラが猛威を振るったそうです。パチーニは、コレラによって亡くなった患者の死後すぐの小腸の粘膜組織を観察して、コンマ状の桿菌を見いだします。さらに、コレラが伝染性であり、その原因がこの菌であること、さらに、患者の小腸粘膜の状態を明らかにし、多くの論文を執筆して主張しましたが、これまた受け入れられませんでした。ロンドンでのジョン・スノーの主張が受け入れられなかったのと同様ですが、当時は「瘴気説」とでもいうのか、そこの「空気が悪い」ということで済まされていました。
 彼の発見の30年後(1884年)に、ドイツのコッホ(Robert Koch;1843ー1910)が報告してやっと世界中が認めるようになりました。この結果、コレラ菌は“Vibrio cholera Koch”として受けいられました。その後パチーニの業績が再評価され、1965年に“Vibrio cholera Pacini 1854”が正式の学名として登録されました。

 生地ピストイアには、彼の名を冠した通りがあります(Via Filippo Pacini)

(”Filippo Pacini: A determina observer., Bentivoglio and Pacini., Brain Research Bulletin, 38(2), 161-165, 1995”を参考にしました。)

コレラ

 昨日紹介したコレラ(cholerae)について、少し触れておきましょう。疾患としては病理学や内科で学ぶでしょう。また、医学研究史上の重要事項としても必ず取り上げられると思います。


 コレラ菌は、もちろん細菌です。したがって、原核生物であり、0.5×1.5〜3μmほどの大きさ。大腸菌とほぼ同じくらいです。ヒトの細胞としては小型である赤血球の直径が7〜8μmですから、相対的な比較としてイメージできるでしょう。

 学名をVibrio Choleraeといい、ヒトに感染して重篤な症状を招くのは01株と0139株という、2種類です。ガンジス川下流域が原発地だそうですが、19世紀前半にインドから世界に広がり、その後数次の大流行があり、現在もアフリカや南米、東南アジアで継続しているそうです。患者の排泄物にコレラ菌が含まれ、これに汚染された水や食物を摂取することによって感染(経口感染または糞口感染)します。日本では3類感染症に分類されていますが、国内にコレラ菌は常在しないとされています。


 コレラ菌は桿状あるいは棒状の細菌で、鞭毛が1本(単鞭毛菌)あり、これを回転させて運動します。原核生物ですから細胞小器官はありませんが、細胞膜の外側に細胞壁をもっています。細菌は細胞壁の構造によっても分類されますが、コレラ菌を含むグラム陰性菌は外層をリポ多糖やリン脂質、リポタンパク質が覆っています。

 
 細菌の毒性は、細胞に侵入して増殖する際に菌体外に代謝産物として放出する物質の作用によっています。特にコレラ毒素(cholerae toxin)といい、タンパク質性の毒素です。この毒素は2種類ののポリペプチド鎖(1分子のAサブユニットと5分子のBサブユニット)の複合体です。腸粘膜上皮細胞の内腔側のガングリオシドという糖脂質にBサブユニットが結合すると、Aサブユニットが細胞内へ侵入します。そして、細胞内の情報伝達系を撹乱し、塩化物イオンチャネルを活性化するとともに、ナトリウムイオン/水素イオン輸送体を阻害します。この結果、細胞内の塩化物イオンが流出するだけではなく、浸透圧バランスが崩れるために、上皮細胞内の水と電解質が腸管内腔へ流出します。このため、水様性の下痢が引き起こされます。潜伏期間は1〜3日とされていますが、症状が出だすと1日あたり5〜10Lの米のとぎ汁(race water)様の水様便を生じます。ワクチンはあるようですが、高い効果は期待できないとのことです。



 コレラ菌は1854年に、イタリア人のフィリッポ・パチーニ(Filippo Pacini)によって発見、報告されました。しかし、このときは注目されず、1884年にドイツのロベルト・コッホ(Robert Koch)が報告して、広く認められました。Vibrio Choleraeは、最初の発見者であるパチーニの命名によるものです。

『感染地図』

 今日は1冊紹介しましょう。
 スティーヴン・ジョンソン著(訳:矢野真千子)『感染地図』 (河出書房新社・河出文庫)
   http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464589/

 先月の終わりに大学の書店で衝撃的な表紙に目がいって手に取りました。ミステリー仕立ての歴史小説のようでもあるが、事実を緻密に辿り、丹念に描いている読み応えのある一冊。

 疫学(えきがく)という言葉を、最近何度か耳にしたことでしょう。つい2ヶ月前までは一般にはほとんど知られることもなかった学問分野ですが、SARS-CoV-2のパンデミーの対策において中心的な役割を演じています。政府の専門家会議やマスメディアに登場する専門家には、この分野のエキスパートが含まれています。

 疫学は英語ではepidemiologyといい、"epi-”は"among or upon"、"demo-"は"demotic"に由来して"people or distic"の意。"-logy"は"logos"から来ていて"discourse or science"を意味します。したがって、"epidemiology"で「人々に降りかかってくる問題についての学問」というような意味でしょうか。医学大辞典(医学書院)には「疾病などの健康事象の,人集団における分布と規定要因を研究する学問。他の医学分野や生物統計学の知見・手法も活用し,病因および予防因子と疾病との因果関係の強さと大きさを人集団において定量的に把握する。検診などの疾病予防対策の策定や効果評価にも応用される。コレラ菌発見以前の19世紀ロンドンにおいて,コレラ流行が汚染水道水によるものであることが究明されたことは,疫学の代表的成果である。」と説明されています。つまり、一人一人の患者ではなく、集団を対象として、疾病の発生源や流行の状態、あるいはその予防などを研究する分野です。説明にもあるように、もともとは感染症を対象として始まり、現在は、公衆衛生や疾病の予防のための基礎データを収集、分析する上で中心的な役割を演じている学問です。また、根拠に基づく医療(Evidence based mediciene)のために必要なデータを提供する分野でもあります。

 「疫学の父」と言われているのが、ジョン・スノー(John Snow、1813年-1858年)。イギリスの麻酔科医で、1854年のロンドン・ソーホー(Soho)地区でのコレラ禍で、緻密な現地調査とデータ解析からその感染源を明らかにました。『感染地図』は、感染者の住居を地図に記したスノーの活動を中心に、当時の貧しい人々の生活の様子や学界や行政の対応ぶりを具に描いています。

 ソーホー地区はバッキンガム宮殿からもそれほど離れているわけではなく、ビッグベンやナショナル・ギャラリー、ロイヤル・オペラ・ハウスからもほど近いエリアです。しかし、この当時は貧しい労働者のアパートや小さな工場が建て込むエリアだったようで、テムズ川上流で汲み上げた上水道の井戸に隣接した汚物だめから屎尿が漏れていたことが、コレラ蔓延の原因でした。ロンドンやパリなど、当時のヨーロッパの大都市では人の排泄物の処理が大変だったようです。ソーホー地区では、アパートの地下室が汚物であふれていたとか。日常生活自体が大変だったのではないかと想像しますが、コレラのような伝染病も散発していたようです。

 1854年のソーホー地区のコレラ禍における感染源とされた井戸(ポンプ)はここです(
Broad Street Pump39 Broadwick St, Soho, London W1F 9QP イギリス)。スノーがつくった「感染地図」を始め、スノーに関する情報はここ(http://www.johnsnowsociety.org)に詳しくまとめられています。現在、感染源とされた井戸に近い場所には"John Snow"の名を冠したパブ(John Snow39 Broadwick St, Soho, London W1F 9QJ イギリス+44 20 7437 1344)があります。

 本書では、新しい学問分野、特に社会と関わりがあるような分野がどのように始まっていくのかがてにとるようによくわかります。そして、旧弊を打ち破ることなくして新たなパラダイムを切り開くことができないということ、しかし、それは決して派手なあるいは華やかな業績としてではなく、地道な努力の積み重ねでこそ成し遂げられるということを実感できます。

最新の成果

 SARS-CoV-2あるいはCOVID-19について、世界中で精力的に研究が進められています。
 基礎的な研究では、ウイルスが細胞に侵入するしくみが少しずる分かってきたようです。SARS-CoV-2が、2型アンジオテンシン変換酵素受容体(ACE2 receptor)を受容体として細胞に侵入することについてはすでに触れました(「コロナウイルスの特徴と新型コルナウイルス」)。ウイルスが細胞に侵入するには、この受容体がウイルスのスパインタンパク質と結合するだけではなく、もう一つ酵素が必要なようです。この酵素はTMPRSS2transmembrane protease/ serine 2)と呼ばれているセリンプロテアーゼで、SARS-CoVと同一のしくみであることが報告されました(https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30229-4)。また、日本のグループもTMPRSS2があると、SARS-CoV-2の感染効率が高くなることを報告しました(https://www.pnas.org/content/117/13/7001)。TMPRSS2は気道上皮に発現していることも分かっており、インフルエンザウイルスの感染についてはかなりしくみが分かっているようです(http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/005040172j.pdf)。その阻害剤もすでに研究されているようですから、今後の治療薬の開発につながるかもしれません。

 また、国内の症例に関する報道を見る限り、軽症状態から一気に悪化するなど、COVID-19の症状は一般的な肺炎の経験則が通じないようです。肺の状態も一般的な肺炎と異なるようですし、かなり全身性の症状もあるのでしょう。最近発行されたアメリカの科学誌“Science”に、論文とは別にこれまでの多くの論文をまとめて紹介する形で、わかりやすく図解された記事が掲載されました。読み込んでいるわけではありませんが、図の部分だけを簡単に紹介します(正確な翻訳ではありません、念のため。https://www.sciencemag.org/news/2020/04/how-does-coronavirus-kill-clinicians-trace-ferocious-rampage-through-body-brain-toes?utm_campaign=news_daily_2020-04-20&et_rid=79656768&et_cid=3293026)。

 重症化した場合、SARS-CoV-2は肺に重篤は症状を生じるが、多くの多の器官におよび、以下のような症状が観察されている。
1.肺:ウイルスの攻撃によって炎症を起こした肺胞または気嚢の壁が免疫細胞の作用によって破壊される。炎症を起こした肺胞または気嚢では免疫細胞が密集している様子が観察されているようだ。この結果、酸素の取り込みが減少するため、患者は咳をし、熱がでて、呼吸が困難になる。
2.肝臓:入院患者の最大半数は、血液検査で得られる酵素活性から判断して肝臓の状態が悪化している。 免疫系の過剰反応と投与された薬によって肝機能が低下していると考えられる。
3.腎臓:重症の場合に腎臓の損傷がよく見られ、この結果、死亡する可能性が高くなる。 ウイルスは腎臓を直接攻撃する可能性がある。また、血圧の急速な低下のような全身性の症状の一つとして腎不全が生じる可能性がある。
4.腸:患者の報告と生検データから、ウイルスは下部消化管に感染するようだ。これは、ウイルスの受容体として機能するACE2受容体が下部消化管に豊富であることを示唆している。 患者の約20%以上が下痢を呈する。
5.脳:一部のCOVID-19患者は、脳卒中、発作、錯乱、および脳の炎症を起こしている。ウイルスによって何が起きているのかはまだよく分かっていない。
6.眼:結膜炎は患者に最も共通してみられる症状である。
7.鼻:一部の患者は嗅覚を失う。 おそらく、ウイルスが嗅神経を終末から移動して細胞体に損傷を与える可能性があると推測されている。
8.心臓、血管:ウイルスは、細胞表面にあるアンジオテンシン変換酵素2ACE2)受容体に結合することにより、血管内皮細胞に侵入します。 感染は、血栓、心臓発作、心臓の炎症も促進する。
 
 スペイン風邪(Spain-flu)は知っていますね。19181919年にかけておこったインフルエンザのパンデミーです。ちょうど第一次世界大戦中で、世界中で2000万人胃以上がなくなったそうです。アメリカから始まったとのことですが、スペインが第一次世界大戦では中立の立場を取っていたため、全ての情報がスペインから発せれたためにこの名があるそうです。
 原因ウイルスはH1N1型で、当時としては新型のインフルエンザウイルスであったため、集団免疫もなく、世界的に大流行しました。亡くなった方々の多くが、呼吸器系のみならず、全身に内出血をしていたそうです。つまり、ウイルスが気道粘膜だけではなく、全身の血管(たぶん内皮)にも侵入していたということでしょう。

抗体検査

 今日は『抗体検査』 のしくみについて考えてみましょう。
 血液中の特定の抗原に対する免疫グロブリンを検出するということですが、大きく二つの方法が考えられます。一つはEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA:エライザ)とイムノクロマトグラフィ法(イムノクロマト法)です。簡易キットとしては後者がより普及しているようで、SARS-CoV-2に対してもイムノクロマト法がすでに実用化されています。

 ペーパークロマトグラフィは知っているでしょうか。濾紙を使って実験しますが、細長く切った濾紙の下端から数センチのところに検出したい物質が溶けた水溶液などをスポットし、濾紙の下端を水やアルコール類などの溶媒につけておくと、毛細管現象で溶媒が上昇するのに伴って、検出するべき物質が移動します。しばらくして、発色試薬使ったり、何らかの化学反応をさせたりして、物質の存在を検出する方法です。中学校や高等学校の理科の実験でも取り組んだことがあるのではないでしょうか。原理は同じです。

 IgGは血漿に含まれていますが、採血した血液を、おそらく分離せずにそのまま使うのだろうと思います。免疫グロブリンはサブクラスによって重鎖のアミノ酸配列がわずかに異なっています。この部分を認識するアミノ酸配列と色素(金コロイドがよく使われるようです)と結合させた試薬を血液に混ぜます。たぶん、IgM用とIgG用があるはずで、検出したい方の試薬を用います。スティック状の検出器材には試薬を混ぜた血液をスポットする穴が空いており、数的を加えてしばらく待っていると、移動しまじめます。
 移動するルートに2ヶ所、検出用のおそらくペプチドが予め結合させてあります。1ヶ所は抗原であるウイルスのタンパク質またはその断片で、抗原を認識する抗体の一部はここに結合します。しかし、抗原を認識しない抗体はそのままさらに移動していきます。2ヶ所目にはIgMまたはIgG自体を認識するペプチドが結合してあり、全ての抗体がここでトラップされます。
 この結果、標識のついた抗体が集まった部分に色がつくため、抗原を認識する抗体が含まれていると2ヶ所に色がつき、抗原を認識する抗体がないと1ヶ所にだけ色がつきます。これで、目的とする抗体、すなわちSARS-CoV-2に対する抗体があるか否かが判別できます。

 最近クラボウが販売を始めたキット(ここ:https://www.kurabo.co.jp/pdf/covid19kit20200420.pdf)は、採血から15分以内で結果が出るようにつくられているようです。

抗体

 WHO “Q & A”でも抗体やワクチンについての質問に答えています.準拠しているわけではありませんが、感染症に対する免疫機能を考える上では避けて通れない機能ですから、ここで考えておきましょう.また、先日取り上げたPCRと並んで「抗体検査」もSARS-CoV2への感染者のテストとして今後実施されていくことでしょうから、その意味を考える上でも大切です。
 
 免疫機能全般についての基礎は『生理学Ⅱ&Ⅳ』で学びます。高等学校でも「生物基礎」でも取り上げられます。正直言って、「生物基礎」のほうがわかりやすく且つ詳しく扱っている気がします。履修していれば、高校時代の教科書あるいは資料集を見直してみるとよいでしょう。

 免疫機能は、自然免疫と獲得免疫の大きく2段階になっていますが、抗体がかかわっているのは獲得免疫の方です。自然免疫は広く浅く対処するのに対して、獲得免疫は特異性が高く、また強力です。自然免疫については、こんなアニメーションもあるので、参考になるでしょう(https://www.youtube.com/watch?v=_VhcZTGv0CUhttps://www.toutube.com/watch?v=rgphaHmAC_A)。

 抗体は抗原と一緒に考えるとわかりやすいでしょう。抗原(antigen)とは「抗体("anti"body)をつくらせるもの("gen"erator)」という意味でつくられた用語で、生体に、その抗原と特異的に反応する抗体やT細胞をつくらせるもののことです。そして、ある物質(異物)に対して抗体が産生されているということは、その個体がその物質に対して免疫を獲得したということを意味します。
 生体にとって抗原となり得るものは、微生物全体あるいはその一部(鞭毛、被膜、細胞壁を構成する化学物質など)、細菌毒素、ウイルスタンパク質、花粉の化学物質、卵白、不適合赤血球、移植組織・臓器など、非常に幅広く、したがって、抗体もまた膨大な種類が存在し得ます。
 
 抗体は血漿タンパク質であるグロブリンの仲間で、免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)と呼ばれます(『生理学のための化学』参照)。リンパ球の1つであるB細胞から分化した形質細胞によって産生・分泌されます。B細胞表面の抗原受容体と抗原が結合すると、活性化してクローン選択によって形質細胞と記憶B細胞のクローンをつくります。そして、各クローンごとに異なった標的=抗原に対する免疫グロブリンを産生します。免疫グロブリンは4つのポリペプチド鎖からなり、それぞれの鎖の先端部分がクローンごとに異なったアミノ酸配列を持っていて、これが多種類の抗原に対して抗体が産生されうる理由です。

 タンパク質としての構造は『生理学のための化学』に説明しました。免疫グロブリンタンパク質のなかで、抗原を認識する部位はアミノ酸数にするとわずか数残基です。したがって、特定の異物タンパク質に対しても、そのタンパク質の異なった部位を認識する抗体が多種類産生されると考えられます。形質細胞は、抗原が認識されてから数日で数億分子/細胞の抗体分子を産生・分泌するようになり、分泌された抗体はリンパや血液中を流れて、抗原(異物)侵入部位へ到達します。

 免疫グロブリンは5つのグループに分けられます。それぞれアルファベットで、IgG、 IgA、 IgM、 IgD、 IgEと呼び表します。例えば、IgGは免疫グロブリン全体の約80%を占め、抗体としての機能の中心を担います。IgMは、抗原に最初に出会った形質細胞が産生・分泌する免疫グロブリンです。

 テレビのニュース番組などを視ていても、SARS-CoV 2に対する抗体の説明の中で、今挙げたIgMとIgGの2つにたびたび触れられています。上の説明のように、ウイルスが侵入して免疫系を刺激すると、最初に産生・分泌されるのがIgMです。しかし、IgMの作用はそれほど強くなく、本格的な作用は数日後に分泌されてくるIgGが担います。したがって、抗体検査でSARS-CoV 2に対するIgMが検出されるということは、感染後間もないということをあらしており、実際には検出されないかもしれません。一方、検査によってIgGが検出されるということは、感染後ある程度時間がたっているということです。COVID-19は感染後の潜伏期間が長いようですので、症状が出ているようであれば、既にIgGが産生されているかもしれません。

 さらに、IgGが産生されているということは、その抗原、この場合はSARS-CoV2(を構成するタンパク質のどこか)に対するIgGを産生する能力を持つB細胞が体内に存在し続けていることを意味します。IgGを産生するB細胞(から分化した形質細胞)の多くは数日で死んでしまいますが、一部は記憶細胞(メモリーB細胞)としてリンパ節などに残ります。このことがいわば免疫を獲得したということです。つまり、再度ウイルス感染があってもそのウイルスに対するIgGが素早く且つ大量に産生される可能性が高いため、症状が出ないことはもちろん、体内でウイルスが増殖することはないと考えてよいだろうということです。

PCR補足

 昨日取り上げたPCRの基本的なしくみについて、以下の記事の方が分かりやすいでしょう。Good timingでした。
 講談社BlueBacksのWebサイトです。
 
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71884

PCR

 何度も⽿にしたでしょう。SARS-CoV2に感染しているか否かを調べるために⽤いられる⽅法です。どういうものか、どんな仕組みでウイルスの遺伝⼦を検出するのか、調べて⾒ましたか?
 
 PCRは“polymerase chain reaction”の頭⽂字を取った略称で、⽇本語ではポリメラーゼ連鎖反応といいます。DNA、すなわち2本鎖のポリヌクレオチド鎖の特定配列を選択的に増幅し、遺伝⼦を検出したりクローニングしたりするために⽤いる⼿法です。バイオテクノロジー技術の⼀つですが、⽣命科学の実験や医療の検査において、今や⽋かせません。
 PCRは、DNAが塩基配列の相補性によって⼆本鎖を形成すること、DNAポリメラーゼによって鋳型に沿って正確に相補鎖合成できることを基にしています。そして、耐熱性DNAポリメラーゼという、特殊な酵素を利⽤した複製反応であるところがポイントです。図を使わずに説明することは不可能ですので、⽇本国内でPCRのための試薬を多く販売しているタカラ・バイオという会社の実験⼿引きを引⽤しておきます(http://www.takara-bio.co.jp/kensa/pdfs/book_1.pdf)。冒頭の部分でPCRの概略についても簡単に説明されています。実際の器具の名称や操作は実験していないとわかりませんから、気にしないように。

 PCRの要点をまとめると、
 ・増幅サイクルを数⼗回繰り返す反復反応で、1サイクルで2倍になるとして、20〜30サイクル後には数⼗億個のDNA断⽚を得ることができる.
[230=1,073,741,824]
 ・各サイクルの開始で、鋳型DNAを構成する2本の鎖を開裂する.
 ・鋳型DNAのそれぞれに異なるプライマーをアニールする.
 ・DNAポリメラーゼによって各鎖が独⽴に複製される.
というところでしょう。

 ⾼等学校『⽣物』を履修していれば、⽣命現象を⽀える物質の⼀つとして核酸であるDNAやRNAについてかなり詳しく学びます。その中で、遺伝情報の発現についても取り上げられており、バイオテクノロジーとして活⽤されている技術も紹介されています。組換えDNA技術やPCR、塩基配列の改正の⽅法などはその代表的な技術で、教科書でも図解して説明されています。愛知県の⾼等学校では、数研出版の「改訂版 ⽣物」や東京書籍の「改訂 ⽣物」が多く採択されています。覚えていますか? また、『⽣物基礎』だけを履修した場合でも、教科書とは別に資料集(『数研出版:視覚でとらえるフォトサイエンス⽣物図録』や実教出版『サイエンスビュー⽣物総合資料』、『ニューステージ⽣物図表』など)も使ったことでしょう。『⽣物』の内容も含めた内容で、いずれも詳細でわかりやすい図を⽤いて説明しいます。上で引⽤したメーカーの説明書よりもはるかによく理解できるはずです。


 『⽣物』の教科書でも触れられていますが、きわめて感度が⾼い⽅法で、単⼀の
DNA分⼦でも検出できるとことから、浸⼊細菌やウイルスの遺伝⼦を検出することができ、検査・診断に利⽤されています。また、法医学分野へも広く応⽤され、ヒトの⾎液や組織⽚からも特定配列を増幅して塩基配列を⽐較すれば、個⼈を特定することができます。さらに、RNAも逆転写酵素によってDNAに変換して分析できるため、SARS-CoV2をはじめとしたRNAウイルスゲノムの検出にも⼤いに役⽴ちます。

 ヒトに感染したウイルスを検出するためには、ウイルス粒⼦が存在する組織、たとえば、⾎液などを採取するか、ウイルスが浸⼊した細胞を採取して、ウイルスのゲノム⾃体あるいは細胞内のウイルスゲノムを回収するところから始まります。SARS-CoV2はRNAウイルスですから、ゲノムがRNAです。そこで、いったん相補的な配列をもつ
DNAにします。この反応を逆転写(reverse transcription)といいます。⽣じたDNAは相補的DNA(complementary DNA; cDNA)といい、これを基にした増幅反応によってDNA鎖を得ます。SARS-CoV2のゲノムRNA(正確には、そのcDNA)の塩基配列に特異的は配列をもつプライマーを利⽤することによって、SARS-CoV2有無を判定しま
す。

 ⽇本国内でのSARS-CoV2ゲノムの検出には、国⽴感染症研究所が作成したマニュアルが使われています(
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200304v2.pdf)。このマニュアルでは、使⽤するDNAポリメラーゼなどの試薬が指定されています。上で引⽤したタカラ・バイオの試薬を使うようです。会社の名前で気がついたかもしれませんが、もともとは宝酒造の⼦会社です。

閑話休題2

 昨日は共通の友人の紹介で、他大学で非常勤講師をやっている先生からオンライン授業の準備についてヘルプ要請がありました。私よりはやや年上の方で、自ら「機械音痴」と仰っていましたが、確かに大変そうでした。

 その大学は大規模な学校で、既にプラットフォームはできあがっています。問題は、授業に使える資料をどうやってつくるのか、つくったデータをどうやってアップするのかが分からずに困っておられました。パワーポイントも使われたことがないようで、そもそも自分のPCに入っているのかどうかもはっきりしませんでした。PDFファイルの作り方、音声ファイルの作り方、そしてZoomの使い方まで、なかなかたいへんでした。

 授業を受ける学生側も相当に大変でしょう。スムーズにデータのやりとりをするためのハード面の準備はもちろん、よほど意識高く臨まないと、YouTubeで動画を見ているあるいはスマートフォンで音楽を聴いていると同じ感覚になってしまうのではないでしょうか。データがオープンになる時間が学校の時間割に合わせているにしても、回りにクラスメートが座っているのとは気分が相当に違うでしょうね。
 
 ところで、"social distance"といわれるが、今ひとつなじめないものを感じていたところ、WHOでは最近、"physical distance"と言い始めたとか。SARS-Cov-19感染拡大の防止のために求められているのは、人間関係を疎遠にすることではない。むしろ、よりしっかりとした結びつきこそが必要だろう。単にとなりのヒトとの距離を空けろと言うことなのだから、「物理的距離」という方が正しいだろう。"Social distance"と言う言葉を使っているが、これくらいの距離が必要らしい。
   Social Distancing #HappyEaster
    
https://twitter.com/usainbolt/status/1249708513066131457/photo/1

心の健康がたいせつです

 名古屋大学も休業要請に応え、昨日から多くの教職員が在宅勤務に入りました。週明けの月曜日からは本格的に入構規制されることになっています。深刻なニュースが続き、仕事を含めて外出もままならないとするとどうしても気持ちが内向きになってしまいます。メンタルヘルスを維持することにも気を遣うことが大切です。参考になる記事がありましたので、引用します。
   https://webronza.asahi.com/national/articles/2020041300007.html
または
   https://webronza.asahi.com/national/articles/2020041300007.html?page=1&paging=all
です。
 さらに、文中で引用されている国際文書は、リンクが張ってありますが、以下で入手できます。
   https://interagencystandingcommittee.org/system/files/2020-03/IASC%20Interim%20Briefing%20Note%20on%20COVID-19%20Outbreak%20Readiness%20and%20Response%20Operations%20-%20MHPSS%20%28Japanese%29.pdf
 
 十分にみていませんが、心理学で学んだことなどを思い出しながら読んでみるとよいのではないでしょうか?


 全く異なるタイプのメッセージですが、東京にある昭和女子大学総長の板東眞理子さんが発した学生へのメッセージは、非常に具体的です。単に抽象的に心構えを説くのではなく、今何をするべきかあるいはどんなことをするとよいのかを伝えています。
   
https://univ.swu.ac.jp/news/2020/04/06/36837/
 どれか1つでもやってみませんか? 実践することが、とりもなおさず心構えをつくることにつながるでしょう。
 3番目として、新しいアプリに取り組むことが提案されています。せっかくなので、基礎医学の学習に役立つアプリを紹介しましょう。
   https://www.visiblebody.com/ja/
です。詳しくはサイトを見てもらうとして、元々はアメリカでつくられたものですが、完全に日本語に翻訳されているので、全く不自由はないと思います。いくつかあるうちで最もよいのは『ヒューマン・アナトミー・アトラス』で、¥3,500くらいだったと思います。さらにアプリ内課金(¥2,000くらい)で他のアプリに入っているアニメーションも購入できます。使われている図はややリアリティに欠けるところもありますし、追加で購入しないといけないアニメーションも子ども騙しのようなものもあります。しかし、基本的なマクロ解剖には便利だと思います。国内でも、図書館などで購入して学生が利用できるようにしている大学の医学部もいくつかあります。

 私も大学に行かずにやれるように、準備をしました。せっかくの機会ですから、初心に返って分厚い教科書を通読しようかと思います。授業用のプリントで参考図書として紹介した『細胞の分子生物学』あるいは『標準医学』シリーズから数冊を選んで、時間のある限り取り組む予定です。

Myth Busters

 前回の紹介と順序が逆ですが、WHO公式サイトには"Myth busters"というページがあります。Q&Aで解説されている内容とも共通するところが多いので、まずはこの部分を紹介しましょう.

 "Myth busters"をうまく日本語に訳すことはできなませんが、かつてオーストラリアで同名のテレビ番組があったようで、「怪しい伝説」というタイトルで日本のCS放送で放映されたそうです。“myth”は神話あるいはつくり話、“buster"は破壊する人またはもの。したがって、myth bustersとは「一般に流布されている言説、またはは一見真実あるいは科学的でかのように信じられていることが、いかに誤っているのかを示す人物や書物」という意味で使われています。

 COVID-19およびSARS-CoV2について、日本国内はもとより世界中で多くの誤った情報=デマ(デマゴギー;demagogy、またはデマ宣伝;demagogism, demagoguery)が広がっているようです。感染の拡大を最小限に食い止め、感染者を死亡や重症にいたらないようにするには、これらの影響を排除する必要があります。WHOの危機感の表れです。

 時間経過とともに、流布される言説が変化しているようで、WHOサイト(https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/advice-for-public/myth-busters)でも表示される内容が変化しています。ここでは、これまにで説明されていた内容も含めて紹介します。以下はWebサイトに記された要点を訳し、簡単に解説を加えました。

 最新のMythは「COVID-19は5Gモバイルネットワークで広まる」ということらしい.もちろん、電波でウイルスが拡散するはずもない.コンピューターウイルスはプログラムであるからデジタル情報として、すなわちネットワーク(インターネット)を介して伝播されるが、生物に感染するウイルスは物質である.

 さて、以下は古典的なエセ科学の焼き直しもあるが、どんな情報が人々の心に浸入するかを知っておく上で意味があるだろう.
 ・SARS-CoV2は高温多湿の地域を含む、すべての地域で感染する可能性がある.
 ・太陽や25℃以上の高温に曝されてもCOVID-19は防ぐことはできない。
 ・寒冷気候や雪がSARS-CoV2を殺すことはできない.
 ・熱いお風呂に入ってもSARS-CoV2による疾患を防ぐことはできない.
   最初の頃はCOVID-19は夏になればおさまるという見方が一部にありました。しかし、COVID-19は世界中のすべての地域で感染する可能性がある。寒冷地域だけではなく、熱帯や乾燥地域でも感染が広がっている。ヒトの体温は36〜37℃であり、この温度がSARS-CoV2にとっての適温である。多くの哺乳動物の体温もほぼ同様である。
 ・SARS-CoV2は蚊に刺されても感染しない(少なくとも、その様な証拠はない)
   このウイルスは飛沫感染、すなわち、感染したヒトの発声や咳、くしゃみによって発生する唾液の飛沫や鼻からの分泌物によって広がる。
 ・ハンドドライヤーはSARS-CoV2を殺すのに効果があるか?  No.
 ・紫外線ランプはSARS-CoV2を殺すことができるか?   No.
 ・アルコールや塩素を全身にスプレーするとSARS-CoV2を殺すことができるか?  
   SARS-CoV2は熱や紫外線に対しては耐性である。むしろ、高温や紫外線は皮膚に障害を生じる可能性がある。考えられる最も可能性の高い感染路は、SARS-CoV2のついた手指で自らの口、鼻、眼などに触れることによって、SARS-CoV2が体内に入ることである。したがって、手指を石けんやアルコールベースの消毒液でしっかりと洗うことが最も効果的である。消毒のためのアルコールはエタノールであり、70%以上の濃度であることが望ましい。また、次亜塩素酸などは同度が高いと皮膚や粘膜に障害を生じる可能性がるので、注意すること。
 ・エタノールや消毒液は表面の消毒には効果的だが、体内に入ったウイルスを殺すことはできない.
 ・COVID-19は罹患しても回復します。一端SARS-CoV2に感染しても生涯感染が続くわけではない。
   いったん感染しても、そのウイルスは排除することができる。したがって、症状がある場合には、いったん医療機関に電話で連絡し、その指示に従って診断、治療を受けることが重要である。
 ・ニンニクを食べると新型コロナウイルスの感染を防ぐことはできるか?  No.
 ・ごま油を塗ると新型コロナウイルスの侵入を防げるか?  No.
   特定の食品が何らかの疾患の予防や治癒に効果があるかのような言説は常に存在し、疑似科学あるいはエセ科学の典型である。しかし、食品は所詮は「食品」であり、「医薬品」のかわりにはならないことを肝に銘じること。
 ・アルコール飲料によってCOVID-19は防げない。
   頻繁なあるいは大量のアルコール摂取は明らかに有害。アルコール飲料=お酒はたとえどんなに少量であっても人体によい影響を与えること、すなわち健康の維持と増進に貢献することはない。アルコール摂取がストレス発散などの効果をもたらすことがあるとすれば、そのストレス状態になっていることが問題である。
 ・10秒間(またはそれ以上)息を止めることができればCOVID-19や他の肺疾患に感染していない。   No.
   COVID-19の典型的な症状は、乾いた咳、倦怠・疲労感、発熱です。中には重症の肺炎に移行する場合もある。医療機関を受診して正しい検査を受けることが重要。
 ・生理的食塩水で鼻を定期的にすすぐと新型コロナウイルスの感染を防ぐことができるか?  No.
   このような証拠は得られていない。花粉症予防であれば多少の効果は期待できるかもしれないが、ウイルスを除去することはできないだろう。
 ・サーマルスキャナーは新型コロナウイルスに感染した人を検出するのにどれくらい効果があるか?
   サーマルスキャナーは発熱した人を検出することはできるが、感染しているが発熱していない人を検出することはできない.発熱するまでに2~10日かかる.
 ・飼っているペットはSARS-CoV2を伝染する可能性があるか?
   初期にはコンパニオンアニマル/ペットへの新型コロナウイルスの感染は否定されていたものの、ウイルス遺伝子、特にSARS-CoV2のようなRNAウイルスの遺伝子の変異は非常に速いため、ヒトから犬やネコに感染するタイプが出現する可能性は指摘されていた。事実、ヒトの周囲にいる動物への感染が報告されている。
 ・肺炎に対するワクチンでSARS-CoV2への感染を防ぐことはできるか?  No.
   肺炎に対するワクチンは、肺炎球菌などに対して効果はあるが、SARS-CoV2に対する効果はない.現在、アメリカやヨーロッパそして日本を中心にワクチン開発が進められているが、実用化には1年以上かかると見込まれている。
 ・SARS-CoV2は高齢者に影響をおよぼすか? あるいは若年者も感染するか?  Yes.
   すべての年齢のヒトが自らが感染者であるかもしれないという自覚のもとに行動する必要がある。特に、日本国内での患者数は、50歳未満の方が50歳以上よりも多い.高齢者や基礎疾患(喘息、糖尿病、心疾患)をもっている人は重症化の可能性がある。自身がそうである場合だけではなく、身近に高齢者や基礎疾患を患っている人がいる場合にはとりわけ注意が必要である。
 ・抗生物質はSARS-CoV2を防いだり、治療したりする効果があるか?  No.
   抗生物質(antibiotics)は細菌に対してのみ作用する。多くの風邪あるいはインフルエンザも同様であり、ウイルスに対して抗生物質は効果がない。しかし、ウイルス感染症の発症によって体調が悪くなっている場合、同時に細菌感染を生じる可能性があるため、抗生物質を処方される(投与される)ことがある。したがって、COVID-19と診断された場合にも、同時感染を防ぐ目的で抗生物質が投与または処方されることがあるだろう。
 ・SARS-CoV2を防いだり治療したりする特別の医薬品はあるか?
これまでのところ、予防あるいは治療に効果のある医薬品は見つかっていない.

最新情報はWHOから

 SARS-CoV 2ならびにCOVID-19とその拡大については連日報道され、やや情報過多と言ってよいでしょう。そんななかで、根拠のある情報を入手しないと適切は判断はできません。大手マスメディアもおおよそ信頼できるとはいえ、数だけを追っているような一面的な報道もあります。あるいは、政策的な議論では、表面的な公平性にととらわれて、真理が覆い隠されていることもあるかもしれません。全体を見渡して、正確な情報を得るためには公的機関の公表している内容を見るのが最もよいでしょう。
 しかし、日本の公的機関が発す情報は概してわかりにくい。あるいは、とにかく発表した、という形式にとらわれている様な気がしてなりません。いろんなWebサイトをあたって見ましたが、広く市民あるいは医療従事者、またはある程度の知識を有する多くの人々を対象として、それぞれに応じてわかりやすく情報を提供するという点では、WHOのWebサイトに勝るものはないでしょう。さすがは人類の英知を結集した組織です。ただ、残念なのは日本語で表記されていないこと。やむを得ないことではありますが、これこそ厚生労働省などが直ちに翻訳をして示せるような態勢を取るべきでしょう。

 文句ばかり言っていてもしょうがないので、いくつか重要なページあるいはその内容をこのあと順次紹介していこうと思います。

 WHOの新型ウイルス感染症に関する公式のWebサイトは
   https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
です。"Q&A on coronaviruses (COVID-19)"をみれば、ほとんどの疑問には答えてくれるでしょう。また、"Research and Development"では、文字通り最新の研究成果(論文)が一覧にされています。もちろん全て英文ですが、 医学研究の学術論文がどのようなものかを知るにもよい機会だと思います。平時でもあることですが、根拠の無いあるいは非科学的な言説が流布されています。"Myth busters"は、適切な日本語訳はありませんが、疑似科学あるいは似非科学的な「ウワサ」に答えてくれます。

 Google翻訳での和訳も、ほぼ誤解のない範囲で意味がとれますから、適宜利用するとよいでしょう。ブラウザでGoogle翻訳などを機能拡張としてインストールしておけば使いやすいはずです。もちろん、英語の勉強を兼ねて頑張ることを推奨します。文法的には決して難解ではありません。時制も単純で、関係代名詞などもそれほど多くはありません。ただし、専門用語が含まれているため、高等学校までどんなに英語がよくできたとしてもやや苦戦するでしょうが、挑戦する価値は十分にあります。ビデオも比較的はっきりした発音でそれほど速くしゃべっているわけではないため、聞き取りの練習になります。とってつけたような台詞で会話している英会話練習用よりもはるかに実践的です。

食べた後にすぐ寝ると牛になる?

 体調を崩していませんか? 身の回りの方々は大丈夫でしょうか? 勉強はもちろんですが、心身の健康維持には何事にも積極的に、つまり、しっかりと考えて、意味や意義を見いだして取り組むことが大切です。そのためにも事実を正確に把握することが必要です。

 昨日の夕刻(?)に学校のWebサイトに授業再開日が告示されましたね。子どもの作文のようでした。GW明けで大丈夫なのかな? わたしのところには14日正午現在、まだ連絡はありません。週末に文書が送付されるようですが、そんなに時間がかかるのかな? いろんなシナリオをつくって準備しておけばすぐにできるだろうに。「メールアドレス聴取について」と記されていましたが、文書でどうやって「聴取」するのかしら。まして、今頃メールアドレスを尋ねるのか? 何ともはや、言葉がありません。「人との接触8割削減のため」とも記されていますが、8割にどのような根拠があるのか、考えたのかな? 「お上のお達しだから」というなら、薄ら寒いものを感じます。(夕刻に、GW明け再開の連絡がありました)

 話題を変えましょう。
 「食べた後にすぐ寝ると牛になる」と言われたことはありませんか? あるいは、そうやって子どもを叱りつけたりしていませんか? 先日、牛の話をしたので思い出しました。私は子どものころによく言われた覚えがあります。そのたびに疑問と感じていましたが、やっぱりおかしいですね。食後にすぐ寝て、実際に牛になった人がいたのでしょうか。

 たぶん、牛は草を食んだ後にすぐに座り込んでしまう=横臥しているをからでしょう。しかし、牛たちはこのときこそまさに食事をしています。生物学的に話をする場合には、人をヒトと記すように、牛はウシです。ウシは反芻動物ですから、立って草を食んでいても、ほとんど咀嚼することなくそのまま胃へ送っています。そして、横臥した状態でゆっくりと反芻、咀嚼をしているのです。
 見た目あるいは表面だけで物事を判断していると真理を見誤るというよい例でしょう。よく観察し、得られた事実に基づいて思考するの大切さを物語っています。

 反芻とは、ウシなどの偶蹄類で行われる摂食消化の形態で、一度嚥下した食物を再び口腔に戻して破砕、再咀嚼することをいいます。反芻を行う動物を反芻動物といい、その多くには胃が四つあります。第一胃から第四胃と呼び、このうち、ヒトで胃にあたる部分は第四胃だけで、第一胃から第三胃までは前胃といい食道の末端部に由来します。つまり、内腔側が単層円柱上皮で構成され胃腺があるのは第四胃だけで、前胃の内腔側は食道と同じく重層扁平上皮で、胃酸などは分泌されません。また、第一胃から第四胃は縦列に配列しているのではなく、食道下部が三叉となり第一胃から第三胃にまでに分岐し、第三胃の後方に第四胃が位置します。
 摂取された食物は、十分に咀嚼されないまま嚥下された第一胃に入り、中にいる細菌や原虫による発酵を受け揮発性脂肪酸が産生されます。この脂肪酸は反芻動物にとって最も主要な摂取栄養素で、一部は第一胃と第二胃で吸収されます。第二胃に入った食塊は口腔に戻されて再び咀嚼され、再嚥下されて第三胃に入ります。ここでさらに発酵した後、第四胃に入り本格的な化学消化を受けます。第一胃で消化されなかった糖質、タンパク質、脂質が消化されて、小腸へ送られて吸収されます。
 反芻するためには大量の唾液が必要なようで、ウシは一日に100〜200 Lの唾液を分泌するそうです。ヒトの唾液量は、1日あたり約1〜1.5 Lです。一般的な乳牛の体重は500 kgほどだそうですから、以下に大量の唾液を分泌しているかがわかるでしょう。また、第一胃にいる微生物の量も約2kgに達します。もちろん種類も多く、セルロースを分解するもの、デンプンを分解するもの、脂質を分解するものなど多岐にわたります。これら微生物の作用、すなわち発酵によって大量の二酸化炭素やメタンが生じ噯気(ゲップのこと)によって体外へ放出されます。ウシは1日に200 Lのメタンを放出し、地球温暖化の大きな要因の一つとされています。

 ウシであれ、ヒトであれ、食事の後は、副交感神経が優位となり消化管の運動をはじめとして消化器系の活動が活発になります。一方で、交感神経系の活動が低下するため、身体を活発に動かすことはもちろん、何かを集中して考えるようなことにも適した状態ではありません。むしろ、余計なことを考えずリラックスをして体を横たえている方が、消化、吸収をスムーズに進めることができます。眠ってしまってはいけませんが、「食べた後にすぐ寝ると牛になる」のではなく、「牛のように寝た方が(=横たわった方が)消化によい」のです。

オンライン授業はやらないのかな?

 学校のWebサイトによると、授業の開始がさらに延期されることになりました。再開日を含めて、私たち非常勤講師には何の連絡もありません(Webサイトを見るようにという指示もありません)が、愛知県が独自に緊急事態を宣言したこととや他の施設や学校の方針から考えると、再開はゴールデンウィーク明けでしょうか。

 再開されたとしても、通常の教室の使い方での授業はなかなか難しいかもしれません。場合によっては、対面式の授業もこれまでのようにはできないかもしれません。名古屋大学では4月17日に再開しますが、実験・実習を除く、いわゆる講義形式の授業や演習はすべてオンラインで実施することになっています。多くの大学が本格的なオンライン授業の導入にむけて準備を進めています。大学と専門学校ではいろんな違いがありますが、医療系の専門学校でも遠隔授業に向けた準備を進めている学校があります。


 中和はどうするのでしょう。専修学校の設置基準では、全体の4分の3以下であれば遠隔授業で実施してよいようです。また、文科省は医療系の専門学校に対して、今年2月28日付で、COVID-19の影響によるさまざまな困難を想定して、「できる限り速やかに十分な教育体制を整備す ることが望ましい 」と通達を出しています。また、すべての専門学校に対して「遠隔授業の活用などによる学修機会の確保に留意すること」を3月24日付で求めています。さらに、 4月6日には、大学や専門学校などにおける遠隔授業の実施にあたり、学生の通信環境などへ配慮を求める通知を学校設置者などに出したそうです。同時に、学生の機器保有状況や通信量などに配慮するとともに、遠隔授業のための施設開放や機器貸与なども提案されているようです。

 授業を受ける側としては、スマホではかなり厳しいでしょうが、タブレット端末は必要でしょう。欲を言えば、ノートPCに、さらに外付けのディスプレイがあるとじっくりと取り組むことができるでしょう。スマホ敷かなくとも、テレビで映すと臨場感があります。ただ、通信量に制限のある環境でしかインターネットを利用できないと何をするにも厳しいですから、そのような学生には、大学では学内の施設が使えるようになっているはずです。学校まで行かなければならないというハンディはありますが、近隣に下宿しているならば許容範囲でしょうか。安易に外出できない状況に追い込まれた場合、同時配信にはならないものの、録画をDVDやBluerayにして郵送することもできるでしょう。

 学校としてLMS(Learning management system)を導入しておかないとなかなか難しいかもしれません。日本語では「学習管理システム」というようですが、E-learningはもちろん、オンライン上で出欠を確認したり、資料やレポートをやりとりしたり、さらには、成績の管理もできる形になっているプラットフォームです。したがって、資料の配付や課題の出題と提出、電子メールを介した質疑はLMSがあれば簡単です。音声や動画付きの資料の配付も可能なシステムがほとんどでしょう。カスタマイズやコンサルタントを含めて優良で提供しているメーカーもありますが、多くの大学ではオープンソースプログラムを使っていると思います。名大はSakaiというプログラムを使って独自のLMSを構築しています。Web会議またはWebinar形式で双方向のやりとりをするためには、今のことろZoomやWebexがよく使われているようです。また、一方向でよければ、YouTubeを使ってオンデマンド配信することを考えている学校もあるようです。

閑話休題

 先日、ボッカッチョの『デカメロン』を紹介しました。物語では、10人の男女は街の中心のサンタ・マリア・ノヴェッラ教会(Basilica de Santa Maria Novella)に集まってから郊外へ脱出します。写真のようなきれいなファサードをもつ教会です。
 
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 2015年前の冬に訪れたときの写真ですが、中には素晴らしいステンドグラス、そして、ルネサンスを先駆けるジョット(ジョット・ディ・ボンドーネ;Giotto di Bondone1267年頃-1337年)の《キリストの磔刑》をはじめ、マザッチョやブルネレスキらの作品がならび、宗教心のない私には教会というよりもさながら美術館のよう。
 
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 教会から15分も歩くと、《ダビデ像》のあるアカデミア美術館やフラ・アンジェリコの《受胎告知》があるサン・マルコ修道院が並び、さらに5分ほどでイノチェンティ孤児院( Spedale degli Innocenti“ spedale”は病院、“innocenti”“innocento;孤児、捨て子の複数形))があります。それほど有名な観光名所ではありませんが、1419年から1424年にかけて、当代一の建築家であったブルネレスキ(FilippoBrunelleschi (1377 – 1446年)が設計してたてられました。半円形のアーチがつなぐ正面上部に掲げられた青い陶板は「襁褓のあかご」で、円形であることから一つ一つを“tondo(丸いものの意)といいます。

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 さて、なぜ孤児院があったのでしょうか。当時は現在とは比較にならないくらい社会全体が貧しく、また医療といえるものもありませんでした。したがって、子どもを育てられない人たちや、親を亡くしてしまった子どもたちが多かったことでしょう。たとえば、ペストが原因で親を亡くした子も多かっただろうし、産褥熱で命を落とす母親も多かったようです。フィレンツェは人口も多く、当時としては都会ですから、娼婦の多かったはず。そんななかで、止むに止まれず捨てられた子もいたでしょう。イノチェンティ孤児院には子どもを受け入れるために、文字通りの窓口(下の写真)がありました。かわいい陶板が掲げられた回廊の突き当たりです。

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 もちろん、孤児院があったのはフィレンツェだけではありません。例えば、港町として栄えたヴェネツィアなどにもいくつかの孤児院がありました(趣味参照)。
 
 乳児を育てるためには母乳が必要ですが、乳母にあたる人はいなかったようです。換わりに牛乳を煮沸して与えていたとのこと。修道院と併設されていたため、修道士たちが保育、子育てにあたったようです。一口に乳児といっても成長段階によって求められる栄養素のバランスは異なります。この施設でも生存率は決して高くなかったと思います。試行錯誤があったことでしょう。こうしたところから乳児や幼児の生育に関する観察・考察、ひいては小児科学が始まったのです。
 
 ところで、今でこそ当たり前のように飲んでいる牛乳ですが、ヨーロッパでも近代にいたるまではヒトのための飲料としては忌避されていたそうです。それは牛乳を飲むとウシの容貌になる、性格が凶暴になると考えられていたため。ありそうな話ですが、現代の日本でも、コラーゲンやグルコサミンを摂取すれば、まさにコラーゲンやグルコサミンが増加するかのような宣伝に騙されてしまっている人々が多くいることを思うと、決して笑える話ではありません。

心身をリラックスさせよう

 COVID-19の対策として内外で様々な取り組みが呼びかけれ、実施されています。学生の皆さんも学校が休業となり、いろんな不安もあるでしょう。特に、1年生にとっては、ただでさえこれまでと生活が変わっているにもかかわらず、さらに非日常を強いられることになっています。

 このような正常ではない状態に陥り、心身が正常または平常から逸脱してしまった状態を「ストレス(stress)」といいます。ストレスを誘発する外部からの刺激をストレッサー(stressor)といい、よりよい状態へ変化させる刺激もありますが、有害な刺激によって生じるストレス状態は特にディストレス(distress)といいます。ストレス反応は全身性に様々な変化を生じますが、主に神経系と内分泌系が作用しています。生理学でも取り上げられます。

 ストレス反応は緊急的な反応(特に「闘争か逃走反応;fight-or-flight response」ともいいます)と持続的な反応(抵抗反応;resistance responseともいいます)に分けられ、前者は主に交感神経系の作用によって、後者は主に下垂体-副腎皮質系の作用によって生じます。ストレス状態が長期にわたって持続すると、心身が疲弊(exhaustion)し、精神的なデプレッションや生理学的な機能喪失に陥ります。

  下垂体-副腎皮質系が活性化すると、副腎皮質から糖質コルチコイド(コルチゾールなど)が分泌され全身に作用します。コルチゾールの作用は多彩ですが、中でも最も強いのが免疫機能を抑制することです。ストレスが身体の抵抗力を低下させることにつながることがよくわかるでしょう。

 私は医師ではありませんから、具体的な指示はできませが、新聞に掲載された精神科医コメントを紹介します(西日本新聞4月8日;: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200408-00010003-nishinpc-sctch
より抜粋)。
 以下の4点が緊張とリラックスのメリハリをつけ、心身の健康を維持するために有効です。
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 1点目は、一日のどこかで、自分の好きなことをする時間を短時間でも必ず取り入れること。読書や音楽鑑賞、趣味がなければ天気が良い日に外を散歩し、景色を眺めるだけでもよい。

 2点目に、食事と睡眠を大切にすること。緊張状態にある時は交感神経の働きで寝ない、食べないという状況になりがち。災害時のようにカップ麺などインスタント食品にも頼りがちになる。「野菜を多めにした、健康的な食事をゆっくり食べることを気に掛けてほしい」

 3点目は、ニュースに接する時間を制限すること。「特にスマートフォンなどに流れるインターネットのニュースなど、世界中の危機的な状況を見続けることで不安に陥っている人が多い。情報を得ることは大事だが、昼と夜の2回など、見る時間を決めた方がいい」と話す。

 最後に、直接会う以外の手段で意識的に人と連絡を取り、つながることだ。例えば週1回、電話する相手と時間を決める。相手は普段あまり連絡を取らない人や、いざというときに頼りになる人でも誰でもいい。「特に用事がなくてもいい。人との交流を絶やさず、気持ちが孤独にならないようにすることが大切です」
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また、名古屋大学の学生支援センターでは「簡単に一人でもできるリラクセーションです」として
「誰でもどこでもできるストレス対処〜10秒呼吸法で落ち着こう!」
を提案していますので、合わせて紹介しておきましょう。
 10秒呼吸法
   1)姿勢を整える、両手を軽くおなかの上に
   2)静かに目を閉じる
   3)口から息を全部吐き出す
   4)1,2,3...と鼻から息を吸いながらおなかを膨らませる
   5)4で、いったん息を止める
   6)5,6,7,8,9,10で口から息を吐き出しながらおなかをへこませる
   7)4)〜6)を繰り返す
 (数分間でも落ち着きます)
また、リラックセーションは意識のレベルを下げることもあるため寝る前以外では以下のいずれかの解除動作をおこなってください。
   1)大きく深呼吸する。
   2)強くこぶしを握ってパッと開く動作を2回(グッ、パー、グッ、パー)行う。
   3)腕の曲げ伸ばしを2回行う。
   4)伸びをして、首を軽く左右に回す。

分かりやすいアニメーションがあります

 前回と前々回は、ウイルス、そしてコロナウイルスについて簡単に説明しました。しかし、授業のように図を使って説明しないとなかなか分かりにくいと思います。残念ながら、著作権法に抵触するため、教科書などの図をそのままコピーしてWebに掲載するわけにはいきません。そこで、図を使って説明しているよいWebサイトやYouTube動画を紹介しましょう。

 一般向けではありますが、『ナショナルジオグラフィック』日本版では、科学的知見がわかりやすく説明されています。わずかなスペースで概略というにもあまりにも概略的ではありますが、これまでの内容が理解できていればすんなりと頭に入ってくるでしょう。
  https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/033100206/

 ウイルスの構造や宿主細胞に侵入する様子は言葉だけではわかりません。これまでに明らかになっているCOVID-19並びにSARS-CoV 2に関する知見を、アニメーションを使ってわかりやすくまとめてたYouTubeとしては、以下の二つがよいでしょう。
  Understanding the Virus that Causes COVID-19, Animation(https://www.youtube.com/watch?v=_UOvPrPoY-s)
は、ナレーションがすべて英語(字幕付きも英語)ですが、見ていればだいたい理解できるのではないでしょうか。YuoTubeの機能を使えば文字起こしもできますし、さらにGoogle翻訳などでほぼ正確に日本語訳がつくれるので、参考にするとよい。
  COVID-19 Animation: What Happens If You Get Coronavirus?(https://www.youtube.com/watch?v=5DGwOJXSxqg)
は予め日本語字幕がつけられています。一部に不自然な表現もありますが許容範囲です。

コロナウイルスの特徴と新型コロナウイルス

 コロナウイルス(coronavirus)には宿主となる細胞=動物が幅広く存在し、数多くの種類が知られています。一般に、種特異性は高く、種の壁を越えて他の動物に感染することはほとんどないとされています。このうち、ヒトに感染するコロナウイルスは新型コロナウイルスを除くと、風邪のウイルス4種類と、動物に由来する重症肺炎ウイルス2種類が知られています。
 風邪のコロナウイルス
  風邪の10~15%(流行期35%)はこれら4種のコロナウイルスを原因とする.冬季に流行のピークが見られ、多くの感染者は軽症だが、高熱を引き起こすこともある.
  ◆ HCoV-229E、HCoV-OC43は1960年代に発見され、HCoV-NL63とHCoV-HKU1は2000年代に入って新たに発見された.
 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)
  キクガシラコウモリ/ジャコウネコからヒトに感染した.
  ◆ 2002年に中国広東省で発生し、2002年11月~2003年7月の間に30以上の国・地域に拡大した.
  ◆ SARS患者は8,069人、うち775人が重症の肺炎で死亡した(致命率9.6%、2003年12月時点のWHOの報告).
   ・ヒトからヒトへの伝播は市中において咳や飛沫を介して起こる.
   ・死亡した人の多くは高齢者や基礎疾患(心臓病、糖尿病等)があった.
   ・子どもには殆ど感染せず、感染した例では軽症の呼吸器症状を示すのみであった.
 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)
  コウモリ/ヒトコブラクダからヒトに感染した.
  ◆ 2012年にサウジアラビアで最初の患者が発見され、これまでに27カ国で2,494人の感染者が報告され、うち858人が死亡した(致命率34.4%、2019年11月30日時点のWHOの報告).
  一般のサウジアラビア人の0.15%がMERSに対する抗体を保有していることから、実際には何万人もの感染者が存在していることが推察される.
   ・大多数は軽い呼吸器症状あるいは不顕性感染で、重症化した症例の多くが基礎疾患(糖尿病、慢性の心、肺、腎疾患など)をもっていた.
   ・子どもにはほとんど感染せず、感染した例では軽症の呼吸器症状を示すのみであった.

 ウイルス学的特徴を改めてまとめてみましょう。
 分類学的には、ニドウイルス目・コロナウイルス亜科・コロナウイルス科に分類されるRNA+鎖ウイルスです。直径約100nmの球形で、表面には特徴的な突起があり、その形態が王冠“crown”に似ていることからギリシャ語で王冠を意味する“corona”という名前が付けられました。脂質二重膜のエンベロープの中にキャプシドタンパク質に巻きついたプラス鎖の一本鎖RNAのゲノムがあり、エンベロープ表面にはスパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、膜タンパク質が配置されている.ります。ウイルスゲノム、すなわちRNAの大きさは30kbで、RNAウイルスの中では最大です。
 新型コロナウイルスについて少し詳しく説明しておきましょう。昨年12月に中国・武漢で発見されてすぐにウイルス粒子は単離され、ゲノムRNAの塩基配列も明らかになりました。ゲノムRNAサイズは29903塩基(RNA(+鎖)で、“Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 isolate Wuhan-Hu-1, complete genome(GenBank: MN908947.3)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/MN908947、(2020.03.10)”として報告されています。塩基配列は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)とは相同性が高く、非常に近縁と考えられ、“SARS-Cov 2”と名付けられました。また、他の哺乳類由来コロナウイルスとの相同性も指摘されていますが、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)との相同性は低く、SARS-CoV-2の由来は未だ不明です。
 SARS-CoVはコウモリ由来で、ジャコウネコを介してヒトに感染しました。また、MERS-Covもコウモリ由来ですが、ヒトコブラクダを介して人に感染したことがわかっています。
 SARS-CoV2は世界中に感染が拡大していますが、各地でウイルス粒子が単離されてそれぞれのゲノム配列も解析されています。この結果からわかっているのは、ウイルスは急速に進化しており、3月の時点で既に300以上の変異型が明らかになっています.国内には少なくとも5種類が存在します(https://nextstrain.org/ncov)。
SARS-CoV2
ゲノムにコードされるタンパク質は10種類で、他のコロナウイルスと同様に、スパイク、膜タンパク質、エンベロープなどを備えています。人体への浸入経路などの詳細についての研究には手がついていない(つけられない)状態ですが、SARS-CoVとの類似性から、SARS-CoV2は2型アンジオテンシン変換酵素受容体(ACE receptor 2)と介して上気道上皮細胞の細胞内へ浸入すると考えられています。この結果、急性の呼吸器疾患を生じます。一般的には新型コロナ肺炎などとよばれていますが、国際的には、COVID-19(coronavirus diseases 2019)といいます。

ウイルスとは?

 せっかくなので、新型コロナウイルスとその感染症について考えてみましょう。ニュースや新聞でも解説されていますし、既に自分でいろんな方法によって調べていることと思いますが、基本的なところから順に考えてみましょう。

 ウイルス(virus)は、直径または長径はせいぜい数百nmで、これまでに発見されたほとんどのウイルスは光学顕微鏡では見ることができなせん。人の細胞の細胞質にある細胞小器官とそれほど換わらない大きさと考えてもよいでしょう。
 ウイルスはDNAまたはRNAをゲノムとしてもち、その周囲はタンパク質の殻で被われています。このタンパク質をキャプシドまたはカプシド(capsid)といい、ゲノムである核酸と合わせてヌクレオキャプシド(nucleocapsid)といいます。ウイルスの多くはゲノムを複製したり翻訳したりする装置をもっていません。また、エネルギー産生に関わる酵素などをもたないため、自身で増殖することができません。細胞膜を持たず、細胞小器官にあたる構造も無いため、細胞としての構造と機能をもっておらず、生物ではありません。非生物あるいは無生物と表現されます。
 ウイルスはそれ自身では増殖することはできませんが、細胞に侵入して増殖します。ウイルスに侵入される細胞を宿主または宿主細胞といい、ヒトを含めた動物はもちろん、植物や細菌にも侵入するウイルスが知られています。このような特徴を持つことから、ウイルスを偏性細胞内寄生体ともいいます。ウイルスは宿主細胞内で増殖して、新たなウイルス粒子をつくって細胞外へ出ると、別の細胞へ感染して増殖します。このサイクルを繰り返すことによって、ウイルス粒子は増加していきます。このように感染性を獲得したウイルス粒子のことを特にビリオン(virion)ともいいます。
 ウイルスのゲノムには3種類のタンパク質がコードされています。
   ・ゲノムを複製するタンパク質
   ・ゲノムを包んで他の宿主細胞に送り込むタンパク質
   ・ウイルスの複製を促進するために宿主細胞の構造や機能を改変するタンパク質
 ウイルスはゲノムとしてもつ核酸の型によって大きく2種類に分類差、さらに発現形式によって7種類に分類されます。ここでは核酸の種類、つまりDNAなのかRNAなのかによる分類で簡単に説明しましょう。
 DNAウイルスはゲノムとして二本鎖DNAを持ち、宿主細胞のRNAポリメラーゼを利用してmRNAを合成し、このmRNAを基にタンパク質を合成します。ウイルスのゲノムDNAは線状または環状で、その周りをキャプシドタンパク質が包み込んでいます。
 RNAウイルスは一本鎖RNAをゲノムとしてもち、mRNAに相当するRNA鎖(これを+鎖という)をもつ種類と、その相補鎖(これを-鎖という)をもつ種類があります。いずれも場合も、RNAはキャプシドタンパク質に包まれ、ヌクレオキャプシドをつくっています。+鎖RNAは、それ自体がmRNAであるため直ちに複製可能です。-鎖RNAはウイルスビリオンに含まれるRNA転写酵素により+鎖RNAに転写されてから複製が始まります。+鎖をもつ種類のうち、ビリオン内に含まれる逆転写酵素によっていったん相補DNAを合成し、このDNAを宿主DNAに組み込むウイルスが知られており、レトロウイルス(retrovirus)といいます。
 コロナウイルス(coronavirus)は+鎖RNAをゲノムとしてもつRNAウイルスです。

 ウイルスの構造において、ヌクレオキャプシド以外の部分に注目すると大きく2種類に分類できます。ヌクレオキャプシドの外側に構造が全くないあるいはほとんど無いウイルスと、ヌクレオキャプシドの外側にエンベロープとよばれる脂質二重膜をもっているウイルスの2種類です。DNAウイルスにもRNAウイルスにもそれぞれ2種類が存在します。ここではエンベロープについて考えておきましょう。
 エンベロープ(envelop)はウイルスの最外殻に存在する脂質二重層で、元を正すと宿主細胞の細胞膜またはゴルジ装置など小器官の膜です。ウイルスが宿主細胞内へ浸入した後、ゲノムやタンパク質など必要な構造を合成した後、粒子として組み立てるときに、いわばかすめ取ってきたものです。そして、ウイルスエンベロープには複数のウイルス糖タンパク質が存在しています。エンベロープをもつウイルスには、コロナウイルスの他に、ヘルペスウイルスやレトロウイルスなどが知られています。
 コロナウイルスへの感染防止として石けんでの手洗いが推奨されているのは、両親媒性物質である石けんがエンベロープ=脂質二重膜を破壊するからです。また、アルコール=エタノールも同様の効果を発揮することが期待されます。
 コロナウイルスの電子顕微鏡写真は何度か見ているでしょう。そして、その名称の由来もどこかで聞いたと思います。エンベロープから外側に向かって多くの糖タンパク質が突起のように存在します。この部分が太陽の「コロナ」のように見えるところから名付けらたそうです。そもそも「コロナ」は、その形状が「冠」に似ているところからギリシャ語で「crown」を意味します「corona」と名付けられました。
 このエンベロープに存在する糖タンパク質は、ウイルスが細胞に感染したり、成熟ウイルスが細胞外に排出されたるするときに重要な役割を演じます。また、抗体ウイルスのエンベロープタンパク質を標的にして作用し、中和します。

休校期間を無駄にしないために

 新学期が始まったとたんに一次休校になりました。中和医療専門学校では分散登校などの方法が採られていないのか、在校時間を短くするということで、1年生には授業のプリントなどは配布されないようです。したがって、残念ながらこのWebサイトは知らされていませんが、2年生、3年生の中には思い出してみてくれている人もいるかもしれません。

 1年生の例から推し測ると、2年生、3年生にも特に課題のようなものも出されていないのでしょうか。自分や身の回りの人たちの健康を維持することが最大の課題でしょうか。その他に各自で考えて取り組みべきことはいろいろあると思いますが、「このような時期こそ」という小説を紹介しておきましょう。

 アルベール・カミュ(Albert Camus)の『ペスト(La Peste)』(https://www.shinchosha.co.jp/book/211403/#&gid=null&pid=1)を読んだことがあるでしょうか。

 ぺストが発生、流行して封鎖された街での住民の様子や患者を救おうとする人々を描き、不条理と直面したときの人間の有様を問う小説です。訳文はやや不自然な日本語もあり、読みにくいところもありますが、この時期に一読の価値があります。最近は版を重ねるほどのベストセラーになっているとのこと。

 カミュはフランス植民地下のアルジェリア生まれで、後にパリに出てジャーナリスト、作家として活躍して1957年にノーベル文学賞を受賞しました。残念ながら交通事故で1960年に亡くなりました。

 『ペスト』では、ぺストの蔓延で封鎖されたアルジェリアの小都市、オラン(同名の街が実在します)を描いています。ただし、市民は自宅からの外出を禁じられたわけではなく、むしろ市内の映画館やカフェは客が増加していました。オランはワインの生産地のようでワインやアルコール飲料、カフェでもワインを相当量ストックされていました。一説を紹介しましょう。
「あるカフェが『純良な酒は黴菌(ばいきん)を殺す』というビラを掲げたので、アルコールは伝染病を予防するという、そうでなくても公衆にとって自然な考え方が、一般のなかで強まってきた.毎晩、二時頃、カフェから追い立てられた相当の数に上る酔っ払いたちが街頭にあふれ、そしてしきりに楽観的な言葉をわめきちらしているのであった.」(宮崎嶺雄訳(新潮文庫)p114〜115)

 順序が逆になりましたが、簡単にペストについて解説しておきましょう。

 世界の歴史を遡ってみると多くの感染症が流行しました。日本も例外ではありませんが、ヨーロッパの人たちにとっては14世紀以降、何度も苦しめられてきたのがぺスト(ドイツ語で"Pest"、英語では"plague")です。

 ペスト菌(Yersinia pestis)による野ねずみなど齧歯類の感染症ですが、感染したネズミを咬んだノミやダニなどによってヒトにも感染する人獣共通感染症です。
歴史的にはの世界的大流行が何度も記録されており、古代ギリシャ時代にも記録があるとのこと。その後、特に14世紀にはヨーロッパで猛威を振るい、約1億人が死亡したとの推計もあるようです(当時の世界人口約5億人)。肺炎を併発するほか、皮膚の血管の内出血が著しく、その特徴から「黒死病」ともよばれていました。当時の未熟な医療技術では十分な治療はできないため致命率が高く、全滅した街や村もあったとのこと。19世紀末に北里柴三郎によって原因菌が突き止められました。しかし、発展途上国などでは近年でもペストの感染は続いています。日本の感染症法では一類感染症に指定されています。

 1348年の大流行はイタリア・フィレンツェでも被害は大きく、当時街を支配していた貴族たちの中には郊外へ逃避した人たちもいたようです。この逃避した10人の若い男女が郊外の別荘で10日の間、毎日1人が一話づつ語った物語(全100話)として編まれたのがボッカッチョ(Giovanni Boccaccio)の『デカメロン』(Decameron;『十日物語』、http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464374/)です。

 「まえがき」では当時のフィレンツェの様子を次のように描いています。
「発病当初は男も女も股の付け根や腋の下に腫物ができました.そのぐりぐりのあるものは並みの林檎ぐらいの大きさに、また中には鶏の卵ぐらいの大きさに腫れました.大小多少の違いはあるが、世間はそれをガヴォッチョロとよびました.(中略)まず体の二箇所にできたその致命的なガヴォッチョロが、今度はところ構わず吹き出て腫れ出します.その次にこの腫物は、多くの人の場合、黒や鉛の色をした斑点となって腕や腰や体のいたるところに表面化します.あるものは数は少ないが大きく、あるものは形は小さいが沢山出てきます.このガヴォッチョロが出たら人間はまちがいなく死にました.」(平川祐弘訳(河出文庫)p18〜19)
「まだ生き残っていた人々の心中に様々な恐れや空想が生まれ、パニックに襲われ、人々はみなおよそ不人情な仕打ちをしでかすようになりました.(中略) 中にはつつましやかに暮らして、余計なことを一切しなければ、こうした災難から免れ得ると考えた人も何人かおりました.そうした考えの人々だけで仲間を組んで、他の人からは離れて暮らしたのです.(中略)これとは別の考え方にひかれた人々は、飲む、遊ぶ、代わる代わる歌いながら気晴らしをする.欲望のおもむくままに生きるがいい、来るならなんでも来い、俺たちは笑い飛ばし吹き飛ばしてやる、これが悪病退治の最高の良薬だ、などと言い張りました.」(p20〜21)

 大いに戒めとしなければなりません。