第32回 覚醒と睡眠、言語機能、学習と記憶、発声

遅くなりましたが、最終回の記録です。

脳の高次機能、つまり脳独自の機能を取り上げました。睡眠現象は古来多くの人たちの興味を引いていたようですが、近年そのメカニズムの一端が明らかになってきました。その結果は不眠症などの治療にも生かされているようです。

睡眠を脳波の特徴で分類すると、ノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。そして、レム睡眠には睡眠時とは思えないような多くの特徴があります。よく整理しておきましょう。また、覚醒状態をつくり出す、あるいは覚醒状態を維持するためのしくみにも触れました。詳しく説明できませんでしたが、さまざまな感覚入力と、これを受けてはたらく脳の神経回路が重要な役割を演じているようです。

言語機能は発声機能とも関わらせて説明しました。ヒトに特有のきわめて重要な機能です。多くの人にとって左半球優位であるということとともに、授業ではあまり触れませんでしたが、構音機構(発声に関わる諸器官の運動によって語音をつくり出すこと)についても理解も大切です。声帯の構造とはたらき、そして、口唇や舌、口蓋、顎などの運動についても解剖学や2年生で学ぶ運動学などの知識を結びつけられるようにしておきましょう。

最後に、学習と記憶の機能は非常に関心の高い領域ですが、授業でも触れたようにまだまだ分かっていないことばかりです。前世紀(つまり十数年以上前)に比べると、飛躍的に理解は進んできていますが、まだまだです。授業ではこの分野を理解するための最も基本となるような現象や知識、研究手段などについて説明をしました。可塑性や長期増強などやや難しかったかもしれませんが、時折国試にも出題されていますので、よく見直しておいてください。記憶能力や学習能力が高まればいいなあとは誰しもが思うところですが、「こうすればいい」という特効薬のような効果を期待できる手段をつくり出すには至っていません。

ポッジ宮博物館

 ボローニャは北イタリアのエミリア・ロマーナ州の州都、フィレンツェのあるトスカーナ州の北、ミラノのあるロンバルディア州の東、ヴェネツィアのあるヴェネト州の南東部にあたります。
 現在のボローニャ大学はボローニャ市を中心としてエミリア・ロマーナ州各地にキャンパスがあります。学生数は約8万人とか。日本とイタリアでは大学の制度も違いますし、大学進学に対する考えまたもだいぶん異なっているようですので、一概に比較できませんが、イタリアのみならず、ヨーロッパでも有数の規模と質を誇る大学です。ボローニャ市内にあるキャンパスのうち、一般市民が比較的簡単に入れるのが、ポッジ宮(Museo di Palazzo Poggi)とよばれる建物です。ここにはいくつかの博物施設があり、見学することができます。一通りみてきたのですが、特に皆さんの興味にあうのは蝋人形としてつくられた人体標本でしょうか。
 現在のように解剖した標本を保存する技術はほとんどありませんでした。そんな中で解剖学を学ぶ手段として蠟でつくられた精巧な模型が利用されました。今回はこのボローニャのポッジ宮博物館とフィレンツェのラ・スペーコラ博物館でじっくりと見ることができました。いずれも18〜19世紀にかけてつくられた蝋模型です。

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 全身の骨格や筋の様子を観察できる立像や各筋ごとに分けて作製された標本が展示されていました。また、「ボローニャの小ビーナス」と呼ばれる女性の模型もよく知られているようです。成人にしてはやや小振りです。ガラスケースに入っている状態を撮影しているので、観にくいところがあると思いますが、胸部から下腹部にかけて、皮膚、筋、大網、消化管や肝臓と順に外していくことができます。よく見ると分かるのですが、子宮も開けることができ、中に胎児が入っています。

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 当時は今で言う助産婦(産婆さん)の教育も重視されていたようで、胎児の模型もたくさんつくられたようです。正常胎児だけではなく、いわゆる「逆子」や臍帯が巻き付いてしまった状態の胎児など非常に多くの模型が展示されていました。
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 蠟模型については日を改めて少し詳しく説明します。
 

第31回 新皮質と辺縁系の機能、脳波

今回は一部は復習のような授業になりましたがが、新たな内容も取り上げていますので時間を作って自分で復習するようにして下さい。

新皮質の領野の分布は図を見てよく確認して下さい。一次感覚野と運動性皮質の部位は描けるようにしておきましょう。各機能は繰り返しませんでしたが、感覚機能のところで取り上げましたのでよく見直しておくように。

連合野についてはやや抽象的な説明ばかりでわかりにくかったかもしれません。ヒトのヒトたる機能を担っている領野もあり、現在 非常に高い注目されている分野の1つです。是非興味に応じて自分なりに勉強して下さい。

また、辺縁系の機能も簡単に紹介しました。自律神経系の中枢としても説明しましたので、内容的には重複しているところもあります。ペーペッツ回路や報酬系、懲罰系など、改めて見直しておいて下さい。

最後に説明した脳波は図を見て特徴をよく頭に入れておきましょう。明日は、この脳波を手がかりに睡眠の状態について考えます。また、言語機能、学習・記憶機能についても取り上げます。

ルイージ・ガルバーニ

 昨日のボローニャ大学の続きです。

 解剖劇場のある建物の前の広場には18世紀にボローニャ大学医学部にいたルイージ・ガルバーニの立像があります。手に持っている板の上にはカエルの標本が載せられています。


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 授業で神経線維を活動電位が伝導することや神経からの興奮の伝達によって筋が収縮することを学びました。このように、生体における電気現象、ひいては二つの物体間に電気が流れることをはじめて見いだしたのがルイージ・ガルバーニです。

 彼は、窓の鉄枠にぶら下げておいたカエルの脚が時折ぴくぴくするのをみて、カエルの脚をつり下げている銅の針金と鉄枠(つまり異種の金属)が触れると脚の筋が収縮することに気がつきました。ここから、筋に電気を通じることで収縮することを見いだしました。当時、ベンジャミン・フランクリンの雷の実験は広く知られていたようですが、自然現象としてではなく、人為的に電気現象を生じうることを発見したもので、その後の電気伝導の発見や電池発明につながっていきます。論文が発表されたのは1791年のこと。電気分解や電池で有名なボルタも同時代の人です。

 この時代には神経や筋の構造は全く分かっていません。膜電位やイオンチャネルなど彼らには想像もつかなかったでしょうが、こうした先人たちの努力の積み重ねが今につながっています。

 ガルバーニが仕事をしていたのはわずか200年余り前のこと。その前の200年間(17ー18世紀)とその後の200年間(19ー20世紀)とでの人類の自然に対する認識の発展具合を比べると、スピードの違いに圧倒されます。歴史は今に近づくほど早く変化することを実感できるのではないでしょうか。これからの200年間の変化は想像もできません。

ボローニャ大学解剖劇場

「趣味のページ」に年末のイタリア旅行を簡単に紹介しましたが、少し別の角度から振り返ってみます。試験も終わり、落ち着いてきたので、忘れないうちにまとめてみたいと思います。

 まずは、今回の旅行で是非ともいきたかった場所の一つであるボローニャ大学の解剖劇場を紹介します。

 北イタリア内陸の街であるボローニャはミラノからアドリア海側へ通じる街道の要衝で、古くから都市国家として栄えたところです。かつてはさまざまな物資の取引のために人が行き交い、それに関わる法手続などの研究が盛んだったようです。そんなところから若い人たちが多く集まり、専門家を招いて自主的に学ぶが場が作られていったでしょう。記録によると1088年にある程度の組織が作られ、ここからヨーロッパ型の大学が始まったそうです。

 中世以来、ボローニャ大学は法学と医学が盛んで、イタリアのみならず、ヨーロッパの中心として栄えました。「医療概論」でも学んだと思いますが、「ファブリカ」を作ったヴェサリウスが活躍したパドヴァ大学も、元々はパドヴァ大学医学部はボローニャ大学医学部の分校のような立場だったようです。

 このボローニャ大学は最も古い人体解剖の記録が残る大学としても知られており、13世紀にはすでに医学教育のための人体解剖が行われていました。後には一般に公開での人体解剖も行われたようで、そのための施設が作られていました。

 さて、今回は大学の祖ともいうべきボローニャ大学とそれを産んだ街、そして、今に残る解剖劇場を観てきました。

 現在ボローニャ市立図書館として管理されているDell’archiginnasio(アルキジンナジオ館)は1563年に建てられたもので、その中にある解剖劇場(Teatro Anatomica;解剖学大階段教室とも訳されています)は1637年にできたそうです。床、壁、天井のすべてが木製で、壁面には古代からの有名な医者の立像やボローニャ大学の著名な医学者の胸像が並んでいます。どれが誰かは全く分かりませんが、歴史を感じさせるだけでなく、敬虔な気持ちにさせてくれます。
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上の写真はパノラマ撮影したので、ややわかりにくいですが、解剖劇場入り口から内部全体を見渡したところです。解剖台(白い大理石製)を中心にして、周囲に階段状の席が設けられています。また、壁の所々に立像や胸像が並んでいます。

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 左は下座(?)から正面を見たところ。中央の細長い白い板は大理石製の解剖台。右は正面の、おそらく指導者(教授)が立った思われる席です。階段には上れないように成っていたため、下の段に立って撮影しましたが、最上段上部には天蓋(?)があります。天蓋を支えているのは「皮をはがれた人」。

 2年生になると岐阜大学医学部で解剖実習(見学実習)がありますが、その時に入る部屋は全く違う雰囲気ですから念のため。