膜電位と平衡電位(発展版)

 見かけ上イオンの移動がない状態のイオン濃度の差から計算した電位を「平衡電位、equilibrium potential」といいましたが、実際のイオンの濃度で計算します。

 それぞれのイオンの移動はいろんな影響を受けて変化しますが、ある特定のイオンの濃度差によってつくられる平衡電位は、他のイオンの濃度などの影響を受けないとして考えます。この仮定に基づいて考えたのが、ドイツの化学者であるネルンストで
     平衡電位 E(ion)=RT/zF × ln([ion]out/[ion]in)
という式で求めます。

 ここで、R=気体定数(8.31J/mol/K)、T=絶対温度(℃+273)、z=イオンの荷数、F=ファラデー定数(1molあたりの電荷、96500クーロン/mol)、lnは自然対数、[ion]out=細胞外のイオン濃度、[ion]in=細胞内のイオン濃度です。

 哺乳類の細胞でのカリウムイオンやナトリウムイオンの平衡電位を考えると、イオンの荷数(1個のイオンの正あるいは負の電荷の数)は1(z=1)、絶対温度は310ケルビン(T = 37+273)ですから、計算できるところを計算してしまうと、
     E(ion)=26.7 × ln([ion]out/[ion]in)
となります。

 ニューロンの平衡電位の計算によく使われる値が

     細胞外 K
+; 5.5mM, Na+; 135mM, Cl; 9mM
     細胞内 K
+; 150mM, Na+; 15mM, Cl; 125mM

です。この濃度を入れて計算すると、

     カリウムイオンの平衡電位  EK = 26.7 ln(5.5/150) = −88.27mV
     ナトリウムイオンの平衡電位  ENa = 26.7 ln(135/15) = +58.67mV

 特定のイオンにだけ注目して考えると、見かけ上イオンの移動がなくなっている状態でこのような電位差があるということです。

 さて、授業で「静止膜電位はカリウムイオンの平衡電位とほぼ等しい」といいました。しかし、上で計算したようにナトリウムイオンの平衡電位は大きく正になっています。単純に足し算すると、マイナスの程度がだいぶ小さくなってしまいます。これはどう考えればいいのでしょうか?
 繰り返しになりますが、平衡電位は見かけ上イオンの移動が停止した状態の電位差です。言い換えると、このような電位差(膜電位)になるまでイオンが移動するとも言えます。カリウムイオンは膜電位が−88mVになるまで(細胞内から細胞外へ)、ナトリウムイオンは+59mVになるまで(細胞外から細胞内へ)移動し続けようとします。ところがそれぞれのイオンが自由に細胞膜を通れるわけではないため、単純に足し算したようにはいきません。

 来週の授業で取り上げますが、ニューロンに活動電位が発生するとき、脱分極が閾値を超えると電位依存性ナトリウムチャネルが開きます。ナトリウムイオンの細胞膜内外の移動は自由になり、細胞外から細胞内へ大量に流入します。その結果、膜電位は+59mVにむかって上昇していきます。これがオーバーシュートの正体です。その後ナトリウムチャネルが閉じ、代わって電位依存性カリウムチャネルが開くと、今度はカリウムが細胞外へ出て行き、膜電位が-88mVに向かって下がっていきます。したがって再分極相に続いて一過的な過分極が生じてしまうのです。ネルンストの式の結果はこういう特殊な状態でしか実現しません。

 もう一度平衡電位に話を戻しますが、ネルンストの式で求めたイオンごとの平衡電位をどう計算しても、実際の膜電位は出てきません。イオンの種類によって細胞膜の透過性が異なっているからです(つまり、それぞれのイオンを透過させるイオンチャネルの数や性質が異なっている)。このことを考慮して、できるだけ実際に近い状態で計算しようとしたのがゴールドマンという人で

     膜電位Em =RT/F ln(PK[K
+]out + PNa[Na+]out + PCl[Cl-]in)/ (PK[K+]in + PNa[Na+]in + PCl[Cl-]out)

という計算方法を考案しました。

 ここでは細胞膜を透過するイオンとして、最も主要なK
+、Na+、Cl-だけを考えています。また、この式の中のPK、PNa、PCl、はそれぞれのイオンの膜の透過性を表す係数(透過係数)で、PK : PNa : PCl = 1 : 0.04 : 0.45であることがわかっています(膜電位を計算するだけであれば実測値は必要なく、比がわかっていればよい)。また、[K+]out、[Na+]out、[Cl-]inなどはそれぞれのイオンの細胞内(in)、細胞外(out)の濃度のことで、既知の値です。陽イオンと陰イオンでは
分子、分母が逆になっています。

 計算すると、

     膜電位Em = -70.15mV

と、ほぼ実測値に等しくなります。

 参考になったでしょうか? 本当は、ネルンストの式やゴールドマンの式がどうして導かれたかとか、もっと難しい理論が
あるのですが、正直言って不勉強で理解できていません。悪しから ず。m(_ _"m)

静止膜電位について

 静止膜電位の説明は毎年いろいろ考えるのですが、なかなかいい説明ができないままです。もともと電気生理学的なことが苦手だということもありますが。少し授業の時とは少し違った説明を考えて見ます。

 まず確認ですが、細胞内外には様々なイオンの分布に差があります。そして、細胞膜を構成する脂質二重層はイオンを通さないため、いったんできた濃度差は簡単には解消されません。例えば、細胞外には100個の陽イオンがあり、細胞内には60個の陽イオンがある場合、その差である40個分の正の電荷の差が細胞膜を挟んで存在しています。実際には陰イオンもありますから、陽イオンと陰イオンの電荷の合計の差をもとに計算されたのが電位差(単位はV、ボルト)で、膜電位といいます。

 膜電位はあくまでも細胞外を基準にして、つまり細胞外を0Vとして、細胞内がどれくらい正か負か、と考えます。言い換えると、正と負はあくまでも相対的なもので、どちらがより正の電荷(つまり陽イオン)が多いのか、あるいはより負の電荷(つまり陰イオン)が多いのかと考えればいいわけです。

 ではどうしてイオンの分布に差ができるのでしょうか? それを担っているのがイオンポンプとイオンチャネルで、特に大切なのが、これらポンプやチャネルのはたらきによって生じるカリウムイオンとナトリウムイオン(この他に塩化物イオンを一緒に考えることもよくあります)の濃度差です。
 
 基本的に細胞内外のカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差はナトリウム・カリウムポンプによって維持されています。細胞内にあるナトリウムイオンは細胞外へ移動し、細胞外にあるカリウムイオンは細胞内へ取り込まれます。その結果、細胞外にはナトリウムイオンが多く、細胞内にはカリウムイオンが多いという状態が作り出されています。しかも、ナトリウム・カリウムポンプは3個のナトリウムイオンと2個のカリウムイオンをセットにして輸送しますので、このポンプのはたらきだけを考えれば細胞外の陽イオンが多くなってしまいます。

 次に、いったんイオンポンプによって濃度差がつくられると、その濃度差にしたがってイオンがチャネルを通って移動します。細胞膜にあるカリウムチャネルにはいろんな種類がありますが、その中のカリウム漏洩チャネル(K
+ leakage channel、漏出チャネルともいいます)は常時開口しています。したがって、細胞内のカリウムイオンは濃度勾配に従って細胞外へ移動します。ところが、ある程度の量が流出すると、今度は細胞内が負になってしまうため、陽イオン(正の電荷を持っている)であるカリウムイオンを引きつけます。その結果、細胞内のカリウムイオンは細胞外へは移動しなくなります。こうして濃度勾配と電気的勾配(あわせて電気化学的勾配)のつり合った状態=平衡状態になります。(ただし、移動が完全に止まったのではなく、流出量と流入量が等しくなり、見かけ上移動が止まっているだけです)。このように見かけ上イオンの移動がない状態のイオン濃度の差(電荷の差)から計算した電位が「平衡電位」です。

 一方、ナトリウムイオンのチャネルにもいろんな種類があり、細胞膜にはナトリウム漏洩チャネルがあります。しかし、カリウム漏洩チャネルに比べて圧倒的に数が少ないようで、細胞外から細胞内へ移動するナトリウムイオンは細胞外へ移動するカリウムイオンに対して極めて少量です。このように、すべてのイオンポンプとイオンチャネルのはたらきによって作り出された細胞膜内外のイオンの濃度差から計算されたのが静止(膜)電位です。

第10回 エキソサイトーシス、膜電位

今週は先週からの続きで小胞による輸送について取り上げました。エキソサイトーシスが関わっている現象をいくつか学ぶはずです。生理学1の前期では、来週から再来週にかけて取り上げるニューロンでの興奮の伝達です。今日の授業でも触れましたが、ニューロンは軸索終末から神経伝達物質という化学物質を大量に放出します。また、生理学2では再三にわたって触れられるのではないでしょうか。 現象は単純でわかりやすいと思います。いつでも思い浮かぶようにしておきましょう。

さて、後半は細胞の膜電位とニューロンの静止膜電位について取り上げました。ここまでに体液や細胞の膜構造、膜を通過する物質の輸送を学んできましたが、これらの知識を使って多くのことを考える必要があります。やっと生理学らしい内容になってきました。例えば、細胞膜内外のイオンの組成、脂質二重膜の基本的な性質、受動輸送、イオンチャネルに関する知識を使って、順に考えていく必要があります。また、電圧や電流などの基本的な理科の知識も必要です。これらまでを一緒に復習する時間はありませんので、忘れていると思ったら各自でやり直しておくように。

静止膜電位については、授業の説明を思い出しながらプリントをよく見て自分で声に出して説明するようにしてみましょう。できるできないはともかく、図を見ているだけでは理解することはできません。また、別項に説明文を考えてみましたので、参考にして下さい。

第9回目 受動輸送、能動輸送、エンドサイトーシス

今週は受動輸送と能動輸送について取り上げました。いずれも、イオンや水、グルコースやアミノ酸など小さな分子が一つずつ膜を通過していく方法です。広義の拡散や浸透、浸透圧については理解が不十分だと感じる場合は、図を見ながら考えてみましょう。

拡散は3種類に分けられますが、それぞれの方法によって移動する(輸送される)物質には大きな違いがあります。その違いをはっきりさせたうえで、具体的な物質を挙げられるように。
授業でも触れたように、
・単純拡散:呼吸器系で肺胞と肺毛細血管との間移動する酸素や二酸化炭素、小腸内腔から小腸上皮細胞でへの短鎖脂肪酸や脂溶性ビタミンの取り込みなど。
・膜チャネルタンパク質:主にイオンが細胞内外へ移動する。第3章では膜電位の形成や活動電位の発生のしくみとして取り上げます。また、筋収縮や胃酸の分泌のしくみを考える際にも取り上げら得れます。
・トランスポータータンパク質:小腸内腔から小腸上皮細胞でへの単糖類の取り込みや細胞のグルコースの取り込みなど。

能動輸送はどのようなエネルギーを利用するかによって大きく二つに分けます。
・一次性能動輸送=ポンプはATPを分解して得られるエネルギーを利用するという点でわかりやすいでしょう。ナトリウム-カリウムポンプは今後いろんな場面でそのはたらきを目にすることでしょう。この他に、筋収縮のしくみの中でカルシウムポンプが、胃酸の分泌のしくみやミトコンドリアのでのATP産生のところで水素イオンポンプが取り上げられるかもしれません。
・二次性能動輸送は簡単にしか説明できませんでしたが、小腸内腔から小腸上皮細胞でへの単糖やアミノ酸の取り込み、腎臓でのグルコースやナトリウムの再吸収などさまざまなところではたらいています。


それぞれの場面で必ず振り返って復習するように心がけること。

今後生理学の学習の中でも触れられるはずですが、あらかじめどんな物質かを知っていればそれぞれの現象も理解しやすいはずです。

予告の通り、来週は第2章の1〜6までの範囲で小テストを実施します。しっかりと準備しておきましょう。また、宿題の再提出も忘れずに。

第8回 タンパク質の翻訳と翻訳後修飾、輸送、膜輸送(受動輸送)

今日はじめにタンパク質の翻訳をしくみを取り上げました。核酸の文法、つまり塩基の配列をコドンというまとまりで読み替えていくことによってタンパク質の文法に翻訳します。一見複雑なようにみえますが、じっくりと見ていけば単純な法則で成り立っていることが分かるでしょう。生物は遺伝情報をDNAを複製するという形で保存し、また次世代へ伝えていきます。さらに、個体(細胞)の中ではDNA➡RNA➡タンパク質と情報を発現させる(これが遺伝子発現です)ことによって生命を維持しています。

遺伝子発現という言葉はタンパク質が合成されるところまで、つまり翻訳までを指していることが多いですが、タンパク質は遺伝子の情報の通りにアミノ酸がつながっていれば機能するわけではありません。タンパク質にはそれぞれ『正しい形=立体構造』があります。『生理学のための化学』でも説明しているとおり、二次構造、三次構造、場合によっては四次構造が重要です。これらの高次構造をつくるのが小胞体やゴルジ装置などの働きです。

ここまで説明してきたDNAの複製やRNAへの転写、そしてタンパク質への翻訳とその後の立体構成はすべて誤りなく進んでいきます。その結果、我々の健康が維持されています。たとえ、小さな誤りがあったとしても何らかの形で修正されたり、誤りや不具合を含んだものは破壊されたりしてすべて排除されていきます。排除できずに誤りが蓄積していくと細胞ががん化したり、あるいは老化したりしていきます。

後半は細胞膜を挟んで、細胞内外への物質移動のしくみのうち、最も基本的な移動方法である「受動輸送」について説明しました。来週の授業でで、溶質の移動である「拡散」と溶媒(水)の移動である浸透に大きく分けて具体的に考えます。いずれも基本は、今日説明した「広義の拡散」です。現象としては当たり前のことですが、分子の運動という目で改めて見直しておくように。