2017年度 第9回 膜電位と活動電位

 今回は、
膜電位がどのようにつくられるか
脱分極がどのように生じるか
活動電位とは何か
がポイントですが、これまでに学んだ細胞内液と細胞外液の組成、細胞膜の構造や細胞膜を介した物質輸送、特にチャネルを介したイオンの移動に関する知識を踏まえて考えました。
 そのほかに、基本的な化学や物理の知識にも触れました。

 このように、生理的な現象を考えていくためには、多くの基本知識を前提としながら、すでに学んだ知識を使ってさらに考えていく必要があります。何かを学ぶというのはそもそもこういうことです。これまでまり得意ではなかったとしても、何とかして克服しないと先には進めません。

 中心の1つである静止膜電位がどのように生じるか、授業での説明とは少し異なったやり方で説明して、まとめてみました。参考にしてください。ここここです

 また、脱分極とか分極という現象は、静止膜電位からの逸脱であると考えればいいかもしれません。もちろん、勝手に生じるわけではなく、必ずなにか刺激が必要です。「刺激」といっていますが、まずは単なる「きっかけ」であると考えて、その先を理解するようにしましょう。今後の授業の中で、いろんな「刺激」を取り上げます。しだいに実感を持って考えられるようになっていくと思います。

 「刺激」によっていったん脱分極が生じると、それがどれくらいの大きさであるか。つまり、どの程度陽性方向に変化するかが重要です。言い換えると、活動電位を生じるための閾値を超える超えないかがポイントです。脱分極が閾値を超えなければ、そのまま静止膜電位に戻りますが、いったん閾値を超えると必ず活動電位になります。メカニズムは来週の授業で説明しますが、このall-or-nonであることが非常に大切です。生物は一見アナログなしくみで動いているように見えますが、デジタルな側面も持っています。

2017年度 第8回 受動輸送、能動輸送、エンドサイトーシス

 今回の授業で取り上げた
細胞膜を介した物質輸送
は、多くの生理現象に関わる重要なしくみです。

 来週取り上げるエキソサイトーシスを含めて、ニューロンや筋細胞での活動電位の発生、ニューロンからの伝達物質の放出、毛細血管内外での物質交換、肺でのガス交換、消化管での消化液の分泌と栄養素の吸収、腎臓での濾過と再吸収、ホルモンの分泌と血液から標的細胞への作用など、器官系の機能を理解する上で重要な現象は、細胞膜を物質が通過することによって生じています。

 授業では基本的なしくみを順番に考えていきます。具体的にどのしくみがどこではたらいているかまで説明できませんが、他の科目で触れられたときにすぐに見直すようにしておきましょう。

 神経系や感覚器系、筋系の機能は生理学Ⅰで取り上げます。今回取り上げた受動輸送や能動輸送、来週説明するエキソサイトーシスなどの機能を中心にして説明する部分もあります。特に、来週の後半と再来週の授業ではニューロンの持つ興奮性について取り上げますが、ここではイオンチャネルやイオンポンプの作用について改めて触れるので、忘れずに復習をしておくように。

2017年度 第7回 遺伝子発現とタンパク質の輸送

 今回はDNAに保存された遺伝情報が発現するしくみを、タンパク質ができる過程を考えることによって概観しました。転写と翻訳の2つのステップについて、考え方の要点となる部分を説明したつもりです。プリントの図を見ながら、自分なりに跡づけてみましょう。

 転写は、二本鎖DNAの一方のみを鋳型としており、ある部分=転写開始点から始まって、相補的な塩基を持つヌクレオチドを順に結合させ、ある部分=転写終結点で終わります。DNAとRNAでは含まれる塩基と糖の種類に違いがあります。特に、糖の違いが二本差にしないと安定しないか、一本差でも安定であるかの差をつくっています。また、塩基の違いは相補的な組合せをつくる上で間違えないようにしましょう。

 転写された産物は、転写開始点から転写終結点までの一つながりのRNAであり、イントロンを含んでいます。したがって、スプライシングによってイントロンを取り除き、さらにCapやpolyAを結合させてmRNAができあがります。

 どの遺伝子を、いつ、どのくらいの量を転写するか。つまり、どの転写産物が、いつ、どれくらいできるのかは、細胞の状態を決める上で重要な要因です。

 できあがったmRNAは細胞質でリボソームによって翻訳されます。mRNAの連続する3塩基配列が1つのアミノ酸を指定するというのは、地球上のすべての生物に当てはまる重要な法則です。「翻訳;translation」とはうまい言葉を当てたものだと思います。「コドン」がアミノ酸を指定するという文法、あるいは言語の変換を通して、タンパク質が合成されます。

 翻訳も、転写と同様に、タンパク質ごとに開始部位と終結部位が決まっています。できあがったタンパク質はリボソームから離れると、形を整え、さらにしかるべき場所へ運ばれていきます。授業では細胞膜や細胞外で機能するタンパク質についてだけ取り上げました。これらは粗面小胞体上のリボソームで産生された後、粗面小胞体内へ入り、さらにゴルジ装置へ運搬されて立体構築されます。

 一方、細胞質内のサイトゾルや小器官、あるいは核内で機能するタンパク質は遊離型のリボソームで合成されます。これらのタンパク質には「シグナル配列」とよばれるタグ=荷札の役割をするアミノ酸配列が含まれていて、この部分の配列情報に基づいてそれぞれの場所へ運ばれていきます。

 最後に溶液中の拡散について簡単に説明しました。現象としては当たり前のものですが、拡散(広義の拡散)は、生体内での物質移動や輸送を考えていく上で非常に重要な概念です。分子は常に運動(文字通り、運動エネルギーによって動いています)しています。一つ一つの分子に注目をすると、それらは完全にランダムな動き方をしています。したがって、多くの分子が集合すると、それらの運動の方向や大きさは完全に相殺され、マスで見たときに全く動きがないかのように見えます。よく使われる表現ですが「見かけ上」変化がありません。ここに、異なった種類の分子の集団が入り込むと、この新たな異種分子も運動しているため、互いが動き合って、お互いの間に広がっていきます。こうした運動が長時間続くと、互いが広範囲に広がって均質な状態になります。このような現象を「拡散」といいます。さらに、拡散して全体が均質になった結果、見かけ上変化がなくなってしまった状態を「平衡状態」といいます。

 来週は、上で考えたような物質の移動が細胞膜を挟んで、どのように生じるかを考えてみます。

2017年度 第5、6回 細胞小器官、細胞分裂、DNAとその複製、遺伝子

 前回分のまとめをうっかりと忘れておりましたので、まとめて掲載します。

 細胞小器官は種類が多く、先週の授業の内容だけではその役割がなかなかピンとこないかもしれません。ややもすると丸暗記したくなりますが、その細胞がどのような細胞小器官を多く備えているのかということは、その細胞の機能とよく一致します。名称と簡単な構造と機能は覚えないとどうしようもありませんが、他の科目で学んだ(あるいはこれから学ぶ)内容などと結びつけて理解するようにしましょう。

 例えば、生理学2で学んだ好中球やマクロファージは食作用(貪食作用)を発揮して、広く生体の防御に関わっています。これらの細胞は、微生物や外来異物を小胞に包まれた状態で細胞内へ取り込みます。その後、小胞は細胞質のリソソームと融合し、リソソーム内に含まれている分解酵素の作用によって取り込んだものを分解・消化します。マクロファージは寿命に達した赤血球や血小板を取り込んで分解するためにも機能しています。このような作用についても来週の授業で取り上げます。

 オートファジーは同じリソソームが関わった機能でも、多くの細胞に共通しています。

 授業で紹介した膵臓外分泌細胞は、膵臓の大部分を占めており、大量の消化酵素、すなわちタンパク質を産生して細胞外へ分泌しています。分泌された消化酵素は、膵臓から十二指腸へ排出されて消化管内で食物の分解・消化に与かります。従って、粗面小胞体とその表面にあるリボソーム、さらにはゴルジ装置を多く含んでいます。生理学2の消化器系で取り上げられるでしょう。また、来週の授業では、このような分泌タンパク質の合成と細胞内での輸送について取り上げます。

 また、前期の最後で筋細胞の構造と機能について考えます。筋細胞が収縮、弛緩するときには大きなエネルギーが必要です。このエネルギーの源になっているのはATPです。したがって、筋細胞は大量のATP
を産生する能力を持っています。そのうち、サイトゾルでは解糖系とローマン反応という化学反応によっていますが、さらに、ミトコンドリアを大量に備えており、ここでATPを産生しています。

 中心体と微小管の役割については今日の授業で少し触れました。細胞が分裂するときに、染色体を誘導するために必須です。また、微小管は別の機会にも触れることがあると思いますので、それらと合わせて細胞骨格の役割を理解しましょう。

 さて、今日の授業の中心は染色体とDNAでした。『生理学のための化学』に詳説したので不要だったかもしれませんが、現在の生命科学における常識といっていいでしょう。十分に理解しておく必要があると思いますので、今日の授業の内容と『生理学のための化学』あるいは他の成書を合わせて自学自習しましょう。

 DNAの構造を理解する上でポイントになるのは、相補的な塩基同士が向かい合って二重ラセンをつくっているということです。塩基の構造は詳しく説明できませんでしたが、相補的な塩基同士がかみ合うように水素結合をつくっています。DNAはヌクレオチドが多く連続していますから、非常に長い二重ラセン構造をつくっています。ヒトゲノムが全部で約34億塩基対として、染色体1本当たり約1億5千万塩基対ということですね。1細胞分のDNAが単純にゲノム2セット分とすると、全部を1本につなぐとおよそ2mです。

 ところで、生理学は生体の機能を考える学問ですが、いきなり機能を考えられるわけではなく、あくまでも構造を基礎にして考えていきます。分子レベルでの現象を考える上でも同様で、DNAの構造について毎年同じ説明をして、説明を重ねるほどにそのみごとな構造に驚嘆します。DNAの複製のしくみ、さらに来週取り上げるDNAからRNAへの転写のしくみを考える上で欠かせない知識ですので、よく復習しておくように。

 最後に遺伝子についてとりあげました。説明したように、いくつかの定義がありますが、授業ではタンパク質の構造(具体的にはアミノ酸配列)とRNAの配列(同様に、RNAを構成する塩基の配列)を決める情報にあたる部分を合わせて『遺伝子』とします。今後の授業ではタンパク質の機能に焦点を当てた説明が多くなりますが、DNAの塩基配列という形で多くの情報が保存されていると理解しておきましょう。

 今日配布した『ゲノムマップ』は、『周期表』や『細胞』と同様に、『一家に一枚』シリーズです。相変わらず小さな持ちで見にくいと思いますが、余裕があればダウンロードして拡大して見てください。他のチャートと同様に、科学館のミュージアム・ショップで販売されていると思います。ピックアップして説明されているのは、いずれも有名なタンパク質のアミノ酸配列を保存した遺伝子ばかりです。ヘモグロビンやABO式血液型に関わる酵素、今日取り上げたDNAポリメラーゼ、今後の授業で取り上げるアクチンやミオシン、ロドプシン、神経伝達物質の受容体、さらに消化酵素であるアミラーゼ、インスリンやプロラクチン、これらホルモンの受容体、そして免疫グロブリン、いくつかの疾患の原因となるタンパク質など、幅広く取り上げられています。

 分子レベルで生じている現象を実際に目できることはできません。授業で使っている図は数ある教科書類の中で分かりやすいものを選んでいます。想像力を働かせましょう。

 来週は遺伝子発現を実現している転写と翻訳という2つの現象、そして産生されたタンパク質が細胞内でどのように運搬されていくのかを考えます。その後、改めて細胞膜について、構造だけではなく機能について考えていきます。