2018年度 第11回 興奮の伝達、神経系の構成と機能、ニューロンとグリア

 宿題レポートの再提出に関して授業中に言い忘れましたが、来週新たに提出するにあたって、返却したレポートを必ず添付すること。書式等は始めに注意したとおりです。

 さて、今週の授業ではニューロンという細胞の構造について改めて取り上げました。非常に特殊な形態の細胞で、興奮を伝えることに都合のよい構造です。長い軸索を持っているために、細胞体から遠く離れた細胞に対して興奮を伝達することができます。来週改めて取り上げますが、長い軸索にもさまざまな工夫が施され、効率よく興奮を伝導することができるようになっています。

 興奮の発生、伝導、伝達は、ニューロンのほか骨格筋や心筋など限られた細胞が持つ機能です。生理学ⅠやⅡの学習から分かるように、生理機能を考える上では、このような電気現象(生体電気ということもあります)を理解する必要があります。

 興奮の伝達を考える上でのポイントは、シナプスの構造、電位依存性カルシウムチャネル、エキソサイトーシス、そして受容体です。シナプスの構造は図をよく見て、できれば一度自分で図を描いてみて頭に入れましょう。

 電位変化を刺激として開閉するゲート型イオンチャネルは、先週取り上げた電位依存性ナトリウムチャネルと電位依存性カリウムチャネル、そして、今回取り上げた電位依存性カルシウムチャネルの3つを知っておけば十分でしょう。電位依存性カルシウムチャネルについては、筋細胞を機能を考える際にももう一度取り上げます。両者は遺伝子は異なりますが、大きな意味での機能は同じです。

 エキソサイトーシスを考える必要のある現象はホルモンの分泌が最も代表的ですが、今回取り上げた神経伝達物質の放出も重要です。「細胞の構造と機能」で説明したさまざま機能や性質は、いずれも全身のどこかで具体的に作用しているものばかりです。具体的に取り上げられたときに、一度振り返りながら理解していきましょう。

  授業では最後にグリアについて取り上げました。来週最初に改めて触れますが、オリゴデンドロサイトとシュワン細胞がつくる髄鞘は、興奮の伝導を考える上で非常に重要な構造です。これらのグリア細胞は軸索の周囲を取り巻いていき、ほぼ細胞膜だけがおよそ100層ほど重なっています。脂質の割合が高く、軸索の細胞膜を細胞外液から完全に遮断していると考えていいでしょう。したがって、個々の軸索は電気的に絶縁されています。

 来週は、軸索をグリアが取り囲んでつくられる神経線維について、どのよに興奮が伝導するかをあらためて考えます。さらに、興奮の伝達についてもさらに詳しく考えます。

2018年度 第10回 脱分極と活動電位、興奮の伝導

 今回は2限目の小テストにあたって、一部の学生に過去の小テストの印刷のあまりを配ってしまうというミスがありました。大変失礼いたしました。該当する学生については、評価点をつける際の集計において、今回の成績を分母から外します。もちろん欠席扱いというわけではありません。

 さて、今回の授業内容は前期の中でもとりわけ重要です。これまでに学んだ、細胞膜の構造や性質、細胞内外のイオンの組成、受動輸送やイオンチャネルのはたらきをしっかりと理解している必要があります。その上にたって、細胞膜、特にニューロンなどの興奮性細胞の細胞膜で生じている現象を考えました。

 過去の前期末試験問題を見ていればよく分かると思いますが、毎年出題しています。どの部分をどのように問うかは異なりますが、活動電位の生じるしくみや、興奮の伝導や(来週取り上げる)伝達のしくみは神経系のはたらきを考える上で基礎となる内容です。しっかりと復習しておきましょう。

 その場合、図やフローチャートを声に出して見ながら自在に説明できるようにしておくことが肝要です。黙って頭の中で考えているだけでは必ずごまかしてしまいます。声に出せば、うまく説明できていないことが自分でよくわかすはずです。できるなら、他人を前にして、講義をしているつもりで説明するとより効果があるでしょう。

 脱分極と過分極は、ちょうど正反対の現象です。過分極を考える機会は少ないですが、一緒にしてよく見直しましょう。まずは、陽イオンと陰イオンが細胞内へ流入する現象であるとしていいと思います。

 脱分極が生じるとき、ニューロンに加わる刺激の強さによって開放するゲート型イオンチャネルの数や時間が変化します。この結果、脱分極の大きさや持続する長さが変化します。したがって、強い刺激が与えられれば、生じる脱分極が大きくなる、すなわち、より多くのイオンチャネルが、より長く開放することになります。そして、脱分極が閾値を超えると活動電位が生じます。言い方を変えると、活動電位が発生するためには、閾値を超える脱分極を生じるような刺激が加えられる必要があります。

 活動電位のしくみを考える上でポイントは2つの電位依存性イオンチャネルです。順を追って考えていけば難しくはないはずです。閾値を超えるという刺激が電位依存性ナトリウムチャネルを開放させ、逆にオーバーシュートしたという刺激がこのチャネルを閉鎖します。また、オーバーシュートしたという刺激は電位依存性カリウムチャネルを開放し、オーバーシュートから静止膜電位へ戻ると電位依存性カリウムチャネルは閉鎖します。これらの現象を、活動電位のグラフの上に載せて考えるとすぐに分かるでしょう。

 全か無かの法則も同様に考えてみると、閾値を超えると必ず活動電位が生じるということは、閾値を超えたところで電位依存性ナトリウムチャネルが開放するということです。電位変化のピークの大きさが一定であるということは、常に同じ電位の大きさのところで電位依存性イオンチャネルが閉鎖し、電位依存性カリウムチャネルが開放するということです。

 活動電位の性質のうち、不応期は少しわかりにくいかもしれません。電位依存性チャネルが機能している状態では、たとえ刺激に反応したゲート型イオンチャネルが開放して細胞外の陽イオンが細胞内へ入ることになったとしても、その量は電位依存性チャネルによって移動しているイオンの量に比べると微々たるものです。したがって、細胞は全く反応しないと考えていいでしょう。このことは、興奮の伝導を考える上で重要です。興奮は必ず外側へ移動していくことを保証しているといってもいいでしょう。

 来週は興奮の伝達について考えますが、ここでも電位依存性チャネルが重要なはたらきをしています。さらに、先週の授業で取り上げたエキソサイトーシスの実例も考えることになります。今日の小テストができなかった場合にはよく復習をしておきましょう。

2018年度 第9回 能動輸送、小胞による輸送、静止膜電位

 はじめに、前回のまとめの中で絶対温度の説明をしましたが、その中で「温度感覚は摂氏温度と同じで、」という部分があります。ここは「温度間隔は摂氏温度と同じで、」の誤りです。訂正します。

 さて、今回は細胞膜を介した物質輸送の後半として、能動輸送と小胞による輸送を取り上げました。
能動輸送は二つに分けて説明しましたが、一次性能動輸送(ポンプ)がより重要です。特に、授業で例示したナトリウム・カリウムポンプ(「イオン」はつけてもつけなくてもかまわないでしょう。また、略して「ナト・カリポンプ」と呼んだり、「Na+/K+ポンプ」と記述されたりすることもあります)は今後何度も触れることになりますので、そのしくみをしっかりと理解しておきましょう。このポンプは、アニメーションで見たように、自身でATPを分解することができます。このことからNa+/K+ ATPaseと呼ぶこともあります。”ase”とは、この語の前に付いている名称の物質を分解する酵素を意味します。

 二次性能動輸送は、消化管で分解された栄養素(グルコースやガラクトース、アミノ酸など)を小腸吸収上皮細胞が吸収する場合、腎臓で尿が生成されるときに生じる尿細管での電解質(イオン)の再吸収の場合などに考える必要があります。思い出せるようにしておきましょう。

 エンドサイトーシスとエキソサイトーシスは互いに逆方向への物質の輸送です。授業では触れませんでしたが、いずれも大量のATPの分解をともないます。したがって、エネルギーを消費しており、広い意味では能動輸送と考えても差し支えないでしょうが、ポンプやシンポーターによる輸送とは輸送している物質(あるいは物体)の大きさや具体的な方法が異なるため、区別します。

 エンドサイトーシのうち食作用については他の科目で学んだ内容をもう一度確認しておきましょう。
エキソサイトーシスは今後ニューロンの機能を考える中で取り上げていきますが、他の科目でもホルモンの分泌など頻繁に考える機会があるでしょう。

 第2章にはかなり時間をかけましたが、すべての細胞に共通する性質を列挙するようにして説明しました。生理学で取り上げられる内容は、すべて「細胞の機能」を基本としています。生理学2では血球や心臓を構成する細胞群についてやや先行して進んでいますが、いろんな現象を細胞小器官や細胞膜の構造と機能を考えながら改めて見直してみましょう。特に、心筋細胞の収縮や特殊心筋における興奮の伝達などは第3章で取り上げる「細胞の興奮」を考えるとよりわかりやすくなるはずです。

 第3章で考える「細胞の興奮」は細胞膜の近傍の現象として理解することができます。したがって、この先もしばらくは「細胞膜」から離れられません。脂質二重膜を基本とする構造について、改めて見直しておきましょう。

 今日はその前提として、静止膜電位について考えました。細胞膜の構造だけではなく、細胞外液と細胞内液の組成、あるいはイオンについても知っていなくては正しく理解することはできません。電気に関する知識も少し必要です。来週は静止状態から大きく変化して細胞が興奮するという現象を考えます。

 以下にカリウム平衡電位について改めて説明しましたので、授業のプリントと合わせて見直しておきましょう。来週の授業では、以下の内容に平衡電位の計算方法を付け加えて配布します。

 静止膜電位について、改めて説明してみます。

 まず確認ですが、細胞内外には様々なイオンの分布に差があります。そして、細胞膜を構成する脂質二重膜はイオンを通さないため、いったんできた濃度差は簡単には解消されません。例えば、細胞外に100個の陽イオンがあり、細胞内に60個の陽イオンがある場合、その差である40個分の正の電荷の差が細胞膜を挟んで存在しています。実際には陰イオンもありますし、イオンの価数も考慮しなければなりません。このように、陽イオンと陰イオンの電荷の合計の差によって生じるのが電位差で、細胞膜を挟んで生じるため膜電位といいます。イオン濃度をもとに計算することもでき、電圧の単位であるボルト;Vで表します。

 膜電位はあくまでも細胞外を基準にして、つまり細胞外を0Vとして、細胞内がどれくらい正か負か、と考えます。正と負はあくまでも相対的なもので、どちらがより正の電荷(つまり陽イオン)が多いのか、あるいはより負の電荷(つまり陰イオン)が多いのかと考えればいいわけです。そして、膜電位として「電圧の大きさ」を問題にするとき、必ず細胞外に対する細胞内の電位差を指しています。

ではどうしてイオンの分布に差ができるのでしょうか? それを担っているのがイオンポンプとイオンチャネルで、これらポンプやチャネルのはたらきによって生じるカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差が特に大切です(この他に塩化物イオンを一緒に考えることもよくあります)。

 細胞内外のカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差は基本的にナトリウム・カリウムポンプによって維持されています。このポンプのはたらきによって、細胞内にあるナトリウムイオンは細胞外へ移動し、細胞外にあるカリウムイオンは細胞内へ取り込まれます。その結果、細胞外にはナトリウムイオンが多く、細胞内にはカリウムイオンが多いという状態がつくりだされています。しかも、ナトリウム・カリウムポンプは3個のナトリウムイオンと2個のカリウムイオンをセットにして輸送しますので、このポンプのはたらきだけを考えれば細胞外の陽イオンが多くなってしまいます。

 いったんイオンポンプによって濃度差がつくられると、その濃度差にしたがってイオンがチャネルを通って移動します。細胞膜にあるカリウムチャネルにはいろんな種類がありますが、その中のカリウム漏洩チャネル(漏出チャネルともいいます)は、ニューロンの細胞膜には大量に発現しています。個々の漏洩チャネルはランダムに開閉を繰り返していますが、多数のチャネルが存在するため、ある数の漏洩チャネルが常時開放していると考えられます。したがって、細胞内のカリウムイオンは濃度勾配に従って細胞外へ移動します。追加で配布したプリントの図⒜の状態です。
 
 ところが、ある程度の量のカリウムイオンが細胞へ流出すると、今度は細胞内が陰性(負に帯電)に、細胞外が陽性(正に帯電)になり、カリウムイオンに対する電位勾配がつくられます(プリントの図⒝)。この結果、カリウムイオンは電位勾配にしたがって細胞外から細胞内へ移動します。あるいは、陽イオンであるカリウムイオンが負に帯電した細胞内に引きつけられて、濃度勾配による移動が少なくなるかもしれません。ただし、この状態では濃度勾配の方がまだまだ大きいため、カリウムイオンの移動は見かけ上は細胞内から細胞外へ向いています。

 しかし、さらにカリウムイオンの移動が続くと、電位勾配がどんどん大きくなり、濃度勾配の大きさと電位勾配の大きさが等しくなります(プリントの図⒞)。濃度勾配(化学的勾配)と電気的勾配(あわせて電気化学的勾配)がつり合った状態=平衡状態です。この結果、見かけ上、カリウムイオンはどちらの方向へも移動しなくなります。(ただし、移動が完全に止まったのではなく、流出量と流入量が等しくなり、見かけ上移動が止まっているだけです)。このように見かけ上イオンの移動がない状態のイオン濃度の差(電荷の差)によって生じる電位が「平衡電位」です。カリウムイオンの移動だけを問題にして、カリウムイオンの移動が見かけ上ない状態での電位ですので「カリウムイオン平衡電位」といいます。
 
 一方、細胞膜には他のイオンを通過させるイオンチャネルも多数存在します。例えば、ナトリウムイオンチャネルもいろんな種類があり、その中にはナトリウム漏洩チャネルもあります。しかし、カリウム漏洩チャネルに比べて圧倒的に数が少ないようで、細胞外から細胞内へ移動するナトリウムイオンは細胞外へ移動するカリウムイオンに対して極めて少量です。このように、細胞膜に存在するすべてのイオンポンプとイオンチャネルのはたらきによってつくりだされた細胞膜内外のイオンの濃度差によって生じるている電位差が静止膜電位(静止電位)です。

 一度説明を聞いただけではわかりにくかった人もいると思います。改めてじっくりと考えながら読み返してください。

宿題(レポート課題)について

 今日は欠席者もいましたので、要項を改めて掲載します。

 問題は以下の通りです。

 2015年『基礎生物』問題Bについて、
  問4:選択肢①~⑦について、適当か否かの判断を理由とともに示すこと.
  問5:この問題の正答は④であるが、他が適当ではない理由を説明すること.
  問6:解答を導く過程をできるだけ詳細に説明すること.
 2018年『生物』問題Bについて、
  問5:解答を導く過程をできるだけ詳細に説明すること.
  問4と問6は『生理学のための化学』「第9章核酸の構造と複製」ならびに、『補遺・遺伝子と遺伝子発現のしくみ』を理解すれば容易に解答できる.

 レポートの形式は
・A4版レポート用紙を使用し、各問ごとに説明を付すこと.必要に応じて図表を付してもよい.末尾に感想または意見を必ず付すこと.
・必ず手書きで、横書き(上下、左右に余白を取ること)、左留めとする.
・表紙をつけ、タイトル、クラス、学籍番号、氏名を明記すること.
・レポートとして適した体裁や文体、あるいはまとめ方をしているかどうかも評価の対象とする.
・参考にした文献等は末尾に明記すること.
です。

 締切は2週間後(6月21日)の授業開始時です。

2018年度 第8回 受動輸送

 前期も半ばにさしかかりました。勉強のやり方やペースがつかめてきましたか? 他の科目のことは分かりませんが、生理学Ⅰはここまでの内容がしっかり理解できていないと、来週以降の授業はかなり苦しくなります。もし不十分だと思うところがあれば、早めに復習しておきましょう。毎回の小テストや各章末の要点のまとめを参考にして整理すると効率がいいでしょう。

 今回は冒頭でタンパク質の輸送について簡単に補足しました。来週の授業でもう一度見て説明するところがあります。

 さて、中心は受動輸送ですが、広義の拡散についてもおさらいをしておきましょう。当たり前のことを説明したまでですが、液体の分子が常に運動しているということは何を考えるにしても重要です。

 簡単に補足しておくと、分子が運動エネルギーをもっているということは、すなわち温度があるということです。「絶対温度」を知っているでしょう。ケルヴィン温度ともいい、”K”であらわします。温度感覚は摂氏温度と同じで、「摂氏温度+273.15」であらわします。絶対温度が0K(絶対0度とよばれることもあります)は摂氏-273.15度にあたり、この温度ではすべての原子や分子が運動しなくなります。逆に言うと、この温度よりも高い温度では、温度に応じたエネルギーを持つため、物質はエネルギー量に応じて運動することができます。したがって、室温ではすべての分子が運動エネルギーを持ち、液体あるいは溶液中では「ランダムに運動している」=「動いている」わけです。このような運動の結果、溶液中では必ず拡散(広義の拡散)が生じます。

 受動輸送は、細胞膜を間に挟んだ状態で上のような拡散が生じていると考えるといいでしょう。ただ、細胞膜を通過するためには物質の性質によって通り道が異なり、授業で説明した3通りが使われます。

 単純拡散は、文字通り最も単純なしくみです。細胞膜の基本構造である脂質二重膜を通過できる物質は、低分子量で滑非極性(または極性が低い)物質に限られています。授業では例も挙げましたが、他の科目で触れられることもあるはずですから、その都度よく見直しをしましょう。

 膜チャネルは今後も何度も取り上げます。チャネルとよばれる膜貫通タンパク質がつくる通路を、比較的小型の分子が通過します。非極性であれば単純拡散で輸送できますが、極性が強い分子(イオンなど)では脂質二重膜を通過できないため、そのような多くの分子は膜チャネルを通過します。

 促進拡散では、チャネルタンパク質が提供する通路では小さくて通過できないような大型の極性のある分子が、キャリアタンパク質がつくる通路を通過します。分子の大きさの比較がしにくいかもしれませんね。ナトリウムイオンなどの単原子のイオンは所詮原子1個ですが、グルコースのように24個の原子からなる分子は明らかに単原子よりも大きいです。したがって、グルコースが通過できるようなチャネルがあると、細胞膜にかなり大きな「穴」が空いていることになり、一緒にいろんな物質が通過してしまいます。そこで、やや特殊なしくみができあがったのではないでしょうか。

 浸透、浸透圧は生理学では非常に大切な概念です。もし理解しにくい場合はいつでも質問を受けます。できるだけ早めに頭に入れてしまいましょう。細胞内外には細胞膜の厚みや面積に比して、大量の液体(水溶液)が存在し、それぞれの溶質濃度はいずれも非常に低いと考えていいでしょう。したがって、溶質の拡散を考えるときに同時に溶媒である水の拡散(=浸透)を考える必要はありません。しかし、水が細胞膜を通過する現象を考える場合には、溶質濃度(脂肪膜を通過できない溶質濃度)を考慮に入れて、水が移動する方向を考えます。『生理学のための化学』での最後にふれた「膠質浸透圧」がその一例です。

 授業では最後に溶血のビデオを見ました。何らかの理由で赤血球が破壊されることを一般に「溶血」といいます。ここでは、赤血球が極端な低張液(水)に曝されたことによって破裂されています。これが血液中への注射液を水でつくってはいけない、生理食塩水を使わなければいけない理由です。

 来週は、能動輸送、小胞による輸送を概観し、その後第3章へ入ります。

『人体』展

 先週の授業後は、東京へ行き上野の国立科学博物館で『特別展 人体 ~神秘への挑戦~(The Body ― Challenging the Mystery)』を見てきました。公式サイトはここ(https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2018/jintai/highlight.html)です。

 3月から開催されていましたが、6月半ばまでです。授業でも紹介したNHK特集『人体』で4月に展覧会自体を観覧するような番組を放送されています。興味を持った人もいることでしょう。医学の歴史やヒトと他の動物との比較など、貴重や資料や実物標本や数多く展示されています。現在の到達点にたって描いたアニメーションや実際の映像を通じて観察できる価値は非常に高いものです。

 今回最も期待していたのは、『ファブリカ』をはじめとする中世から近代にかけての医学書の原書や初期の顕微鏡です。授業で細胞の発見について簡単に説明しました。ロバート・フックが使った顕微鏡は複数のレンズが使われていて、現代の顕微鏡と基本的なしくみは同じです。しかし、微生物や毛細血管を流れる赤血球を発見したレーウェンフックは1個の球体レンズを用いた単式顕微鏡を使って観察しました。当時レーウェンフックが自作したと考えられる顕微鏡が展示されていました。『ファブリカ』やその著者であるヴェサリウスについては医学史で学ぶことでしょう。また、高等学校の生物の資料集などではレーウェンフック式顕微鏡の簡単な作り方も紹介されていますので、学校で試みたところもあるのではないでしょうか。

 また、心臓や肺、胃など、主な器官が生物の進化を経てどのように変化してきたのかを、実物の標本を見ることができたのも有意義でした。中でも動物の生活様式と心臓の構造の違いを、原索動物から哺乳類に至るまで通して観察できる機会はなかなかないでしょう。さらに、同じ哺乳類であっても、体の大きさにはかなりの差があります。心臓や胃などの消化器がの大きさの違いを実感できます。

 この他、神経系の構造について最も重要な発見をしたゴルジとカハールの業績にも触れられていました。授業で学んだ「ゴルジ装置」の発見者であるカミッロ・ゴルジ(イタリア)は、「ゴルジ染色法」という脳組織標本で神経細胞を可視化する方法を開発しました。一方、サンチャゴ・ラモン・イ・カハール(スペイン)はゴルジ染色法を用いた詳細な観察によって、ニューロンとニューロンがシナプスを介して情報伝達していることを明らかにしました。彼らが作成したプレパラートや観察スケッチ、さらには実際に使用した実験器具なども展示されていました。

 今回の展覧会のウリの1つは「キンストレーキ」という、張り子、つまり紙で象った人体模型です。国内に4体しかないうちの2体が展示されています。ほぼ実物大で、全身の皮膚を剝いだ状態を表した、男女の模型。現在のような標本や模型のない時代の学習手段です。さらに、オランダの博物館からワックスモデル、いわゆる蝋人形としての人体模型も借り受けて展示されています。キンソトレーキよりもかなり精巧で、リアリティがあります。数が少なく残念でしたが、ヨーロッパではかなり多くつくられたようで、いくつかの施設で大規模な展示があります。数年前にイタリアに旅行した際にもボローニャとフィレンツェで見学してきました。
ここを参考にしてください

 図録を購入しました。しばらくは学校においておきますので、閲覧したい場合は職員室まで。

 平日であったにもかかわらず、会場内はかなり込んでいました。一般の方々の関心の高さがうかがわれます。一方で、今回の展示の内容は、一部ではあっても専門課程で学ぶ知識に匹敵する解説も付されていました。一般市民もこれだけの内容に触れる機会があるということは、専門家をめざすものとして心しておく必要があるでしょう。

2018年度 第7回 遺伝子発現

 やや遅くなりましたが、先週の授業の内容を簡単に振り返ります。

 「遺伝子」や「DNA」は日常会話でも使われるようになってきました。ただし、テレビなどで話されているような使い方は、本来の生物学的な意味からはやや外れています。遺伝子とはタンパク質やRNAの構造を決める上方であり、その物質的な実体がDNAです。基礎医学に関わる概念や用語については厳密に考えるようにしましょう。

 さて、配布した『ヒトゲノムマップ』はよく見ておきましょう。これまでの人類の科学の到達点であると同時に、今後の学習にも役立つはずです。また、ヒトゲノムの塩基配列が明らかになったことによって、遺伝子の構造も具体的になってきました。授業ではその一端に触れたつもりですが、タンパク質のアミノ酸配列を決めている遺伝子の数、tRNAを初めとしたRNAの塩基配列を決めている遺伝子の数については概数を頭に入れておきましょう。

 さらに、タンパク質のアミノ酸配列を決めている遺伝子については、転写と翻訳のしくみを簡単に説明しました。転写は二本鎖DNAの一方を鋳型としてRNAを合成し、翻訳はmRNAを鋳型としてタンパク質を合成する反応のことです。

 転写とは、鋳型とするDNA鎖を構成するヌクレオチドの各塩基に対して相補的な塩基を持つRNAヌクレオチドを順に結合(ホスホジエステル結合)することによって一次転写産物がつくらることです。DNAの複製とほぼ同様の反応が生じています。一次転写産物(pre-mRNA)に対するスプライシングを初めとする加工(プロセシング)も重要ですが、授業では簡単に済ませました。この部分は『補遺:遺伝子と遺伝子発現のしくみ』に少し詳しく説明をしましたので、各自で自習するように。

 転写が必ず核内で生じるのに対して、翻訳は必ず細胞質のリボソームの機能によって生じます。tRNAの塩基配列をアミノ酸の配列に置き換えていく現象であるため、『翻訳』とよばれています。そして、その鍵となっているのが遺伝コードともよばれる「コドン」です。tRNAの連続する3塩基の配列を一組として1つのアミノ酸を指定します。我々は「読み枠」などともいい、「コドンを(アミノ酸に)読んでいく」という言い方をします。読み枠はtRNAの初めからではなく、途中のAUGから始まります。このコドンはメチオニンを指定するため、タンパク質のアミノ酸配列はメチオニンから始まります。翻訳のしくみも『補遺:遺伝子と遺伝子発現のしくみ』に詳しく説明をしました。

 合成されたタンパク質は、そのままでは機能することはできません。「タンパク質」と言うためには、機能できる状態、つまり、しかるべき構造をつくり、さらに機能するべき場所へ運ばれる必要があります。授業では細胞膜タンパク質や細胞外で機能するタンパク質を例にして説明をしました。膜タンパク質は、今週以降の授業でもたびたび取り上げますので、どのように運ばれていくのかについてもよく考えるようにしましょう。