2016年度 第6回 細胞分裂とDNAの複製、遺伝子

 今週は細胞の「増殖と分化」を理解する手がかりとして、
・細胞がどのように分裂するのか。
・遺伝情報を保存する実体であるDNAはどのような構造であるか。
・細胞分裂に伴ってDNAはどのように振る舞うのか。
を考えました。

 細胞分裂については高校の生物のほうが詳細に取り上げられています。高校の教科書や資料集などが手元にあれば、一度見直してみるといいでしょう。生理学の授業では、核とその内部のDNAがどのように振る舞うのかを中心に分裂現象の概略を説明しました。知っておくべき用語もいくつかありますが、分裂の様子を頭に思い浮かべながら見直しておきましょう。

 DNAの構造は『生理学のための化学』に解説しました。複製のしくみも合わせて熟読してください。相補的な塩基が向かい合った二重らせん構造であることが、細胞分裂に伴って正確に複製される、すなわち、DNAが遺伝子の実体であると言うことの前提です。DNAが二重らせんであることが分かったのは20世紀の自然科学上の最も重要な発見の1つであり、今や、生命現象を考える上で不可欠の知識です。

 DNAはポリヌクレオチド鎖が相補的な塩基どうしで向かい合っていますが、このポリヌクレオチド鎖はどれだけでも長くすることができます。ヒトには46本の染色体があり、それぞれが2つ染色分体よりなっています。各染色分体は一つながりのDNAでできています。授業の最後に取り上げた22番染色体(正確には一方の染色分体分)は4千8百万塩基対で、これだけ一つながりになっています。

 時間の都合であまり詳しく触れませんでしたが、『一家に一枚ゲノムマップ(Genome Map)』にはいろんな情報があります。字が小さくて見にくいですが、ここの染色体に描き込まれている遺伝子名、タンパク質名はともかく、下部の説明などには目を通しておくといいと思います。また、特別に取り上げられている遺伝子・タンパク質はいずれも生理学上重要な機能を担っているものばかりです。中には、その欠損や変異が重大な疾患の原因となっている遺伝子もあります。今後の学習の参考にもなると思いますので、時間のあるときに調べてみるといいでしょう。


 宿題の提出期限を伝え忘れました。来週の授業の前に、クラスごとにまとめておいてもらえると助かります。

ミトコンドリアの成り立ち:共生説

 今回は細胞質に多数ある小器官の1つであるミトコンドリアの成り立ちを考えてみます。

 授業で説明したように、ミトコンドリアには二重の膜があり、内部で酸素を利用してATPを産生しています。細胞内にありますから非常に小さいわけですが、実は小型の細菌と同じくらいの大きさです。

 いわゆる細菌(bacteria)は原核生物と言って、単細胞である上、内部に核の構造がありません。もちろん、遺伝子、DNAは持っています。これらを包み込む構造がないと言うことです。これに対して、動物や植物は真核生物と言い、核の構造を持っています。真核生物の細胞は、細菌である原核生物の細胞の1000倍もの容積を持っています。もちろん、この大きな「体」を支えるためにさまざまな工夫が必要で、細胞骨格もその1つです。

 さて、ある種の真核細胞は周囲の細菌を(食作用によって)飲み込んで、(リソソームの作用によって)分解することによって、自らの栄養源としていました。ところが、「ある日」飲み込まれた後、消化されることなく、そのまま細胞質内にとどまってしまった細菌がいます。この飲み込まれた細菌は、ATPを大量に産生できたため、細胞側にこのATPを提供して、安全な囲いと栄養分の提供してもらって、共生することになりました。

 共生した細菌は酸素を利用したATP産生能を有していたため、ATPの産生能力が高く、この細菌を共生させた真核細胞(宿主細胞)は他を完全に圧倒して生き残り、現在につながる動物や植物の基になりました。このような考え方を「共生説」と言います。実験で確かめることはできませんし、進化を再現することもできないので、いつまでたっても「説」ですが、間違いないでしょう。

 ミトコンドリアの起源になった細菌は、食作用によって飲み込まれたため、自らのもつ細胞膜の周囲は宿主となった細胞の細胞膜で覆われています。つまり、二重の膜で覆われた状態になっているわけです。

 ミトコンドリアには独自の遺伝子があり、独自にタンパク質を合成するためのリボソームをもつと説明しましたが、もともとが単独で生活できる生物であったと考えると理解することができます。

 植物の細胞には葉緑体があります。光合成によってATPを産生する植物独自の細胞小器官です。この葉緑体もミトコンドリアと同様に細菌の共生に起源をもつと考えられています。

 およそ15億年前、地球上の大気が酸素に富むようになり、この酸素を利用してATPを産生できる細菌が生まれました。この後に、それまで酸素を利用できなかった真核細胞と、酸素を利用できる細菌との間で始まった共生が、ミトコンドリアの起源であり、その後の生物の進化の道筋を決めました。

2016年度第5回 細胞質

 今週は細胞質を構成するサイトゾルと細胞小器官について列挙しながら構造と機能を概説しました。一つ一つ繰り返すことはしませんが、説明に用いた図を見ながら、それぞれの名称、構造の特徴、機能について自分なりに説明できるようにしておきましょう。

 赤血球や白血球、血小板については構造上の特徴や機能を学んだと思います。授業中に質問した内容も含めて見直しときましょう。

 ヘモグロビンは赤血球だけがもつタンパク質ですが、これは赤血球のサイトゾルにあります。もちろん、循環血中の赤血球は核のみならず、多くの細胞小器官を持たない、言い換えるとほとんどサイトゾルしかない非常に特殊な細胞です。脱核直後の網状赤血球を考えるとわかりやすいかもしれませんが、細胞小器官はありながらも、サイトゾルには大量のヘモグロビンが存在しています。また、血小板も細胞小器官を十分に持っているわけではなく、サイトゾルが大きな割合を占めています。血小板凝固に関わる多くの因子もこのサイトゾル中に含んでいます。

 白血球のうち、好中球や単球が分化したマクロファージは食作用を持ちます。食作用については6月の授業であらためて取り上げますが、食作用で取り込んだ微生物などを分解するためにリソソームが必要です。また、マクロファージが遊走していく場合には、細胞の形態を変化させたり運動したりする必要があります。このような現象には細胞骨格がその役割を発揮しています。

 来週、再来週の授業ではリボソームでタンパク質が産生され、さらに、粗面小胞体、ゴルジ装置での修飾、貯蔵を経て細胞膜へ運ばれていく過程を考えます。これらの構造や機能をしっかりとは見直しておくように。

 粗面小胞体と滑面小胞体は構造だけではなく、役割も全く違います。骨格筋や心筋における滑面小胞体は、特に筋小胞体(sarcoplasmic reticulum)といい、カルシウムイオンの貯蔵庫として機能しています。心筋の構造と機能もそろそろ学んでいると思いますが、骨格筋については前期の最後に取り上げます。

 来週は細胞分裂と染色体、そして遺伝子について取り上げます。予習をかねて、あらかじめ『生理学のための化学』9.核酸の構造と複製をよく見ておくこと。

「細胞」とは? 2

 やや長くなってきたので、後半を分けることにします。

 日本語の「細胞」という語は、江戸時代に出版された宇田川榕庵の『植学啓原』という書物にはじめて登場します。それまでに用例がないようですから、「細胞」は彼の造語でしょう。『植学啓原』のデジタルデータをWebで閲覧することは可能です(ここです:http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/f113/image/1/f113s0001.html)が、残念ながらどのような意味で使われているのかを自分で確かめてはいません。どうやら樹木の横断面に出現する細管に対して使っているとのことで(山科正平著『細胞発見物語』)、現在の生物学での意味とは異なっているようですが、フックの「cell」と同様に、後世に大きな足跡を残したといえるでしょう。

 「胞」とは、もともと「胎児を包む皮膜、母の胎内」(広辞苑)の意です。ここから、生体内に存在する膜で包まれたものを表すようになっいったようですから、「細胞」とは「生体内にある、膜で包まれた小さなもの」の意と考えられます。要を得た造語というべきでしょう。「細胞」は中国にも渡り、中国語でも「cell」は「細胞」です。

 話はそれますが、宇田川榕庵(うだがわようあん、1798~1846)は江戸時代後半に活躍した蘭学者です。もともと医者の家に生まれて、シーボルトとも交流を持ちながら西洋の自然科学を学び、医学、化学、生物学に関する西洋の書物を翻訳して日本に紹介しました。この翻訳の過程で、現在につながる多くの自然科学用語をつくっています。「生理学のための化学」でも紹介しましたが、オランダ語の「waterstof」の訳語として「水素」という語をつくったのも彼です。宇田川榕庵は『舎密開宗(せいみかいそう)』という、化学に関する著作もあります。イギリス人が書いた(つまり英語の)化学の教科書のドイツ語訳のオランダ語訳をもとに、他の文献も参考にしてまとめたそうですが、この中で「酸素」や「炭素」、「白金」などの元素名や「酸化」、「還元」、「溶解」などの言葉がうまれました。

 宇田川榕庵は江戸詰めの大垣藩医の家に生まれますが、当時津山藩医だった宇田川玄真の養子となり、幕府にも重用されたとのこと。養父である宇田川玄真は杉田玄白や大沢玄沢に学び、オランダ解剖学書を翻訳して高い評価を得ていたようで、こうした翻訳作業の中で玄真は「腺」や「膵」といった現在我々が当たり前に使っている漢字をつくった(造字?)そうです。

「細胞」とは? 1

 「細胞」とは「cell」の訳語としてつくられた語です。そもそも「cell」とは 修道院での修道士や修道女たちの個室、あるいは隠遁するための庵を表した語で、ラテン語で「小さな部屋」などを意味する”cella”に由来するそうです。中世には監獄の各房を表す語としても用いられたようですが、17世紀にはハチの巣の房室や植物の構造に対しても用いられていたようです。(Online Etymology Dictionaryを参考にまとめました)

 さて、「cell」という語が現在の「細胞」に近い意味で使ったのは、同じく17世紀、イギリスのロバート・フック(robert Hooke。1635~1703)です。フックは最初の顕微鏡を発明してさまざまなものを観察しているほか、バネの伸びに関する弾性の法則(フックの法則)を発見したことでも知られています。彼の顕微鏡を使った観察図を集めた「ミクログラフィア(Micrographia、顕微図譜)」という書物の中に有名なコルクのスケッチがあります。ここに描かれた一つ一つの小さな箱のような部分に対してフックは「cell」という語を当てて報告しました。(MicrographiaはWebで閲覧することができます。ここ(http://www.gutenberg.org/files/15491/15491-h/15491-h.htm)でひらいて、Schem11 にある図を見てください)

 我々が製品として目にするコルクは、コルク樫の樹皮をはいで乾燥させたものです。したがって、フックが顕微鏡で見た「cell」は、細胞(正確には原形質)が抜け落ちて周囲の細胞壁だけが残ったもので、「細胞」ではありません。しかし、「cell」という言葉を提唱し、意味は変わってもその後も使い続けられているという点で、大きな意義があったと思います。

 フックと同時代に顕微鏡を開発したオランダのレーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek、1632~1723)は赤血球や精子などを観察していたようです。そして、現在につながる「細胞はすべての生物の構造および機能の単位である」(岩波生物学事典)という考え方(これを「細胞学説」といいます)を提唱したのがドイツのシュライデン(Matthias Jakob Schleiden、1804~1881)とフランスのシュワン(Theodor Schwann、1810~1882)です。彼らも「cell」という語を使って自らの発見と考えを報告しました。

2016年度第4回 ATP、細胞膜、細胞核 

 今週は前半に化学反応に伴うエネルギーについて、ATPを中心に説明しました。後半では、細胞膜と核について取り上げました。

 生体で生じる生理学的な現象の多くは化学反応を伴っています。今週の授業で取り上げた細胞膜をつくるためにも多くの化学反応が必要で、そのために莫大なエネルギーが消費されています。この生体内、あるいは細胞内で生じている化学反応(同化反応)に必要なエネルギーを供給しているのがアデノシン三リン酸です。また、化学反応(異化反応)によって放出されたエネルギーの多くもアデノシン三リン酸に貯蔵されます。ATPとその働きは、今後の授業でも頻繁に取り上げます。名前とおおざっぱな役割をしっかりと頭に入れておくように。具体的な作用は今後の説明で少しずつ分かってくると思います。また、酵素など、今回は説明を省いた部分は今後の授業で何らかの形で取り上げることにします。

 さて、今回細胞の構造と機能を考え始めましたが、やっと生物学らしくなってきました。地球上の生物はすべて細胞によって構成されています。たとえ単細胞生物であったとして、細胞です。単細胞生物の細胞と多細胞生物を構成する細胞とは構造の異なるところもありますし、動物と植物でも違いがあります。しかし、細胞を単位としている点では共通していますし、細胞である以上絶対に必要な構造や機能があります。

 授業では、動物、特にヒトを含む哺乳類を構成する細胞、という程度の共通項で考えていくことにしましょう。

 最初に考えたのは細胞を覆っている細胞膜です。細胞膜の機能は別の機会に取り上げますが、まずは構造についてしっかりと理解しましょう。細胞膜の構造は全体として「流動モザイクモデル」と考えますが、基本構造は脂質二重膜(脂質二重層)です。脂質二重層、特にリン脂質の二重層が袋状の構造になるとなぜ細胞になり得るのか、授業中に簡単に説明しました。「生理学のための化学」にも同様の説明をしましたので、改めて見直してみると理解しやすいと思います。

 脂質二重膜という場合には、単にリン脂質による二重膜というだけではなく、コレステロールや糖脂質も含んだ膜であるという意味です。そして、この脂質二重膜にタンパク質(膜タンパク質)がモザイク状に入り込んでいます。細胞の種類によって膜タンパク質の種類には差がありますし、同じ細胞であってもそのときの状態によって膜タンパク質の分布は変化します。脂質二重膜自体に流動性があるため、膜タンパク質も細胞膜を移動することができます。細胞膜がこのような性質を持った構造であるということから、流動モザイクモデルとよばれています。

 過去の期末試験問題を見てみれば分かることですが、細胞膜の構造と機能に関する知識は必ず問います。フレッシュなうちにしっかりと見直しをして、理解しておきましょう。

 最後に細胞核について簡単に触れました。内部にあるDNAについてはときを改めて取り上げることにしますので、今回は構造をよく見ておいてください。来週の授業で取り上げる小胞体ともつながっていますが、その成り立ちを理解するためには「envelope」であるということを知っておく必要があります。

2016年度第3回 生体の恒常性

 GWを挟んでしまいましたが、簡単にまとめました。

  第3回目の授業では「内部環境の恒常性」、「ホメオスタシス」という概念について、特に体液量やその組成を例に挙げて、「何が、どの範囲で保たれているのか」を考えてみました。また、そのしくみについても、やや概念的ですが触れました。

生理学1は動物的機能を主に取り上げますので、どちらかというと「ホメオスタシス」を直接テーマとして考えることは少ないかもしれません。しかし、生理学1の中心である神経系の機能はすべての器官系の働きを調節する上で必須です。さらに、さまざまな器官系の働きを強調させる上でも重要なはたらきをしています。生理学2では循環器系や呼吸器系が取り上げられると思いますが、これらの機能の神経性調節を考える機会があるはずです。どのように「ホメオスタシス」に関わっているのか、よく考えながら勉強してください。

 また、体液の性質は生理学のどの分野を学ぶ上でも必要な知識です。いくつかの数字や物質(電解質など)を取り上げましたが、いずれも常に頭に入れておいてください。

 先週連絡したように、来週12日の授業では冒頭で小テストを実施します。範囲は、生理学1の最初から先週の授業範囲、第1章4の冒頭までです。過去の問題なども参考にしながらよく見直しておくように。例年、小テストの成績と期末試験の成績は相関しています。普段の積み重ねが大切だということです。