2017年度 第22回 聴覚のしくみ、平衡感覚のしくみ

 聴覚と平衡覚の感覚器の構造について、生理学では機能に関わる部分について少し詳しく説明したかもしれませんが、基本的には解剖学でも学んでいるとおりです。もう一度よく確認をしておきましょう。

 聴覚のしくみは、前回説明した音波の空気の振動としての性質を頭に入れた上で考えましょう。振動のエネルギーは有毛細胞に伝わるまで、すべて何らかの振動、つまり物理的な刺激として伝えられていきます。この部分が聴覚器の“伝音部”にあたると考えますが、単に“伝える”だけではなく、エネルギーを増幅し、さらに、音波の波長によって共鳴部位を使い分けています。そして、最後に、有毛細胞の感覚毛の運動することによってイオンチャネルが開閉し、細胞内へのイオンの移動を変化するため膜電位が変化します。じつによくできたしくみです。途中で両生類や爬虫類の聴覚器の構造にも触れましたが、哺乳類は元来夜行性です。したがって、視覚以外の感覚によって周囲の情報を得るために発達させてきた機能ではないでしょうか。

 味覚や嗅覚でも、適刺激に対する受容器細胞の反応のしかたを取り上げました。いずれも、受容体やイオンチャネルなど、膜タンパク質の機能として考えました。聴覚や平衡覚で機能する有毛細胞も同様に、感覚毛にあるイオンチャネルのはたらきを説明しました。このように、一見マクロに見える現象も分子レベルでの構造と機能によって説明することができます。これらが現代の生命科学の重要な到達点です。最近の高等学校の生物では、こうした内容がかなり取り上げられています。医学を学ぶものとして、是非とも身につけてほしいものです。

 平衡覚は自覚しにくい感覚であるため、この感覚機能が乱されたような場合にどんな症状を呈するかをはじめに説明しました。別の例を挙げると、イヌやネコなどを仰向けにするとすぐにうつぶせ、あるいは四足で立つような姿勢をとろうとします。腹部を他社に見せることが危険につながるため、それを防ごうとする反射的な行動です。このとき、自らの背中が地面について腹部が上方を向いている、あるいは顔面が上方を向いているということは頭部の回転方向を検知することによって知覚しています。もし、東部の回転方向を知ることができなかったら、つまり平衡感覚器が機能しなかったらどうなるでしょうか。マウスやラットでの実験的に内耳を破壊すると、いったん仰向けにしてやってもそのままの姿勢を維持します。つまり、頭部の方向を全く理解していないということです。

 地球上にいる生物にはすべて重力がかかっています。特に、動物は身体を動かすため、どうしても重力がどの方向にかかっているのかを知っておく必要があります。平衡覚はあらゆる感覚の中で、最も早くに獲得された感覚の1つと考えられています。そして、そのしくみをそのまま流用して聴覚が発達してきました。したがって、感覚受容器は隣り合った部位にあり、さらに、刺激の受容のしかたもほとんど同じです。

 来週はお休みです。再来週は平衡感覚について補足して、その後視覚に入ります。

2017年度 第21回 味覚の中枢、嗅覚、音波

 味覚と嗅覚はともに化学物質を適合刺激とする感覚であることから、多くの共通点がありますが、相違点もはっきりとしています。これらを比較してみると、それぞれの特徴も見えてくるでしょう。

 それぞれの感覚の目的は、ともに生存に関する適、不適の情報を得るという点で共通してます。特に、その食物、飲料が摂取するに適するのか否かを判断するとともに、摂取に適した味やにおいを感じたときには消化器系の機能を促進するという点は共通しています。しかし、それらの感覚は他の動物と比べると鈍感であり、物質の検知閾値が高く(物質の濃度が高くないと検知できない)順応も速いという特徴があります。ヒトは視覚や触覚が発達している一方で、味覚や嗅覚から得られる情報をあまり当てにしてはいないようです。

 それぞれの基本感覚には大きな違いがあり、味覚には5つの基本味がありますが、嗅覚にはそのような感覚はありません。これは、物質に対する受容体の機能の差に依存しています。味覚の受容体は種類が限られ、決まった構造の物質だけを受容します。これに対して、嗅覚の受容体は非常に多種類で、さまざまな構造の物質に対応することができます。自身を取り巻く環境、文字通りに周りの空気の組成をできるだけ詳しく検知するという意味では、受容体の種類を増やす必要があったのでしょう。遺伝子レベルでの複雑な組換えが生じた結果、多種類の受容体タンパク質を産生できるようになっています。

 したがって、食物に関する情報を得るのは、まずその食物から発せられる揮発性物質を検知して、問題なしと判断したら口に入れてみて、さらに味を見て咀嚼、嚥下してもいいかどうかを判断する、という順でしょうか。

 それぞれの感覚の中枢を比較すると、味覚は大脳新皮質に一次中枢があるのに対して、嗅覚は大脳旧皮質(辺縁系とも言います)に一次中枢があります。進化的には、名前の通り旧皮質が先に出現し、哺乳類、特に高等哺乳類以降になって新皮質が飛躍的に発達してきています。環境を分析するための感覚として、あるいは、離れたところにいる天敵や仲間の存在を知るため感覚として、嗅覚はかなり古くから発達していたのでしょう。後期の最後で、ヒトとヒト以外の哺乳類の脳を比較してみますが、嗅球などが脳全体に占める割合を比べると、ヒトと他の哺乳動物では大きな違いがあります。

 後半では、嗅覚の適刺激である音波について取り上げました。説明がやや不十分だったと思いますが、音の大きさと高さの感覚の違いが音波刺激のどのような性質に依っているのかを理解してください。また、ヘルツやベルなど、日常生活でも比較的頻繁に使われる考え方にも触れました。知っておくといいでしょう。機会があれば、今回取り上げなかった音色の特徴も含めて、音楽的な意味での音の特徴についても取り上げたいと思います。

 次回は聴覚器の構造から、どのようにして音波刺激を神経系の電気信号に変換し、聴覚が成立するかを考えます。また、聴覚と同様に内耳に感覚器官がある平衡感覚についても取り上げます。

2017年度 第20回 内臓感覚、痛覚の特徴、味覚

 先週の授業は、冒頭で体性感覚の中枢についてまとめました。脳、特に感覚機能には「体部位局在」やこれとよく似た特徴を持つ領野が他にもありますが、一次体性感覚野は非常にわかりやすい局在性を示します。ホムンクルスとして描かれた図を見ても分かるように、その局在性には大きな特徴があります。図を見ながら順序をよく頭に入れておきましょう。先々週の授業で取り上げた体性感覚の伝導路を示す図(p245ほか)の中で、視床からの三次ニューロンの伸びる先をよく見てみましょう。それぞれ、下肢や上肢、あるいは顔面などの中枢部位へ入っているのが分かると思います。

 授業ではヒトについてのみを考えましたが、他の動物にも一次体性感覚野が脳の特定の領域に存在し、体部位局在が存在します。ただ、ヒトとは割り当てられている部位の大きさが全く異なっています。どのように異なっていると思いますか?

 先週は痛覚についてのいくつかの特徴を取り上げました。雑駁な内容でしたが、中でも重要なのは内臓痛覚の痛みの特徴と関連痛(放散痛)、そして、オピオイドです。いずれも他の科目でも取り上げられるでしょうが、この機会に理解しておきましょう。また、ストレス反応については概略を説明するにとどめましたが、内分泌系の機能を学ぶときに合わせて見直してみましょう。いくつかのホルモンのはたらきをひとまとめにして理解することができると思います。

 後半では特注感覚に入りました。今回は味覚について、その感覚の特徴と受容器・受容体を取り上げました。

 味覚の基本的な機能は「動物として生きていく上で必要な機能」という点に注目して考えています。基本味もこの観点から大きく2つに分類してみました。基本味物質の検知閾などと合わせて考えるとわかりやすいでしょう。

 味覚受容に関するしくみは、味蕾の構造と味細胞のはたらきをしっかりと理解した上で、各味物質ごとに存在する受容体、または受容体型イオンチャネルを考えましょう。これら膜タンパク質に味物質が作用することによって味細胞に電位変化が生じ、さらに、味細胞から味神経へ興奮が伝達されます。プリントで「味神経」としたのは、単一の神経をさすわけではなく、味細胞からの興奮を受ける神経という意味で示しました。明日の授業で取り上げるように、味蕾の部位によって神経が異なります。

 明日は、嗅覚を取り上げた後、聴覚に入ります。まずは、聴覚の適刺激である「音波」について説明します。


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 加納 安彦
 名古屋大学環境医学研究所
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