コルチ器の外有毛細胞のはたらきについて

 聴覚における受容器細胞は蝸牛管のコルチ器にある有毛細胞で、ここには内有毛細胞と外有毛細胞の2種類があります。授業では受容器細胞としては内有毛細胞のほうが優位にはたらき、感覚神経のほとんどはこの内有毛細胞とシナプスをしていると説明しました。外有毛細胞については運動神経とシナプスをつくっている説明したのみでした。質問もありましたので補足をしておきます。

 有毛細胞はヒトあるいは哺乳類に限らず、内耳器管を持つすべての動物の感覚受容器細胞として機能しているそうですが、授業でも説明したとおり、ヒトでは蝸牛管と、前庭・耳石器並びに半規管に存在します。そして、それぞれの細胞の基底部に神経が伸びてきており、シナプスによって接続しています。

 第Ⅷ脳神経である内耳神経は感覚神経と運動神経の2つの神経成分を含んでいます。解剖学では内耳神経はすべて感覚神経であると学んだかもしれませんが、枝である蝸牛神経も前庭神経も、感覚神経と運動神経の両方を含でいます。(生理学プリントp182を参照) 

 ここからは蝸牛管基底膜上に、コルチ器の構成細胞として存在する2種類の有毛細胞を考えます。内有毛脂肪はおよそ3,500個が1列に並び、外有毛細胞はおよそ20,000個が3列(部分的には4列)に並んでいます。そして、内有毛細胞は、まさに聴覚の受容器細胞として機能しています。しかし、外有毛細胞は聴覚の受容器細胞としての役割は、内有毛細胞と比べて小さく、むしろ、コルチ器の振動によって内有毛細胞同様に膜電位が変化することにともなって細胞の長さを変化させるという性質を持っています。

 外有毛細胞が脱分極すると細胞の長さをわずかに短縮させ、このことが基底膜の振動を増幅する効果を生むようです。したがって、内有毛細胞の感覚毛に加わる機械的な刺激が増大し、内有毛細胞の受容器としての感度を高める作用を持っていると考えられています。
  
 さらに、外有毛細胞はシナプスをつくっている神経のほとんどは運動神経です。この運動神経は上オリーブ核(多くは対側)に起源を持つ神経線維で、この運動ニューロンと外有毛細胞との間のシナプスは抑制性シナプスです。したがって、運動神経の興奮は外有毛細胞に過分極を生じ、上で説明した細胞の長さを短縮させるはたらきが抑制されます。この結果、内有毛細胞の感度を低下させていると考えられています。

 残念ながら外有毛細胞自体の運動性と、運動神経からの刺激による外有毛細胞の機能の抑制はうまく結びつけられていないようで、運動神経の作用が聴覚全体にどのような影響を持っているのか、詳細は明らかにされていないようです。

 聴覚の機能にはまだまだ分からないことがたくさん残されています。例えば、我々が聞いているヒトの声や楽器の音には多くの倍音が含まれています。つまり、聞こえている音の高さ(音程)の整数倍の周波数の音波がたくさん含まれているのですが、実際に聞こえている音程は1つだけです。あるいは、大勢の声や多くの音が周りで鳴っているときでも、目の前ので話している人の小さな声でも聞き取ることができます。このような現象を「カクテルパーティー現象」といいますが、なぜこのような現象が生じるのかよく分かっていません。外有毛細胞のはたらきは、こんなところに関わっているかもしれません。

2018年度 第24回 平衡覚、可視光線の特徴

 平衡感覚はいわゆる五感には含まれません。古来、ヒトが特に認識することなく過ごしてきたということでしょう。したがって、その感覚についてうまく言葉で言い表すことも難しく、なかなか説明しづらい感覚です。そこで、授業では平衡感覚が乱された場合や感覚器官が障害を受けた場合にどのような症状が現れるかを考えました。

 鉛直方向や前後あるいは左右方向への加減速などの受動的な動きによって生じる静的平衡と、頭部の回転などによって生じる動的平衡に分けて、それぞれの受容器の構造と機能を考えました。前者は卵形囊と球形囊(合わせて耳石器)で、後者が半規管です。

 進化的に考えると、元々は聴覚などはなかったと考えられます。現在も海生動物には聴覚がないと考えられる動物もたくさんいます。しかし、水中で生活をしている動物であっても、重力に対して姿勢を維持する必要がありますし、周囲からの水の圧力を受けると体勢が崩れます。こうしたことへの適応から平衡感覚が備わったのでしょう。しかし、水の振動も小さな圧力であれば体勢を崩すことはなく、むしろその周波数の違い感覚し分けることができれば情報として使えます。ここから聴覚が進化したのではないでしょうか。したがって、平衡覚と聴覚は、ほとんど同じ部位に受容器があり、そのしくみも非常によく似ています。

 卵形囊と球形嚢は平衡斑の構造を、半規管は膨大部の構造をしっかりと確認しておきましょう。
BCの授業では卵形囊と球形囊のはたらきの違いについてはっきりと説明しませんでした。球形嚢は上下方向にかかった直線加速度(エレベーターに乗ったときなど)を検出し、卵形嚢は水平方向、つまり身体の前後方向あるいは左右方向にかかった直線加速度(車に乗っているときの加減速など)や頭部の傾きによって生じる加速度を検出しています。
半規管は3つが互いに垂直に交叉していますが、外側半規管が水平方向にあることは説明しましたが、前半器官と後半規管の位置関係をはっきりと説明していませんでした。この2つはともに外側半規管に対して垂直で、正中矢状面と約45度となる平面上に位置し、前半器官が前方に、後半規管が後方にあります。

 有毛細胞は静止状態でもある程度脱分極しており、その結果、感覚神経に対して興奮が伝達されています。したがって、感覚神経(前庭神経)は静止時でもある程度の興奮を送り出しています。ここで加速度運動が生じると、耳石の重さや半規管の動きと内リンパの動きとの間の差によって、感覚毛が一方向へ屈曲します。屈曲する方向によって、内リンパのカリウムイオンが有毛細胞内へ流入しで脱分極が大きくなったり、逆に流入が完全に阻止されて過分極が生じたりします。脱分極が
大きくなると感覚神経のインパルスの頻度が高まり、過分極が生じると感覚神経のインパルスの頻度が低下します。加速度の方向によって、左右で逆になったり、前後で逆になったりするでしょう。

 卵形囊・球形囊と半規管の有毛細胞は前庭神経とシナプス接続し、前庭神経は前庭神経核へ投射しています。前庭神経核は外側核、内側核、上核、下核に区分される大型の神経核です。ただし、有毛細胞の位置と神経核の部位に明確な対応はないようです。この前庭神経核は大脳皮質(一次体性感覚野の一部)、動眼神経核、外転神経核、滑車神経核へのびる神経線維があります。また、一部は脊髄にも伸び、頸随や胸髄、腰髄の運動ニューロンと直接つながっています。単に感覚が生じるというだけではなく、直接運動を引き起こすことができます。

 痛覚や味覚、嗅覚の伝導路では視床下部や大脳辺縁系に情報が送られて、このことが情動反応を引き起こすことにつながっていました。平衡覚では、身体の運動を生じるような経路があることをよく頭に入れておきましょう。

 後半では光、すなわち電磁波の特徴を簡単にまとめました。視覚の適合刺激は可視光線ですが、ヒトが知覚できるというから「可視」光線というのであって、電磁波という物理現象です。波長とエネルギーの違いによって分類され、その利用法も異なっています。『光マップ』で改めて確認しておきましょう。また、電磁波に共通する屈折と分散、特に屈折は来週の授業で取り上げる視覚おける遠近の調節機能を考える上で必須ですのよ組み直しておきましょう。

 今日はプリズムを持っていくのを忘れてしまったため、来週の授業で実物を見ながら屈折についておさらいする予定です。

 『色』というのはじつに不思議なものですが、発行しない物体の色が反射と吸収によって生じるということを理解できていればよいでしょう。

 来週は視覚機能を具体的に考えていきます。視覚器である眼、あるいは眼球の構造については余詳しく説明できませんので、あらかじめよく予習しておきましょう。

2018年度 第23回 聴覚

 今回は聴覚の適合刺激である音波についても、やや詳しく説明をしました。バネの性質は小学校か中学校で学ぶ機会があると思うので、波の性質については理解できたと思います。音波も高等学校で学ぶ機会があっても多くは忘れていたことでしょう。医学、生物学といえども、しっかりと理解するにはさまざまな知識が必要です。

 音の大きさと音の高さについて取り上げましたが、音波のどのような特徴が感覚の差、つまり大きいか小さいか、高いか低いかという違いをつくりだしているのかを知っておきましょう。合わせて、それぞれの基本となる単位、ベルとヘルツも知っておく必要があります。

 耳の構造、外耳、中耳、内耳の詳細は解剖学で学ぶはずです。本来は構造を先に学んでおくべきですが、今年は逆になったようです。解剖学で取り上げられた際には、それぞれの部位の機能を改めて確認しながら見直しましょう。

 特に重要な部位は、鼓膜、耳小骨、蝸牛で、さらに蝸牛は、前庭階、鼓室階、蝸牛管について内部の液体の違いに注意して見直しましょう。コルチ器は重要であるのはいうまでもありません。2つの有毛細胞の反応のしかたとカリウムイオンの流入、そして興奮の伝達までをよく見直しておきましょう。

 聴覚の伝導路は、有毛細胞、蝸牛神経、蝸牛神経核、視床内側膝状体、一次聴覚野という大きな通り道をおさえながらも、蝸牛神経核から後は左右に分かれる並行回路として進んでいくところが、他の感覚と異なっています。

 来週は、前半で平衡感覚を取り上げます。後半では、今日配布した「光マップ」で視覚の適合刺激について簡単に説明して、視覚器の構造を考えます。

2018年度 第22回 味覚と嗅覚

 今回から特殊感覚に入りました。冒頭でも繰り返したように、受容器が頭部の限局した部位にあり、感覚神経が脳研歯頸に含まれている点が一般感覚に対して異なっています。

 味覚と嗅覚には適合刺激がともに化学物質であり、化学感覚としてまとめられるため、連続して取り上げます。また、順応性、ヒトにとっての情報量や鋭敏さなど、共通点が多いのも特徴です。ただし、受容体の種類という点では、味覚が基本的に5種類にまとめられるのに対して、嗅覚は数百種類あるとされています。したがって、基本的な味は考えられますが、基本的なにおいを考えることはできません。

 話は少しそれますが、ヒト以外の哺乳類では嗅覚受容器は1000種類以上あるものが多く、ヒトは元々持っていた受容体遺伝子の多くが偽遺伝子化してしまっているようです。偽遺伝子とは、「既知の機能遺伝子と塩基配列の上で高度の類似性があり、それとの相同性がはっきり認められるにもかかわらず、遺伝子としての機能を失っているDNAの領域」(岩波生物学事典第5版)のことです。したがって、全く発現しないか、発現してもそのタン パク質がすぐに分解されてしまい、事実上機 能しないと考えられます。ヒトにとっての嗅覚の重要性が低いことを示しています。

 受容体の構造や機能についてはかなり難易度が高いと思いますので、説明されて分かれば十分です。しかし、味細胞や嗅細胞の膜タンパク質が刺激となる化学物質に対する受容体として機能していること、さらには、化学物質の結合(またはイオンチャネルを通過すること)が受容器細胞の電位変化を引き起こすことを理解しておきましょう。基本的には、脱分極や活動電位が生じるしくみと同一です。

 受容体の存在部位は、味細胞では味毛=微絨毛ですが、嗅細胞では嗅線毛(嗅毛)=線毛です。いずれも細胞の一部が突出した構造ですが、周囲は細胞膜で覆われています。

 受容器細胞が興奮すると、インパルスが感覚神経を伝導します。味覚の受容器は味細胞ですが、味細胞はニューロンではなく独立して機能する感覚受容器細胞ですから、シナプスを介して感覚神経と接続しています。この感覚神経は受容器の部位によって異なっています。よく問われる点ですからしっかりと確認しておきましょう。これに対して、嗅覚の受容器である嗅細胞は、これ自体がニューロンであり、軸索をもっています。この軸索が視神経を構成しています。

 それぞれの伝導路を考えてみると、いずれも脳神経部分が一次ニューロンにあたり、それぞれ延髄は嗅球で二次ニューロンに交代します。味覚の伝導路は視床を経由し、大脳皮質新皮質(前頭弁蓋と島)へと至るルートで、他の感覚の伝導路をよく似ています。しかし、嗅覚の伝導路は嗅球という、大脳辺縁系に属する部分から、同じく辺縁系の一部である梨状皮質に入ります。大脳の成り立ちを考えると新皮質の法が進化的に新しい領域で、辺縁系は古い領域です。つまり、より高度な機能を獲得している動物ほど新皮質が発達しています。したがって、味覚に比べると嗅覚はより原始的であるということでしょう。

 来週は聴覚を取り上げます。

2018年度 第21回 体性感覚の伝導路、体性感覚の中枢、痛覚

 生理学に限らず、どの分野でもすべて知識の積み重ねであり、すでに学んでいるさまざまな内容を結びつけていくことが大切です。今回取り上げた内容も、例えば解剖学で学んだ脊髄や脳の構造、生理学で学んだ感覚機能をと結びつけて考えられるようにすることが「理解する」ということです。

 先週に続いて取り上げた伝導路の内、脊髄小脳路は第9章で改めて触れることになりますが、運動機能を営むために感覚機能によって得られた情報が利用されています。こうした内容を理解していくことも、積み重ねたものを結びつけていくことです。

 もうひとつの脊髄網様体路は、侵害刺激を受けたときの全身性の変化、すなわち情動反応を考える上では大切です。情動反応が生じるというところが、他の体性感覚と痛覚の大きな違いでもあります。授業の最後の「ストレス反応」に関する説明ややや中途半端で変わりにくかったかもしれませんが、内分泌を学んだところでもう一度見直しておきましょう。分からないところがあればいつでも質問して下さい。

 痛覚については別の科目でもそれぞれ異なった観点から取り上げられると思いますが、関連痛は臨床症状から診断を下す上で重要な手がかりとなるものです。また、痛覚の抑制システムや痛覚過敏も、メカニズムを理解することが大切だと思います。取り上げられたときにはしっかりとしっかりと学習しましょう。

 体性感覚の中枢、特に一次体性感覚野についてはやや時間をかけて説明しました。特徴ははっきりとしていますので、必ず自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。

 来週から第8章『特殊感覚』に入ります。