授業に関連する話題

前期試験の模範解答を掲載しました

 先ほど、前期末試験の問題と模範解答をここに掲載しました。
 模範解答には解説を付しましたので、参考にしてよく見直しておくこと。特に、出来具合が思わしくなかった場合には、もう一度やり直すとともに、解説を見ながらよく復習すること。

 採点した答案はクラスの担任の先生から返却してもらえるようにします。合わせて、レポートの評価も記載しておきます。

NHKスペシャル・シリーズ『人体』総集編が放送されます

 授業でも紹介したことがありますが、NHKスペシャルの『人体』が再放送されます。数年前に放送された「神秘の巨大ネットワーク」と今年放送された「遺伝子」を全部で5回に分けたかたちでの総集編です。

 どのような編集になっているのかは分かりませんが、見逃したのであれば見る価値があると思います。深夜の時間帯ですので録画して夏休み中にでもゆっくりと見るといいのではないでしょうか?

 https://www4.nhk.or.jp/P4619/

タンパク質を構成するアミノ酸:21種類目

 タンパク質を構成するアミノ酸が20種類であることは医学を学ぶ場合のみならず、さまざまな場で触れられます。『生理学のための化学』でも第10章で、20種類のアミノ酸の名称と構造を化学的な特徴によって分類して一覧にしています。合わせて、それぞれのアミノ酸の略号も紹介しています。

 授業では例外的に20種類以外のアミノ酸もあり得るという意味の説明をしましたが、ヒトにもある例外を1つ取り上げましょう。セレノシステイン(serenocystein; Sec)というアミノ酸です。セレノシステインは、20種類のアミノ酸の1つであるシステイン(cystein; Cys, C)の側鎖にあるスルフィド基(-SH)の硫黄原子(S)がセレン原子(Se)に置き換わった構造です。周期表を見ると、SeはSと同族で1周期下にあります。名称もこのような構造であることに由来します。

 セレノシステインの産生方法は他のアミノ酸の産生とは大きく異なっています。セレノシステイン用のtRNAに20種類の1つであるセリン(serine; Ser, S)が結合した状態で、セリンの側鎖のヒドロキシ基(-OH)を-SeHに変換することによってセレノシステインが産生されます。したがって、21番目とはいっても、あくまでも20種類のアミノ酸があってこその例外です。

 またセレノシステインに対するmRNAのコドンは、停止コドンの1つである"UGA"が当てられます。ただし、UGA配列の周囲に特別な塩基配列(selenocystein insertion sequence; SECIS)がある場合のみセレノシステインtRNAがmRNAと結合できるようになっています。セレノシステインを含んでいるタンパク質は細胞内での酸化還元反応に関わるいくつかの酵素に限られています。生理学で取り上げられる現象と関わっていそうなのは、甲状腺ホルモン(『内分泌系の構造と機能』で学ぶホルモンの1つ)であるサイロキシン(T4)をトリヨードサイロニン(T3)に変換するテトラヨードチロニン-5'-脱ヨード酵素でしょうか。『生理学のための化学』の第12章でビタミンの機能として触れるグルタチオンペルオキシダーゼもセレノシステインを含んでいます。

 授業で取り上げる内容はかなり表面的ですが、少し掘り下げるだけでものすごく幅が広がります。

キログラムが変わりました

 『生理学のための化学』でも少し触れていますが、先週の月曜日、2019年5月20日をもって質量の単位である「キログラム」の定義が変わりました。

 100年以上にわたって使用されてきた「キログラム原器」の質量を基準にするのではなく、光の速度やプランク定数という物理学上の基本的な量に基づいて再定義されました。「キログラム原器」は、当初10万年は重さが変化しないとして作成されたようですが、予想に反して経年劣化は早く、約50マイクログラム変化してしまったそうです。

 日本では茨城県にある国立の研究機関、産業技術総合研究所(産総研)の計量標準総合センターが基礎的な研究を通じて今回の定義の変更に大きく寄与したとのこと。「キログラム定義改訂特設サイト:https://www.aist.go.jp/taisaku/ja/kg/index.html」を設けて、快適の経緯や詳しい根拠などをまとめていますので、一度見てみましょう。

 また、朝日新聞のWebサイトでは産総研のセンター長さんが解説をしていますので、興味があれば読んでみるとよいでしょう。ここです:
https://webronza.asahi.com/science/articles/2019052200005.html

コレステロール

 授業中にコレステロールについて質問がありました。血中のコレステロールについては他の科目でも取り上げられるでしょうから、ここでは細胞膜に関して1点だけ補足をしておきます。

 授業では特に断りなく「細胞膜にはコレステロール必ずある」という意味の説明をしましたが、「動物細胞の」という限定を付ける必要があります。植物を構成する細胞=植物細胞の細胞膜にはコレステロールはほとんど含まれていません。他の種類のステロイド化合物が同様の役割を演じています。ステロイドという点では共通していますので、コレステロールと同様にステロイド環を持っている化合物です。また、植物にも、動物同様に「ホルモン」として機能する物質がありますが、ステロイドホルモンはわずかです。

 ところで、家庭で揚げ物や炒め物にはどんな油を使いますか? 多くの家庭では、いわゆるサラダ油、多くはひまわり油や菜種油、大豆油、ごま油などの混合物を使っているのではないでしょうか。中にはオローブ油を使う家庭もあるかもしれません。いずれにせよ、植物性油脂です。上の説明からも分かるように、植物にはコレステロールはほとんど含まれていませんので、これらの油脂は事実上「コレステロール・ゼロ」と考えてよいでしょう。わざわざ「コレステロール・ゼロ」と強調している商品もありますが、「他の製品にはコレステロールが入っているが、これには入っていないから健康によい」と言いたいのでしょうか? 

周期表の発展を支えた女性科学者たちの物語

 今週の後半で周期表に関するメンデレーエフの業績について説明しましたが、彼の前後にも周期表をつくっていく上で重要な研究成果を挙げた研究者たちはたくさんいました。150周年・国際周期表年を記念して、自然科学系の雑誌では多くの特集が組まれています。

 そのなかで、イギリスのNature誌が日本国内向けに出しているニュース雑誌"Nature ダイジェスト"では「周期表の発展を支えた女性科学者たちの物語」と題する記事を掲載しています。有名なマリー・キュリーをはじめ、教科書などではほとんど触れられることのない多くの女性科学者の業績が紹介されています。圧倒的に男性上位社会であった19〜20世紀(残念ながら現在も)の科学界で、諦めることなく真理を探究し続けた女性たちのドラマが描かれています。

 残念ながら有料記事で自由に読むことができませんが、申し出てもらえればお渡しいたします。

『トートラ:人体の構造ときの』は新しい版が出版されました

 先週、『標準生理学』の新版が近く出版されるとお知らせしましたが、『トートラ:人体の構造と機能』も今週、新しい版である第5版出版されました。出版元である丸善には並んでいるようです。

 追加で配布したプリントにでも触れている『原書第15版』の翻訳です。この原書15版の出版が2016年ですから、翻訳時間がかかっています。始めるのが遅かったのか、作業が遅れたのか分かりません。


 授業で図を最も多く引用している教科書です。図版の美しさは言うまでもなく、説明もわかりやすく、非常に使いやすい教科書です。国試の勉強やその後の見直しにはちょうどいいとおもいます。

 総ページ数はほとんど変わらず、価格も据え置き(¥10,000)です。ただし、電子版があるのかどうか、現時点では分かりません。

『標準生理学』の新版がもうすぐ出版されます

 ご無沙汰しております。
 明日は卒業式ですが、1年生はまだ授業があるのでしょうか?

 ところで、最後の授業で来年度用に準備したプリントの一部で、教科書や参考書の一覧を配布しました。このうち、『標準生理学第8版』は2014年に刊行されて既に5年がたっています。『第7版』が出版されたのが2009年でしたので、そろそろ新版が出るのではと思っていたところ、3月18日に『第9版』が出版されるようです。Amazonをはじめ、いくつかのWebサイトで「予約受付中」となっています。版元(医学書院)のHPでは特に何のアナウンスもありませんが、『第8版』は既に「在庫なし」と表示されているため、間違いないでしょう。

 価格は据え置きですから、ページ数もほぼ同じくらいなのではないでしょうか。『第8版』で約1,000頁ですが、ひょっとするとどこかを削って、高次神経機能や運動生理学に関する部分などでボリュームアップしているかもしれません。授業でもいくつかの図を使って説明しました。授業用に引用するには、常に最新版がわかりやすいわけではありませんが、自習するには最新にこしたことはないでしょう。

 電子版は『標準シリーズ』の基礎医学系10冊の一括販売(6年レンタル)ですが、常に最新版が利用できることになっています。研究室のPCやiPadにはダウンロードしてあるため、18日以降は最新版が読めるのではと期待しています。大きな差があるようでしたら、改めて報告します。

『人体』展

 先週の授業後は、東京へ行き上野の国立科学博物館で『特別展 人体 ~神秘への挑戦~(The Body ― Challenging the Mystery)』を見てきました。公式サイトはここ(https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2018/jintai/highlight.html)です。

 3月から開催されていましたが、6月半ばまでです。授業でも紹介したNHK特集『人体』で4月に展覧会自体を観覧するような番組を放送されています。興味を持った人もいることでしょう。医学の歴史やヒトと他の動物との比較など、貴重や資料や実物標本や数多く展示されています。現在の到達点にたって描いたアニメーションや実際の映像を通じて観察できる価値は非常に高いものです。

 今回最も期待していたのは、『ファブリカ』をはじめとする中世から近代にかけての医学書の原書や初期の顕微鏡です。授業で細胞の発見について簡単に説明しました。ロバート・フックが使った顕微鏡は複数のレンズが使われていて、現代の顕微鏡と基本的なしくみは同じです。しかし、微生物や毛細血管を流れる赤血球を発見したレーウェンフックは1個の球体レンズを用いた単式顕微鏡を使って観察しました。当時レーウェンフックが自作したと考えられる顕微鏡が展示されていました。『ファブリカ』やその著者であるヴェサリウスについては医学史で学ぶことでしょう。また、高等学校の生物の資料集などではレーウェンフック式顕微鏡の簡単な作り方も紹介されていますので、学校で試みたところもあるのではないでしょうか。

 また、心臓や肺、胃など、主な器官が生物の進化を経てどのように変化してきたのかを、実物の標本を見ることができたのも有意義でした。中でも動物の生活様式と心臓の構造の違いを、原索動物から哺乳類に至るまで通して観察できる機会はなかなかないでしょう。さらに、同じ哺乳類であっても、体の大きさにはかなりの差があります。心臓や胃などの消化器がの大きさの違いを実感できます。

 この他、神経系の構造について最も重要な発見をしたゴルジとカハールの業績にも触れられていました。授業で学んだ「ゴルジ装置」の発見者であるカミッロ・ゴルジ(イタリア)は、「ゴルジ染色法」という脳組織標本で神経細胞を可視化する方法を開発しました。一方、サンチャゴ・ラモン・イ・カハール(スペイン)はゴルジ染色法を用いた詳細な観察によって、ニューロンとニューロンがシナプスを介して情報伝達していることを明らかにしました。彼らが作成したプレパラートや観察スケッチ、さらには実際に使用した実験器具なども展示されていました。

 今回の展覧会のウリの1つは「キンストレーキ」という、張り子、つまり紙で象った人体模型です。国内に4体しかないうちの2体が展示されています。ほぼ実物大で、全身の皮膚を剝いだ状態を表した、男女の模型。現在のような標本や模型のない時代の学習手段です。さらに、オランダの博物館からワックスモデル、いわゆる蝋人形としての人体模型も借り受けて展示されています。キンソトレーキよりもかなり精巧で、リアリティがあります。数が少なく残念でしたが、ヨーロッパではかなり多くつくられたようで、いくつかの施設で大規模な展示があります。数年前にイタリアに旅行した際にもボローニャとフィレンツェで見学してきました。
ここを参考にしてください

 図録を購入しました。しばらくは学校においておきますので、閲覧したい場合は職員室まで。

 平日であったにもかかわらず、会場内はかなり込んでいました。一般の方々の関心の高さがうかがわれます。一方で、今回の展示の内容は、一部ではあっても専門課程で学ぶ知識に匹敵する解説も付されていました。一般市民もこれだけの内容に触れる機会があるということは、専門家をめざすものとして心しておく必要があるでしょう。

細胞内小器官の局在を蛍光染色で見る

 先週の授業で細胞小器官を一通り説明しましたが、その中で細胞骨格の局在を蛍光色素を使った方法で見ました。同様に、細胞内に存在する細胞小器官の局在を観察することができます。授業で一つ一つ紹介することはできませんが、以下のWebサイトでは自分でシミュレーションしてみることができます。

 細胞骨格の図の説明で取り上げたような蛍光色素を作っている会社のHPです。

ThermoFisherのWebサイト:
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/support/research-tools/cell-staining-tool.html

 全体は日本語で説明されていますが、シミュレーターソフトの部分は英語表記です。
“Preview”には白黒の細胞の図がありますが、ここに色がつきます。全体が丸く、ほぼ中央に核をもった典型的な細胞像です。
1)局在を見てみたい小器官名を選択し、
2)表示された色を決めると
3)それに応じた色素名が示されるので、いずれかを”Apply stain”すると
上にカラーで局在が現れます。右の”Applied steins”には自分が選んだ色素が順に表示されているはずです。

 複数の小器官を同時に選ぶこともできます。同じ色を重複させるとわかりにくいですから、異なった色を選ぶようにしましょう。

京都大学貴重資料デジタルアーカイブ

 先日新聞に、京都大学に日本の医学史に関する古書のデータがWebに公開されたという記事が掲載されていました。

 20世紀の前半、明治から大正の頃に書けて医学誌について研究していた富士川游の蔵書だそうです。今回初めて耳にした名前ですが、日本の医学誌の研究の草分けのような存在だそうで、明治以前の和漢の医学書を多数収集していたようです。中国の古い医学書の写本を始め、江戸時代の曲直瀨道三や山脇東洋の著作、また、前回の授業で紹介した宇田川榕庵の『植学啓原』なども含まれています。

 以下で閲覧することができます。
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/collection/fujikawa

後期試験の試験範囲について

次回の授業は後期試験期間が始まる前日です。前回の授業で確認しておかなかったのですが、後期試験の範囲は、後期の授業の始まりから次回25日の授業で取り上げたところまでです。

満遍なくすべての範囲を含むわけではありませんが、それぞれの重要なポイントをしっかりと押さえておくように。今更言うまでもありませんが、試験というものは、多くの項目の中で重要な点について、いくつかを代表させて問うものです。

もちろん、来週の授業内容も重要なポイントの1つです。

NHKスペシャル人体;神秘のネットワーク

 今週の土曜日と日曜日にNHKスペシャルとして放送される番組の紹介です。

 タイトルは
人体:神秘のネットワーク
で、ノーベル賞受賞者の山中伸弥さんとタモリが進行役を務めるようです。詳細はHPに発表されています。公式HPはここです。

http://www.nhk.or.jp/kenko/jintai/

 同様のテーマで過去3回?でしょうか、シリーズを組んでいますが、毎回その時々の研究の到達点を最新の映像技術を使ってわかりやすく紹介しています。近年のコンピューター・グラフィックは非常にすばらしいですから、どんな映像が見られるのか楽しみです。これまで学んだ内容に直接つながるような現象も取り上げられることでしょう。授業ではわかりにくかった説明などがクリアになるかもしれません。是非とも時間をつくってみるようにしましょう。

レントゲン博物館

 ドイツ旅行の中でヴュルツブルク(Würzburg)という街を訪ねました。バイエルン州の北西の端にあり、ロマンチック街道の北の基点として有名です。また、世界遺産に指定されている「レジデンツ」の他、マリエン要塞(Festung Marienberg)、古マイン橋(Die Alte Mainbrücke)などが知られています。ワインの産地としても有名です。同時に、ドイツ国内で4番目に古いヴュルツブルク大学をもつ大学、学生の街。人口規模や街の構造が異なるため単純に比較できませんが、今回行ったバンベルクやアンスバッハよりも活気がありました。

 日本では「ヴュルツブルク大学」と呼ばれることが多いですが、正確にはユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク、Julius-Maximilians-Universität Würzburgといいます。1402年に創設され、現在の学生数は大学院生をあわせて約30,000人、学部の構成はやや理系に偏っているような気がしますが、ヴュルツブルク大学にゆかりの研究者の中からは8名のノーベル賞受賞者が出ています。中でも医学、生物学に関わる分野では
・レントゲン Wilhelm Conrad Röntgen 1901年物理学賞
・フィッシャー Hermann Emil Fischer 1902年化学賞(有機化学物質の構造式を考案、フィッシャーの投影式と呼ばれています。また、数々の有機化学反応を考案しています。)
・シュペーマン Hans Spemann 1935医学・生理学賞(発生過程での胚誘導現象の発見、シュペーマン・オーガナイザーと名付けられています)
が有名です。
 また、ノーベル賞は受賞していませんが、動物における細胞説を提起し、シュワン細胞を発見したシュワンTheodor Schwannもヴュルツブルク大学で学んでいます。

 レントゲンは1845年生まれ、1895年にX線の発見を報告して、1901年に第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。当時レントゲンが研究に使用した実験室や、講義室を含めた建物が市内に現存します。現在は「レントゲン博物館」として一般に公開されており、自由に見学することができます。

 パネル展示などの他、当時の実験器具やノートなども展示されています。
Pasted Graphic

 レントゲンが使った実験室も同時を再現して残されていますが、残念ながら室内まではいることはできず、ガラス扉越しに写真を撮るしかできませんでした。
Pasted Graphic 1

 また、建物外の一角にX線の発見の記念碑が建てられています。
Pasted Graphic 2

遠近両用メガネとは?

 先週の授業で近視、遠視、そして老視のメカニズムを説明しました。授業後に「遠近両用メガネは遠視と近視の両用なのか?」というような意味の質問を受けました。すでに使っている人にとってはなぜこのような疑問がわくのか不思議でしょう。簡単にしくみを説明します。

 遠視と近視の両方の症状を示す人はいません。「遠近両用」と言った場合の「遠」とは「近視の人が遠方を見るのに適している」、「近」とは近視の人が老視になったときに「近傍(手元)を見るのに適している」という意味です。したがって、「遠近両用メガネ」を使うのは元々近視の人だけです。近視ではない、つまり正眼視の人が老視になった場合には、授業で説明したとおり凸レンズによる老視用メガネ(シニアグラスとか、リーディンググラスなどという場合もあります)を利用して近傍を見やすくします。拡大鏡、つまり虫眼鏡を代用して本や新聞を読む場合もありますね。

 「遠近両用メガネ」では1枚のレンズの上方が「遠方」用、つまり、通常の近視の人が矯正のために必要なレンズです。その人が遠方を見るために必要な、いわゆる「度数」になっているはずです。最近は「中近」と言って、室内、あるいはデスクの先のパソコンの画面くらいまでに焦点を合わせられるようにしたレンズもあります。これに対して、下方が「近傍」用です。ただし、近視と老視の程度によってこの部分がどのような形状になっているかは異なります。

 老視ですから当然近点が大きくなる、つまり、近傍が見にくくなるため、対象物を眼から離す必要があります。ただし、あまり離してしまっても焦点が合いません(近視ですから)。あくまでもメガネをかけた状態で、つまりレンズを通して近くを見るために、近視用(凹型)の「度数」を下げて、10m先は見にくいが、25cm先は見やすくなるという形状にします。近視の程度が低く、かつ、老視の程度が高いと、たぶん凸型になるでしょう。ただし、1枚の上下で度数あるいは形状を変えたレンズですから、単独の度数、形状のレンズに比べると非常に高価で、およそ2倍の価格です。

 私は年相応に老視ですが、裸眼では10cm先にしか焦点が合いません。それだけ眼球が長いと言うことでしょう。当然、これより近くなっても焦点はあいません。したがって、25cm先はぼけて見えるため、非常に弱い近視用レンズ、つまり中心部分のへこみが小さい凹レンズを使います。眼鏡屋さんには、「近視の度合いが非常に強いため、老視が近視を追い越すことはない(つまり、遠近両用レンズの下方が凸レンズになることはない)」と言われています。ちなみに、授業時にかけているメガネは、一側に上下2枚のレンズを入れてあり、上方が遠方用、下方が近傍用です。老視になるような年齢では近視はほとんど進行せず、老視だけが年齢に応じて進行していきます。このとき、老視用レンズだけを入れ替えればいいため、安上がりです(フレームはやや高価ですが)。

ノーベル賞

 一昨日来の報道でご存じのように、東工大の大隅さんが本年度のノーベル医学・生理学賞を受賞されました。数年前まで岡崎にある基礎生物学研究所で研究されていました。直接お会いしたことはありませんが、学会では何度かお見かけしたような気がします。ずいぶん前からノーベル賞候補だと言われており、ご本人はともかく、回りは待ち望んでいたことでしょう。

 今回の対象となる業績は『オートファジー(自食作用)」、授業でも前期にリソソームの機能として取り上げました。期末試験では勘違いをしている解答もかなりありましたが、明日の授業で改めて解説する予定です。簡単にしか説明できませんので、興味のある方は以下のWebサイトなどを参考にしてください。

Wikipedia日本語版からリンクされた「脳科学辞典」の中に解説があります。この『辞典』は、Wikipediaでありながら誰でも自由に執筆できるわけではなく、専門家が依頼に基づいて執筆し、さらに別の専門家が内容をチェックした上で掲載されています。したがって、非常に信頼できる内容です。
http://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B8%E3%83%BC

東工大の大隅研究室のサイトです。ご自身(または同じ研究室のメンバー)による解説です。醍醐味を味わってください。
http://www.ohsumilab.aro.iri.titech.ac.jp/research.html#1

大隅さんの岡崎・基生研時代の部下に当たる方々が独立して構えた研究室のサイトです。
阪大・吉森研究室

http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/research/030/

東大・水島研究室
http://www.cellcycle.m.u-tokyo.ac.jp/research/proffessional.html

一番最後の水島研の説明が一番分かりやすいのではないかと思います。

ニューロンの構造

 授業ではニューロンとニューロンがシナプスをつくって接続していると説明しました。「シナプス;synapse」とはギリシャ語のsynapsis(接続の意)に由来し、1897年にイギリスの神経生理学者であるチャールズ・スコット・シェリントン(Charles Scott Sherrington, 1857-1952)によって命名されました。ニューロンとニューロンがつくるシナプスは、20~40nmほどのシナプス間隙を挟んで成立しています。

 ニューロンが脳で発見された当初、ニューロンは細胞体に当たる部分から多くの突起が出ていることも同時に見いだされました。そして、この特殊な形態をもつ細胞に対して「ニューロン;neuron」の語が当てられました。

 これはギリシャ語のneuro-に由来していますが、もともとは「腱」や「綱」、「弦」を意味する語で、ここからnerveという語が生まれ、さらにneuronとなったようです。

 さて、多くの突起をもつニューロンが互いにどのように接続しているかについて、2つの異なった考えがありました。一方は「細胞どうしは互いに突起によってつながっている」という考え(網状説とよばれる)と、「それぞれの細胞は独立していて、直接つながっているわけではない」という考え(ニューロン説とよばれる)です。

 前者を唱えたのがイタリアのカミロ・ゴルジ(Camillo Golgi、1843ー1926)です。ゴルジは硝酸銀と重クロム酸カリウムという2つの物質を使うことによってニューロンの細胞体、軸索、樹状突起のすべてを染色して顕微鏡下で可視化することに成功。詳細に研究し、脳や脊髄にニューロンどうしが接続した複雑なネットワークがあることを示しました。この染色方法は「ゴルジ染色」とよばれ、今日でも研究に利用されています。だたし、シナプスの構造を詳細にみることはできないため、ニューロンどうしは突起でつながっているように見えたのでしょう。したがって、ニューロンは非常に大きな多核の細胞であると考えることになります。

 一方、後者の考えを主張したのがスペインのサンティアゴ・ラモン・イ・カハール(Santiago Ramon y Cajal、1852ー1934)です。カハールもゴルジが開発した染色法を使って研究したのですが、到達した結論は全く異なるものでした。カハールは当時すでに受け入れられていた「細胞説」の立場に立って、ニューロンはいずれも単核の細胞であり、それらが伸ばした突起が互いに接触していると考えました。

 二人の神経系の構造に関する研究は高く評価され、1906年にそろってノーベル医学・生理学賞を受賞しました。しかし、上記のように全く異なる考えにたっていたため、今日では考えられないことですが、正反対の立場の受賞講演を行ったそうです。

 二つの考え方の対立に決着をつけたのは電子顕微鏡を使った観察結果でした。電子顕微鏡は1931年に開発され、これを利用して神経系の構造が詳しく研究され、1950年代にニューロンどうしは直接つながっているのではない、すなわちシナプス間隙があることが証明されました。軍配はカハールの「ニューロン説」に上がったわけです。

新しい元素の名称が発表されました。

 新聞やテレビなどで大きく報道されているので皆さんご存じだと思います。昨年末に発表された新しい元素、日本の研究グループが発見した113番目の元素の名称(案)が発表されました。正式に決まって周期表に掲載されるまでにはもう少し時間がかかるようですが、たぶんこのままとおるでしょう。

 4月の授業で『一家に一枚周期表』を配布しました。改めてよく見てもらうと、いまのところ、人類が認識している元素は118種類。そして、113番目には「ウンウントリウム」という名前が入っています。元素としてははっきり認識されていても未だ無名ということを意味しています。元素名の末尾は「ium;イウム」とすることになっています。したがって、日本語で言えば「何とか元素」、「何とか素」というような意味の名称しか与えられていなかったということです。この他に、115番、117番、118番も同様です。

 発見グループのリーダーの森田さんは記者会見で「プルトニウムなどの、自然界にない(人工的に合成された)元素が原爆開発研究のなかで生まれたことは忘れてはいけない」との意味の発言をされていました。戦前は日本でも原爆開発につながる研究がされていました。リーダーは仁科芳雄。当時の日本を代表する物理学者でした。今回の発見グループは、その流れをくんでいます。つまり、今回の新たな発見につながる技術は核分裂や核融合に関する技術、つまり原爆や水爆をつくることにつながる技術を基にしてます。たとえ人類の認識の発展につながる発見であっても、科学技術の悪用・軍事利用と表裏一体であることを忘れてはいけません。今回のような大規模な科学研究に携わる人たちだけではなく、専門的な知識や技術を持つものであれば、いつも考えておくべき問題です。

 みなさんも今回の発見、命名をきっかけにして、改めて「物質」に興味や関心をもつきっかけになることを願っています。

人体を構成する細胞数は、本当はいくつか?

 地域柄、中日新聞を購読されている方も多いでしょう。昨日の『中日春秋』に人体の細胞数に関して触れられた部分がありました。コラムの主題ではないのですが、「ヒトの体はおおよそ30兆個の細胞からなる」と記述されていました。授業では「60兆個」としていましたので、簡単にコメントしておきます。

 授業でも簡単に触れたと思いますが、人体を細胞レベルにまでばらばらにして計数することは不可能です。「60兆個」の根拠ですが、以下のような推測に依っています。

 一般的な細胞の大きさは1辺1μmの立方体に擬すことができる。細胞の過半は水であり、その溶質、固形物の比重も1.0に限りなく近い。したがって、細胞1個の重量を
    1×10-3 ×1×10-3 ×1×10-3 =1×10-9 (g)  (1μm=1×10-3mm)
と仮定すると、平均的な成人の体重が60kgであるとして、
    60×103 ÷(1×10-9)=6 ×1012
という計算から 60兆個と見積もっています。

 しかし、全身のすべての部位にくまなく細胞が詰まっているわけではありません。例えば、骨は体重の10数%を占めますが、細胞の占める割合は非常に小さく、骨基質が大半を占めています。血液は体重の8%を占めているものの、これも大半は血漿であり、非細胞性です。細胞ごとに大きさもまちまちで、1辺が1μmの立方体に擬すというのはかなり無理があります。人体に最も多い細胞である赤血球は直径が7~8μmです。

 実際に計数できない以上、いろんな証拠から外挿するしかないのですが、できるだけ実際の細胞の形態や大きさ、細胞の集合状態を考慮して見積もるという研究も少ないながらも行われています。この中で最もおそらくよく知られているのは、2013年に発表された報告で、
 An estimation of the number of cells in the human body (Annals of Human Biology、Volume 40, Issue 6, 2013)
   
ここで原文を見ることができますので、興味のある方はどうぞ。http://www.tandfonline.com/doi/full/10.3109/03014460.2013.807878
という論文です。イタリアのグループのようですが、数理生物学的な分野で、詳細は全く理解できません。要旨をざっと読んだだけですが、細胞数は
   3.72 ×1013個(37兆2,000億)
と結論づけています。

 他にも同様の報告はあるのでしょうし、この論文の結論にどれだけの研究者が納得しているのかは全く不明です。つまり、コンセンサスの得られる数字はまだないと言わざるをえません。非常に単純化した仮定ではあるが、きりのいい数字で、おそらくそれほど大きくズレてはいないだろうというところで、「とりあえず」みんなが納得して「60兆個」と言っています。

 仮に、上記の研究結果が正しいとしても、あるいは、「中日春秋」の引用に従うにしても、30兆個、37兆個と60兆個ですから、たかだか2倍の差(すべての細胞が1回だけ細胞分裂すれば追いつける差です)、オーダーに差があるわけではありません。いずれにせよ、我々のからだが膨大な数の細胞によってできあがっているという事実に変わりはありません。

 ところで、「中日春秋」は『失われてゆく 我々の内なる細菌』(マーティン・J・ブレイザー著、山本太郎訳)という書物の記載を引いています。この著者が何を根拠に「30兆個」としているのかについて、春秋子は触れていません。しかし、一般的な医学、生物学の教科書にはない数字です。

 また、引用ではさらに、ヒトの体には「100兆個の微生物がすんでいる」という意味の記述もありました。もちろん根拠は示されていませんが、この数字も多く語られている数字とはやや異なりますが、かといって大きく外れているわけでもありません。知る限り最も大きな数字は、全身で約600兆個、消化管(特に大腸)に約100兆個、身体表面(つまり皮膚)に約100兆個などと言われています。これもオーダーは同じです。

 これらも実際に計数することは不可能ですから、誰かの、どこかの部分を調べて、外挿するしかありません。ポイントは、人体を構成するよりも遙かに多量の微生物が人体内(表面を含めて)にすんでいるということです。

 さて、今回の「中日春秋」ではこれらの数字の引用元として、「米国の著名な微生物学者ブレイザー博士の好著『失われてゆく 我々の内なる細菌』」と記しています。この引用部分を含めて多くの読者は「30兆個」を信じたでしょう。「米国の」「微生物学者」であることまで間違っているとは思いませんが、はたしてブレイザー氏が「著名」であるのかどうかはわかりません。「好著」であるかどうかも読み手の判断です。大きな影響力を持つ新聞、ジャーナリズムとしてはやや軽率な取り上げ方でしょう。少なくともこの数年の中日新聞を見る限り、ジャーナリズムらしいとしっかりとした取材や論調を幾度となく感じていただけに、やや残念です。

ミトコンドリアの成り立ち:共生説

 今回は細胞質に多数ある小器官の1つであるミトコンドリアの成り立ちを考えてみます。

 授業で説明したように、ミトコンドリアには二重の膜があり、内部で酸素を利用してATPを産生しています。細胞内にありますから非常に小さいわけですが、実は小型の細菌と同じくらいの大きさです。

 いわゆる細菌(bacteria)は原核生物と言って、単細胞である上、内部に核の構造がありません。もちろん、遺伝子、DNAは持っています。これらを包み込む構造がないと言うことです。これに対して、動物や植物は真核生物と言い、核の構造を持っています。真核生物の細胞は、細菌である原核生物の細胞の1000倍もの容積を持っています。もちろん、この大きな「体」を支えるためにさまざまな工夫が必要で、細胞骨格もその1つです。

 さて、ある種の真核細胞は周囲の細菌を(食作用によって)飲み込んで、(リソソームの作用によって)分解することによって、自らの栄養源としていました。ところが、「ある日」飲み込まれた後、消化されることなく、そのまま細胞質内にとどまってしまった細菌がいます。この飲み込まれた細菌は、ATPを大量に産生できたため、細胞側にこのATPを提供して、安全な囲いと栄養分の提供してもらって、共生することになりました。

 共生した細菌は酸素を利用したATP産生能を有していたため、ATPの産生能力が高く、この細菌を共生させた真核細胞(宿主細胞)は他を完全に圧倒して生き残り、現在につながる動物や植物の基になりました。このような考え方を「共生説」と言います。実験で確かめることはできませんし、進化を再現することもできないので、いつまでたっても「説」ですが、間違いないでしょう。

 ミトコンドリアの起源になった細菌は、食作用によって飲み込まれたため、自らのもつ細胞膜の周囲は宿主となった細胞の細胞膜で覆われています。つまり、二重の膜で覆われた状態になっているわけです。

 ミトコンドリアには独自の遺伝子があり、独自にタンパク質を合成するためのリボソームをもつと説明しましたが、もともとが単独で生活できる生物であったと考えると理解することができます。

 植物の細胞には葉緑体があります。光合成によってATPを産生する植物独自の細胞小器官です。この葉緑体もミトコンドリアと同様に細菌の共生に起源をもつと考えられています。

 およそ15億年前、地球上の大気が酸素に富むようになり、この酸素を利用してATPを産生できる細菌が生まれました。この後に、それまで酸素を利用できなかった真核細胞と、酸素を利用できる細菌との間で始まった共生が、ミトコンドリアの起源であり、その後の生物の進化の道筋を決めました。

「細胞」とは? 2

 やや長くなってきたので、後半を分けることにします。

 日本語の「細胞」という語は、江戸時代に出版された宇田川榕庵の『植学啓原』という書物にはじめて登場します。それまでに用例がないようですから、「細胞」は彼の造語でしょう。『植学啓原』のデジタルデータをWebで閲覧することは可能です(ここです:http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/f113/image/1/f113s0001.html)が、残念ながらどのような意味で使われているのかを自分で確かめてはいません。どうやら樹木の横断面に出現する細管に対して使っているとのことで(山科正平著『細胞発見物語』)、現在の生物学での意味とは異なっているようですが、フックの「cell」と同様に、後世に大きな足跡を残したといえるでしょう。

 「胞」とは、もともと「胎児を包む皮膜、母の胎内」(広辞苑)の意です。ここから、生体内に存在する膜で包まれたものを表すようになっいったようですから、「細胞」とは「生体内にある、膜で包まれた小さなもの」の意と考えられます。要を得た造語というべきでしょう。「細胞」は中国にも渡り、中国語でも「cell」は「細胞」です。

 話はそれますが、宇田川榕庵(うだがわようあん、1798~1846)は江戸時代後半に活躍した蘭学者です。もともと医者の家に生まれて、シーボルトとも交流を持ちながら西洋の自然科学を学び、医学、化学、生物学に関する西洋の書物を翻訳して日本に紹介しました。この翻訳の過程で、現在につながる多くの自然科学用語をつくっています。「生理学のための化学」でも紹介しましたが、オランダ語の「waterstof」の訳語として「水素」という語をつくったのも彼です。宇田川榕庵は『舎密開宗(せいみかいそう)』という、化学に関する著作もあります。イギリス人が書いた(つまり英語の)化学の教科書のドイツ語訳のオランダ語訳をもとに、他の文献も参考にしてまとめたそうですが、この中で「酸素」や「炭素」、「白金」などの元素名や「酸化」、「還元」、「溶解」などの言葉がうまれました。

 宇田川榕庵は江戸詰めの大垣藩医の家に生まれますが、当時津山藩医だった宇田川玄真の養子となり、幕府にも重用されたとのこと。養父である宇田川玄真は杉田玄白や大沢玄沢に学び、オランダ解剖学書を翻訳して高い評価を得ていたようで、こうした翻訳作業の中で玄真は「腺」や「膵」といった現在我々が当たり前に使っている漢字をつくった(造字?)そうです。

「細胞」とは? 1

 「細胞」とは「cell」の訳語としてつくられた語です。そもそも「cell」とは 修道院での修道士や修道女たちの個室、あるいは隠遁するための庵を表した語で、ラテン語で「小さな部屋」などを意味する”cella”に由来するそうです。中世には監獄の各房を表す語としても用いられたようですが、17世紀にはハチの巣の房室や植物の構造に対しても用いられていたようです。(Online Etymology Dictionaryを参考にまとめました)

 さて、「cell」という語が現在の「細胞」に近い意味で使ったのは、同じく17世紀、イギリスのロバート・フック(robert Hooke。1635~1703)です。フックは最初の顕微鏡を発明してさまざまなものを観察しているほか、バネの伸びに関する弾性の法則(フックの法則)を発見したことでも知られています。彼の顕微鏡を使った観察図を集めた「ミクログラフィア(Micrographia、顕微図譜)」という書物の中に有名なコルクのスケッチがあります。ここに描かれた一つ一つの小さな箱のような部分に対してフックは「cell」という語を当てて報告しました。(MicrographiaはWebで閲覧することができます。ここ(http://www.gutenberg.org/files/15491/15491-h/15491-h.htm)でひらいて、Schem11 にある図を見てください)

 我々が製品として目にするコルクは、コルク樫の樹皮をはいで乾燥させたものです。したがって、フックが顕微鏡で見た「cell」は、細胞(正確には原形質)が抜け落ちて周囲の細胞壁だけが残ったもので、「細胞」ではありません。しかし、「cell」という言葉を提唱し、意味は変わってもその後も使い続けられているという点で、大きな意義があったと思います。

 フックと同時代に顕微鏡を開発したオランダのレーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek、1632~1723)は赤血球や精子などを観察していたようです。そして、現在につながる「細胞はすべての生物の構造および機能の単位である」(岩波生物学事典)という考え方(これを「細胞学説」といいます)を提唱したのがドイツのシュライデン(Matthias Jakob Schleiden、1804~1881)とフランスのシュワン(Theodor Schwann、1810~1882)です。彼らも「cell」という語を使って自らの発見と考えを報告しました。

コラーゲン繊維はなせ「膠原繊維」?

 授業で「コラーゲン繊維(繊維束とも言います);collagen fiber」を取り上げました。コラーゲンというタンパク質が幾重にも巻きついて繊維状になった構造ぶとをさしてこのように呼びますが、日本語では「膠原繊維」と言います。「膠原」とはどういうことでしょうか。

 “colla”はギリシャ語の”κόλλα (=kólla)”で、「膠(にかわ)」を意味します。”-gen”は「作りださせるもの」を意味する接尾辞で、自然科学用語によく用いられます。つまり、”collagen”とは「膠を作り出すもとになるもの」というような意味です。ところで、「膠」はご存知でしょうか?

 にかわ【膠】〔煮皮,の意〕
獣魚類の骨皮などを石灰水に浸してから煮て濃縮,冷やして固めたもの。褐色ないし暗褐色。粗製のゼラチン。接着剤とし,また,絵の具や画布の製造に用いる。(大辞林)
です。

”organ”の語源

 第2回目の授業とかかわらせて、「器官」を意味する"organ"の語源を少しだけ考えてみましょう。

 器官は英語では”organ”、ドイツ語でも”Organ”、フランス語では”organe”、イタリア語では”organo”です。
これらすべて同じ言葉「道具、装置」を意味するラテン語の”organum”、さらに遡るとギリシャ語の”όργανο(=organon)”に由来しています。このギリシャ語の”όργανο”は”ἔργον(=ergon)「はたらく」の意”から派生したようです。

 日本語では胸腔や腹腔、骨盤腔にある器官を特に「内臓」といいますが、これに当たる英語は”viscus(複数形はviscera)”、または”visceral organ”といいます(“internal organ”と言い方もあります)。ラテン語に”visceralis”、古いフランス語に”viscéral”などの用例があるようですが、その起源はわからないようです。

 楽器のオルガンも「器官;organ」と同様の言葉に由来し、4世紀には””organaというラテン語として使われていたようです。「オルガン」は英語では”organ”で「器官」の意と同じ綴りですが、ドイツ語では”Orgel”、フランス語では”orgue”、イタリア語では”organo”です。

(Online Etymology dictionaryなどを参考にしました)

ポッジ宮博物館

 ボローニャは北イタリアのエミリア・ロマーナ州の州都、フィレンツェのあるトスカーナ州の北、ミラノのあるロンバルディア州の東、ヴェネツィアのあるヴェネト州の南東部にあたります。
 現在のボローニャ大学はボローニャ市を中心としてエミリア・ロマーナ州各地にキャンパスがあります。学生数は約8万人とか。日本とイタリアでは大学の制度も違いますし、大学進学に対する考えまたもだいぶん異なっているようですので、一概に比較できませんが、イタリアのみならず、ヨーロッパでも有数の規模と質を誇る大学です。ボローニャ市内にあるキャンパスのうち、一般市民が比較的簡単に入れるのが、ポッジ宮(Museo di Palazzo Poggi)とよばれる建物です。ここにはいくつかの博物施設があり、見学することができます。一通りみてきたのですが、特に皆さんの興味にあうのは蝋人形としてつくられた人体標本でしょうか。
 現在のように解剖した標本を保存する技術はほとんどありませんでした。そんな中で解剖学を学ぶ手段として蠟でつくられた精巧な模型が利用されました。今回はこのボローニャのポッジ宮博物館とフィレンツェのラ・スペーコラ博物館でじっくりと見ることができました。いずれも18〜19世紀にかけてつくられた蝋模型です。

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 全身の骨格や筋の様子を観察できる立像や各筋ごとに分けて作製された標本が展示されていました。また、「ボローニャの小ビーナス」と呼ばれる女性の模型もよく知られているようです。成人にしてはやや小振りです。ガラスケースに入っている状態を撮影しているので、観にくいところがあると思いますが、胸部から下腹部にかけて、皮膚、筋、大網、消化管や肝臓と順に外していくことができます。よく見ると分かるのですが、子宮も開けることができ、中に胎児が入っています。

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 当時は今で言う助産婦(産婆さん)の教育も重視されていたようで、胎児の模型もたくさんつくられたようです。正常胎児だけではなく、いわゆる「逆子」や臍帯が巻き付いてしまった状態の胎児など非常に多くの模型が展示されていました。
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 蠟模型については日を改めて少し詳しく説明します。
 

ルイージ・ガルバーニ

 昨日のボローニャ大学の続きです。

 解剖劇場のある建物の前の広場には18世紀にボローニャ大学医学部にいたルイージ・ガルバーニの立像があります。手に持っている板の上にはカエルの標本が載せられています。


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 授業で神経線維を活動電位が伝導することや神経からの興奮の伝達によって筋が収縮することを学びました。このように、生体における電気現象、ひいては二つの物体間に電気が流れることをはじめて見いだしたのがルイージ・ガルバーニです。

 彼は、窓の鉄枠にぶら下げておいたカエルの脚が時折ぴくぴくするのをみて、カエルの脚をつり下げている銅の針金と鉄枠(つまり異種の金属)が触れると脚の筋が収縮することに気がつきました。ここから、筋に電気を通じることで収縮することを見いだしました。当時、ベンジャミン・フランクリンの雷の実験は広く知られていたようですが、自然現象としてではなく、人為的に電気現象を生じうることを発見したもので、その後の電気伝導の発見や電池発明につながっていきます。論文が発表されたのは1791年のこと。電気分解や電池で有名なボルタも同時代の人です。

 この時代には神経や筋の構造は全く分かっていません。膜電位やイオンチャネルなど彼らには想像もつかなかったでしょうが、こうした先人たちの努力の積み重ねが今につながっています。

 ガルバーニが仕事をしていたのはわずか200年余り前のこと。その前の200年間(17ー18世紀)とその後の200年間(19ー20世紀)とでの人類の自然に対する認識の発展具合を比べると、スピードの違いに圧倒されます。歴史は今に近づくほど早く変化することを実感できるのではないでしょうか。これからの200年間の変化は想像もできません。

ボローニャ大学解剖劇場

「趣味のページ」に年末のイタリア旅行を簡単に紹介しましたが、少し別の角度から振り返ってみます。試験も終わり、落ち着いてきたので、忘れないうちにまとめてみたいと思います。

 まずは、今回の旅行で是非ともいきたかった場所の一つであるボローニャ大学の解剖劇場を紹介します。

 北イタリア内陸の街であるボローニャはミラノからアドリア海側へ通じる街道の要衝で、古くから都市国家として栄えたところです。かつてはさまざまな物資の取引のために人が行き交い、それに関わる法手続などの研究が盛んだったようです。そんなところから若い人たちが多く集まり、専門家を招いて自主的に学ぶが場が作られていったでしょう。記録によると1088年にある程度の組織が作られ、ここからヨーロッパ型の大学が始まったそうです。

 中世以来、ボローニャ大学は法学と医学が盛んで、イタリアのみならず、ヨーロッパの中心として栄えました。「医療概論」でも学んだと思いますが、「ファブリカ」を作ったヴェサリウスが活躍したパドヴァ大学も、元々はパドヴァ大学医学部はボローニャ大学医学部の分校のような立場だったようです。

 このボローニャ大学は最も古い人体解剖の記録が残る大学としても知られており、13世紀にはすでに医学教育のための人体解剖が行われていました。後には一般に公開での人体解剖も行われたようで、そのための施設が作られていました。

 さて、今回は大学の祖ともいうべきボローニャ大学とそれを産んだ街、そして、今に残る解剖劇場を観てきました。

 現在ボローニャ市立図書館として管理されているDell’archiginnasio(アルキジンナジオ館)は1563年に建てられたもので、その中にある解剖劇場(Teatro Anatomica;解剖学大階段教室とも訳されています)は1637年にできたそうです。床、壁、天井のすべてが木製で、壁面には古代からの有名な医者の立像やボローニャ大学の著名な医学者の胸像が並んでいます。どれが誰かは全く分かりませんが、歴史を感じさせるだけでなく、敬虔な気持ちにさせてくれます。
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上の写真はパノラマ撮影したので、ややわかりにくいですが、解剖劇場入り口から内部全体を見渡したところです。解剖台(白い大理石製)を中心にして、周囲に階段状の席が設けられています。また、壁の所々に立像や胸像が並んでいます。

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 左は下座(?)から正面を見たところ。中央の細長い白い板は大理石製の解剖台。右は正面の、おそらく指導者(教授)が立った思われる席です。階段には上れないように成っていたため、下の段に立って撮影しましたが、最上段上部には天蓋(?)があります。天蓋を支えているのは「皮をはがれた人」。

 2年生になると岐阜大学医学部で解剖実習(見学実習)がありますが、その時に入る部屋は全く違う雰囲気ですから念のため。

生命大躍進

前々回の授業で紹介したNHK特集『生命大躍進』をご覧になりましたか?

『眼』、番組では「目」としていましたが、生物学的に器官としてみるときには『眼』です。1つの感覚器官が進化の過程でどのように形成、あるいは獲得されていったのかを分かりやすく説明していました。そして、進化を考える上で最も重要なキーワードは『遺伝子』であり『DNA』です。最新の成果がいくつか紹介されていました。私も遺伝子があるとき4倍化したということは具体的には知らなかったことであり、非常に参考になりました。

また、『眼』がもともと植物の仲間から動物の仲間に取り込まれたということもつい最近発表されたばかりの成果です。学会内でどの程度コンセンサスが得られているのか分かりませんが、この考え方が正しいとすれば『コペルニクス的転換』かもしれません。この話題の中で紹介されていた日本人の研究者(五条堀さん)はもともと静岡県・三島にある国立遺伝学研究所というところにいた方(たぶん)。定年された後、サウジアラビア(?)に移られたのでしょうか? 番組中でデータの紹介のところで論文が引用されていましたので早速調べてみました。
"Function and evolutionary origin of unicellular camera-type eye structure (Plos One, March 3, 2015) "と題する論文(「単細胞生物が持つカメラ眼構造の機能と進化」とでも訳せばいいでしょうか。)で
PLOS ONE: Function and Evolutionary Origin of Unicellular Camera-Type Eye Structure
でオンライン(free access)で原著論文を読むことができます。

次回は6月の第一日曜日。同名の展覧会が7月から東京・上野の国立科学博物館で始まりますが、10月から名古屋市立科学館でも開催されます。乞う御期待というところでしょうか。

『医は仁術』展

 月曜日のコンサートの翌日も休暇にして上野・国立科学博物館の「医は仁術」展(HPはここ)を観に行きました。

 少し前に同名のテレビドラマがあったようで、昔からの格言である「医は仁術なり」にかけているのでしょう。内容は江戸時代を中心にした日本の中世から近世の医学事情の紹介。特に室町時代後期にヨーロッパより西洋医学(といってもまだまだ科学というにはほど遠い内容です)が伝来して以後、江戸時代には国内でも腑分けと称する解剖が行われ、それまで中国や朝鮮半島から伝えられ引き継がれてきた日本の「医」と西洋の「医」がどのように結びついていったのか、どのような人物が牽引していったのか、古い書物や道具類の展示を通して理解することができます。

 テレビドラマつながりということで、正直言ってあまり期待していなかったのですが、どうしてどうして、なかなか見応えがありました。特に、江戸時代に発行された様々な医学書、あるいは西洋の解剖学書などの翻訳本、日本人がつくった解剖図譜など、初めて目にするものばかり。不明を恥じると同時に、古人の旺盛な活動に感銘を受けました。

 ターヘル・アナトミアと杉田玄白の解体新書、さらにその改訂版や稿本などショーケースにかぶりつきになってしまいました。また、初期の解剖図は、刑死者を実際に解剖して描かれていますが、古来の「五臓六腑」が頭にあるために、はなはだ正確性に欠けていました。「思い込み」があると、見ているはずにもかかわらず、正しくは見えないということ。これは肝に銘じる必要があります。
中には華岡清州家で修行を終えた弟子が書いた誓約書がありました。そこでは秘伝を他には漏らさないという約束をさせられており、日本医学史のヒーローも実は「嫌らしい奴」でした。

 3月から始まっていますが、6月15日までです。そのうち名古屋にも来るかもしれません。皆さんも是非行ってみて下さい。

 ただ、1つだけ気になるのは、「医の原点は江戸にあった」「日本では古来和を尊ぶ」など、結論ありきで無理矢理ストーリーをつくっているようなところ。一般市民に広く、わかりやすく、が博物館の重要な仕事ですからやむを得ないところもありますが、素直にみていけば、命の尊さのためにいかに多くの優れた才能が費やされたのか、十分に理解できると思います。

NHKスペシャル

まだ2013年度です。

今週末、29日と30日、そして来週末の4月5日と6日の4回にわたって、NHKスペシャルとして
「人体ーミクロの大冒険」
が放映されます。HPもこのままはここ
NHKスペシャル|人体 ミクロの大冒険 プロローグようこそ!細胞のミラクルワールドへ
NHKスペシャルは毎年1回か2回、数回にのシリーズとして医学、生物学的なテーマの番組を放映してくれます。最新の成果をCGなどを使って分かりやすく示してくれるので、毎回参考になります。
今回はiPS細胞の山中伸弥さんが進行役ということで、科学的にも曖昧さのない説明をしてくれるのではないかと期待しています。

左手のピアニスト(番組の感想)

土曜日に放送されたNHKのETV特集:「左手のピアニスト〜もう一つのピアノ・レッスン」の感想はここに掲載しました。

左手のピアニスト:ジストニアという病気を知っていますか?

ジストニアという病気をご存知でしょうか?

先天性と後天性があり、また、全身性と局所性があります。先天性全身性ジストニアは非常にシビアな疾患で、日常生活もかなり大変です。後天性局所性ジストニアは体の一部にだけ症状が出るため外見的にはわかりにくいですが、日常生活に支障が出たり、職業によってはその職を諦めなければならないこともあります。

授業でも「運動機能」に関わって取り上げます。

実は演奏家には(演奏家でない方に比べて)比較的頻度の高い疾患です。指や口、声帯など特定の筋あるいは運動機能を酷使するため、その一部が、演奏態勢に入った時に自由を失ってしまいます。プロフェッショナルとして致命的な疾患です。

今回紹介するのは、右手が不自由になり左手だけで演奏しているピアニストです。先週土曜日のNHK教育テレビのETV特集で智内威雄(ちない・たけお)さんというピアニストを紹介していました。(実はこの日は帰りが遅くなり視ることができませんでした(>_<) 今度の土曜日に再放送がありますので、興味のある方は是非ご覧ください。(HPはここ

関連する話題をここ(〈趣味のページ〉)にも入れましたので、興味のある方はどうぞ。

早老症

早老症という病気をご存じでしょうか?

有名なのはプロジェニア症候群とウェルナー症候群です。いずれも遺伝子変異で生じる先天異常で、残念ながら治療法はありません。成長途上で老化が始まり、寿命も非常に短いのが特徴です。

突然の話題ですが、土曜日の夜にNHKプレミアムで放送された『怪奇大作戦』というドラマの中で使われていたので、少し紹介します。(番組のHPはここ

このドラマは40年以上前に円谷プロが作った同名の特撮ドラマのリメイクです。もちろん設定は現代で、登場人物の服装や持ち物も現代的にPCやネットを駆使して問題解決に当たっています。また、最新の科学的な話題も散りばめられていて、初回だけですが、面白そうな番組でした。

初回にあらすじは、
体液を吸われてミイラ化したが発見されたところから始まります。実は、孫娘が原因不明の早老症を患っているため、なんとかしようとする技術者の犯行でした。冬虫夏草をご存知かと思いますが、昔は不老不死の作用を持っていると考えられていた食虫植物です。そこで、この植物の変異体を作り、人の血液を吸わせて大量培養して、不老不死の効果のある成分を抽出しようとしていたという話です。

必要なのは血液だけということになっているのですが、食虫植物の作用ゆえにか(?)、全体液を吸ってしまう設定です。

ドラマの中で出てきた医学・生物学的な話題は、冬虫夏草からある成分を抽出しようとしているということの他に、原因となった早老症が有名なウェルナー症候群でもプロジェニア症候群という遺伝子変異によるものではなく、DNAのメチル化によるものだとしていたこと。ドラマでは「遺伝子のメチル化」といっていましたが、正確ではありません。後天的な原因であるがゆえに、治せるのではないかという期待を持ってしまったというのが事件の背景です。

相当に専門的な知識がないと理解できない内容ですが、それだけに制作者たちの意欲を感じました。DNAのメチル化についてはまた取り上げます。

歴史的発見に関する文献:「世界を変えた書物」

木曜日の中日新聞に、来週末から名古屋市科学館で行われる『世界を変えた書物展』を紹介する記事が載っていました。と言っても、この記事で初めて知ったのですが^_^;

金沢工業大学には科学・技術に関する歴史的な文献、書籍の大掛かりなコレクションがあるそうです。その一部を持ってきて展示してくれます。9月13日から29日まで。期間が短いのが残念ですが、ぜひとも行ってこようと思います。

新聞記事やHPの紹介をみると、ダーウィン『種の起源』の初版やニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的原理)』など、まさに「世界を変えた」本を、その時代を感じながら見ることができるようです。また、レントゲンのX線発見に関する講演録やメンデルの著作なども展示されるようで、見る前からワクワクします。

夏休みに読んだブルー・バックスではそれぞれも分野の歴史にも触れた部分があったと思います.先ずは試験ですが、そのあと時間に余裕のある方は是非.

総合診療医ドクターGという番組をご存知でしょうか。

総合診療医ドクターGという番組をご存知でしょうか。
NHK
総合で毎週金曜日の夜10時から放映しています。4月から始まっていて、多分今月か来月いっぱいまでです。今年で3年目か4年目です。HPはここ.

やや診断の難しい患者さん、あるいは症状を想定して(実在のモデルがいるようです)、ベテランの医師のリードで研修医が議論しながら病名を探っていくという番組です。もちろん、登場するのは本当の医師たち。

ややバラエティーに流れすぎている気はしますが、サスペンスドラマのようなところもあり、知識のない人にも飽きさせないようにうまく作っています。

豊富な知識としっかりとした考え方を持っていることが以下に大切であるかということがよくわかります。また、診断を下す過程で、患者さんに対してどのように接して行くのか。問診や検査に対する考え方、態度なども学ぶべきところがあると思います。時間のある方はぜひ一度見てみるといいと思います。

「人体の不思議」展

先週の土曜日から、名古屋・名駅に新しくできた愛知県産業労働センターの8階で「人体の不思議」展が開かれています.行かれた方はいらっしゃいますでしょうか?

以前にも同様の企画があったのですが、今回の売りは、『プラストミック標本』というものらしい.HPによると
「新技術で作られたプラストミック標本は匂いもなく、また弾力性に富み、直に触れて観察でき、常温で半永久的に保存できる画期的な人体標本です」
とのこと.

連休でちょうど授業もないことですし、ぜひどなたか行ってみて感想をお知らせください.私も次週あたりに行ってみようと思います.

HPは
ここ.入場料は¥1500とやや高めですが、100円の割引クーポンもついています.

ヒトES細胞からの脳組織の再生

一昨日、また理化学研究所(神戸)のグループから重要な研究が報告されました.ヒトのES細胞から大脳皮質の組織を構築したという論文です.
理化学研究所のプレスリリースはここです.また、先日紹介した凍結マウスからのクローン作製についてもプレスリリースはここです.)

ES細胞、胚性幹細胞は受精卵が少し分裂した後の状態の細胞から作った培養株化細胞で、からだを構成するあらゆる細胞に分化する能力を持っています.したがって、ニューロンに選択的に分化させることも可能です.しかし普通にシャーレ上で培養しているだけではただの同じ種類の細胞の塊に過ぎず、組織ということはできません.

今回の研究の素晴らしいところは、ES細胞から分化させた細胞を使って、実際のからだ・器官を構成している状態の組織を構築できたことにあります.最も高度な組織といってもいい大脳皮質組織を作れたということは画期的です.解剖学で習ったと思いますが、大脳皮質は6層構造で、各層ごとに構成するニューロンの性質が異なっています.胎児期には4層構造のようですが、この各層のニューロンの特徴を持った細胞群によって構成される組織ができたと報告されています.

しかもこの組織は大脳特有の神経ネットワークを作っている上に、大脳皮質のいろんな領野、感覚野や運動野に特徴的なニューロンへの分化を制御できる方法も見つけたということです.

大脳を構成しているいろんなニューロンの性質を調べていく上でも重要なツールを提供していますし、治療という観点からも神経系の再生医療に大きく道を開く研究だと思います.

ES細胞でできるということは、おそらくiPS細胞でもできるようになるでしょう.iPS細胞でできるということは、治療されるべき患者さん本人の、例えば皮膚の細胞などを使えるということです.また、脳が作れるということは他の組織も作れるようになるであろうという展望がひらかれたわけで、今後一気に研究が進むでしょう.

凍結マウスからのクローン作製

昨日の新聞に、理化学研究所(神戸)の研究グループが凍結保存したマウスからクローンを作ったという報道がありました.すでに論文も発表されているようなのでそのうち読んでみようと思っていますが、ちょっとだけコメントを(*⌒O⌒*)

このグループは数年前にクローンマウスを初めて報告しました.もちろんこのときは生きたマウスの細胞から核を採り出して使っています.今回は16年間マイナス20度で保存されていたとのこと.この温度では細胞そのものは壊れてしまいます.細胞はほとんどが水ですから、凍れば容積は増えます.したがって細胞膜を壊してしまいます.ところが細胞核は結構丈夫なので壊れずに残っているものがあったのでしょう.

報道にあるように、他の動物にも応用ができれば、特にホストとドナーが異種動物であってもできるようになればマンモスの復活も夢ではありません.個人的にはタスマニアタイガーをやって欲しいですね*^_^*

マイナス20度というのは家庭の冷凍庫よりやや低い程度の温度です.ただ実験室で使っている冷凍庫は『霜取』をしません.『霜取』をするということはいったん温度が上がるということを意味します.そうすると一日の中で保存温度が上下するということですから、保存条件としては実はあまりいいとは言えません.ですから家庭の冷凍庫で保存された松阪牛(のお肉)があっても使えないでしょう、多分.<(^^)

さて、細胞膜を壊すときは、授業でやったように極端な低張にすればいいわけです.実際、サイトゾル中のタンパク質を抽出するときには、まず最初に低張液で処理します.しかしこの条件では細胞核はつぶれないので核内のDNAは出てきません.DNAを抽出するためには高張にしたり、界面活性剤を入れたりします.界面活性剤は脂質二重膜を壊す作用があるので、核膜も簡単に壊れてしまいます.

さて、新聞などで出ていたクローンマウスの写真ですが、やや茶色っぽい毛色でした.隣にいるマウスの毛色は白く目も赤い色でした.この茶色は、アグーチ色といって、マウス(ハツカネズミ)の本来の毛色です.白はアルビノと言って、メラニン色素を作れないマウスの毛色です.したがって、目の網膜の色素細胞もメラニンを持たないので、血管の色がそのまま出てしまうので赤くなります.よく家庭などで飼われている兎の眼が赤いのも同じです.

では、論文を読んだら感想を掲載します.

ゲノムひろば

以前授業でチラシを配って宣伝しました『ゲノムひろば』をちょっとだけのぞいてきました.

天気が悪かったせいか、思ったほどの人出ではなかったのですが、それでも小さな子どもの手を引いた家族連れから結構な年配の方まで来られていました.
実際に私たちが使っている実験器具・装置なども使ってのデモンストレーションもあって、『実験』を目の当たりにすることもできるようになっていました.

知り合いの先生も展示されていたのですが、結構のりのりで説明されていたので目で挨拶するだけで帰ってきました.

行った方がおられればぜひ感想を聞かせてください.

ノーベル賞

名大の中にいるのですが、別の研究所だからか平穏です.「社会的なお祭り」という言葉が妙にぴったりしている気がします.

素粒子の理論は新聞などで報道されている以上にはわかりませんが、私が「反物質」ということはをはじめて知ったのは中学生の時に放映された映画(アニメ?)でした.「宇宙戦艦ヤマト」というアニメがはやっていましたが、これに反物質だけでできた惑星や生命体が出てきました.物質であるわれわれと接触すると大爆発を起こすという想定だったと思います.
当時は作者の創作なのかと思っていましたが、高校生の時に相対性理論などの理論物理を解説している本(多分ブルーバックスの中の何か)を読んで、「本当にあるのか」と思った記憶があります.

さて私が理解できるのはGFPGreen Fluorescence Proteinの方です.最初に見つかったこの緑色に光るタンパク質の遺伝子がわかり、今ではいろいろ改良されています.分かりやすいからか、テレビなどでも具体的なり用例が紹介されていましたので見た人もいると思います.以前に授業で見てもらった軸索輸送のビデオも、GFPをくっつけたタンパク質の動きを蛍光顕微鏡で観察したものです.
現在は緑色だけではなくて、赤や黄色、青色に光るタンパク質、もっと弱い紫外線でもっと強く光るタンパク質などが開発されています.来週の授業では、脳の神経回路を調べるために3種類の蛍光タンパク質をニューロンでランダムに発現させた脳の神経回路を調べようとした研究を紹介しようと思います.


昆虫に詳しい人いますか?

突然ですが、下の写真のような昆虫?多分(-_^;)を知っている人はいませんでしょうか?



実は、昨日授業の後に研究室に戻ってから、改めて外へ出たところ、建物の壁についていました.
今朝はもういませんでした.擬態が得意な昆虫っぽいのですが、正体不明です.

名大は緑がまだたくさん残っているせいか、とても都心とは思えないくらい、時には図鑑でしかお目にかかれない生物がいます.
「ナナフシ」とか「ウシガエル」とか、とんでもなくでっかい「百足」とか.

ご一報くだされば幸いです.

GABA受容体と記憶

残念ながら授業で触れることができませんでしたが、先月末に、神経伝達物質の一つであるGABA(γーアミノ酪酸)の機能に関して縦横な報告が日本の研究グループから出ました.

理化学研究所の研究グループの報告ですが、老化によって生じる記憶障害がGABAを伝達物質としている抑制性シナプス伝達が亢進することによって生じているのではないかという内容です.

実験は記憶障害を生じる疾患として有名なアルツハイマー病を若年性に発症するマウスを使っています.このマウスはアルツハイマー病発症の原因であるβアミロイドというタンパクを過剰に発現するように遺伝子操作されています.このマウスと正常な老齢マウスを正常な若いマウスを比較した結果、アルツハイマー病マウスと老齢マウスではGABA受容体を介した神経活動の抑制が異常に亢進していたということです(つまり過剰に抑制される).逆にこのアルツハイマー病マウスにGABA受容体の阻害剤を投与すると記憶力の低下が改善されていました.

試験が一段落ついたら、
理化学研究所HPのプレスリリース(ここ)を見てください.
原著の論文は
ここ(ProS One 8月21日付け)です.完全フリーアクセスですので興味のある方はぜひ開いてみてください.

ナメクジウオのゲノム解読

19日・木曜日の新聞などで、京都大学などの研究グループが「ナメクジウオ」のゲノムを解読したという報道がありました.ご存知の方も多いと思います.

ネイチャー(nature)という自然科学の分野では最も権威のある学術雑誌の一つに論文が掲載されました.ほ乳類を含む脊椎動物(背骨=椎骨を持っている動物)の先祖に当たる動物がどのような種であったかを明らかにする成果として注目されました.

また、新聞記事などでは触れてませんが、脊椎動物が出現してから動物界ではゲノムの重複が生じ、量が大幅に増えたこともわかりました.同じ遺伝子が2つあるということは、一方に何らかの変化が生じてもいいことになり、それだけ変化を許容するというか、新たな機能を獲得できる可能性が増すことにつながります.したがって、より高度な能力を持った生物が誕生するきっかけができ、進化を後押しする要因になります.私の興味に照らすと、こちらの成果の方がより重要性を感じます.

ところで、「ナメクジウオ」なんて見たことないですよね.(*^^*)
ネイチャーのサイト(ここ)を見てください.日本語版です.今週号の表紙にナメクジウオ(amphioxus)の写真が載っています.6月19日号のトップニュースは無料でダウンロードできます.表紙の解説がついていますので興味のある人はぜひごらんください.(目次は無料で閲覧できますが、本文の閲覧は有料です)

ところで、新聞の見出しでは「脊椎動物の祖先はナメクジウオ」というようなことばが踊っていますが、これは正確ではありません.最初の脊椎動物が出現したのが今から5億年くらい前といわれています(化石証拠による)が、その当時に今と全く同じナメクジウオがいたわけではありません.かなり似ているようではありますが、やはり現在の生物はそれだけの進化を経た結果今の姿になったわけです.したがって現存のナメクジウオはナメクジウオの祖先から進化しています.

くすり博物館に行ってきました

今日、各務原にあるエーザイの工場の中にあるくすり博物館へ行ってきました.

現在のクスリはエーザイの商品が一杯展示されているだけですが、日本の昔のクスリ、つまり漢方薬や民間薬の材料や調剤のための道具類がたくさん展示されていました.モグサもありました.

また、江戸時代から明治にかけての日本の薬屋、薬種問屋などの様子が再現されていていました.
薬研や百味箪笥など時代劇などではそれらしいものが出てきますが、本物をじっくり見ていると、昔の人の工夫が見て取れてます.

経絡の古い人形などもありましたが、一番私の目に焼き付いたのは解体新書の実物(?)でした.漢文なのでじっくり読むというわけにはいきませんでしたが、【神経】や【動脈】など今でも使っている言葉がここですでに使われていたという解説には驚きました.

建物の前には薬草園があり、それぞれに簡単な解説がついていました.ちょうど季節もよかったのか、きれいな花をつけている植物もありチョウが舞っていました.ついた時間が遅かったので間に合いませんでしたが、休日には薬草園の解説もあるようです.

ウェブサイトは
ここ(http://www.eisai.co.jp/museum)です.ちょっと交通の便は悪いですが、皆さんも一度行ってみてはいかがでしょうか?

ところで、博物館には中国の魔よけの神獣である「白沢(はくたく)」の絵や像も展示されていました.こんなのがいるとは知りませんでした.
授業とは全く関係ありませんが、畠中恵という作家の「しゃばけ」という小説をご存知ですか? 昨年11月にテレビドラマとして1回きりですが放送されました.舞台は江戸時代で、主人公が薬種問屋の若旦那.ですが、妖怪と仲良しで、そのうち薬種問屋の手代に化けている妖怪が「白沢」といいます.何も知らずに読んでいたのですが、引っかけていたんですね.
奇想天外で、結構面白い小説です.興味のある人は一度読んでみてください.新潮文庫にはいってます.

授業の補足:第6回 糖鎖、糖タンパク、糖脂質

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授業の補足:第5回 糖

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授業の補足:第4回 水

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授業の補足:第3回 酵素

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授業の補足:第2回 アミノ酸、ペプチド、タンパク質(追加)

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授業の補足:第1回 アミノ酸、ペプチド、タンパク質

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解剖学教科書の間違い(追加)

夏休み前にお渡しした解剖学教科書の間違いの一覧をPDFにしました.もしなくしてしまったり、上級生の方で必要な方はここからダウンロードしてください.

また、一覧表に入れたところから少し先の方ですが、22〜23ページの筋組織の説明の中で筋原線維がミオシンとアクチンのみからなるような記述があります.夏休み前の授業でも触れたように、正確ではありません.22ページの図1−20にそって順序よく考えていけばおのずと正確に理解できると思います.特に細いフィラメントはアクチンがトロポミオシンやトロポニンといっしょになって線維状になった構造です.

第1章、第2章の正誤表

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解剖学教科書の間違い

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第3章#1〜#96の正誤表

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平衡電位と膜電位(ちょっと発展版)

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静止膜電位についての説明(追加)

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