第21回 味覚と嗅覚

 味覚と嗅覚の適合刺激はともに化学物質です。食物も飲料も、そして吸気している空気もすべて化学物質です。あるいは、期せずして口に入ってしまったものやすってしまった気体も化学物質です。これらの化学物質が体内(あるいは器官や組織)に取り込まれる前に、その性質を見極める必要性から、化学物質に対する感覚が発達してきたのでしょう。

 味覚には「基本味(基本感覚)」がありますが、嗅覚には「基本的なにおい」はありません。これは、それぞれの受容体の種類の差に依っています。味覚には授業で説明した5種類の受容体があります。したがって、これら受容体に結合できる物質ごとに、感じる味が決まります。ところが、嗅覚受容体はヒトで約350種類の遺伝子が同定されており、それぞれの遺伝子産物(タンパク質)が異なった構造の化学物質を結合します。

 舌を中心とした味覚器とその周囲の構造、鼻腔と嗅上皮の構造はそれぞれ他の科目でも学んでいると思いますが、改めてよく見直しておきましょう。

 生理学的に重要なポイントは、味細胞や嗅細胞の反応のしかた、そして、それぞれの伝導の特徴です。

 個々の味細胞には特定の受容体だけが発現しています。したがって、大きく5種類に分けてみ物質のいずれかにしか反応できません。しかし、どのタイプの受容体であれ、味細胞に脱分極(受容器電位)が生じると、味細胞が神経伝達物質を放出して味神経を興奮させ、この興奮が中枢へ伝えられることによって感覚が生じます。

 機能的には味神経といいますが、味細胞が舌あるいは口腔内のどこにあるかによって脳神経の分担が異なりますので、よく確認しておきましょう。顔面神経、舌咽神経、迷走神経がいずれも孤束核に入り、二次ニューロンに接続しています。

 嗅細胞も、各細胞が異種類の受容体を発現しています。そして、嗅細胞自体がニューロンであり、閾値濃度以上で嗅物質が受容体と結合すると活動電位を発し、これがインパルスとして嗅神経を伝導して嗅球へ達します。嗅神経も脳神経の1つです。

 特殊感覚は一次ニューロンが脳神経であるということが、ここまででも確認できるでしょう。

 進化に関して何度か触れていますが、味覚と嗅覚を比べると、伝導路も中枢も、味覚の方が他の感覚に近く、嗅覚の方がかなり古い特徴を残していると言えるでしょう。味覚の伝導路は3つのニューロンがつながって構成され、視床を介しています。一次中枢も大脳皮質にはっきりとした領域がその役割を演じています。一方で、嗅覚は二次ニューロンである嗅球のニューロン(僧帽細胞)が一次中枢とも言える梨状皮質に達しています。さらに、扁桃体や眼窩前頭皮質など、いくつかの部分が梨状皮質と同様の位置づけを与えられているようです。ただし、一次味覚野も一次体性感覚野や今後説明する一次聴覚野や一次視覚野のように、大脳新皮質の最外部ではないところから、古い段階で形成された機能であることが推測されます。

 来週は聴覚を取り上げますが、適合刺激である音波についてやや時間をかけて説明します。また、耳の解剖学的な構造をよく予習しておきましょう。