SARS-CoV-2の受容体

 ウイルスがヒトの細胞内へ侵入するにはいくつかの方法がありますが、SARS-CoV-2のように、エンベロープを持つウイルスは、エンベロープを宿主の細胞膜と融合させるか、宿主細胞表面の膜タンパク質を受容体としてエンドサイトーシスを誘発するか、いずれかの方法によって侵入します。SARS-CoV-2は主に後者の方法を利用しているようで、エンベロープの膜タンパク質であるスパインが、ヒト細胞の2型アンジオテンシン転換酵素(ACE2)と結合して、細胞内へ侵入しています。この方法は、SARS-CoVと同様のようです。

 先に、ACE2受容体としたことがありましたが、書き間違いですすので、訂正します。

 アンジオテンシン転換酵素には2種類あり、『生理学Ⅱ&Ⅳ』「体液量の調節」で学ぶアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換するアンジオテンシン転換酵素は1型(ACE1)です。ACE1はアミノ酸残基10個からなるアンジオテンシンⅠのC末端から2残基を切断して、アミノ酸残基8個からなるアンジオテンシンⅡを産生します。主に肺毛細血管に存在しています。一方、ACE2はアミノ酸配列はACE1とよく似ているようで、アンジオテンシンⅠに対するペプチダーゼ活性もありますが、切り出すアミノ酸残基が異なるため、アンジオテンシンⅡを産生しません。循環器系の疾患に関わっていることが報告されていますが、主に十二指腸や小腸などに発現しています。もちろん、肺を含めた気道にも発現しているようですが、決して量は多くないようです(https://www.proteinatlas.org/ENSG00000130234-ACE2/tissue)。

 研究はものすごい勢いで進んでおり、最近はSARS-CoV-2がACE2と結合する構造がアメリカと中国の研究グループから報告されました。
   Structure of the SARS-CoV-2 spike receptor-binding domain bound to the ACE2 receptor
    Jun Lan, Jiwan Ge, Jinfang Yu, Sisi Shan, Huan Zhou, Shilong Fan, Qi Zhang, Xuanling Shi, Qisheng Wang, Linqi Zhang & Xinquan Wang
    Nature volume 581, pages215–220(2020)https://www.nature.com/articles/s41586-020-2180-5

   Structural basis of receptor recognition by SARS-CoV-2
    Jian Shang, Gang Ye, Ke Shi, Yushun Wan, Chuming Luo, Hideki Aihara, Qibin Geng, Ashley Auerbach & Fang Li
    Nature volume 581, pages221–224(2020)https://www.nature.com/articles/s41586-020-2179-y
で無償で公開されています。

 SARS-CoV-2はSARS-CoVとゲノムの塩基配列やウイルスの構造が似ているだけに、やはり受容体との結合のしかたもよく似ているようです。しかし、違いもあるようで、これが両者の感染性の違いなどを説明することになるかもしれません。また、そもそも、ウイルスが細胞に侵入させないための方法を見つけることができるようになる可能性も秘めています。