2018年度 第9回 能動輸送、小胞による輸送、静止膜電位

 はじめに、前回のまとめの中で絶対温度の説明をしましたが、その中で「温度感覚は摂氏温度と同じで、」という部分があります。ここは「温度間隔は摂氏温度と同じで、」の誤りです。訂正します。

 さて、今回は細胞膜を介した物質輸送の後半として、能動輸送と小胞による輸送を取り上げました。
能動輸送は二つに分けて説明しましたが、一次性能動輸送(ポンプ)がより重要です。特に、授業で例示したナトリウム・カリウムポンプ(「イオン」はつけてもつけなくてもかまわないでしょう。また、略して「ナト・カリポンプ」と呼んだり、「Na+/K+ポンプ」と記述されたりすることもあります)は今後何度も触れることになりますので、そのしくみをしっかりと理解しておきましょう。このポンプは、アニメーションで見たように、自身でATPを分解することができます。このことからNa+/K+ ATPaseと呼ぶこともあります。”ase”とは、この語の前に付いている名称の物質を分解する酵素を意味します。

 二次性能動輸送は、消化管で分解された栄養素(グルコースやガラクトース、アミノ酸など)を小腸吸収上皮細胞が吸収する場合、腎臓で尿が生成されるときに生じる尿細管での電解質(イオン)の再吸収の場合などに考える必要があります。思い出せるようにしておきましょう。

 エンドサイトーシスとエキソサイトーシスは互いに逆方向への物質の輸送です。授業では触れませんでしたが、いずれも大量のATPの分解をともないます。したがって、エネルギーを消費しており、広い意味では能動輸送と考えても差し支えないでしょうが、ポンプやシンポーターによる輸送とは輸送している物質(あるいは物体)の大きさや具体的な方法が異なるため、区別します。

 エンドサイトーシのうち食作用については他の科目で学んだ内容をもう一度確認しておきましょう。
エキソサイトーシスは今後ニューロンの機能を考える中で取り上げていきますが、他の科目でもホルモンの分泌など頻繁に考える機会があるでしょう。

 第2章にはかなり時間をかけましたが、すべての細胞に共通する性質を列挙するようにして説明しました。生理学で取り上げられる内容は、すべて「細胞の機能」を基本としています。生理学2では血球や心臓を構成する細胞群についてやや先行して進んでいますが、いろんな現象を細胞小器官や細胞膜の構造と機能を考えながら改めて見直してみましょう。特に、心筋細胞の収縮や特殊心筋における興奮の伝達などは第3章で取り上げる「細胞の興奮」を考えるとよりわかりやすくなるはずです。

 第3章で考える「細胞の興奮」は細胞膜の近傍の現象として理解することができます。したがって、この先もしばらくは「細胞膜」から離れられません。脂質二重膜を基本とする構造について、改めて見直しておきましょう。

 今日はその前提として、静止膜電位について考えました。細胞膜の構造だけではなく、細胞外液と細胞内液の組成、あるいはイオンについても知っていなくては正しく理解することはできません。電気に関する知識も少し必要です。来週は静止状態から大きく変化して細胞が興奮するという現象を考えます。

 以下にカリウム平衡電位について改めて説明しましたので、授業のプリントと合わせて見直しておきましょう。来週の授業では、以下の内容に平衡電位の計算方法を付け加えて配布します。

 静止膜電位について、改めて説明してみます。

 まず確認ですが、細胞内外には様々なイオンの分布に差があります。そして、細胞膜を構成する脂質二重膜はイオンを通さないため、いったんできた濃度差は簡単には解消されません。例えば、細胞外に100個の陽イオンがあり、細胞内に60個の陽イオンがある場合、その差である40個分の正の電荷の差が細胞膜を挟んで存在しています。実際には陰イオンもありますし、イオンの価数も考慮しなければなりません。このように、陽イオンと陰イオンの電荷の合計の差によって生じるのが電位差で、細胞膜を挟んで生じるため膜電位といいます。イオン濃度をもとに計算することもでき、電圧の単位であるボルト;Vで表します。

 膜電位はあくまでも細胞外を基準にして、つまり細胞外を0Vとして、細胞内がどれくらい正か負か、と考えます。正と負はあくまでも相対的なもので、どちらがより正の電荷(つまり陽イオン)が多いのか、あるいはより負の電荷(つまり陰イオン)が多いのかと考えればいいわけです。そして、膜電位として「電圧の大きさ」を問題にするとき、必ず細胞外に対する細胞内の電位差を指しています。

ではどうしてイオンの分布に差ができるのでしょうか? それを担っているのがイオンポンプとイオンチャネルで、これらポンプやチャネルのはたらきによって生じるカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差が特に大切です(この他に塩化物イオンを一緒に考えることもよくあります)。

 細胞内外のカリウムイオンとナトリウムイオンの濃度差は基本的にナトリウム・カリウムポンプによって維持されています。このポンプのはたらきによって、細胞内にあるナトリウムイオンは細胞外へ移動し、細胞外にあるカリウムイオンは細胞内へ取り込まれます。その結果、細胞外にはナトリウムイオンが多く、細胞内にはカリウムイオンが多いという状態がつくりだされています。しかも、ナトリウム・カリウムポンプは3個のナトリウムイオンと2個のカリウムイオンをセットにして輸送しますので、このポンプのはたらきだけを考えれば細胞外の陽イオンが多くなってしまいます。

 いったんイオンポンプによって濃度差がつくられると、その濃度差にしたがってイオンがチャネルを通って移動します。細胞膜にあるカリウムチャネルにはいろんな種類がありますが、その中のカリウム漏洩チャネル(漏出チャネルともいいます)は、ニューロンの細胞膜には大量に発現しています。個々の漏洩チャネルはランダムに開閉を繰り返していますが、多数のチャネルが存在するため、ある数の漏洩チャネルが常時開放していると考えられます。したがって、細胞内のカリウムイオンは濃度勾配に従って細胞外へ移動します。追加で配布したプリントの図⒜の状態です。
 
 ところが、ある程度の量のカリウムイオンが細胞へ流出すると、今度は細胞内が陰性(負に帯電)に、細胞外が陽性(正に帯電)になり、カリウムイオンに対する電位勾配がつくられます(プリントの図⒝)。この結果、カリウムイオンは電位勾配にしたがって細胞外から細胞内へ移動します。あるいは、陽イオンであるカリウムイオンが負に帯電した細胞内に引きつけられて、濃度勾配による移動が少なくなるかもしれません。ただし、この状態では濃度勾配の方がまだまだ大きいため、カリウムイオンの移動は見かけ上は細胞内から細胞外へ向いています。

 しかし、さらにカリウムイオンの移動が続くと、電位勾配がどんどん大きくなり、濃度勾配の大きさと電位勾配の大きさが等しくなります(プリントの図⒞)。濃度勾配(化学的勾配)と電気的勾配(あわせて電気化学的勾配)がつり合った状態=平衡状態です。この結果、見かけ上、カリウムイオンはどちらの方向へも移動しなくなります。(ただし、移動が完全に止まったのではなく、流出量と流入量が等しくなり、見かけ上移動が止まっているだけです)。このように見かけ上イオンの移動がない状態のイオン濃度の差(電荷の差)によって生じる電位が「平衡電位」です。カリウムイオンの移動だけを問題にして、カリウムイオンの移動が見かけ上ない状態での電位ですので「カリウムイオン平衡電位」といいます。
 
 一方、細胞膜には他のイオンを通過させるイオンチャネルも多数存在します。例えば、ナトリウムイオンチャネルもいろんな種類があり、その中にはナトリウム漏洩チャネルもあります。しかし、カリウム漏洩チャネルに比べて圧倒的に数が少ないようで、細胞外から細胞内へ移動するナトリウムイオンは細胞外へ移動するカリウムイオンに対して極めて少量です。このように、細胞膜に存在するすべてのイオンポンプとイオンチャネルのはたらきによってつくりだされた細胞膜内外のイオンの濃度差によって生じるている電位差が静止膜電位(静止電位)です。

 一度説明を聞いただけではわかりにくかった人もいると思います。改めてじっくりと考えながら読み返してください。