2017年度 第21回 味覚の中枢、嗅覚、音波

 味覚と嗅覚はともに化学物質を適合刺激とする感覚であることから、多くの共通点がありますが、相違点もはっきりとしています。これらを比較してみると、それぞれの特徴も見えてくるでしょう。

 それぞれの感覚の目的は、ともに生存に関する適、不適の情報を得るという点で共通してます。特に、その食物、飲料が摂取するに適するのか否かを判断するとともに、摂取に適した味やにおいを感じたときには消化器系の機能を促進するという点は共通しています。しかし、それらの感覚は他の動物と比べると鈍感であり、物質の検知閾値が高く(物質の濃度が高くないと検知できない)順応も速いという特徴があります。ヒトは視覚や触覚が発達している一方で、味覚や嗅覚から得られる情報をあまり当てにしてはいないようです。

 それぞれの基本感覚には大きな違いがあり、味覚には5つの基本味がありますが、嗅覚にはそのような感覚はありません。これは、物質に対する受容体の機能の差に依存しています。味覚の受容体は種類が限られ、決まった構造の物質だけを受容します。これに対して、嗅覚の受容体は非常に多種類で、さまざまな構造の物質に対応することができます。自身を取り巻く環境、文字通りに周りの空気の組成をできるだけ詳しく検知するという意味では、受容体の種類を増やす必要があったのでしょう。遺伝子レベルでの複雑な組換えが生じた結果、多種類の受容体タンパク質を産生できるようになっています。

 したがって、食物に関する情報を得るのは、まずその食物から発せられる揮発性物質を検知して、問題なしと判断したら口に入れてみて、さらに味を見て咀嚼、嚥下してもいいかどうかを判断する、という順でしょうか。

 それぞれの感覚の中枢を比較すると、味覚は大脳新皮質に一次中枢があるのに対して、嗅覚は大脳旧皮質(辺縁系とも言います)に一次中枢があります。進化的には、名前の通り旧皮質が先に出現し、哺乳類、特に高等哺乳類以降になって新皮質が飛躍的に発達してきています。環境を分析するための感覚として、あるいは、離れたところにいる天敵や仲間の存在を知るため感覚として、嗅覚はかなり古くから発達していたのでしょう。後期の最後で、ヒトとヒト以外の哺乳類の脳を比較してみますが、嗅球などが脳全体に占める割合を比べると、ヒトと他の哺乳動物では大きな違いがあります。

 後半では、嗅覚の適刺激である音波について取り上げました。説明がやや不十分だったと思いますが、音の大きさと高さの感覚の違いが音波刺激のどのような性質に依っているのかを理解してください。また、ヘルツやベルなど、日常生活でも比較的頻繁に使われる考え方にも触れました。知っておくといいでしょう。機会があれば、今回取り上げなかった音色の特徴も含めて、音楽的な意味での音の特徴についても取り上げたいと思います。

 次回は聴覚器の構造から、どのようにして音波刺激を神経系の電気信号に変換し、聴覚が成立するかを考えます。また、聴覚と同様に内耳に感覚器官がある平衡感覚についても取り上げます。