『ベニスに死す』

 在宅勤務が当たり前になると、外出できない休暇は結局勤務日になってしまいます。とはいっても、せっかくだからと少しリラックスして過ごし、仕事量を減らしたため、ブログの更新はできませんでした。

 さて、少しコレラについて書き続けていましたので、コレラを題材にした小説をもう一つ紹介します。『ベニスに死す』です。ヴィスコンティ監督の映画が有名ですが、原作はトーマス・マンの同名小説です。原題は“Der Tod in Venedig”。“tod”は名詞ですから、直訳すると「ベニスでの死」というところでしょうか。

 映画では音楽家(作曲家)が主人公になっていますが、原作は小説家です。老境に達した文豪が休暇でベニスを訪れ、同じホテルに滞在する美少年に魅了され、今でいうストーカーまがいの行動に出ます。ところが、ベニスにコレラが流行しはじめ、観光客はどんどん逃げ出し、商店なども閉鎖しだす。主人公の小説家は、お目当ての美少年とその家族が残っているために、危険であることが分かりながらも滞在を続け、ある日コレラに罹患し、あっけなく亡くなるというストーリーです。町中が消毒されたり、亡くなっていく患者の様子などが詳しく描写されています。

 主人公の亡くなり方はとてもコレラが原因のようには思えません。耽溺、退廃、そして死という、決して後味のいい小説ではありませんし、どこが名作かと思うような筋書きです。小説は翻訳の日本語が分かりにくく、読みにくいところもありますが、映画は一見の価値があります。

 映画は数年前に、デジタルリマスター版?でのリバイバル上映がありました。レンタルやオンデマンドではいつでも観られると思います。台詞はそれほどなく、むしろたマーラーの交響曲第5番のadagettoをはじめとした音楽の使い方が見事です。トーマス・マンとマーラーは友人だったそうで、映画で作曲家を主人公にしたのもうなずける設定です。原作の主人公にもマーラーの影を感じます。

 トーマス・マンの作品は他に『ルートヴィヒ』がヴィスコンティによって映画化されており、これも見応えがあります。