第32回 中枢神経系の高次機能

 最後の授業では高次機能として、睡眠と覚醒、言語、そして記憶と学習に関する機能を取り上げました。時間の都合で一部の説明を割愛しましたが、要点だけをまとめておきます。

 睡眠については、どのように睡眠に導入さて、その状態が維持されているのか、あるいは、レム睡眠とノンレム睡眠がどのように切り替えられてるのかなど、まだ十分にコンセンサスを得られる経過は出ていないようです。単行本として詳細を解説したものはありますが、多くの研究者がどこまでを受け入れているのは不明なところもあります。

 しかし、睡眠がどのような状態であるのかはかなり解明されてきています。今回はその一端を紹介しました。ノンレム睡眠は脳波の状態によって特徴付けられています。また、レム睡眠中に生じる現象はノンレム睡眠と比較するとよくわかると思います。

 覚醒状態を生じるまたは維持するための神経回路についても詳細がわかりつつあるようです。脳幹とそこから大脳皮質、特に新皮質への働きかけが重要であるところがポイントだと思います。

 言語機能はヒトに特徴的な機能であり、文化の源でもあります。概略的な説明しかできませんでしたが、二つの言語中枢の機能の違いをよく把握しておきましょう。また、多くのヒトでは左半球優位であることも忘れてはいけません。

 最後に記憶と学習について取り上げました。これらの機能あるいはメカニズムについての研究は、近年飛躍的に進んでいます。正直言ってとても追いつけませんが、海馬の機能が注目されていることに変わりはなく、また、シナプスの可塑性が鍵を握っていることは間違いないでしょう。授業では興奮の伝達機能が増強される現象、つまりLTPに注目して記憶との関わりを説明しました。特に、伝達物質受容体の数が増加することによって記憶が保持される点に触れました。既に合成された受容体タンパク質が細胞膜に運ばれて、まく受容体の数が増加することによって短期記憶が生じ、遺伝子発現のレベルが上昇して、恒常的に受容体数が増加すると長期記憶を生じます。

 逆に、長期にわたってシナプス伝達が抑制される長期抑圧という現象も知られており、小脳の学習機能に関わっているとして研究が進められています。小脳の機能として説明したように、トレーニングをつんて熟練した運動技能を身につけるためには、間違った動きを無くしていく必要があります。このために、あるシナプスの興奮伝達の効率を低下させているようです。

 さて、生理学は人体の正常な機能を研究し学ぶ学問です。それを通じて、ヒトの健康がいかにして維持されているのかを理解できるようにしたつもりですが、どうでしたか? 合わせて、授業の内容のみならず、小テストや期末試験、あるいはレポート課題などを通じて、物事を理解する、下世話にいえば何かを勉強するということはどういうことで、どうすればよいのかがわかるようなすすめてたつもりです。

来年度以降は病理学をはじめ、疾患や臨床について学んでいくわけですが、正常機能からの逸脱であるとして考えてるとわかりやすくなることがあるはずです。

 来年度も木曜日に1年生の授業を受け持ちます。毎回お昼休みが終わる頃までは職員室にいると思いますので、質問があればいつでもどうぞ。このWebサイトは引き続き掲載し、メールアドレスにも変更はありません。

第31回 大脳新皮質と大脳辺縁系の構造と機能

 試験後に2回授業ができますので、最終章『中枢神経系の統合機能』を一通り取り上げることができます。

 前半は大脳の構造と機能について、新皮質と辺縁系に分けて考えました。これまで取り上げてきたことや解剖学で学んだ内容とかなり重複していると思いますが、よくい確認になるでしょう。

 新皮質が回と溝によって入り組んだ構造になっているのは、頭蓋によって閉ざされたスペースの中で細胞が増殖して大きな体積(あるいは表面積)を獲得した結果です。したがって、見た目以上に、大量のニューロンが存在し、そのおかげで高度な機能を獲得しました。

 その代表が前頭連合野における知性や理性でしょう。授業では最新のデータを紹介するというよりも、古典的な実験を紹介したにとどまりました。しかし、他の動物との比較から、人の脳がいかに優れているのかがわかったのではないでしょうか。なによりも、今こうしてインターネットに接続した機器を使って文章を読んでいることが、その証拠です。

 辺縁系は構成がわかりにくいため説明もしづらいですが、情動と記憶という、生物にとっても基本的な機能を担っています。来週取り上げますが、記憶といっても出来事記憶ですから、ややプリミティブで、その意味では情動と同じ領野が担っているということは理にかなっていると思います。

 扁桃体は、試験前の授業で取り上げた自律神経系への作用が重要ですが、情動の評価を担っている部位です。また、合わせて報酬系についても触れました。依存症の一つの根拠ともなるしくみですので、時間があれば調べてみるとよいでしょう。

 最後に取り上げた大脳の電気活動、脳波については来週改めて触れますので、各波形の特徴を頭に入れておきましょう。

第30回 自律神経系の伝達物質と受容体、中枢の機能

 試験前最後の授業で、やや駆け足になったところもありました。重要なポイントは授業中にもいくつか触れましたが、改めて指摘しながら、まとめてみます。

 交感神経系と副交感神経系ではたらく伝達物質は2種類しかありません。このうち、受容体、特に効果器あるいは標的細胞がもつ受容体は、いずれも代謝調節型です。ムスカリン性アセチルコリン受容体は2種類が使い分けられています。アドレナリン受容体は、授業で説明した4種類がよく知られ、分布や作用がそれぞれ異なります。

 アドレナリン受容体の分布と作用について、やや詳しく説明しました。簡単に繰り返すと、交感神経活動が増加し、その影響が全身に及んでいるとき、
 α1受容体とβ1受容体を発現する各器官、組織の働きは亢進しています。α2受容体とβ2受容体を発現する各筋、組織の働きは低下します。
 例えば、心臓(β1)は心拍数や心収縮力が増大し、皮膚血管(α1)は収縮します。この結果、血圧が上昇し、血液循環が進みます。瞳孔散大筋(α1)も収縮します。一方で骨格筋や心臓の血管(β2)は弛緩して血流が増大します。

 同時に、消化器系の機能は低下しており、消化管壁の平滑筋の収縮(β2)は低下するとともに括約筋(α1)は収縮します。膵臓外分泌腺(α2)からの消化液の分泌や膵島ベータ細胞(α2)からのインスリン分泌も抑制されます。
 泌尿器系では、膀胱管壁(β2)は弛緩する一方でない尿道括約筋(α1)は収縮して蓄尿が促進あるいは排尿が抑制されます。腎臓傍糸球体細胞(β1)からのレニン分泌は増加し、尿産生は低下します。

 視床下部の作用として体温調節に触れました。体温を上昇させる場合には交感神経系が活発になり、その作用によって、皮膚血管の収縮(α1)、褐色脂肪組織(β3)での脂肪分解が生じます。さらに、副腎髄質ホルモンの分泌も促進されます。副腎髄質ホルモンの作用は交感神経系の作用とほぼ一致します。同じ物質の作用ですから当然ですが、副腎髄質(ニコチン性アセチルコリン受容体)も交感神経節前ニューロンの直接の作用を受けています。

 いろんな角度から考えることができますので、機会を捉えて見直してみるとよいでしょう。

 自律神経系の中枢のはたらきは、脳幹、視床下部、そして大脳辺縁系の3つに分けて考えました。

 時間の都合もあり、脳幹についてはかなり簡単な説明にしましたが、生理学4では泌尿器系の機能が取り上げられているはずですから、蓄尿や排尿に関する交感神経、副交感神経の作用はよく見直しておきましょう。

 排尿反射としての中枢は腰仙髄ですが、ここの作用を上位から調節しているのが橋にある中枢です。大脳皮質からの意思が伝えられてことによって橋の排尿中枢が興奮すると、その情報が脊髄を下行して、骨盤神経(副交感神経)を活性化して膀胱壁が収縮するとともに、下腹神経(交感神経)の活動がよわまって内尿道括約筋が弛緩します。もちろん、外尿道括約筋が弛緩する必要がありますから、随意的に外尿道括約筋を弛緩させます。この結果、排尿が生じます。

 対光反射は、視覚機能と関わっていますので、視細胞・視神経の機能や瞳孔括約筋・瞳孔散大筋のはたらきとともに、よく見直しておきましょう。

 視蓋前野は、視運動性反応でも視神経の入力部として触れました。この反射は、眼球を運動させるという反射ですが、受容器と求心路は対光反射と共通しています。混乱しないようにしましょう。

 視床下部は自律神経系の最高中枢として機能し、今日取り上げた体温調節や摂食・血糖調節、飲水や概日リズムの調節に関する機能は特に有名です。

 飲水中枢としての視床下部の機能が発揮されるためには、体液、特に血液量の減少や血圧の低下、血液浸透圧の上昇に関する情報が伝えられる必要があります。血液量の減少は心房伸展受容器で、血圧の低下は動脈の圧受容器で、浸透圧の上昇は視床下部の浸透圧受容器で検知されています。また、血圧低下によって腎臓糸球体輸入細動脈の血圧が低下するため、これが刺激となって傍糸球体細胞からレニンが分泌されてレニン・アンジオテンシン系が活性化するとアンジオテンシンⅡつくられて視床下部を刺激します。これらの作用の結果、飲水中枢が渇き感覚を生じさせ、飲水行動を取らせます。プリントでは「脱水」としましたが、調子が悪くなるほどの状態をさすわけではなく、日常の中での飲水欲求も、体液量や浸透圧のわずかな変化によって生じています。

 概日リズムの中枢としての機能が視床下部にあることは古くから知られています。これは視神経の一部が視床下部、特に視交叉上核に入力していることに依っています。

 情動に関する機能はわかりにくいところも多かったかもしれません。事実、ヒトにおける研究が不十分なようで、動物実験でははっきりしないことも多いのでしょう。ただ、大脳辺縁系と視床下部とのつながりにおいて、大脳辺縁系の一部である扁桃体が大きな役割を演じていることは間違いないようです。後期の前半で疼痛の定義を紹介しました。「不快な感覚と不快な情動体験」でした。この情動とそれにともなって生じる自律機能の変化は、脊髄網様体路から大脳辺縁系、視床下部に情報が伝えられることによって引き起こされます。試験勉強では、侵害受容器の種類や神経線維の種類、感覚の特徴などを見直すと思いますが、合わせて自律機能の変化にも結びつけておきましょう。


 気がついているとは思いますが、授業中に指摘した部分以外にもプリントに誤りがありますので、訂正します。以下の通りです。

 自律神経系の構造と機能
  P470 3段目 4行目 粘膜か神経叢 → 粘膜下神経叢
         11行目 運動野分泌 → 運動や分泌
  P497 下段 9行目 排尿(diuresis) → 抗利尿(diuresis)


 後期試験の範囲は第6章から第10章までです。既に過去の期末試験問題に取り組んでいるかと思いますが、それらからわかるように、出題されるポイントや問われている内容はいずれも重要なポイントばかりです。一部に詳細な知識を問う部分もありますが、決して用語を丸暗記するわけではなく、理解する=内容を自分の言葉で説明できるようにすることができるかどうかを試しています。
 今回の試験範囲は大きくは感覚機能と運動機能ですが、伸長反射や前庭動眼反射、視運動性反応に見られるように、両者は互いに結びついている部分もたくさんあります。また、今日の授業でもわかるように、他の科目とも密接に関わっています。できるだけ、互いを関連させながら考えると、より理解が進むでしょう。

第29回 大脳皮質、随意運動の伝導路、自律神経系

 今日はまず大脳新皮質のうち、運動性皮質の特徴を取り上げました。それぞれの場所をよく確認しておきましょう。

 三つの部位のうち、最も重要なのは一次運動野です。この部位の特徴はよく見直して、自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。特に、伝導路の特徴と組み合わせて、対側半身を支配していることを忘れないように。

 補足運動野と運動前野は、いずれも実験例を示して、どのような機能があるかを推測しました。改めて考えてみましょう。最初に示したディスプレイをタッチさせる実験では、一次運動野が随意運動の際に常に活動しているのに対して、補足運動野と運動前野は、視覚刺激に応じた運動時に活動するのか、あるいは記憶に依存した運動時に活動するのか、相違点がはっきりしていましたので、わかりやすいでしょう。

 伝導路は、錐体路が中心です。2つの皮質脊髄路と皮質延髄路は自分で図を描いて確認しておきましょう。特に皮質脊髄路はそこで交叉をするのか、どこの筋の運動を支配しているのか(あるいはシナプスしている運動ニューロンがどの部位の骨格筋を支配しているのか)をはっきりと説明できるようにしておきましょう。

 錐体外路は分かりにくいと思いますが、前庭脊髄路は前回、前々回の授業で取り上げた内容とも重複するので機能を考えやすいと思います。反射を含めてさまざまな現象、運動を説明するためには、錐体路だけでは不十分であることを理解する必要があると思います。

 後半では自律神経系について、前期の復習のような内容で説明をしました。かなり駆け足でしたが、交感神経と副交感神経の構成、それぞれの伝達物質、そして受容体をよく確認しておきましょう。

 A組の授業ではアドレナリン受容体の分布と作用について、交感神経優位な場合での全身の反応と合わせて説明しました。もう一度自分で考えなおしておきましょう。これまでに他の科目、特に生理学Ⅱ&Ⅳで学んだ内容をよく思い出しておく必要があります。

 来週は、交感神経系と副交感神経系のはたらきのバランスを調節している脳幹、視床下部、大脳辺縁系の機能を取り上げます。BC組の授業では受容体、特にアドレナリン受容体の機能についてももう一度考えてみます。交感神経優位なときの内臓器官の状態をおさらいしておくとよいでしょう。

第28回 姿勢の調節、小脳と大脳基底核の機能

 今回取り上げた小脳と基底核の機能は、マクロには多くの知見が得られていますが、細胞や組織、あるいは個々の神経核のレベルでは他の器官ほどに十分な機能が解明されていません。したがって、障害を例にして機能を推測したり、ヒト以外の動物での実験から得られた結果から外挿するしかありません。したがって、非常に抽象的な説明に終始しました。わかりにくかったかもしれません。

 とはいっても、小脳はかなり研究が進んできています。ヒトはもちろん、実験動物においても運動失調を生じる例が多数あるため、近年注目されています。

 「随意運動を協調させる」ということの意味が実感できれば、小脳がそのための調整役として機能していることもイメージしやすいでしょう。熟練を要するをよく言われますが、授業中にも例を挙げたように、手指を使ったさまざまな作業はその典型です。見ているだけではすぐにはできず、自分で何度も同じことを繰り返すことによってはじめてスムーズに動かせるようになります。この過程で、大脳皮質から筋に伝えられる内容と実際の運動に関する情報をともに得て比較し、さらに、比較した結果を大脳皮質へフィードバックするのが小脳の機能です。

 構音、すなわち、下顎や舌、口蓋などの運動によって咽頭や口腔の形を変化させて言語音をつくりだすことも非常に高度な熟練を要します。ヒトは成長過程でこの高度なトレーニングを積んでいるために、自由自在に話すことができます。

 実験動物は小脳がなくても生きてはいけます。ヒトでは生存はできるかもしれませんが、生活はできないでしょう。

 大脳基底核は、解剖学的な定義と運動機能に関わっている神経核との間に食い違いがありますので、注意しましょう。プリントでも「大脳基底核とその周辺の神経核」という言い方をしているのはそのためです。

 神経核間の連絡、例えば、線条体から淡蒼球内節・黒質網様部へ抑制性に接続するなどは、授業で説明したとおり、基本的に明らかになっています。しかし、それでどのような機能が実現しているのかを具体的に説明することは難しいようです。そこで、特定の神経核あるいはニューロンが変性・脱落した場合にどのような症状を呈するのかを、疾患を例にして説明しました。YouTubeなどでは患者さんの症状を示す映像を見ることもできると思いますので、時間のあるとき探してみるとよいでしょう。

 来週は大脳新皮質、中枢の中の中枢の機能とそこからの情報がどのように骨格筋に伝えられるのかを考えます。さらに第10章、自律神経系の機能に入ります。前期に取り上げた内容をかなり重複しますので、余裕があれば簡単に見直しておきましょう。