MET:ポーギーとベス

 毎年紹介しているニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のライブビューイングは、現地での上演中止を受けて、現地では3月から、国内上映も4月以降の上映が中止されていました。6月に入って映画館も再開したことを受け、録画済みの3公演が6月末から上映され始めました。

 ガーシュウィンという作曲家を知っているでしょうか。「ラプソディー・イン・ブルー」を聴いたことがある、あるいは題名を耳にしたことのある人も多いでしょう。そのガーシュウィンが作った唯一のオペラが『ポーギーとベス』です。同時代の作家が書いた小説を原作として、もちろん全編英語で歌われます。1935年にボストンで初演されました。

 オペラ中のアリアでは冒頭をはじめとして、劇中に何度と歌われる「サマータイム」(https://www.youtube.com/watch?v=UYlIHI35oak)が最も有名でしょうか。この他にジャズのテイストを感じさせるメロディーやアリアが随所にあり、19世紀のイタリアのオペラに慣れた耳には新鮮でした。

 パンフレットを参考にして簡単にストーリーを紹介します。
舞台はサウスカロライナ州の港湾都市チャールストン、海沿いの集落キャットフィッシュ・ロウ(訳すと差し詰め、ナマズ通り)。主な登場人物は全てアフリカン・アメリカンで、
  ポーギー:足の不自由な男(バス・バリトン)
  ベス:クラウンの情婦(ソプラノ)
  クラウン:ならずもの(バス・バリトン)
  スポーティング・ライフ:麻薬の密売人(テノール)
  その他にキャットフィッシュ・ロウの住民であるクララ(ソプラノ)、セリナ(ソプラノ)、マリアが(メゾ・ソプラノ)
  白人の警官
第1幕
 キャットフィッシュ・ロウはアフリカン・アメリカンの人たちが暮らす集落。前奏曲風に幕が開いた後、クララの歌う「サマータイム」で始まる。土曜の夜で男性達がサイコロ賭博に興じている。そこへならず者で住民たちから嫌われているクラウンが情婦のベスを連れて現れ、賭博に加わる。イカ様の揉め事から揉め事となり、クラウンが住民の一人を刺殺してしまう。クラウンはすぐに逃げるが、ベスは逃げ遅れる。ポーギーは密かにベスに想いを寄せており、彼女を匿う。役を割り当てられたほぼ全員にソロがあり、聴きごたえ十分。
 舞台が転換して、白人の警官が現れて住民の一人を強引に犯人扱いして連行。遺体の埋葬にかなりの費用がかかったようで、貧しい住民に無理難題を押し付けてくる。良心的な葬儀屋の配慮で支払いを待ってもらえる。
 1ヶ月後、薬物依存だったベスはポーギーと暮らし始めると、なんとか依存から抜け出す。しかし、密売人のスポーティング・ライフが薬物を売りつけようとしたり、ニューヨークへ行こうと誘ったりする。ある日、住民たちが近くの島へピクニックに行くことに。足の悪いポーギーを一人にしたくないベスだが、ポーギーの勧めもあって住民たちと一緒に出かける。
 帰りに遅れたベスは逃亡中のクラウンと再会する。クラウンは嫌がるベスを引き留め、以前の暮らしに戻るよう迫る。

第2幕
 2日遅れでキャットフィッシュ・ロウへ帰ってきたベスは病に伏せる。ベスはポーギーに島での出来事を告白するも、ポーギーは「ベス、お前は俺の女だ」と歌い、ベスは「ここにいたい」と応える。セリフはやや古臭いですが、美しい音楽です。
 翌日、住民の一部が漁に出かけたもののハリケーンが襲来。船が転覆し、様子を見に行ったクララも命を落とす。亡くなった住民たちの葬儀ののち、一人になったポーギーのところへクラウンがナイフを持って現れると、もみ合ってポーギーがクラウンを殺してしまう。
 また白人警官が現れ捜査が行われ、ポーギーが連行される。ただし、殺人容疑ではなく被害者の身元確認のために連れて行かれたように感じたが、戻ってくるのが1週間後。この間に不安が高じているベスにスポーティング・ライフが麻薬を勧め、ニューヨーク行きを誘う。ポーギーが戻らないと誤解したベスは一緒に出かけてしまう。釈放されたポーギーが戻ってみるとベスはおらず、ニューヨークへ行ったことを聞かされると、自ら赴くことを歌いながらキャットフィッシュ・ロウを出て行く。

 全体としては合唱が多く、全出演者をアフリカンアメリカンでそろえようとするとかなり大変でしょう。METでも30年ぶりの上演とのことでしたが、やむを得ないのかもしれません。実際にMETで上演は2月、今回が新演出ですから、上演の計画は数年前から練られていただろうと思います。METの観客、少なくとも常連は高所得者層。つまり、多くが共和党支持者であろうと考えられますが、この数年の多くの事件が彼らの考え方を変えさせているのでしょうか。新演出の上演は劇場にとっても予算的にたいへんなことですが、今回のような試みはどんどん続けてほしいものです。


 映画の冒頭には他の映画のコマーシャルがつきものですが、METライブビューイングでは滅多にありません。しかし、今回は珍しく2本の映画のコマーシャルが上映されました。一つは9月から始まる「パヴァロッティ~太陽のテノール」と7月から始まる「プラド美術館~驚異のコレクション」です。
前者は、3大テノールの一人として知られる20世紀最高とも称されるテノール歌手、ルチアーノ・パヴァロッティのドキュメンタリー映画です。2007年に亡くなっていますが、鳥のオリンピックの開会式で歌った姿を覚えている人もいるでしょう。家族や友人の証言と本人の歌う姿で綴られているようです。

 後者は、スペイン・マドリッドにある美術館のコレクションを紹介するドキュメンタリーです。パリのルーブルやペテルブルクのエルミタージュと並ぶ屈指の規模を誇る美術館です。あまり余裕はないかもしれませんし、心配も尽きませんが気分転換にいかがでしょうか?