バイエルン国立歌劇場1

 7月の終わりからドイツに行ってきました。目的はいろいろありますが、名付けて『ミュンヘン・オペラフェスティバルとアンスバッハ・バッハ週間を鑑賞し、バイエルン・フランケン地方の歴史と自然を満喫する旅』。ちょっと欲張りすぎて消化不良になりましたが、歴史ある歌劇場で世界トップの歌声を堪能し、教会でのオルガン・コンサートを聴くなど日本では絶対に味わえない貴重な体験でした。

 ヨーロッパの音楽シーズンは通常秋から初夏にかけてですが、オフシーズンである夏にも場所やテーマを限定して「音楽祭」と銘打って特別の演奏、上演が行われることがあります。ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場(または州立歌劇場)(Bayerische Staatsoper)は19世紀初めにつくられた宮廷歌劇場を起源とする施設、団体で、毎年7月いっぱいを「ミュンヘン・オペラフェスティバル」として、他の劇場なども使いながら多くのオペラを上演しています。

 今回は、最後の2日間の上演である
7月30日:オッフェンバック作曲《ホフマン物語》
7月31日:ジョルダーノ作曲《アンドレア・シェニエ》
を観てきました。

 この歌劇場は内外ともに非常に豪華で、客席数は2,000を超えてドイツで最大とか。ホールの音響もすばらしく、歌手の声がよく通ります。バルコニー席の3階でしたが、舞台からそれほど離れておらず、一体感があります。価格は出演するソリストによって変わりますが、日本の演奏団体(二期会など)による上演とだいたい同じくらいでしょうか。バイエルン国立歌劇場は今年の秋に来日公演(たぶん東京だけ)がありますが、現地の2倍から4倍の価格です。

 当日感じた唯一の欠点は空調機器が設置されていないこと。当日はミュンヘンにしてはかなり暑い日(たぶん最高気温は34度くらい?)で、ホール内はムンムンして舞台で演じる歌手たちはさぞつらかったのではないでしょうか? 旅行中に泊まったホテルでもエアコンは設置されていませんでした。日本でも北海道では家庭にクーラーはないそうですが、だいたい同じくらいの気温でしょう。

 『ホフマン物語』は、ドイツの詩人であるETA・ホフマンの短編小説をモチーフにしたオペラです。作曲者のオッフェンバックはフランス人で、台本もフランス語。オペラでは珍しいオムニバス形式の作品です。作品中で最も有名なのは「ホフマンの舟歌」。第4幕の冒頭で歌われる名曲で、聴けば分かる方もいるのではないでしょうか? 

 プロローグとエピローグを含めた5幕構成で、主人公のホフマンはすべてに登場しますが、2幕から4幕でそれぞれヒロインが異なります。また、1幕と5幕、さらに2幕から4幕でそれぞれ異なった役どころの悪役が登場します。あらすじは別の機会にまとめるとして、感想だけ簡単に記します。

 配役は
Hoffmann(ホフマン):Michael Spyres
Nicklausse
(ニクラウス)/ Muse(ミューズ):Angela Brower
Lindori
(リンドルフ)/ Coppélius(コッペリウス)/ Dappertutto(ダペルトゥット)/ Miracle(ミラクル):Nicolas Testé
Olympia
(オランピア):Olga Pudova
Antonia
(アントニア)/ Giulietta(ジュリエッタ)/ Stella(ステラ):Diana Damrau(ディアナ・ダムラウ)
指揮:Constantin Trinks

 ヒロインはいずれもソプラノですが、それぞれ異なった声質や表現力を求められます。1人の歌手がすべてを演じることはあまりなく、今回も第2幕のオランピア(コロラトゥーラ・ソプラノ)と、それ以外を別の歌手が歌いました。第2幕のオランピアはコロラトゥーラ・ソプラノ、第3幕のアントニアはソプラノ・リリコ、第4幕のジュリエッタはソプラノ・スピント、さらにエピローグ(プロローグにも登場しますが歌うことはありません)に登場するステラはソプラノ・リリコ?と、それぞれに別の歌手を当てることもあるほど、求められるものに違いがあります。悪役は4人出てきますが、バスで多くは1人がすべての役を演じます。

 今回の売りは悪役をアブダラザコフという、今売り出し中のバス歌手が歌うことでした。オペラでソリストのキャンセルはよくあることで、1週間ほど前にキャンセルとなり、今回歌った歌手は代役です。さらに、アントニアとジュリエッタ、ステラを歌うはずだった歌手も直前にキャンセル。代役は本来歌うはずの歌手よりも格下の歌手が勤めることが多いのですが、今回はドイツきってのソプラノ歌手であるダムラウ。まさか生で聴けるとは。

 ダムラウは以前に紹介したMETライブビューイングの《ロメオとジュリエット》でジュリエットを歌いました。オランピアを歌ったPudovaもすばらしかったのですが、やはり存在感が違います。一声出しただけで雰囲気が変わります。声量もすばらしく、また、役ごとの表現の違いも見事でした。ごく自然に声を出しているようなのに、客席の後ろまでしっかり届き、声量や声色の変化が手に取るように感じられました。期せずしてですが、すばらしい体験でした。

 終演後、楽屋口で待っていると(出待ちです)出演者が次々と出てきてサインや写真撮影に応じてくれました。日本では考えられないことです。ダムラウとも2ショットを撮りました。

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