名フィル定期(第428回):イムラギモヴァノのヴァイオリン独奏

今月の定期は先週末(10日・土曜)、テーマは「バッハを温ねて新しきを知る」。なにやら大げさなタイトルですが、3曲のうち2曲でバッハの曲の一部が引用されています。今回の注目は2曲目でヴァイオリン協奏曲とメインのブラームスです。

プログラムは
ルクー:弦楽のためのアダージョ
ベルク:ヴァイオリン協奏曲『ある天使の思い出に』
ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調
ヴァイオリン独奏:アリーナ・イムラギモヴァ
指揮:クリスティアン・アルミンク

第1曲の作曲者・ルクーは今回初めて聞いた名前でした。19世紀後半の作曲家でわずか24歳で亡くなっています。早熟の天才といっていいのでしょう。しかし、弦楽器を主役とした曲が中心のようですが、やはり残された曲は少ないようです。その中で、今回演奏された弦楽合奏のための小品が最も演奏頻度が高いそうです。10分ちょっとの曲ですが、いろんな表情を感じることができます。音楽史的にはロマン派後期にあたり、非常に聴きやすい音楽です。演奏はやや小編成の弦楽合奏、指揮者も指揮棒を持たず、オケのアンサンブルにゆだねているかのような様子も見られました。最近実力が上がってきている名フィル弦セクションの表現力が発揮されていました。また、ヴァイオリン、ビオラ、チェロと各首席奏者のソロも聴き応えがありました。

2曲目のベルクは20世紀初頭に活躍した作曲家で、いわゆる現代音楽、音楽史的には新ウィーン派で、12音音楽の担い手です。この曲も決して聴きやすいものではありません。家の中で掛け流すというタイプではないだけに、生演奏で集中して聴けるのは貴重です。

この曲を生で聴くのは2度目。前回は大ヴェテランの独奏(名フィル第361回定期でオーギュスタン・デュメイの独奏)でしたが、今回は若手。独奏するアリーナ・イムラギモヴァはまだ30歳ですが、バッハから現代物まで幅広いレパートリーを持ち、録音なども高く評価されている天才です。彼女の演奏を聴くのも2度目(名フィル第385回定期でショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番)ですが、前回同様に、はち切れそうな勢いや力強さを感じました。

曲のタイトルになっている「ある天使」とは、作曲者ベルクの友人の娘さん、小児麻痺を患っていたようで、幼くしてなくなりました。バッハが作曲したコラールを題材にして作曲されたそうですが、全体に鎮魂を感じさせる重い曲調です。演奏するにはしっかりと腹を据えないとなかなか音も出せないような雰囲気ですが、独奏とオケが一つになって決して深刻になりすぎることなく聴かせてくれました。

2楽章構成で、あわせて約25分。ヴァイオリン独奏は最初から最後までほぼ弾きっぱなし。そうとうの集中力と体力が必要です。残念だったのはアンコールしてくれなかったこと。金曜日にはあったようなのに。演奏中に聴衆の咳や物音が何度かあったので、ご機嫌を損ねたかな?

メインの交響曲第4番は、ブラームスの最高傑作でしょう。それ以前の交響曲とはややスタイルが異なるところもあるのですが、第4楽章でバッハのカンタータのフレーズをもとに変奏曲形式で曲を組み立てています。前回のベートーベン交響曲第3番の第4楽章と同じ発想ですが、変奏のしかたが全く異なり時代の変化を感じさせてくれます。

ブラームスはクラシック音楽になじみのない方にはあまりなじみはないかもしれません。「子守歌」や「ハンガリー舞曲」など聴けばすぐに分かる曲もいくつかつくっています。交響曲などの管弦楽曲に共通するのは、やや哀愁をおびた曲調であることでしょうか。ただ、聴いているうち中からほとばしる情熱を感じます。元気はつらつではないのですが、芯に熱いものを持っている作曲家です。

今回はどちらかと言えばこの熱いものを前面に出したような演奏でした。指揮者のアルミンクは知的なイケメンという感じで、前半の2曲がややクールな演奏だっただけに、このブラームスには少し驚きました。後半の弦楽器の音にざらつきを感じましたが、第1楽章冒頭(やや暗く始まります)の音はぞくっとするような響きを感じました。どんなに聴き慣れた曲でも必ず新たな発見があるのが名曲たる所以でしょう。