名フィル定期(第389回)

 先週土曜日は今シーズン最後の定期演奏会でした.ヨーロッパや日本の一部のオーケストラは9月あるいは10月スタートで6月または7月までが音楽シーズンですが、名フィルは日本の慣例にあわせて4月スタートで3月締め.

 今シーズンのテーマは「愛と死」、最後は《愛する妻へ》と題して
エルガー:弦楽のためのセレナード
エルガー:チェロ協奏曲
ワーグナー:歌劇『タンホイザー』序曲
リヒャルト・シュトラウス:交響詩『死と変容』
チェロ独奏:山崎伸子
指揮:円光寺雅彦

 エルガーは19世紀後半から20世紀かけて活躍したイギリスの作曲家.行進曲《威風堂々》で有名です.
1曲目はエルガーが結婚3年目の記念に奥さんに送った曲だそうです。3つの楽章からなる15分ほどの曲.題名の通り弦楽器だけで演奏されます.ちょっと切なげに始まるのですが、全体に伸びやかで落ち着いた楽想が続きます.いつまでもずっと浸っていたいようなムードが漂い、エルガー家の雰囲気を感じるような曲です.

 2曲目のチェロ協奏曲は音楽的な規模が大きく、聴き応え十分な曲です.第一次大戦中につくられたようで、やや暗い雰囲気を持っていて、決して希望を感じさせるような曲想ではありませんが、苦難に負けないような強さを感じさせてくれます.
 
今回ソロを弾いた山崎と指揮者円光寺はご夫婦.舞台への出入りにも何となく互いへの気遣いを感じましたが、アンコールはなんと
エルガー:愛の挨拶
エルガーが婚約の記念に(未来の)奥さんへ送った曲です.

 3曲目のワーグナー、歌劇のストーリーは、誘惑されて退廃的な生活を送ってしまった騎士タンホイザーが、罪を償うための苦難を経て、清らかな乙女のもとへ帰るというもの.今回取り上げられた序曲は15分とやや長めですが、歌劇中で用いられる印象的なメロディーがちりばめられ、飽きさせず一気に聴かせてくれます.私が好きなの途中で何度か管楽器のハーモニーがきれいに響き渡るところ.教会の中で聴いているような気にさせてくれます.

 メインはシュトラウスの難曲.この数年名フィル定期ではリヒャルト・シュトラウスがよく取り上げられていて、メジャーな曲はほぼすべて聴いたような気がします.一般的にはあまり有名な作曲家ではないのですが、どの曲も大編成でいかにもオーケストラらしい響きが楽しめます.
 
 今回の『死と変容』(または『死と浄化』)は、作曲家がまだ30歳前の駆け出しの頃の曲で、病弱であった自身を投影しているとかいないとか.曲の各部分には意味づけがあり、元気だった頃の想い出や病魔との闘いながらも死におびえる姿、そして最後には死を迎え、恐怖が安らぎに変わり、浄化された美しい余韻とともに曲を閉じます.

 さて、今回のコンサートではすべての曲でオケの音が非常に優しく、温かく響いていたのが印象的でした.指揮者・円光寺の人柄なのでしょうか.同じオケ、同じ曲でも指揮者によって演奏は大きく異なるのですが、こんなにも音色が変わるのかと感動するとともに、改めて驚きました.
 
 また、名フィルの演奏は、ワーグナーやシュトラウスのような大音量を求められる曲では弦楽器の音が消えてしまい、管楽器がうなっているように感じることが多いのですが、今回はそれもなく、終始弦楽器が響き、その上に管楽器がのっているというオーケストラの本来の音作りがしっかりできているように感じました.

 さて、4月から新しいシーズンが始まります.テーマは、音楽で紡ぐ「世界の物語」.4月はフィンランドの叙事詩「カレワラ」をテーマとしたシベリウスの「レンミンカイネン組曲」がメインです.また、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を愛知県出身の若手ピアニスト田村響が弾きます.「皇帝」はいろんなテレビ番組でも使われているので、聴けばきっとわかると思います.来シーズンのプログラム一覧はここ(
名フィル演奏会案内/名古屋フィルハーモニー交響楽団