MET:さまよえるオランダ人

 少し時間がたってしまいましたが、今月初めにMETライブビューイング《さまよえるオランダ人》を観に行きました。

 2019-2020シーズンの第8作目。4月に上映される予定でしたが、延期されていました。本来はさらに2作の上映が予定されていましたが、ニューヨークでの上演が中止されたため、今作がシーズンの最後です。

 これまでにもワーグナーの作品を何度か紹介していますが、このオペラはワーグナーの出世作ともいえる作品で、29歳の時にドレスデンで初演されました。古くからヨーロッパに伝わる伝説に基づく物語に、自らの体験を加えて仕上げています。

 簡単にあらすじを紹介しましょう。
 台本上の時代は不明ですが、今回の演出は18-19世紀でしょうか。主人公であるオランダ人船長は、かつて悪魔をののしったことから死ぬことも許されずに、永遠に海をさまようことに。ただし、7年に一度だけ上陸が許され、そこで永遠の愛を誓ってくれる女性と巡り会えれば救済されるが、未だ出会えていない。
 第1幕
 ノルウェーの船が嵐に遭い入り江に停泊している。そこへ、真っ赤な帆を張ったオランダ船が隣へ接岸。ノルウェー船の船長ダーランドは、オランダ船船長からノルウェーへの上陸と宿泊を求められる。ダーランドは見せられた財宝に目がくらんで、宿泊とともに娘ゼンタとの結婚させると約束する。
  オランダ人:エフゲニー・ニキティン(バスバリトン)
  ダーランド:フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ(バス)
ともに初めて聴いた歌手ですが、張りのあるいい声でした。特に、〈オランダ人のアリア〉としてしられる自らの運命を嘆く独白。聴き応えがありました。また、冒頭をはじめ、合唱(ここでは男声合唱)が迫力がありました。

 第2幕
 ダーランドの家では近所が集まっているのか、大勢の女性が糸紡ぎに精を出している。ここでは女声合唱がすばらしい。しかし、ダーランドの娘ゼンタは伝説である「不幸なオランダ人」のバラードを歌いながら、突然「彼を救うのは私」と叫ぶ。この「不幸なオランダ人」の伝説が、すなわち「さまよえるオランダ人」で、ダーランドから娘との結婚を許されたオランダ人船長。
オランダ人を連れ帰ったダーランドは、ゼンタに結婚相手として紹介すると、ゼンタは陶酔するように彼への永遠の貞節を誓い、2人で二重唱を歌います。これも聴き所の一つ。ワーグナーのオペラでは必ずこのような愛の二重唱があります。
  ゼンタ:アニヤ・カンペ(ソプラノ)
  エリック:セルゲイ・スコロホドフ(テノール)

 第3幕
 港ではダーランドの帰港を祝い、オランダ人の船を歓迎するための準備中。ここでの合唱は男女の混声です。ダンサーの踊りも入り、ストーリーを離れて十分に楽しめます。当時の、特にフランスではオペラにバレエをいれるのが一般的でした。パリにいたこともあるワーグナーが、そのスタイルを取り入れたのかもしれません。一方で、オランダ人の話を聞いたゼンタの恋人エリックは、彼女の不実をなじります。その話を聞いたオランダ人はゼンタをあきらめて、身の不幸を嘆きながら出帆。ゼンタはミナの制止を振り切って、オランダ人への永遠の愛を誓って海へ身を投げます。

 こうやって追いかけてみると荒唐無稽としかいいようのないストーリーですが、その後のワーグナーを彷彿とさせる音楽を感じされるオペラです。今回の公演では日本人の藤村美穂子がゼンタの乳母、マリー役で出演しました。特にワーグナーでは定評があり、バイロイト音楽祭(ここを参照)でも活躍している日本を代表するメゾ・ソプラノです。指揮はロシア人のワレリー・ゲルギエフ(ここを参照)。何度か聴いたこともある指揮者ですが、迫力のある音楽作りでした。