METライブビューイング モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》

 先週の土曜日(12月3日)から今シーズンの2作目である
モーツァルト作曲:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》
が始まっています。上映期間は1週間しかありませんが、今作は入場者が多く見込めるためか、午前10時からと午後7時からの2回上映です。

 今シーズンの上映作のなかでは有名な作品で、音楽もモーツァルトですから、耳なじみもよく、簡単に口ずさんだり、口笛でならしたりできるような簡単なメロディーもたくさんあります。

 ただし、物語はとんでもない話です。17世紀にスペインでまとめられた戯曲が基になっているようですが、それ以前から『ドン・ファン』という名の人物を主人公にした同様の伝説のような昔話はあったようです。

 さて、オペラの主人公であるドン・ジョヴァンニ、「ドン=Don」は貴族など身分の高い男性に付ける称号です。しかし、決して「貴い」人物ではなく、オペラ中で従者であるレポレッロが歌う、通称「カタログの歌」では
うちの旦那が愛した女は、イタリアでは640人、ドイツでは231人、フランスで100人、トルコで91人、そしてスペインではなんと1003人。この中には村娘あり、小間使いあり、町娘あり、それに伯爵夫人、男爵夫人、侯爵夫人、大公令嬢もいます。どんな階級の女もいます、年格好もさまざま、(中略) 金持ちであろうと、醜女であろうと、別嬪であろうと、とにかくスカートさえはいていればいいのです”
という人物です。
 
 オペラの中でも、3人の女性にいい寄っていて、友人であるドン・オッタービオの許嫁の部屋に忍び込んだり、中に当日結婚式を挙げる予定の村娘チェルリーナにまで手を出す始末。もちろん、懲らしめてもらわないとと収まりがつきません。最後は手にかけた老騎士の亡霊である石像につれられて地獄落ちです。


 全2幕、正味約3時間ですから、オペラとしてはやや長めでしょうか。今回の演出はオーソドックスというか、17~18世紀頃のヨーロッパを思わせる衣装で演じられていて、大きな場面転換もなく、音楽の流れに沿ってスムーズに物語が展開していきました。それぞれの歌手が持ち味を発揮して、すばらしい歌唱と演技に圧倒されるうちにあっという間に時間が過ぎていきました。

 メトロポリタン歌劇場は専属のオーケストラがすばらしいことでも知られています。上演は毎日行われていますので、弦楽器奏者の休みは3日か4日に1日くらいしかないかもしれません。かなりのハードワークを要求されると思いますが、この日の演奏も場面場面に応じて表情の違いがはっきりとしていて、非常にわかりやすい演奏でした。指揮者もメトロポリタン歌劇場の首席指揮者であるファビオ・ルイージ。腕や指の動きがきびきびしていて、演奏者から見て何を指示しているのかがすごくわかりやすいのだと思います。何もかもがうまく咬み合った、すばらしい演奏でした。

 次回は年明けですが、今シーズンは来年の6月まで残り8作品あります。特に有名で、ストーリー、音楽ともに初めての人にもわかりやすいのは4月にある
ヴェルディ:《椿姫》(デュマの同名小説を基にしています)

5月にある
チャイコフスキー:《エフゲニー・オネーギン》(プーシキンの同名小説を基にしています)
でしょう。
 物語としては、2月にある
グノー:《ロメオとジュリエット》
はシェークスピアの名作が基になっているだけにわかりやすいでしょう。そして、6月にある
リヒャルト・シュトラウス:《ばらの騎士》
は私が最も好きなオペラです。