名フィル定期 第451回 アメリカの映画音楽

 先週末(11月18日)に行われた名フィル定期は〈ロスアンジェルス/アメリカン・サウンド〉をテーマに
B. ハーマン:映画《めまい》組曲
J.
ウィリアムス:トランペット協奏曲
酒井健治:交響曲第1番『スピリトゥス』(委嘱新作/世界初演)
ガーシュウィン:組曲『キャトフィッシュ・ロウ』(歌劇『ポーギーとベス』より)
トランペット独奏:トーマス・フートゥン
指揮:エドウィン・アウトウォーター
(酒井健治さんは名フィル・コンポーザー・イン・レジデンス、「お抱え作曲家」ほどの意味になるでしょうか。今後、3〜5年の間、名フィル定期に毎年1曲ずつ新曲を提供する予定のようです。)

 今回のプログラムは独特です。ロスをテーマにしているところからも分かるように、映画音楽あるいは映画音楽の著名な作曲家の作品を取り上げ、同時に、アメリカを代表する作曲家の作品を加えています。さらに新作の世界初演も含め、密度の濃い内容でした。演奏も非常によくまとまっていて、オーソドックスなプログラムの演奏会と何ら違わぬよい気分で帰途につくことができました。

 『めまい』はヒッチコック監督による、高所恐怖症の元刑事が巻き込まれる殺人事件を描いたサスペンス映画です。B.ハーマンはヒッチコック監督と組んで、『サイコ』や『鳥』など多くの映画音楽を残しています。『タクシー・ドライバー』の音楽もハーマンです。事前に映画で予習をして臨みました。いろんなシーンを思い浮かべながら生演奏に浸れ、楽しめました。

 J.ウィリアムスは『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』など数々の映画を担当した、映画音楽の巨匠。まだ現役ですが、映画音楽だけではなく、オーケストラのコンサートのための曲もたくさん作っているようです。映画音楽はいろんな縛りがありますが、取り上げられたトランペット協奏曲の様な曲は自由に作れるからなのか、聴いていて楽しくなります。ただ、独奏のトランペット奏者にとっては難曲だそうで、アメリカを代表するオケ、ロスアンジェスル・フィルハーモニーの守勢奏者を招いての演奏でした。3楽章構成でおよそ20分の曲ですが、ほぼ吹き通しで、ピアノからフォルテまで、ゆったりしたカンタービレから速くかけるようなパッセージ、低音から高音まで、トランペットのあらゆる表情を見る(聴く?)ことができました。昔、少し金管楽器をやっていましたが、ただただ驚くばかりのテクニック。驚いている間に終わった気がします。オケも何度も掛け合いがあり、かなりあわせるのが難しそうでした。

 《スター・ウォーズ》組曲もあり、かつて名フィル定期でも取り上げられました(
第398回定期です)。

 オーケストラにとって新たなレパートリーの開拓は非常に大切です。過去の名作の中に広げることももちろん必要ですが、新たな音楽の可能性を探っていくことも、レパートリーを広げる上で大切な方法でしょう。多くの方がイメージする《現代音楽》とはやや異なりますが、それでも口ずさめるメロディーがあるわけではないので、なれないと眠いだけかもしれません。今回のコンサートの前半に取り上げられた曲も20世紀後半に作曲されているという点では現代音楽です。多少にたところがありますが、耳(あるいは目)をひいたのは多彩な打楽器群です。サンダーシート(大きな薄い鉄板をこするようにして名前の通り雷のような音を出します)やチューブ(長い風船のようなチューブを振り回して風を切る音を出します)など、見て楽しめる曲でもありました。

 ガーシュウィンは20世紀前半に活躍した、アメリカ史上最大のクラシック音楽作曲家です。とは言っても《ラプソディー・イン・ブルー》に代表されるように、ジャズなどの影響も多分に受けているため、幅広く愛されているようです。オペラも作曲しており、《ポーギーとベス》は黒人が主人公のメロドラマ(?)で、「サマータイム」が有名です。今回取り上げられたのは、この《ポーギーとベス》から抜粋してまとめられた組曲で、「サマータイム」のメロディーも使われています。題名の『キャットフィッシュ・ロウ』は直訳すれば「ナマズ横町」くらいでしょうか。オペラの主人公達が住んでいた町の名前です。

 次回定期のテーマはイタリアのトリノ。トリノにはキリストが十字架にかけられた後、その遺体を包んだとされる布(聖骸布)を保管する教会があります。この聖骸布をテーマにした、これも現代曲が取り上げられます。この他は、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番とブラームスの交響曲第3番。モーツァルトのピアノ独奏はカナダ出身の注目の若手。ブラームスは第3楽章のメロディーが有名です。かつてイングリッド・バーグマンとアンソニー・パーキンス主演の映画『さよならをもう一度』で使われました。