東京フィルハーモニー交響楽団定期演奏会

 今週は木曜日の授業の後で休暇を取り、一泊二日で東京へ行きました。主目的は他にあるのですが、ついでに何かコンサートをと探したら、東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会がありましたので、聴きに行きました。

 第908回定期演奏会で、六本木のサントリーホールで
ボロディン:歌劇《イーゴリ公》より“ダッタン人の踊り”
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番『革命』
ヴァイオリン独奏:パヴェル・ベルマン
指揮:アンドレア・バッティストーニ
でした。

 略して「東フィル」と呼ばれていますが、1911年創設の日本で最も長い歴史を持つプロのオーケストラです。もとは名古屋の松坂屋の前身であるいとう呉服店の少年音楽隊で、名古屋管弦楽団、松坂屋管弦楽団などとして活動後、東京へ本拠を移して戦後に現在の名称になって続いています。

 今回の指揮者のバッティストーニは1987年、イタリア・ヴェローナ生まれの俊英で、2016年から東フィルの首席指揮者として活動をともにしています。見ているだけで熱くなるような若々しい指揮ぶりで、聴衆にも人気があるようです。NHKの教育テレビ(Eテレ)で、毎週金曜日の午後9時半から「らららクラシック」という番組があります。クラシック音楽を紹介するバラエティ番組ですが、バッティストーニ/東フィルがよく演奏しています。是非一度ご覧下さい。

 今回のチラシには「ロシアに吠える」と副題がついていて、ロシア出身のヴァイオリニストを迎えて、ロシア帝国時代あるいはソ連時代の代表的な作曲家の作品が取り上げられました。

 「ダッタン人の踊り」はほとんどの方がどこかで聴いたことのあるでしょう。作曲者ボロディンの代表作で、非常に有名な曲です。題名の通り、もとはオペラの中でのおどり、舞台上ではバレエとして演じられる部分の音楽です。抒情的なメロディーや激しく力強いリズムが刻まれる部分など、彩り豊かな演奏でした。

 作曲者のボロディンは19世紀、帝政ロシア時代の「ロシア五人組」と呼ばれるグループに属する作曲家ですが、本業は化学の研究者。首都であるサンクトペテルブルクの医科大学の化学、生化学の教授を務めていました。ボロディン反応(またはハンスディーガー反応)という、有機化学では有名な化学反応の発見者としても名を残しています。

 ショスタコーヴィチの名前は音楽の授業でも紹介されると思います。旧ソ連時代の最も有名な作曲家。1975年になくなっていますので、第二次大戦前からソ連音楽界の中心にいた人物ですが、非常に厳しい人生を送っています。当時のソ連は、教育の分野では全てが無償化されて先進的な制度を作っていますが、芸術分野に政治が介入するなど、自由な作曲家道は必ずしも保証されていませんでした。そんな中で、ショスタコーヴィチは身の危険を感じながらも、多くの名曲を作曲しています。そんな中でも今回取り上げられた2曲は名曲として現在でも演奏頻度が高い作品です。

 ヴァイオリン協奏曲は、ソリストのベルマンの、一見淡々と演奏しているように見えながらも、緻密で計算し尽くされたような表現、そして色彩豊かな音色に聴き惚れました。協奏曲は通常は3楽章構成で、テンポで分けると、急−緩−急という順に並べるのが一般的です。しかし、この曲は4楽章構成で、緩−急−緩−急と並んでいます。ショスタコーヴィチ流の皮肉なのか、反抗なのか。ベルマンの演奏は1楽章や3楽章は針の穴を通しているような繊細な音色でじっくりと聴かせ、終楽章では幅広くホールの床を這うような音でオケと一緒に鳴らし、実にすばらしい時間でした。

 交響曲第5番は、表題のように、ロシア革命を祝祭する意味も込めて作曲されたとされています。作曲者の本心がどうであったのか、今も議論のあるところです。20世紀の作曲家だけに、いろんな言葉や手紙が多く残され、作曲にあたっての思惑などが様々に語られ、演奏家もそれらに左右されてきたようです。

 今回の演奏では、そうした様々な解釈はさておき、とにかく楽譜をよく読んで素直に演奏しようという指揮者の意欲を感じました。若い世代だけに、よりそうした解釈がしやすいのかもしれません。作曲者の意図をついつい考えてしまうためか、ショスタコーヴィチはどうも苦手でした。しかし、今回のような演奏に接すると、まずは音楽に素直に向き合うことが何よりも大切であることを思い知らされます。

 サントリーホールは、日本で最初に作られたクラシック音楽のためのコンサートホールです。東京のオーケストラはもちろん、外来のオーケストラなどもよく使っていて、NHKなどで放送されるコンサートでもなじみのあるホールです。最近の名フィルのコンサートが金山の市民会館(本来は栄の愛知県芸術劇場コンサートホールがメインです)ということもあり、ホールの音響の違いを痛感しました。オーケストラのコンサートでは、ホールも楽器の1つです。