名フィル:ハイドン・チクルス

今回は定期演奏会以外の名フィルのコンサートを紹介します。

オーケストラの活動の中心はあくまでも『定期演奏会=Subscription concerto(予約演奏会の意)」ですが、これら以外にもオケ主催の特別コンサートが多く企画されています。今回紹介するのは、名フィルが数年前から名古屋・伏見のしらかわホールでひらいている「ハイドン:ロンドン・セット・チクルス」です。

「チクルス」とは特定の作曲家の曲を連続して演奏する演奏会のこと、ハイドンは晩年にロンドン2回訪れて、そのために作曲した曲を集中的に演奏しています。今回はそんなハイドンのロンドン時代の曲の中から交響曲を中心に組み立てた連続演奏会の最終回です。プログラムは
いずれもハイドンの作曲で
 交響曲第98番 変ロ長調
 ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴットのための協奏交響曲 変ロ長調
 交響曲第104番 ニ長調
指揮と2曲目でのヴァイオリン独奏:ライナー・ホーネック
いずれも2曲目の独奏で、チェロ:鈴木秀美、オーボエ:山本直人(名フィル首席奏者)、ファゴット:ゲオルギ・シャシコフ(名フィル首席奏者)

今回指揮とヴァイオリン独奏を務めたライナー・ホーネックは名フィルの客演コンサートマスターとして年に数回来演していますが、あのウィーン・フィルの首席コンサートマスターです。ヴァイオリンの演奏は何ともあでやかな音色で、決して強く主張しているわけではないにもかかわらず、常に存在感があります。

ハイドンは「交響曲の父」とか「古典音楽の父」とか呼ばれていますが、1732年生まれでモーツァルト(1756-1791)よりも一世代上。「音楽の父」であるバッハ(1685-1750)ともオーバーラップしています。1809年になくなっていますので、モーツァルトよりも長く生き、ベートーベン(1770-1826)ともかなり重なります。事実、ハイドンはモーツァルトと親交があり、ベートーヴェンにとっては師匠に当たります。

ハイドンは交響曲というジャンルを確立して、後の世代に受け渡します。そして、それ以上にクラシック音楽の様々なジャンルや形式、例えば、弦楽四重奏や協奏曲、ソナタ、オーケストの編成を確立したところに偉大さがあります。この「形式」は19世紀の音楽家たちから、音楽を志すものであれば必ず身につけるべきものとして、つまり、音楽上の「古典」と考えられるようになります。これが、ハイドンを中心とした時代の音楽を「古典派」といい、クラシック音楽全体を「クラシック=古典」とよぶことにつながっています。ゆえに、「交響曲の父」であり、「古典音楽の父」です。

さて、今回演奏された3曲はいずれもハイドン晩年の傑作揃い。ただ、同じ交響曲でもこれまでに紹介したブルックナーやブラームスなどとは違い、すっきりと整った形ではあるものの、「こみあげてくるもの」は全く感じません。きちんと箱に収まっていて、決して何かを主張しているわけではないなという音楽です。古典派たる所以ですが、その分、いい演奏であれば安心して音楽に浸っていられます。

オーケストラの編成は普段の定期演奏会などに比べると小編成、1stヴァイオリンが10人(2曲目では8人)、以下、2ndヴァイオリン8人(同6人)、ヴィオラ6人(同4人)、チェロ5人(3人)、コントラバス3人(同2人)でした。ハイドンの時代はさらに半分くらいだったと思います。大音量で響かせるのではなく、ひとつひとつの音をきれいに鳴らして、メロディーのうつくしさや楽器同士の音の混じり合いを大切にした演奏でした。音の出始め、変わり目も全体がしっかりとそろっていて、楽器間の音のバランスも絶妙でした。ホーネックの指揮振りはやや??でしたが、練習はかなり厳しいそうです。世界トップのオーケストラで培ったものを伝えてくれているのでしょう。確かにこの数年の名フィルの技量、特に弦楽器の充実振りには目を見張るものがあります。

ホーネック以外の演奏者を簡単に紹介します。チェロの鈴木秀美さんは日本を代表するチェリストの1人、特に古楽器としてのチェロ演奏家としては国際的にも高い評価を得ています。名フィルには指揮者としてもたびたび共演しています(
第357回名フィル定期)し、室内楽アンサンブルを率いての演奏会も名古屋で頻繁に開かれています(古楽器のアンサンブル)。

オーボエとファゴットはいずれも名フィルの首席奏者が担当されました。いつも見ている顔なのですが、2人の音色の特徴を楽しむことができました。