夢遊病の娘(METライブビューイング)

新年度にはいって2年生の皆さんはクラス替えもあってまだ落ち着かないところでしょうか?
私は今年度は授業を月曜日に変更してもらったので、明日が初日です.久々に授業で体力に不安を感じながらも、今年はどんな学生がいるのかと、楽しみにしております.

さて、昨日はMETラブビューイングでベッリーニ(Vincenzo Bellini、日本語ではベルリーニと表記することもあります)の「夢遊病の娘」というオペラを見に行きました.主役は、前回ご紹介したようにナタリー・デセイ、相手役は昨年ドニゼッティの「連隊の娘」で一緒だったファン・ディアゴ・フローレス.それぞれ、現在のソプラノ、テノールで屈指の歌手、しかも高音を歌い上げることが得意な2人の協演でした.

ベッリーニは1803年生まれで、わずか34歳でなくなったイタリアのオペラ作曲家.シューベルトより4歳年下、今年生誕200年になるメンデルスゾーンより8歳年上(来年はシューマンとショパンの生誕200年なので、彼らより9歳上ということになります)、ヨーロッパはフランス革命後の混乱期、日本は文化・文政時代のちょっと前(寛政の改革のちょっと後)です.

若くしてなくなったので、わずか10曲くらいしかオペラを作っておらず、現在も演奏される機会があるのは「夢遊病の娘」の他は2〜3曲です.
この時代のイタリアオペラはベルカント・オペラの全盛期で、歌手がその技量を競い合うようなメロディー、つまり、歌詞ではなく母音を伸ばしながら細かく動いたり、高音を張り上げたりといったフレーズが至る所に出てきます.ベッリーニ以外には、ロッシーニやドニゼッティが有名ですが、ベッリーニは特にメロディーの美しさに定評があります.

「夢遊病の娘」は原題は「La Sonnambula」で単に「夢遊病」という意味です.主人公が若い女性なので、日本では「夢遊病の娘」とか「夢遊病の女」と呼ばれています.
ここ(http://ml.naxos.jp/album/8.660042-43)で抜粋を聴くことができます.
主人公であるアミーナ(デセイ)が、婚約したその日に別の男性の寝室にいたために恋人を裏切ったとして、周りから白い目で見られてしまいます.フィアンセであるエルヴィーノ(フローレス)からも絶交されかけるのですが、実は彼女は「夢遊病」にかかっていた.そのために夜な夜な徘徊していたことがわかり、誤解がとけてめでたしめでたし、というおとぎ話というか、子どもだましのようなストーリー.
これに音楽がつくと、なんとも表情豊かになって、いかにもありそうに感じてしまいます.

今回の上演はメトロポリタン歌劇場にとっての新演出、つまり演出家を新しくして、舞台設定や大道具、小道具も全部作り替えての舞台.原作は19世紀のスイスの山村が舞台なのですが、これを原題のニューヨークに移し替えて、しかも劇中劇のようなスタイルでつくっています.つまり、「夢遊病の娘」というオペラの中で、同名のオペラの舞台をつくっているという設定で、舞台上での人間関係と劇中劇の人間関係が同じという、どこからが劇中劇なのかちょっと分かりにくい(説明もしにくい)演出でした.

こういうふうに演出の自由度が大きいのも、オペラの面白いところ.もちろん音楽は同じです.今回も始めのうちは「?」と感じていたのですが、主役であるナタリー・デセイの演技力のたまものか、ベッリーニの音楽ゆえか、いつも間にか作品世界に引き込まれていました.
主役2人の存在感というか、あの声には圧倒されます.デセイはちょっと風邪気味?という気もしましたが、抜けるような高音の美しさと声量は何度聴いてもうっとりとしてしまいます.やや奇想天外なストーリーなのに見事に役柄を表現しています.また、ディアゴ・フローレスの声の美しさは、今や誰にもまねできないでしょう.ソロアルバムも出している2人ですので、ぜひ一度聴いてみてください.