名フィル定期(第434回):マーラー改訂のシューマン

5月の名フィル定期は22,23日、『マーラーの改訂』と題して、シューマン作曲、マーラー編曲による交響曲第3番をメインにして行われました。
プログラムは
メンデルスゾーン:序曲『静かな海と楽しい航海』
権代敦彦:子守歌ーメゾ・ソプラノ、ピアノ、児童合唱とオーケストラのための
シューマン/マーラー編曲:交響曲第3番変ホ長調『ライン』
指揮:川瀬賢太郎
メゾ・ソプラノ:藤井美雪
ピアノ:野田清隆
児童合唱:名古屋少年少女合唱団

『マーラー』の改訂となっていますが、今シーズンの統一テーマである『メタ』にあわせ、いずれの曲も引用やインスパイアーされた対象がはっきりした曲ばかり。

冒頭のメンデルスゾーンの序曲はゲーテの「静かな海(海上の凪)」と「楽しい航海(成功した航海」という2つの詩を素材として、描かれている情景を描いた音楽。ベートーヴェンも同名の詩をもとに混声合唱曲を作っているそうです。残念ながらゲーテの詩もベートーヴェンの合唱曲も知らないまま、コンサートをむかえました。

曲全体は大きく2つの部分に分けられ、前半は穏やかな気分で、後半はわくわくした気分で気楽に聴ける曲です。メンデルスゾーンが19歳の時の作曲で、みずみずしさも感じられる佳作です。名フィルも、若い指揮者(31歳)のタクトに応え、コンサートオープニングをさわやかに始めてくれました。

2曲目の作曲者・権代は1965年生まれ、私と同い年ですね。初めて聞いた作曲家で、カトリックの信仰に基づく音楽づくりが中心のようです。今回の曲は、予期せぬ事件によって幼い子どもを亡くした母親の手記の一節と旧約聖書の言葉をテキストに用いています。「歌」というよりも、音楽に乗せた「語り」と言った方がいいかもしれません。音楽的には現代音楽特有の複雑な音の羅列はなく、どちらかといえばハーモニーを味わえるもの。命の大切さを音楽を通して考えることができる一曲です。

ソロの藤井さんは広島在住。プログラムのプルフィールを見ると、被爆60周年を記念した歌曲の初演を担当するなど社会的な問題意識も高い方のようです。感情を抑えて、じっくりと語りかけるような叙唱が印象的でした。また、児童合唱の名古屋少年少女合唱団はヨーロッパの音楽祭などにも招待されている実力派。特に、群読のような部分が何度かあったのですが、一言一言がはっきりと聞こえ、よく練習されたすばらしいアンサンブルでした。

休憩後にシューマンの交響曲。第3番『ライン』は4曲あるシューマンの交響曲の中では最も有名でしょう。表題は作曲者本人の命名ではないそうですが、ライン河畔を散歩することが好きだったとのことで、「ライン川」をイメージしているかのような部分が随所に聴かれます。シューマンはピアノ曲や歌曲の評価が高く、「子どもの情景」などはよく知られています。ただ、オーケストラ曲についてはオーケストレーション(管弦楽法)に稚拙なところがあるといわれ、多くの指揮者や作曲家が手を加えています。スコアを見ながら聴いていると、同じ音型を多くの楽器でただ重ねているだけのようなところが随所にあり、音色的にもややおもしろみに欠けます。交響曲には珍しく5楽章構成で、3楽章、4楽章が何となく冗長で、CDで聴いていると途中で飽きてくることもあります。

今回演奏されたマーラー編曲版は、数あるアレンジの中でもっともよく演奏されているそうです。シューマンのオリジナルと聴き比べてみると、全体にすっきりしている一方で、音色のバリエーションが広がっているように聞こえます。生演奏の良さでしょうか、聴いていて途中で緊張が切れることもなく、シューマンの気づかなかった一面を教えてくれた気がします。

6月の定期は名フィル桂冠指揮者であるティエリ―・フィッシャーの指揮で、フランス音楽、有名な『ボレロ』を始めとしてラヴェルとドビュッシーです。