名フィル定期《第465回定期》「ソラリス」

 今月の名フィル定期は2月21、22日に、ポーランドのSF作家 スタニスワフ・レムの「ソラリス」を題材としたオーケストラ曲を含むプログラムで行われました。プログラムは
   藤倉大:『ソラリス』組曲
   ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品53
   チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 作品64
   ヴァイオリン独奏:ヴェロニカ・エーベルレ(使用楽器は、ストラディヴァリウスの1700年製「ドラゴネッティ」)
   指揮:アントニ・ヴィット
でした。

 レムはポーランド、ドヴォルザークはチェコ、チャイコフスキーはロシアといずれも東欧圏に縁のあるプログラムですが、指揮者のヴィットもポーランド出身。現代の超一流の指揮者と言っていいでしょう。有名な作曲家のちょっと珍しい協奏曲には世界中で注目される若手のソリストを迎え、ポピュラーな名曲をメインに据えてのコンサート。チケットは完売だったそうです。

 レムの「ソラリス」を読んだことがありますか。映画にもなっているそうです。地球を遠く離れたソラリスという惑星のステーションでの出来事を描いた物語。スターウォーズのような冒険活劇ではなく、登場人物の心理を描いていて、読み解くには難解でした。

 藤倉は現在の日本を代表する作曲家ですが、数年前に「ソラリス」を題材としたオペラを作曲しています。観たことがないので、オペラについては何も言えませんが、90分ほどの作品で、オケの編成は15人ほどの小規模なアンサンブルとのこと。今回演奏されたのは、抜粋して管弦楽用の組曲に編曲したもので、世界初演です。

 開演前に作曲者本人の解説があり、そこで語られていましたが、これまでに聴いた藤倉作品に比べるとメロディアスで、ちょっとロマンティックな雰囲気のある音楽でした。冒頭は宙に浮いているような気分にさせられ、これから宇宙ステーションの物語に入っていくにふさわしい序奏でした。オペラで歌手が歌うメロディーの部分をいろんな楽器で奏しているようで、その音色の移り変わりが楽しめました。現代作曲家のオペラもMETライブビューイングなどでいくつか観ていますが、多くの方のイメージする現代音楽とはだいぶん違います。

 ドヴォルザークは『新世界』交響曲などで有名です。協奏曲ではチェロ協奏曲が有名で、ピアノやヴァイオリンのための協奏曲はそれぞれ1曲ずつありますが、チェロの協奏曲に比べると演奏頻度は低く、今回初めて聴きました。ドヴォルザークの若い時期、と言っても40歳前後に作曲された曲です。チェコの民族音楽の曲調やリズムが用いられ、印象的なメロディにあふれています。独奏ヴァイオリンの技巧的なことはよくわかりませんが、エーベルレの演奏は非常に情熱的でグイグイ引き込まれました。

 エーベルレの音は、楽器のせいかどうかわかりませんが、渋くじわっと響いてくるような音で、思い描くドヴォルザークのイメージにぴったりでした。秘めた情熱がほとばしっているような演奏でした。オーケストラも出しゃばり過ぎず、しかしメロディーはしっかりと歌い、ソリストとうまくやりあっていたように感じました。

 ソリスト・アンコールはプロコフィエフという、20世紀のロシアの作曲家の
    無伴奏ヴァイオリンソナタニ長調から第2楽章
でした。ちょっと重い協奏曲の後に、さわやかな小品を聴き休憩時間をゆったりと過ごせました。

 この日のメインはチャイコフスキー。中でも交響曲第5番は演奏頻度も高く、名フィルもなんども演奏している曲です。クラシック好きなら誰もが知る曲だけに、難しさもあります。

 四つの楽章からなりますが、第1楽章は運命の動機とよばれる序奏で始まります。クラリネットで奏されますが、冒頭から高い緊張感で、そのまま最後まであっという間でした。指揮者の腕なのでしょう。全ての音にしっかりとした意味があり、フレーズの流れも自然で、音量の変化にも全く違和感のない素晴らしい演奏でした。これまでに聴いた名フィルの演奏の中でも、屈指の名演だったと思います。

 チャイコフスキーを聴くと、広大に広がっているのであろうロシアの大地をイメージするのですが、今回の演奏でも随所で感じることができました。それだけでなく、抒情的に奏されるオケの響きに打たれ、何度も目頭が熱くなりました。

 オケは、もちろんステージにいるのですが、オケ全体が一つになって響くとホール自体がなっているような気がすることがあります。音が前からだけではなく、後ろや天井の方からも聴こえてきます。チャイコフスキーでは何度もそのように感じる時がありました。

 指揮者のヴィットは御歳75歳。世界初演を手がけ、さらに名曲の名演まで引き出し、さすがは世界の有名オケを指揮するする巨匠です。チャイコフスキーでのダイナミックな指揮ぶりには脱帽。さすがに終わった後は少しふらついておられましたが。

 これまでに200以上のCDをリリースしているとか。私もNAXOSレーベルで4枚持っています。2016年シーズンに続いて2回目。よくきてくれたなと思いますが、名フィルのツイッターによると、今回の演奏にはご本人もご満悦のよう。また来てくれるそうです。