マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル

 いよいよ新学期も始まりましたが、春休みの最後はピアノのリサイタルでした。
 4月8日・日曜日、岐阜・サラマンカホールでポルトガル出身のピアニスト、マリア・ジョアン・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュと表記されることも多いようです。ポルトガル語表記では、Maria João Alexandre Barbosa Pires)のリサイタルがありました。現代を代表するピアニストの一人で、たびたび来日しているようですが、生で聴くのは今回が初めてです。そして、今回の日本ツアーは、引退前のラスト・ツアーということで、最後の機会となってしまいました。公式HPはここ:https://www.universal-music.co.jp/maria-joao-pires/です。

 74歳、早いような気もするのですが、今回のプログラムは
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第12番 ヘ長調
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番 変ロ長調
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調
と、通常のリサイタル・コンサートに比べると演奏時間はかなり短め。慮るに、体調が思わしくないのでしょうか。

 演奏スタイルは実に自然体で、音楽を素直に表現しようとしているように感じました。衣装も普段着のようなラフなスタイル。演奏中も大きな身振りもなく、ただピアノと一体になるために向かっているかのよう。しかし、音と力強く、線も太い。

 前半のモーツァルトは指ならしの意味もあったのでしょうか、淡々と、しかし確実に鍵盤を叩いているようにも聴こえました。それほど起伏の激しい曲ではありませんが、その分親しみやすく、いかにもモーツァルトという曲です。12番の方はテクニカルにもそれほど難易度は高くないようですが、どなたかひいたことがある方はいらっしゃいますか?

 モーツァルトは軽やかで輝くような音色の演奏が好みでよく聴きますが、ピリスの太い音で聴くと全く別の曲を聴いているようです。こんなモーツァルトもあるのかと感じました。しかし、しばらく聴いていると耳になじみ、音に抱かれているような気分でいい気持ちでした。気持ちよすぎて、やや意識が遠くなったような。

 この日のメインはなんといっても休憩後のベートーヴェンです。ベートーヴェンというと交響曲のイメージが強いですが、作曲活動の柱の1つはピアノ・ソナタです。32番はその最後の作品。2楽章構成でありながら、演奏時間は25分以上。特に第2楽章は変奏曲形式で、ジャズのような雰囲気のところもあれば、静かに淡々と音が刻まれるところもあり、さまざまな表現を要求する曲です。技術的にも難しいようですが、ピアノ・ソナタとしては時代の常識を越えた作品です。

 実は半年前にもこの曲を聴く機会がありました。小山実稚恵さんという、日本を代表するピアニストの演奏(ここに記録があります)でしたが、音色も表現も全く違い驚きました。演奏者と楽器がまるで1つになっているかのようで、耳も目も釘付けになりました。第2楽章の、とりわけ後半は内省的で自問自答しているかのようで、ベートーヴェンの音楽の深い精神性を表現するとともに、ピアノ曲の究極を探っているかのような演奏。まるで演奏者ピリス自身の音楽人生を語ってくれているかのようでもありました。聴きに行ったかいがありました。

 しばらく日本にいて各地で演奏するようです。来週末には東京でNHK交響楽団の定期演奏会でベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番が予定されています。たぶん、6月頃にNHK・Eテレのクラシック音楽館(日曜日午後9時)で録画が放送されると思います。