名フィル定期 第439回 ヴィト×プレトニョフ:ラフマニノフとシベリウス

 10月の名フィル定期演奏会は、先週末(10月21日、22日)に愛知県芸術劇場コンサートホールであり、プログラムは
藤倉大:レア・グラヴィティ
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調
シベリウス:交響曲第1番ホ短調
ピアノ独奏:ミハイル・プレトニョフ
指揮:アントニ・ヴィット

 今回はピアニストが超大物ということもあり、前売券も完売(実際には空席もありましたので、企業などのまとめ買い分の席でしょうか)。期待に違わず、3曲とも全てすばらしい演奏でしたので、少しずつまとめておこうと思います。

 今回の目玉であるミハエル・プレトニョフは1957年、ロシア生まれ。21歳でチャイコフスキー国際コンクールに優勝、現代最高のピアニストの1人とされています。同時に指揮者、作曲家でもあり、世界中の超一流オケと共演しているようですが、日本のオケと協奏曲を演奏するのは珍しいと思います。

 プレトニョフは10年前にいったんピアニストとしての活動を停止していますが、その後お気に入りのピアノに出会い、活動を再開。そのピアノが日本のKAWAIです。今回もカワイ製グランドピアノ(SK-EX)を特別に持ち込んでの演奏です(芸文には、たぶんスタンウェイとヤマハしかないと思います)。楽器のせいなのか、演奏者のタッチなのか、実に澄んだ音で、これまでに聴いたどのピアニストとも違い、音楽の奥の深さを改めて実感しました。

 今回演奏されたラフマニノフの協奏曲第2番はフィギュア・スケートでもおなじみで、皆さんもなじみのあるフレーズがあると思います。しかし、ピアノは超絶技巧の連続で、難曲中の難曲です。これまでに生で何度か聴いていますが、ピアニストは一生懸命弾いているなというのがよく分かる演奏ばかりでした。しかし、プレトニョフの演奏は、大げさな身振りがないのはもちろん、テクニックを振りかざしたり、「がんばっているな」と思わせたりするところは全くなく、実に淡々としたもの。こんな演奏があるのかと、驚きました。持っている技術が高いがゆえに、その技術を感じさせないということでしょうか。

 この曲はロシアの大地を感じさせるような、郷愁たっぷりの演奏をよく聴きます。今回の演奏はこれらとは全く異なり、変な思い入れを排除していて、むしろ聴衆に自由に受け取ってもらいたいということなのかと思える演奏でした。ピアノはやや硬質な澄んだ音を並べ、オケも大音量でまくし立てるのではなく、室内楽的な響きで応えていました。

 協奏曲は一般的に急・緩・急の3楽章構成です。この曲も、第1楽章こそ、それほど速いテンポではありませんが、第2楽章を緩徐楽章とし、第3楽章は速いテンポの曲です。第1楽章はややピアノとオケの息が合っていないという感じがしましたが、第2、第3楽章は非の打ち所のないすばらしい演奏でした。

 オケの手綱は指揮者が握っていますが、ピアノが主役のこの曲でオケの役割を実にうまく演じさせていたともいます。指揮者のヴィットとプレトニョフはたぶんこれまでにも何度か協演の経験があるのでしょう。アイコンタクトすらないままでも、ピアノとオケを実にうまく結びつけていました。

 協奏曲の後は普通はソリスト・アンコールで、短いソロの曲を演奏してくれます。プレトニョフはアンコール嫌いなのか、普通は何も弾かずに終わるようですが、今回、それも土曜日だけは特別に
ラフマニノフ:幻想小品集から、第2曲「鐘」
をアンコールを演奏してくれました。これもよかった。浅田真央がいつかのオリンピックで使った曲ですので、ご存じの方も多いでしょう。

 プレトニョフはピアニストとして非常に広いレパートリーを持っています。今回の来日でも何度かリサイタルを開いているようです。次は是非ともショパンやベートーヴェンを聴いてみたいと思います。