METライブビューイング《ばらの騎士》

現在名駅のミッドランド・シネマで、メトロポリタン歌劇場のオペラ映画(METライブビューイング)として、リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)の『ばらの騎士』をやっています.先週土曜日に観に行きましたが、明日(木曜日)にもう一度観に行きます(^o^)(ここ

年始のNHKの『オペラ・コンサート』(
ここ)で森麻季たちが歌ったオペラです.

作曲者は先日の名フィルの定期で取り上げられた『最後の四つの歌』の作曲者です.同じ『シュトラウス』ですが、ワルツのヨハン・シュトラウスをは全く関係ありません.

ドイツ語でつくられたオペラで、原題はDer Rosenkavalier、1911年にドレスデンで初演されました.昨年来たドレスデン国立歌劇場(当時は宮廷歌劇場)です(
ここ).ホーフマンスタールという、当時のドイツで有名な劇作家との共同作業として、ストーリーと台本をゼロから作り上げられました.したがって、他のオペラと比べると言葉の量が多く、演劇性も高いので、難曲とされています.初演当時は大成功を収めて、ベルリンからドレスデンまで観客用の専用列車まで運行されたそうです(今のツアー旅行みたいですね).

さてあらすじと登場人物ですが、

舞台は18世紀半ば、啓蒙君主として名高いマリア・テレジア治世下のウィーン.ハプスブルク家の首都として最も華やかなりし頃です.

タイトルの「ばらの騎士」ですが、ウィーンの貴族が婚約の申込みの儀式に際して立てる使者のことで、婚約の印として銀製のばらの花を届けることから、このように呼ばれます.物語当時の貴族の間で行われている慣習という設定ですが、実際には作家であるホーフマンスタールの創作.この架空の設定が見事にはまっています.

登場人物は、
元帥夫人(ソプラノ):陸軍元帥の妻で、貴族出身の貴婦人
オックス男爵(バス):元帥夫人のいとこで、好色な田舎貴族
オクタヴィアン(メゾ・ソプラノ):元帥夫人の親族である伯爵家の貴公子、愛称がカンカン(女性歌手が男性役として演じるこのような役柄を『ズボン役』といいます)
ゾフィー(ソプラノ):オックス男爵の婚約者
ファーニナル:新興貴族、ゾフィーの父(おそらく事業に成功したブルジョアジーで、お金の力で貴族の称号を得たらしい)
この他に、当時のウィーンを思わせる多種多様な登場人物が花を添えます.

元帥夫人は台本上32歳(現在の日本なら40歳前くらい?)、オクタヴィアンは17歳.元帥夫人は出てきますが、元帥は名前が出てくるだけ.たぶん夫人とはだいぶ年が離れていて、現在、遠くへ遊びに(狩猟)に行っていています.この有閑マダムの寝室から話が始まります.

全3幕ですが、各幕とも1時間をこえ、全部で3時間半くらいかかる大作(実際の上演では幕間に休憩が入り、カーテンコールを入れて、4時間半くらいかかります).

第1幕の前に演奏される前奏曲は元帥夫人のオクタヴィアンの情事のシーンを描いていると言われています.なんとなく艶っぽく、いろんな想像をかき立ててくれる音楽です.そして
【第1幕】
多くの演出ではキングサイズのベットに、2人がけだるく横たわっているところから始まります.まさに『不倫』、まずオクタヴィアンが「あなたの秘めた情熱を知っているのは僕だけだ」と歌います.そして、2人でイチャイチャしているところに、突然オックス男爵が訪ねて来て、オクタヴィアンは慌てて隠れます.オックス男爵は、裕福な新興貴族の娘(ゾフィー)と婚約したので、彼女に『銀のばら』を送る『ばらの騎士』を紹介してほしいと、元帥夫人に頼みます.オクタヴィアンは夫人の小間使い(ここではマリアンデルという名前をつけられます)に変装(つまり、女性歌手が演じていた男性が、女装する)するのですが、好色な男爵はすぐに口説きにかかります.元帥夫人は『ばらの騎士』としてオクタヴィアンを推薦して、男爵を追い返します.
この途中で、いろんな人物が出てきて歌います.これが一つの聴きもので、特にテノール歌手が「心に甲冑を着てまで恋から遠ざかってきたのに〜」と歌うアリアは、歌詞もいいですが、メロディーがすばらしい.

この後、元帥夫人は若かった頃を思い出し、老いゆく自分を嘆きます.そしてオクタヴィアンに、あなたもいずれ若い女性と出会って私の元を離れていくのよ、と語ります(実際には歌うのですが・・・).一見悟っているようですが、決して若いオクタヴィアンをあきらめているわけでも、突き放しているわけでもないところが中年心(..; ).

若いオクタヴィアンは夫人の言葉を否定しますが、すねて出て行ってしまいます.この後の夫人の取り乱した様がリアルです.

【第2幕】
オクタヴィアンがファーニナルの館へ『ばらの騎士』として訪れ、ゾフィーに『銀のばら』を送ります.このとき、2人は互いに一目惚れ、このシーンは大注目.演出上の見せ所です.
続いて登場するオックス男爵はここでも好色丸出しで、ゾフィーを品定めするように振る舞い、完全に嫌われてしまいます.ゾフィーは何とか結婚を避けられないかとオクタヴィアンに助けを求めます.成り行きで、オクタヴィアンとオックス男爵は決闘.
オックス男爵役はたいてい大柄で、いかにも強そうに見える歌手が演じますが、小心という設定.ちょっと腕をかすられただけで大けがをしたように、大騒ぎ.こういうところのコミカルさもこのオペラの楽しいところです.
一段落したところで、オックス男爵に元帥夫人の小間使い(マリアンデル)から誘いの手紙が届きます.男爵は大喜びですが、実はオクタヴィアンが元帥夫人の助けを借りて仕組んだワナ.

【第3幕】
オックス男爵が小間使い(と思っているが実は女装したオクタヴィアン)に誘われてウィーン郊外のレストラン(個室です)で食事中.下心丸出しですが、オクタヴィアンたちにからかわれ、さらにファーニナルとゾフィーがやってきたところで醜態をさらしてしまいます.ファーニナルにも絶縁を言い渡されてしまうのですが、本人には意味がわからない様子.そこへ元帥夫人がやってきて「行動に気をつけて、貴族の体面を保つように」と一喝.婚約は解消されて、男爵はすごすごと引き下がります.ここまでのところは完全にコミック.後のしっとりした場面との対比は、台本が見事としか言いようがありません.

残った元帥夫人とオクタヴィアン、そしてゾフィーの3人は、ここでそれぞれに思いの丈を歌います.ここでの女声の三重唱がこのオペラの白眉.ドイツ語で歌われるので言葉とメロディーが一致するわけではありませんが、泣けます(;_; ).
元帥夫人は身をひく決心をして黙って出て行きます.残った2人は思いあまったように抱き合って、互いに「君だけを感じている」と歌って幕.

タイトルからすると「ばらの騎士」=オクタヴィアンが主役.事実、最も登場時間が長くて、歌う量も多いのですが、ストーリー上の主人公はやはり元帥夫人.この役を誰がどのように演じるか、で決まります.
今回のMETでは、当代屈指のソプラノ歌手にして、最高のシュトラウス歌手である、ルネ・フレミングが演じました.正直言って見事です.