名フィル定期(第421回):ロシアの1番、カリンニコフ交響曲第1番

先週土曜日(2月21日)はMETのあと、夜は名フィルの2月定期。今月は
【ファースト】シリーズ、『ロシアの1番』
と題して、
ムソルグスキー:聖ヨハネ祭のはげ山の夜(交響詩『はげ山の一夜』原典版)
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
カリンニコフ:交響曲第1番
ピアノ独奏:ソヌ・イェゴン
トランペット:井上圭
指揮:アンドリス・ポーガ

今回はテーマの通り、いずれもロシアの作曲家。帝政ロシア時代からソ連の時代にかけて活躍した作曲家です。

ムソルグスキーはラヴェルが編曲した『展覧会の絵』で有名です(今年の7月定期で取り上げられます)。『はげ山の一夜』は中学校の音楽の時間などで聴いた方もいるでしょう。ただ、この曲は、作曲者が亡くなった後で、友人のリムスキー=コルサコフが手を加えたもの。今回演奏されたのはムソルグスキーが作曲したそのままの楽譜を使用しています。やや荒削りというか、洗練されていないなと感じる部分がかなりあるのですが、その分、より土俗的な感じがして迫力があります。

聖ヨハネ祭とは、イエス・キリストを洗礼した聖ヨハネの誕生日(6月24日)を祝うキリスト教のお祭り。キリスト教伝播以前のヨーロッパでは夏至の日にお祭りをしたところが多かったそうで、この両者を掛け合わせるようにした行事がその後を続いたそうです。夏至の夜には妖精や魔女たちが暴れるなどの迷信もあったようで、ムソルグスキーはこうした内容を題材としたオペラを企画して、この曲はその一部として使うつもりだったとか。オペラは結局完成せず、この曲もムソルグスキーの生前は演奏されることもなかったそうです。

この曲は打楽器や金管楽器が大活躍し、聴き応えがあります。演奏は出だしはまとまりがなく、えっと思うような始まり方だったのですが、途中からいつものアンサンブルが戻り安心して聴けました。前日の演奏を聴いていないので分かりませんが、何かぎくしゃくすることがあったのでしょうか?

私にとってショスタコーヴィチは苦手な作曲家です。好きな人はマニアックにはまっていくようですが、私はどうしても入れ込めないところがあります。ただ、この曲は変わった編成ではありますが、音楽的には聞きやすいと思います。

ピアノ協奏曲ですが、当初はトランペット協奏曲のつもりで書き始めたそうです。結局うまくいかずピアノを加え、実際にはピアノとトランペットの二重協奏曲です。オーケストラは弦五部のみ。トランペットの独奏は名フィル主席トランペット奏者の井上さん。柔らかくて優しい音色が印象的でした。

ピアノはかなり難しそうでしたが、オケともよく聴き合って、どのパートも決して出しゃばらずによくまとまった演奏でした。4楽章構成ですが、アタッカ(切れ目なく)で演奏されます。第2楽章にあたるゆっくりしたテンポの部分が何かを訴えかけるような曲調で、やや堅めのピアノの音が寂しげで耳に残っています。

今回の演奏で使用されたピアノは、ヤマハCF-X。多くのコンサートではスタンウェイが使用され、芸術劇場も2台か3台持っているはずですが、今回は特別にヤマハから貸与されたそうです。ピアニストのリクエストでしょうか。スタンウェイと比べると、やや硬く、透き通ったような音色がしました。ショスタコーヴィチの曲にはよく合っていて、適切な選択だったと思います。

さて、今回もメインはカリンニコフ。1966年生まれで1901年に亡くなっています。生前は作曲家としてほとんど売れず、貧しいまま若くして結核で亡くなった作曲家。今回演奏された交響曲第1番も死の5年ほど前に作曲され、生前は演奏されることもなかったそうです。貧困と病に苦しむ中で作曲されたはずですが、全体としては明るく、ほのぼのとした雰囲気を湛えています。残念ながら演奏機会はほとんどないようで、CDも10種類くらいしかありません。事前に買って聴いてみましたが、聴けば聴くほど優しくおおらかな気持ちにさせてくれるいい曲であることが分かってきました。

おそらく最初で最後に聴く生演奏だっただろうと思うのですが、指揮者のタクトのもとに一糸乱れぬすばらしい演奏でした。弦楽器の分厚い響き、木管楽器の音色とテクニック、そして金管楽器の輝きと、どれをとっても手持ちの2種類のCDの演奏を完全にしのいでいます。特に第2楽章での旋律の美しさや色彩感はもっと浸っていたいくらいでした。

指揮者はラトビア出身でたぶんまだ30代、スコアを細部までしっかりと読み込んで、カリンニコフの良さをしっかりと聴かせてくれたと思います。また、名フィルとも初顔合わせであるにもかかわらず、その特性をよく理解して、あれだけしっかりと鳴らせるのですからすばらしい才能の持ち主だと思います。これからもたびたび振りに来て欲しい指揮者です。

さて、3月の定期は27,28日(於:愛知県芸術劇場・コンサートホール)、『巨匠の1番』と題して
松村禎三:交響曲第1番
ブルックナー:交響曲第1番
いずれも初めての方にはやや難解ですが、春休みです。非日常を体験するにはいい機会です。
また、名フィルの主催公演ではありませんが、3月7日に春日井市民会館でモーツァルトを聴く演奏会があります。こちらはきっと耳に優しく、楽しく聴けると思います。