アンスバッハ・バッハ週間

 ニュルンベルク(Nuermberg)という街の名前はご存じの方も多いでしょう。その同じ行政単位、日本でいうと都道府県くらいの面積に相当する地域の行政上の中心地でアンスバッハ(Ansbach)という小さな街があります。ここで2年に1回、7月の中旬から8月始めにかけて《バッハ週間(Bachwoche)》と銘打った音楽祭が行われています。日本では「音楽の父」とされているヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach)の作品を中心にして、「週間」といいながらも1ヶ月弱の間、大小のコンサートやマスタークラス(プロを目指す若手音楽家向けのレッスン)、子ども向けの音楽教室などが開かれています。

 街の名前に”Bach”がつくからという理由だけらしいですが、すでに60年近く続いている音楽祭です。アンスバッハの街も静かで品のあるたたずまい。かつては神聖ローマ帝国内の有力な貴族が宮廷を構えて、その豪華な建物は現在も残されており見学することができます。ガイドブックにはほとんどで紹介されていない街ですが、旧市街は中世の面影を残し、レジデンツとともに見応え十分、隠れた名所です。

 バッハ週間でのコンサートの会場はアンスバッハ市内のいくつかの施設が使われますが、今回の2つのコンサートの会場はいずれもKirche St. Gumbertus(聖グンベルトゥス教会)。15世紀に造られた建物で、内部は木造、ミュンヘンの歌劇場同様に空調機器はありません。バルコニー席もあるため、客席数は約500でした。

8月4日:オルガンコンサート
8月5日:バッハ『ロ短調ミサ』

オルガンコンサート
 日本でオルガンというと、小学校などにある足踏みオルガンを思い浮かべる方の多いでしょう。しかし、ヨーロッパでオルガンとはパイプオルガンをさします。そして、教会には必ず設置されています。教会ごとにすべてオーダーメードされていて、建物のどの部分に、どのような規模のオルガンが設置されているかは、すべての教会で異なります。
St. Gumbertusのオルガンは、礼拝用の座席の向きに対して後方に設置されていて、演奏台(鍵盤の部分)もオルガンの直下に設置されています。したがって、オルガンコンサートはオルガンに対して後ろ向きに座って聴きます。紳士淑女たちが演奏者を観るわけでもなく、じっと目を閉じて聴き入ったり、何もない正面を正視しながら聴いたりと、不思議なものを見る思いでした。

 プログラムはいずれもバッハのオルガン曲で、礼拝用の合唱曲を編曲したものを含まれています。
オルガニストはWolfgang Zerer。残念ながらどんな経歴なのか分かりませんが、落ち着いた演奏でした。テレビでは演奏席をアップで映して、手や脚の動きがよく分かるのですが、今回は全く見えない位置にあって分かりませんでした。

Messe h-moll BWV 232
日本では一般に「ロ短調ミサ曲」と呼ばれています。

演奏は
ソプラノ:Robin Johannsen
アルト:Sophie Harmsen
テノール:Julian Pregardien
バス:Andreas Wolf
ウィンズバッハ少年合唱団
フライブルクバロックオーケストラ
指揮:Martin Lehman
を聴きました。

 一昨年、4月のイースターの時期に『マタイ受難曲』を聴きました。ロ短調ミサ曲と並ぶバッハの最高傑作とされ、国内でも比較的よく演奏されます。しかし、ロ短調ミサ曲はなかなか演奏される機会がなく、今回は非常に楽しみにしていました。

 この曲の合唱パートは多くは成人の合唱によって演奏されるため、音色などもっと幅広く豊かな響きがするはずです。しかし、少年合唱による均質な声での合唱は透明度が高く、これまで聴いたことのない響き。バッハの時代も、教会での合唱演奏の多くは少年合唱が担っていましたので、当時の人たちもこんな響きを味わっていたのでしょうか。

 オーケストラもバッハを始めとしたバロック時代の音楽の演奏に定評があり、すでに多くのCDもリリースしています。この団体は、バッハの時代の楽器と演奏法によって演奏します。今回の演奏を聴くに当たり、合唱とともに期待したところです。

 ソリストたちと少年合唱団も透明感のある声で、教会全体に響き渡り崇高な気持ちにさせてくれます。オケも落ち着いた響きで、声楽を邪魔することなくしっかりと支えていました。また、所々で現れるソロも、渋い音色で会場の雰囲気と合わせて、バッハの時代にタイムスリップしたような気分でした。