名フィル定期(第471回)《敬愛の傑作》

 定期演奏会は、8月はオフですが9月から再会。今月は6日、7日に《敬愛の傑作》と題して、
   ワーグナー:ジークフリート牧歌
   ブルックナー:交響曲第7番ホ長調
   指揮:小泉和裕
でした。

 ワーグナーはこの夏に体験した2つのオペラの作曲家です。20分足らずの作品で、ワーグナーの妻であるコジマ・ワーグナーへの誕生日プレゼントとして作曲されたもので、小編成のオーケストラのための曲です。

 コジマと結婚までのいきさつを書き出すと長くなるので省きますが、二人とも死別や離婚の後の2度目の結婚で、結婚後の最初の妻の誕生日の翌日の朝に、部屋の前で演奏したとのこと。今でいうところの「サプライズ」ですね。二人には前年に男児が誕生し、ジークフリートと名付けています。当時作曲していた《ニーベルングの指輪》第3作である《ジークフリート》から取られた命名です。そして、『ジークフリート牧歌』には、この《ジークフリート》で用いられた旋律が随所にちりばめられています。YouTubeではここ(https://www.youtube.com/watch?v=891JUSQplzU)がよいでしょう。

 妻と我が子への愛情にあふれるような曲調で、『敬愛』にふさわしい。『牧歌』、原題は”Idyll”で、田舎での生活を描いた短い詩のことを指すようですが、穏やかなメロディーで始まります。途中のホルンやトランペットの響きも印象に残る曲ですが、次の大曲を意識してか、鳴らすというよりも引き締まった演奏でした。

 オケの演奏会でもよく取り上げられ、名フィルで聴くのも2回目です。前回も今回同様に大曲(マーラー:『大地の歌』)との組み合わせでした。

 休憩後のブルックナーの第7番は演奏時間が1時間を越える大曲。ブルックナーという作曲家は、クラシック音楽、特にオーケストラの曲になじみのない方には聞き慣れない名前でしょう。1824年、オーストリアのリンツ近郊の村で生まれています。若い頃はリンツの聖フローリアン教会(図書室が有名です)などでオルガン奏者あるいは宗教音楽の作曲家として活躍していますが、交響曲を作曲しはじめウィーンへ出てきたのは40代になってから。遅咲きの作曲家とされています。同時代にウィーンで活躍した作曲家としてはブラームスが最も有名でしょう。ワーグナーの1世代下です。交響曲は全部で9曲(この他に番号のつかない習作があります)です。後期の作品ほど人気がありますが、個人的に最も好きなのはこの7番、とりわけ第2楽章です。

 ブルックナーはワーグナーを非常に尊敬しており、交響曲第3番はワーグナーに献呈し、『ワーグナー』という表球でつけています。バイロイト音楽祭が始まった時期にも当たり、ブルックナーも訪れています。ワーグナーが亡くなったのは1883年でしたが、ブルックナーがワーグナーが亡くなった知らせを受けたとき作曲していたのが交響曲第7番の第2楽章でした。静かに始まった後、弦楽器が弾くフレーズが非常に印象的で、その後にある悲しみを予感させます。そして、後半の大きな盛り上がりの後にくるコラール風のメロディーはブルックナー自身が「巨匠のための葬送音楽」と述べているように、ワーグナーテューバという、ワーグナーが考案した楽器によるハーモニーで奏でられます。YouTubeではここ(https://www.youtube.com/watch?v=x_IbwlSXHpQ&list=RD7yXIkAK435Q&index=2)が人気があるようです。

 ブルックナーは元々が教会のオルガン奏者だったこともあり、交響曲にも同様の響きを求めたのでしょうか。ホルンやトロンボーン、テューバがハーモニーをつくり、ホール全体が鳴っているように感じるような演奏も多く、今回もそのような演奏を想像していました。ところが、指揮者・小泉の考えなのか、ホール全体に響き渡るというよりは、それぞれの楽器のメロディーや響きがよく聴こえてきました。曲の構成がよく分かり、オケとの距離が縮まるような気もしました。また、第4楽章、元々速めのテンポが指示されていますが、とにかく速い。CDは8種類持っていますが、どれよりも速い。その分、元気よく、引き締まった演奏でした。何事も前向きに進んでいこうというメッセージのようでもありました。

 名フィル定期ではほぼ毎年のようにブルックナーが取り上げられていますが、これまでに6番以外全て聴いています。直近は一昨年3月の第8番(第444回定期)、7番は今回で2回目ですが前回(第386回定期)も実にすばらしい演奏でした。