METライブビューイング《アイーダ》

 コンサートや演劇、歌舞伎などの録画を映画館で上映する「ライブビューイング」がこの数年盛んになってきています。その先鞭となったのが、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されるオペラを映画形式で上映する『METライブビューイング』です。国内では松竹が配給していますが、もちろんメトロポリタン歌劇場(通称MET)の企画で世界中に発信されていて、今年で13年目です。現地では”The MET; Live in HD series”呼ばれています。HDはhigh definition(高解像度、高画質の意)の略です。

 欧米の歌劇場は秋から初夏がシーズンで、メトロポリタン歌劇場も毎年9月から5月末までがシーズンです。この中から、毎年10演目程度を、欧米ではほぼ全てライブ(ただし1日1回限り)で、日本では日本語字幕をつける都合もあり、2~3週間遅れで上映されます。そのかわり、1週間(演目によっては1日2回上映)上映されます。このあたりでは名駅のミッドランドスクエアシネマで上映されます。

 今シーズンの予定はここ(https://www.shochiku.co.jp/met/)に紹介されています。

 オープニングは
  ヴァルディ:歌劇《アイーダ》
です。ミュージカルにもなっているようですからご存じの方も多いでしょう。また、第2幕の凱旋行進曲はサッカーの応援歌にもアレンジされています。(ここ:https://www.youtube.com/watch?v=tnjs2ZFrKwA で聴けますが、応援歌に使われているメロディーは途中から出てきます。)

 オープニングということもあり、配役も主役級か並び、これぞオペラというすばらしい上演でした。ライブビューイングでは数年前にも1度取り上げられていますが、そのときは感想を書かなかったようです。今回はあらすじも含めて感想をまとめておきます。

 この作品はエジプトのスエズ運河の開通を祝ってカイロに建てられた歌劇場のこけら落としのためにヴァルディに作曲が委嘱されたオペラです(実際にはこけら落としとしては上演されていないようです)。初演は1871年。舞台は古代のエジプトで、隣国であるエチオピアとの戦争状態の中での恋愛悲劇です。YouTubeでも聴くことができます(イタリア語と日本語の対訳付きですが、映像はありません)ので、興味があればどうぞ。(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、主役のアイーダはレナータ・テバルディという往年の名歌手です)

 主な登場人物は4人、
アイーダ:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
アムネリス:アニータ・ラチヴェリシュヴィリ(メゾ・ソプラノ)
ラダメス:アレクサンドル・アントネンコ(テノール)
アモナズロ:クイン・ケルシー(バリトン)
 主人公であるアイーダはエチオピアの王女でありながら、エジプトのエチオピア侵略の際に捕虜とされ、エジプトの王女であるアムネリスの侍女をしています。アイーダは身分を隠してアムネリスに仕えながら、エジプトの若き将軍であるラダメスと相思相愛の関係にあります。実はアムネリスもラダメスに恋心を抱いていますが、アイーダとラダメスの関係には気づいていません。

 第1幕(https://www.youtube.com/watch?v=QiqkCZnRgxg)では、エチオピアの侵攻を受けてエジプトはラダメスを総大将に任命。アイーダは自らの祖国を討伐するために出征する恋人を悲痛な思いで見送ります。冒頭のラダメスのソロ(「清きアイーダ」)と、アイーダとラダメス、そしてアムネリスの三重唱が聴き所。「清きアイーダ」もよかったのですが、やはり主役アイーダを歌ったアンナ・ネトレプコの存在感がぬきんでていました。現在世界最高のソプラノ歌手と言ってもいいでしょう。表現力がずば抜けています。始まりだからか、やや声につやがなかったような気もしますが、時間とともに輝きを増していきました。

 第2幕(https://www.youtube.com/watch?v=kkVSeYwKxps)では、エチオピア軍を破ったラダメス率いるエジプト軍の凱旋で始まります。ここで有名な凱旋行進曲が演奏されますが、このとき使われているのが「アイーダトランペット」という、通常のトランペットよりも管の長い特殊な楽器です。この曲のためにヴェルディがリクエストしたそうで、他で使われている曲を知りません。連行されたエチオピア軍の中に、アイーダの父親がいます。エチオピア王という身分を明かさず、アイーダの父親として捕虜となります。一方で、アイーダがラダメスを愛していることがアムネリスに悟られてしまいます。ここでは舞台機構を最大限に利用したダイナミックな演出と、100人を超える合唱が圧巻です。凱旋行進では本物の馬も舞台上を闊歩し、スケールの大きさが違います。ここではバレエも披露され、音楽に舞踊、美術が一体となっていて、オペラが総合芸術であることを実感させてくれます。

 第3幕(https://www.youtube.com/watch?v=-fKqH0EBgjc)では第2幕の華やかさが一転します。エジプト王は戦い勝利の祝いとして、ラダメスを王女アムネリスと結婚させ、さらに自らの後継者に指名します。傷心のアイーダは深夜にナイル川のほとりで父親であるアモナズロから、ラダメスを口説いてエジプト軍の機密を聞き出すようにそそのかされます。現れたラダメスとアイーダはともに逃げようと相談する中で、隠れていたアモナズロに気がつかないままラダメスはエジプト軍の機密を口にします。アモナズロとアイーダの身分を知ってラダメスが驚いているところへアムネリスが現れますが、アモナズロとアイーダを逃がしたラダメスは捕らえられます。この3幕ではほとんど合唱がなく、登場人物達の独唱と重唱です。それぞれの個性が生かされていて、聴き応え十分でした。できれば生で聴きたかった。中でも、幕冒頭のアイーダのアリアではネトレプコの歌に聴き惚れました。歌劇場でも拍手が長く続いていましたが、今シーズンのパンフレットではネトレプコの声について「馥郁と立ち昇る豊かな香り、厚みを感じられるしっかりとしたダークな色合い、まろやかな濃く・・・・」と表現されていました。まるで高級ワインのようですが、まさにその通りでしょう。
 アイーダという役はソプラノでもやや重めの声質を要求され、ただきれいな声というだけではとても歌えない難役です。昨年も別の歌劇場で歌っていてテレビで見ていますが、表現力に磨きがかかっているような気がしました。

 第4幕(https://www.youtube.com/watch?v=ng1rmODkyAw)、フィナーレですが、冒頭でラダメスを捕らえたアムネリスが、恋しさのあまり助命を嘆願します。しかし、ラダメスが死を望んだため果たせず、悲嘆に暮れる様子を、約15分くらいにわたってほぼ独唱します。メソ・ソプラノとしてはかなり重量級の役どころですが、ラチヴェリシュヴィリはネトレプコに負けない力強さで聴衆を圧倒しました。まだ若い歌手で、これまでも何度か見ていますが、将来が楽しみです。ラダメスの処刑は石室に閉じ込めての処刑。アイーダが予期したのか、すでに石室に入っており、二人は天国で結ばれることを願いながら息を引き取ります。このシーンでの音楽が実に美しい。


 主役のアンナ・ネトレプコは2年前の春に名古屋でリサイタルがありました。こんな機会は二度とないかもしれないと、大枚をはたいて聴きに行きました。記録はここ(http://physiol.poo.gs/blog-2/files/88b4ceeb31430544a3d80c4da9011c92-236.html)にあります。CDもたくさん出している歌手です。是非一度聴いてほしいものです。

 今シーズンのラインアップでは、今回と同じくヴェルディの《椿姫》やビゼーの《カルメン》が特に有名です。どちらもオペラになじみがなくても十分に入っていける作品です。興味のある方は是非。