METライブビューイング《愛の妙薬》

 先週土曜日から名駅・ミッドランドスクエア・シネマで、METライブビューイングの今シーズン4作目
ドニゼッティ作曲の歌劇《愛の妙薬》が上映されています。今週土曜日までです。

 ドニゼッティは19世紀の初めに活躍したイタリアのオペラ作曲家です。多作で知られていて、50年の生涯、実活動期間は約25年ほどにもかかわらず、70作ものオペラを作曲しています。実演奏時間を今回の《愛の妙薬》と同じ2時間強としても、1日に1分作曲していることになります。メロディを思い浮かべるだけでよければできるでしょうが、できあがった台本の歌詞に合わせ、さらにオーケストラ用のアレンジまでするとなると、ヴァイタリティがありますね。とはいっても、著作権の考え方がまだなかった時代です。使い回しなどもかなりあったようですね。

 さて、《愛の妙薬》はイタリアオペラの中でも非常に上演頻度の高い作品です。途中で主役のテノールによって歌われるアリア(ひとしれぬ涙)は、数あるオペラ・アリアの中でもとりわけ有名です。そして、有名なオペラにしては珍しく悲劇ではない! 誰も死ぬことなく、結ばれるべき二人がめでたく結ばれ、だまされたはずがなぜか丸くおさまっている、という、まさにHappy endなお話しです。

 舞台はスペイン・バスク地方の農村、主な登場人物は4人、時代はたぶん17~18世紀あたり。農村ではまだまだ識字率が高くなく、読み書きができるのはお金持ちの家族くらい。村の農場主の娘アディーナ(ソプラノ)は頭がよくて勝ち気、おそらく登場する村人の中で唯一字が読める役でしょう。冒頭で『トリスタンとイゾルデ』という、ヨーロッパに古くから伝わる物語を読み聞かせるシーンがあります。このヒロインに恋をする農夫のネモリーノ(テノール)は純朴で気が弱い青年。もちろん読み書きはできず、途中で兵役に就くにあたっての契約書へのサインも╳印をするしかできませんでした。

 アディーナが読み聞かせをする『トリスタンとイゾルデ』の話では『惚れ薬』が使われます。これが、オペラでは《愛の妙薬》として、引き継がれてストーリーがつくられています。あるわけもない飲み物ですが、村にやってきたデュルカマーラ(バス)という薬の行商人の宣伝に、アディーナの気をひきたい一心のネモリーノはころっとだまされて買い込んでしまいます。

 村には軍隊もやってきて、司令官ベルコーレ(バリトン)がアディーナを誘惑し、結婚の約束を取り付けるという横やりも入るため、話が少しややこしくなります。

 最後は、ネモリーノの誠意がアディーナに伝わり、ベルコーレは他の女性に乗り換え、デュルカマーラも恨まれることなく別の村へ移っていきます。めでたしめでたし。

 たわいない話ですが、ここにドニゼッティの音楽がつくと、次々と聴き応えのある音楽と歌が続き、2時間あまりがあっという間に過ぎていきました。《愛の妙薬》はMETライブビューイングでは2回目。前回は2012年で、ネモリーノ役は今回と同じマシュー・ポレンザーニ。(
ここをみてください)他の共演者も指揮者も違うため、全体の印象も大部変わりました。同じ作品でありながら、演奏者の違いによっていろんな違いを楽しめるのもオペラ、あるいはクラシック音楽の醍醐味です。

 次回は3月の終わりから4月の始めにかけてで、最も有名なオペラの1つ、プッチーニの《ラ・ボエーム》です。19世紀半ばのパリを舞台に、貧しい若者を主人公とするロマンスです。ストーリーのわかりやすさといい、音楽のすばらしさと言い、今までオペラを見たことがない方が初めて見るに最もよい作品だと思います。