名フィル第485回定期

 年の瀬も押し迫ってきましたが、今月は定期演奏会と「第九演奏会」の2回のコンサートがあります。
今シーズンの定期演奏会は「生誕250年記念、トリビュート・トゥ・ベートーヴェン」シリーズとして、ベートーヴェンあるいは何らかのゆかりのある選曲によってプログラミングされています。12月はベートーヴェンの誕生月です。先週、11日、12日の定期演奏会は「快活」と題して、
  シャブリエ:田園組曲
  シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第2番
  ラヴェル:クープランの墓
  ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調
  ヴァイオリン独奏:辻彩奈
  指揮:マキシム・パスカル
でした。

 予定されていたプログラム、ソリストから変更されたのですが、非常に面白い演奏会でした。
指揮者のパスカルはフランス人、東京のオケも指揮する予定があるようですが、頑張ってきてくれたようです。1985年生まれ、期待の新人というところでしょうか。全身を使ったダイナミックな指揮ぶりは、耳だけでなく目も奪われました。相当に体が柔らかくないと、あんな式はできないでしょう。指揮者というよりもアスリートです。

 シャブリエは19世紀後半に、ラヴェルは20世紀前半に活躍したフランスの作曲家。この時代のフランスのオーケストラ曲は管楽器が活躍し、色彩感豊かな響きが特徴です。今回取り上げられた2曲も、もちろん管楽器が際立つ曲ですが、今回の演奏は弦楽器も含めて楽器ごとの音がはっきりとしていて、室内楽のような雰囲気を感じました。あれだけ激しく動きながら、リピートも含めてちゃんとスコアをめくりながら指揮できるのは驚きでした。

 シマノフスキーはポーランド出身の作曲家で、19世紀後半の生まれ。ちょうどシャブリエとラヴェルの間の時代を生きた世代。そもそもほとんど聴いたことがない作曲家ですが、今回演奏された協奏曲は晩年の作品です。陰鬱にはじまり、独奏ヴァイオリンの激しい動き、そしてソリストの全身を使った演奏は、感じ口ずさめるようなメロディーもなく、オケと対話するというよりも、互いにやり合っているかのよう。

 メインのベートーヴェンの8番は、ベートーヴェンの交響曲としては明るく、躍動的。今回のテーマの通り「快活」な曲です。フランス者の響きが耳に残っていたからなのか、冒頭のトゥッティの響きは衝撃でした。「さあ、ベートーヴェンだぞ」と言っているかのようでもありましたが、曲全体の弦楽器の響きが野生的に聞こえたのが印象的でした。曲全体も強弱がはっきりとして、古楽器による演奏のようでした(パスカルの先生はグザヴィエ・ロトという、古楽も得意とする指揮者だから当然かな)。今回はオケの編成がやや小振りということもあり、ベートーヴェンの時代はこんなだったのかとも思わせる演奏でした。個人的には管楽器のソロに注目していましたが、むしろオケ全体の響きの中に溶け込むように聞こえました。若手指揮者の、常識にとらわれない解釈というところでしょうか。これまでに生、録音を含めて数え切れないほどのベートーヴェンを聞いてきましたが、その中でも飛び抜けて印象深い演奏でした。

 ところで、シャブリエの田園組曲は耳馴染みの良い響きで、郊外の風景が思い浮かぶようでした。日常とはこういうものと表現しているようにも聞こえました。2曲目のシマノフスキは、その激しさもあり、ひたすら苦難に耐え忍んでいるよう。最後になってやっと元気が取り戻せます。

 ラベルは、フランスバロックの巨匠であるクープランの墓碑に擬えて、第一次大戦で戦死した友人たちを偲ぶ曲。全体が舞曲調の曲でまとめられているためか、犠牲者への追悼というよりも、ともに生きた姿を懐かしんでいるのかのようでもありました。

 そして、最後のベートーヴェン。作曲者にとって充実した時期の曲で、確かに快活な印象を与える曲ですが、今回の演奏を聴いていると、決してうわついた明るさではなく、苦難に打ち勝った自信あるいは力強さを感じさせてくれました。

 指揮者のパスカルは、この時期に来日するからには、彼なりの考えがあってのことでしょう。全身で音楽を表現し、 オケに伝えている指揮ぶりももちろんのこと、今回のプログラミンあるいは演奏に、若いながらも深い信念を感じました。是非とも別のプログラムでも聴いてみたいものです。毎年来てくれないかな。ヨーロッパではオペラも 振っているようですし、

 ところで、ソリストの辻を聴いたのは今回で2回目です。462回定期ではショスタコーヴィチを聞かせてくれました。