ミュンヘン・オペラフェスティバル(Münchner Opernfestspiele 2019)

 7月の最後の1週間でドイツ・バイエルン州のミュンヘンとバイロイトへ行って来ました。2年前にも行きましたが、今回はほとんどオペラのみを目的に2つの歌劇場で、ともにドイツが生んだ最大の歌劇作曲家であるワーグナーの作品を堪能してきました。

 ミュンヘンにある国立歌劇場(Bayerische Staatsoper)は2年前にも訪れました(ここを参照)。7月は本来ならオフシーズンですが、ミュンヘン・オペラフェスティバルとしてほぼ連日何らかのオペラが上演されています。前回はフランスとイタリアの作曲家の作品を鑑賞しましたが、今回は
リヒャルト・ワーグナーが作詞、作曲した《ニュルンベルクのマイスタージンガー;Die Meistersinger von Nürunberg》
です。

 当日の主な配役は
   Hans Sachs(ハンス・ザックス): Wolfgang Koch (ヴォルフガング・コッホ)
   Sixtus Beckmesser(ジクストゥス・ベックメッサー): Martin Gantner
   Walther von Stolzing(ヴァルター・フォン・シュトルツィング):  Daniel Kirch 
   David(ダフィト): Allan Clayton
   Eva(エファ): Sara Jakubiak
   Magdalene(マグダレーナ): Okka von der Damerau
 さらに
   指揮は Kirill Petrenko(キリル・ペトレンコ)
 管弦楽と合唱は歌劇場専属の
   ミュンヘン国立歌劇場管弦楽団と合唱団
でした。

 何よりも《マイスタージンガー》は1868年にこの劇場、当時のバイエルン王国の宮廷歌劇場で初演されたオペラです。そして、内容的にもドイツ人にとって特別なオペラであるだけに、演奏する方も、地元の聴衆も並々ならぬ思い入れがあるのではないかと想像します。

 ストーリーは後にまわして、最大の注目は指揮者のペトレンコ。47歳(指揮者としてはまだまだ十分若い年齢です)ですが、おそらく現在世界で最も注目されている指揮者でしょう。その理由は来月、9月から世界最高のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者への就任が決まっているから。現在はこのミュンヘン国立歌劇場の音楽監督で2020年までの契約があるため、しばらくは兼任です。

 今回の席は前から6列目。舞台に向かって一番左端であったためやや見にくくはありましたが、オケピットから頭1つ分出ていたので表情は手の振りがよく見えました。オペラでの指揮者の役割が、オケを操るだけではなく、舞台上の歌手や合唱団をも引っ張っていることがよくわかりました。オケに対する指示の出し方と、舞台上への指示の出し方の違いなど、観ているだけでも十分に楽しめました。

 指揮者の振り方に対する好みいろいろありますが、個人的にはカルロス・クライバーやクライウディオ・アバドに並ぶかと。《マイスタージンガー》は3幕もので、演奏時間は各幕約1時間半、休憩はそれぞれ30分ほど。歌手はもちろん、休みなく指揮し続ける体力、気力、集中力は並大抵ではありません。

 このオペラの冒頭で演奏される前奏曲(第1幕への前奏曲)は非常に有名で、オケの演奏会でも単独で取り上げられることがあります。名大では入学式と卒業式の冒頭で学生オケが演奏し、それぞれの式が始まります。そのため何度も演奏したことがあります。また、吹奏楽用にも編曲されているので取り組んだことのある方もいるかもしれません。私も高校時代にコンクールの自由曲としてやりました。

 オペラ全体にもオケの比重が大きく、やはり指揮者の腕の見せ所です。また、合唱にも見せ場が多く、特に第3幕の最後に歌われる全体合唱はすさまじいものでした。第1幕への前奏曲のテーマを基にしたメロディーですが、その迫力たるや言葉では言い表せません。

 ところで、歌手たちは自分の身体が楽器であるだけに、ちょっとした無理が取り返しのつかない結果につながります。オペラの公演では歌手が体調不良で降板し、別の歌手が代役として歌うケースがよくあります。今回、この演目を選んだのは準主役であるヴァルター役をJonas Kaufmann(ヨナス・カウフマン)が歌う予定だったからです。ところが、前月あたりから体調が優れないらしく、残念ながら日本を発つ前々日に降板が発表されました。「何のために!」という気持ちもありましたが、こうした機会でブレイクする若手もいることから、代役として舞台に上がる若手歌手に期待しました。残念ながら…………。観客の反応は正直なもので、終演後のカーテンコールでは、他の歌手と比べて拍手が明らかに小さかった。がんばれ!