名フィル定期第434回 新シーズン開幕、小泉の『家庭交響曲』

 名古屋フィルハーモニー交響楽団、通称「名フィル」は東海地方で最初に設立されたプロオーケストラで、今年が創立50周年。数年前から定期演奏会の会員として毎月の演奏会を聴きに行っております。スポーツなどと同様に、1年ごとの「シーズン」で、名フィルは日本の会計年度にあわせて4月−3月です。

 今年は創立50周年の記念シーズンにあたるわけですが、音楽監督も交代し、新監督として小泉和裕氏が就任、オーソドックスでありながらもバランスのよいプログラミングと、若手、巨匠とすばらしいソリストを迎えて非常に楽しみです。

 先週末(4月15,16日)の名古屋・栄の愛知県芸術劇場コンサートホールでの演奏会は、今回はシーズン最初であり、小泉氏の就任披露公演として
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調
リヒャルト・シュトラウス:家庭交響曲
の2曲でした。

 これまでにも小泉が振ったコンサート(たぶん名フィルのみ)は何度か聴いていますが、その中で最も充実した(という表現がぴったりのような気がします)演奏でした。聴きに行ったのは15日・金曜日の方で、まさに就任後最初のコンサート。本人も気合いが入っていたでしょうが、オケもその気合いを受け止めて十分に自分たちの音楽を表現しているようでした。

 ベートーヴェンの交響曲第4番を生で聴くのは昨年の中津川でのコンサート(感想はここ)と2年連続ですが、わずかに2回目。非常に演奏頻度の低い曲です。ベートーヴェンの場合は他の交響曲があまりにも有名すぎるため、やむを得ないですが、決して音楽的に劣っているわけではありません。今回も予習として何度かスコアを見ながらCDを聴いてみました。同時代の他の作曲家の曲などをいくつか知っていると、その独創性には驚かされます。

 この交響曲はベートーヴェンが36歳の時に初演されています。名フィルの演奏は、小泉の指揮もあってか、非常にきびきびとしていて若き作曲家の意欲を感じさせてくれる演奏でした。特に弦楽器がしっかりとなっていました。昨年あたりから弦楽器の音に張りが出てきたような気がしていましたが、今後が大いに期待できます。

 後半の『家庭交響曲』は大編成(この日の演奏は総勢96名でした)の難曲として知られています。曲は作曲者の「家庭」の様子を描いた標題音楽で、リヒャルト・シュトラウスの作曲家人生の前半を代表する傑作です。演奏時間40分あまりで、同時代の交響曲としてはやや短めですが、全体が単一楽章であるため、途切れずに演奏されます。指揮者を含めて演奏する方も聴く方もかなりしんどいです。

 決して口ずさめるようなメロディーがある訳ではありませんが、高い集中力をもった演奏でした。小泉のダイナミックな指揮姿も目を引きましたが、聴衆の耳をつかんで離さない名演でした。同時になっている音が非常に多い曲ですが、各パートの音がしっかりと聞こえるため、音色やアンサンブルの響きの違いも堪能することができました。

 上のような理由もあって、この曲も滅多に演奏されることはありません。もう一度聴くことがあっても、今回以上の演奏に出会えるかどうか。

 『家庭交響曲』ではオーケストラには珍しく4本ものサックスが用いられています。ソプラノ、アルト、バリトンに加えて、今回始めて見ましたがバス・サックスまで。また、オーボエ・ダモーレ(oboe d’amore)という楽器も使われています。名前の通りオーボエの親戚ですが、やや低い音域を担当し、ややくぐもってはいてもふくよかな音色です。曲中では作曲者の息子を表す主題などのメロディーを演奏します。楽器名の意味は「愛のオーボエ」、ぴったりの名称かもしれません。

 ベートーヴェンは1770年生まれで1827年に亡くなっています。交響曲第4番は1806年初演。これに対してリヒャルト・シュトラウス(ワルツの父であるヨハン・シュトラウスおよびワルツ王であるヨハン・シュトラウスⅡ達と区別するために、ともにフルネームで呼ぶことが多い)は1864年生まれで1949年に亡くなっていて、『家庭交響曲』は1904年初演。100年でこんなにも音楽が異なるのかと驚きましたが、19世紀という時代を感じました。

METライブビューイング《マノン・レスコー》

 現在、名駅・ミッドランドスクエアシネマで今シーズンのMETライブビューイングの第7作目、プッチーニ作曲の歌劇《マノン・レスコー》が上映中です(金曜日まで)。

 先週土曜日に見に行きました。オペラ作曲家として有名なプッチーニの作品の中ではややマイナーな作品ですが、彼の出世作でもあり、その後の作品の萌芽を見るようなところが随所にあります。

 18世紀のフランスのアベ・プレヴォーという作家の同名小説を基にしています。ヨーロッパでは非常に有名らしいのですが、日本では同時代のフランス人、例えばユゴーやバルザックのほうが有名です。詳しいストーリーはWebサイト(ここ:http://www.shochiku.co.jp/met/program/1516/)を見ていただくとして、要するにファム・ファタルと彼女に翻弄される男の悲劇。もちろん主人公マノン役は美人で相手役のデ・グリューもかっこいい青年という設定。今回マノン役を歌ったクリスティーヌ・オポライスと相手役デ・グリューを歌ったロベルト・アラーニャ(実年齢はともかくとして)はまさにうってつけで、見事な歌唱でした。

 次回は5月、ゴールデンウィーク明けで今回と同じくプッチーニ作曲の歌劇《蝶々夫人》、長崎を舞台とした悲劇。蝶々夫人は今回マノンを歌ったオポライス、ピンカートン役は今回のデ・グリュー役のアラーニャ。偶然ですが同じ組み合わせです。